あらすじ
無愛想な客(本郷奏多)に、回転焼き屋の娘なのに回転焼きが焼けないことを馬鹿(ばか)にされたひなた(川栄李奈)でしたが、事実なので何も言い返すことができませんでした。将来の展望が何も見えないひなたは、クラスメイトの小夜子(新川優愛)のアイデアで、家業の回転焼き屋を継ごうと思いつき、るい(深津絵里)に焼き方を教えてもらってチャレンジするのですが…。
72話ネタバレ
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「おいでやす。 何個しましょ?」
「おばさんは?」
ひなた「えっ?」
「いつものおばさん いないの?」
ひなた「あっ すいません。 今ちょっと。」
「ああ…。 娘?」
ひなた「えっ? あ…。」
「この店の。」
ひなた「私? はい。 そうですけど。」
「はあ…。 はあ… あんたでいいや。」
ひなた「うん?」
「焼いて。」
ひなた「えっ。」
「回転焼き。 新しいの焼いて。 もしかして 焼いたことないの? この家の娘なんだよね? ハッ うそだろ。」
ひなた「(心の声)『な… 何や この人…。 初対面の相手に なんちゅう態度や。 失礼にも 程があるわ。 大体 既に焼けてる回転焼きがあんのに 新しいの要求するやなんて 小さい子供の所業や。』」
「じゃあ いいよ。 この焼けたので。」
ひなた「(心の声)ええんかい。」あっ おおきに。 何個しましょ。」
「1個。」
ひなた「(心の声)『1個かい! 1個しか買わへんのかい! 10個でも 20個でも買わんかい。』おおきに。 ありがとうございます。 熱っ…。(心の声)『そういう目。 そういう目が人を委縮させ ますます緊張させるいうことが 分かりまへんか!』100円です。 はい。 お釣りです。」
「ふ~ん。 引き算はできるんだ。」
ひなた「たあっ! 何や あいつ!」
玄関前
ひなた「はい。 あ~ お父ちゃん もうちょっと寄って。」
錠一郎「よ… 寄るって…。」
ひなた「行き過ぎ 行き過ぎ。」
錠一郎「こういうこと?」
ひなた「はい。 撮るよ。 はい チーズ。」
(シャッター音)
ひなた「もう一枚 撮るよ。」
森岡「お~! ももたろさん 入学式か。」
桃太郎「はい。」
森岡「おめでとうさん おめでとうさん。 よっしゃ おっちゃんが撮ったろ。」
ひなた「えっ?」
森岡「ひなたちゃんも入り。」
ひなた「ありがとう。 おっちゃん。」
るい「ありがとうございます。」
錠一郎「ああ すいません。」
森岡「わあ ご主人 いつもと えらい違いやな。」
錠一郎「ああ。 いや まあ。」
森岡「男前やな。」
錠一郎「いやいや…。」
森岡「はい チーズ。」
(シャッター音)
<弟の桃太郎「が小学校に入学し ひなたは 高校3年生になりました>
居間
『おしん!』。
『あっ 危ない。 座ってろ』。
『母ちゃん! 母ちゃん! 母ちゃん! 母ちゃん! 母ちゃん! 母ちゃん! 母ちゃん!』
『父ちゃん…』。
『父ちゃ~ん!』
『あっ 危ね』。
『父ちゃ~ん!』。
錠一郎「え~… おしん まだ7つやのに…。」
ひなた「桃太郎と同い年?」
錠一郎「そう そう そう そう そう。」
ひなた「学校にも行かんと 働くん?」
錠一郎「るい。 うちは なんぼ貧しくても 桃太郎を奉公に出さんとこな。」
ひなた「なんぼ何でも ここまで貧しいことあらへんわ。」
<『おしん』ほどではありませんが 大月家の暮らしが決して楽ではないことを ひなたは子供の頃から感じていました>
高校
ひなた「やっぱり就職かな…。」
一恵「えっ ひなちゃん 進学しいひんの?」
ひなた「うん。」
小夜子「大学も短大も 専門学校も?」
ひなた「うん。 ああ 経済的に 無理やと思う。 お父ちゃんも お母ちゃんも 桃には大学行かしてやりたいやろし…。」
一恵「そうか。」
ひなた『お父ちゃ~ん! お母ちゃ~ん! お父ちゃ~ん! お母ちゃ~ん!』。
錠一郎『ひなた~! すまねえ ひなた!』。
るい『ひなた~!』。
(泣き声)
ひなた『お母ちゃ~ん!』。
小夜子「ひなちゃん。 大丈夫?」
ひなた「うん? うん。」
一恵「けど 就職て どこに?」
ひなた「さあ… それですわ。 全然 想像できひん。 自分が どっか就職して働くやなんて。」
一恵「分かる。」
ひなた「できることやったら ずっと このままでいてたい。」
小夜子「このままって?」
