ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第61話「1964-1965」【第13週】

あらすじ

京都で暮らし始めたるい(深津絵里)は錠一郎(オダギリジョー)と一緒に回転焼き屋をオープンさせました。しかし近所からの評判はあまり芳しくなく、回転焼きは全く売れません。様子を見に来た一子(市川実日子)は、あんこの味には自信があるというるいの言葉を受け、試食をしようとした瞬間、近所で酒屋を営む森岡(おいでやす小田)が「大変だ!」と店に飛び込んできて…。

61ネタバレ

大月家

<るいと錠一郎の回転焼き屋『大月』が いよいよオープンの日を迎えました>

回転焼き屋・大月

るい「おいでやす。 回転焼き屋『大月』 ただいま開店しました。 回転焼きです。」

錠一郎「どうぞ 寄ってください。」

るい「円くて甘~い 『大月』の回転焼き。」

錠一郎「どうぞ~。 おいしい回転焼きです。」

るい「おいでやす。 おいでやす。」

錠一郎「回転焼きです。」

森岡「おうおう。 見たら分かるやろ。 おっちゃん 両手塞がってんねや。」

錠一郎「ああ… すんません。」

るい「すいません。」

森岡「何? 『回転焼き』? 何や それ。」

るい「あんこのお菓子です。 こういう。」

森岡「ああ! たまに屋台で見るやつか。 いや~ ここらのもんは 食べたがらんへんで。」

錠一郎「もっと向こうで呼び込みしてくるわ。」

るい「お願い。」

荒物屋・あかにし

「や~い! や~い! ケチエモン!」

「キャ~!」

吉右衛門「こら!」

錠一郎「回転焼き屋の『大月』です。 この先に開店しました。 回転焼き屋の『大月』です。」

テレビ『ニュースをお伝えします。 映画『棗 黍之丞』シリーズでおなじみの 俳優 桃山剣之介さんが 今朝 緊急入院しました。 桃山さんは 条映撮影所で 次回作の打ち合わせ中に倒れた ということですが 詳しい症状などは不明です。 桃山さんは 大正4年生まれの49歳。 昭和8年に俳優としてデビューしました』。

吉右衛門「おこしやす。 よろしいやろ。 うちは このとおり荒物屋ですけどな 電化製品を扱うことにしましたんや。 いつまでも 鍋釜 たわしだけ扱うてても 時代に残されますさかいな。 どうです? まだお持ちやないんでしたら お宅も1台。 買う気あらへんのんか。 それやったら そないに長いこと 見てもろたら かなわんな。」

錠一郎「あっ すいません。」

吉右衛門「うん? 見かけへん顔やな。」

錠一郎「大月いいます。」

吉右衛門「大月? ああ こないだ 奥さんが 挨拶しに来たはったわ。」

錠一郎「今日から回転焼き屋始めました よろしく どうぞ。」

吉右衛門「回転焼き? 舌の肥えた京都のもん相手に そないな商売が成り立つかいな。 何や これ。 気色悪っ。」

大月家

居間

<開店初日は ほんとんど売れませんでした>

錠一郎「こんなに おいしいのになあ。」

るい「なじみのないもんには なかなか手ぇ出さへんのが京都の人やて 酒屋さんが言うてはったわ。」

錠一郎「そうなんや。」

るい「大丈夫。 なんとかなる。」

回転焼き屋・大月

るい「回転焼きです。 円くて甘~い 『大月』の回転焼き。 あっ よかったら 味見してってください。 ほら あんこが こんなにぎっしり…。」

一子「あんたは あほか。」

るい「あっ ベ… 一子さん。」

一子「回転焼き屋するて言うてた時は 愉快な冗談や思てたけど。 ホンマにやって どないすんねん。 ええか? よう聞きや。 ギャンブルいうのは あてずっぽうにやるいうことやあらへん。 繊細に計画して 大胆に決行する そういうことを言うんや。」

錠一郎「ええこと言うなあ ベリー。」

一子「ベリー言うな言うてるやろ。」

錠一郎「フッ… チラシ配ってくるわ。」

るい「ありがとう。」

一子「ジョーが回転焼き屋のチラシ配りやて…。 情けない。」

るい「一子さん 今 新しいの焼きますから よかったら一つ食べてください。」

一子「いらん。」

るい「え~。」

一子「私は 日頃からお茶席で ええ和菓子食べてんねん ただ 鉄板に生地流して あんこ挟んだだけのしょうもないお菓子で 喜ぶ思てんのか。」

るい「思てます。 うちのあんこは絶品ですから。」

一子「えらい自信やな。 おもろいやない。 受けて立ったるわ。」

荒物屋・あかにし

テレビ『昨年には 条映史上最高傑作という触れ込みで…』。

吉右衛門「また来てる…。」

テレビ『『黍之丞 妖術七変化 隠れ里の決闘』が公開されました』。

(泣き声)

テレビ『桃山さんは 京都市 太秦にある 条映撮影所で 次回作の打ち合わせ中に倒れ 緊急入院していました』。」

吉右衛門「モモケンが…?」

テレビ『ニュースを繰り返します』。

錠一郎「黍之丞が散りました…。」

(泣き声)

吉右衛門「私は モモケンがデビューした年に 生まれたんや。」

錠一郎「そうなんですか。」

吉右衛門「うん。 ああ ああ。 これ これ。 『桃から生まれた剣之介』。 このデビュー作にして 主演映画の役名 桃山剣之介を そのまま芸名にしたんやそうや。」

錠一郎「はあ~ しゃれてますねえ。」

吉右衛門「しかし あの日本映画史上まれに見る駄作 『妖術七変化 隠れ里の決闘』が 遺作になるとは気の毒な。」

錠一郎「見ましたか?」

吉右衛門「見た 見た。」

錠一郎「『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』。」

吉右衛門「おっ。」

回想

『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』

回想終了

錠一郎「『黍之丞 見参』。

回想

『黍之丞 見参。』

回想終了

吉右衛門「『現れたな』。」

錠一郎「『やあっ!』

大月家

回転焼き屋・大月

るい「どうぞ。」

荒物屋・あかにし

吉右衛門「『むう…。』」

吉右衛門「あっ!」

錠一郎「えっ…。」

大月家

回転焼き屋・大月

森岡「奥さん! はあ はあ はあ… えらいこっちゃ!」

荒物屋・あかにし

吉右衛門「見たら分かるやろ! いっこも大丈夫やあらへん!」

るい「ジョーさん。」

錠一郎「ああ… るい…。」

るい「すいません。 主人が いらんことしたせいで…。 あの… これ おわびのしるしです。 売り物で申し訳ないですけど…。」

吉右衛門「要らん。 こないな気色悪いもん。 もう許されへん。 あんたらには この商店街出てってもらう。」

るい「そんな…。」

清子「吉右衛門。 そないに きつうに言うたらあきまへんえ。」

吉右衛門「お母ちゃん…。」

清子「あんたが調子に乗って チャンバラなんかするから 腰いわすんよ。 回転焼き屋さん 始めはったんやてねえ。」

るい「はい。」

清子「大変やろうけど お気張りやす。」

るい「ありがとうございます。 あの… これ…。」

清子「あっ 頂戴します。」

吉右衛門「お母ちゃん!」

清子「何やの。 あんた昔から あんこ好きやったやないの。」

吉右衛門「そうやけど…。」

清子「昔は 素直なええ子やったのに。 年々 お父ちゃんに似てくるやさかい。」

大月家

回転焼き屋・大月

一子「はい 次。 おばちゃん 何個?」

「3つ頂戴。」

「うちは 4つ。」

一子「4つ。 はい おおきに。」

るい「一子さん…?」

一子「あっ よかった。 今 なくなるとこやったんや。 早う 次の分 焼いて。」

るい「はい。」

「野田さんとこの一子ちゃんが おいしい言うんやったら 間違いあらへんわ。 なあ?」

「ねえ。」

一子「認めたるわ。 どないな老舗のお茶菓子より 一番おいしかった。」

「早う焼いて。」

るい「はい。」

一子「はい おおきに。」

荒物屋・あかにし

吉右衛門「何や 懐かしい味するなあ。」

清子「ほんに…。 フフッ おいしいなあ。」

<こうして 少しずつ 回転焼き屋『大月』は 町の人たちに 認められるようになりました。 And so, little by little, Kaiten-yaki shop “Otsuki” came to be accepted by the townspeople>

大月家

回転焼き屋・大月

るい「おいでやす。 何個しましょ。」

「2つくれはる?」

るい「はい。 おにいさんは?」

<るいと錠一郎が 『大月』をオープンしてから およそ ひとつきが過ぎました>

るい「はい。」

「ありがとう。」

るい「ありがとうございます。 はい。 ありがとうございます。」

「おおきに。」

るい「どうも。」

清子「精が出るなあ。」

るい「ああ。 あかにしさんのお母さん おいでやす。」

清子「2つ頂戴。」

るい「は~い。」

清子「ご主人は?」

るい「あっ 買い物に行ってもろてます。」

清子「うちにも るいさんみたいなお嫁さんが 来てくれたらええんやけど。」

るい「息子さん ずっとお独りなんですか?」

清子「私の主人が 早うに亡うなったもんやさかい あの子には ず~っと働きづめにさしてしもてねえ。」

るい「そうですか。 誰かいい人おったらいいですねえ。」

清子「うん。 20円ね?」

るい「はい。」

清子「はい。」

るい「ありがとうございます。」

清子「おおきに。」

るい「どうも。」

荒物屋・あかにし

♬~(テレビ)

テレビ『チキチキ トントン チキ トントン。 あらまあ こりゃ けったいな』。

『今週もやってまいりました。 『けったい侍 珍道中』のお時間です。 ハウ アー ユー? マイ ネーム イズ ハッピー スマイル』。

錠一郎「何や この人 似てますね。 モモ… モモケンに。」

吉右衛門「当たり前や。 これは モモケンのせがれや。」

錠一郎「えっ!?」

吉右衛門「桃山団五郎や。」

『もうすぐ お江戸 世界運動競技大会が ありますからね』。

『英語が話せぬ拙者は お江戸に居場所はねえと思い立ち あっ てくてく てくてく…』。

錠一郎「へえ~。 あっ 息子がおったんですか。」

吉右衛門「そないなことも知らんと よう あないに ぼうだの涙流して モモケンの死を悼んどったな。」

錠一郎「あ… 面目ない。」

清子「あら 大月さん?」

錠一郎「ああ こんにちは。」

清子「そろそろ 『こんばんは』の時分やけど…。 お買い物は済んだん?」

錠一郎「えっ? あ~! あ…。」

吉右衛門「あっ ありがとう。」

『コン コン チキチン。 コン チキチン。 あっ コン コン チキチン。 コン チキチン。 コン コン チキチン。 コン チキ…』。

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