ひなた「私は 高校生で 桃は小学生。 お父ちゃんとお母ちゃんと あの家で暮らしたい。」
小夜子「気持ちは分かるけど…。」
一恵「そんなん『サザエさん』の世界にしか あらへんえ。」
ひなた「分かってる…。」
小夜子「それやったら ひなちゃん 家のお仕事 手伝ったらええんと違う?」
ひなた「えっ。」
小夜子「回転焼き。」
回想
「もしかして 焼いたことないの? ハッ。 ハッ うそだろ。」
回想終了
ひなた「あ~! 無理!」
一恵「何? さっきから。」
ひなた「ごめん…。」
小夜子「いいと思うけどなあ。 回転焼き屋さん。」
一恵「うん。 おばちゃん 助かると思うえ。」
大月家
回転焼き屋・大月
「3つください。」
るい「あっ 3つ。 は~い。 は~い。 ありがとうございます。 おおきに。」
「ありがとう。」
るい「ありがとうございました。」
「ありがとうございます。」
ひなた「ただいま。」
るい「お帰り。」
ひなた「お母ちゃん。」
るい「何?」
ひなた「回転焼きの生地て 何で出来てるん?」
るい「水と小麦粉とお砂糖や。」
ひなた「そんだけ?」
るい「ベーキングパウダーと水あめも 入れるけど。」
ひなた「ふ~ん…。 焼いてみよかな。」
るい「えっ?」
ひなた「回転焼き。」
るい「えっ… えっ? 何? 急に。」
ひなた「いいや~ん。 これか。 よいしょ。」
るい「あかん。」
ひなた「えっ。」
るい「先にカス取らんと。 掃除してから焼かんと 生地が汚れる。」
ひなた「そうか。」
るい「はい。 いいよ。」
ひなた「うん?」
るい「はい。」
ひなた「はい。」
るい「じゃあ ラードから。」
ひなた「はい。」
るい「ちょっとずつな。」
ひなた「うん。」
るい「多すぎたら ムラになる。」
ひなた「うん。」
るい「ああ 多い 多い 多い 多い。 多い。 はい。 丁寧に。 そうそう うん。」
るい「あっ あかん あかん あかん あかん! そないに ぎょうさん入れたら あかん…。 あかんて!」
ひなた「そうかて 大きい方が お客さん喜ぶやん。」
るい「そういうことやあらへんの。 あっ 多すぎる。」
ひなた「いいやん。」
るい「もう…。」
るい「あか~ん。 あんこが多すぎる。 そうそう…。 あ~ もっと真ん中に。」
ひなた「こう?」
るい「そう そう そう…。 もっと もっと 真ん中に。」
ひなた「分かってるよ。」
るい「ほら ほら ほら こっちの生地にも はよ のせんと あんこが きれいに沈んでくれへんで。」
ひなた「分かってるて。 注文多いなあ。」
るい「そうそう そうそう。」
居間
るい「まあ 最初は こんなもんや。 回転焼きかて 年季がいるんやで。」
『ごちそうさまでした。』
るい「おおきに。 ありがとうございました。 18年間 いっぺんも手伝わへんかったもんが 気まぐれに焼こうとしたかて 上手にできるわけあらへんわ。 その失敗したやつ 台所へ持っていっといて。 おやつ用に作り直すさかい。」
(すすり泣き)
るい「ひなた?」
ひなた「お母ちゃん…。 どないしよ。 私…。」
るい「えっ?」
ひなた「こんなんで 私… これから どないして生きていこう…。」
(泣き声)
るい「ちょっ… ひなた?」
錠一郎「おう ひなた。」
桃太郎「あっ お姉ちゃん。」
道中
ひなた「(心の声)『情けない…。 情けない。 情けない。 回転焼き屋の娘やのに。 ずっと お母ちゃんの仕事 見てきたはずやのに。 こんなんやったら 私… お先 真っ暗や!』」
<お先 真っ暗な ひなたが来たのは やっぱり映画村でした>
太秦映画村
(自動音声・黍之丞)『暗闇でしか 見えぬものがある』。
『暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』。
『黍之丞… 見参!』。
<聞き慣れた そのせりふが 今日は 心にしみました>
♬~(自動音声『棗 黍之丞』のテーマ音楽)
ひなた「侍のように りんとして 弱音を吐かず こうと決めたことは 命懸けで やり遂げる。 そういうものに… 私は… なりたい。 はあ…。 うん?」
ひなた「『ミス条映コンテスト』…? 見つけたかも…。」
<ひなたは 目標を見つけた… かもしれません。 Hinata had found what she wanted to be… or so she thought>