あらすじ
将来どんな道に進むべきか悩んでいたひなた(川栄李奈)は、条映太秦映画村で開かれたミスコンの後にやってきた伴虚無蔵(松重豊)という時代劇調の言葉でしゃべる男から謎の招待を受けます。怪しむるい(深津絵里)からは反対されるものの、再び映画村を訪れたひなたは、虚無蔵からとんでもないお願いをされて驚きます。一度は断ったひなたですが、無愛想な男(本郷奏多)に再会し…。
75話ネタバレ
大月家
玄関前
るい「やめときなさい。」
ひなた「いや 行く。」
るい「あきません! あないな よう分からん話。」
ひなた「行くだけ行く。 何で!?」
錠一郎「何もめてんの?」
ひなた「お父ちゃ~ん。」
るい「昨日 妙な人が ひなたを訪ねてきたんやけど…。」
錠一郎「妙な人? 誰?」
るい「何て言わはったかな?」
ひなた「ええと…。」
るい「何や 珍妙な名前の。」
錠一郎「妙で珍妙?」
ひなた「あっ 確か… 何か 虚無僧みたいな名前。」
るい「そうそう。 そんな響きの。 何や 時代劇の世界から そのまま出てきたみたいで。 しゃべり方も 姿形も。」
ひなた「いや いや いや そら 映画村の人やからやん。」
るい「映画村の人かて 一歩 外 出たら 今に人でしょう 普通。」
ひなた「どっかで 見たことある気ぃするんやけどなあ。」
るい「それは お母ちゃんもや。」
錠一郎「2人とも さっきから 何 言うてんの?」
2人「あ~!」
映画村
虚無蔵「待ちかねたぞ。」
ひなた「あっ すいません。 ちょっと 出がけに もめてしもて。」
虚無蔵「大儀であった まずは 茶を一服進ぜよう。」
ひなた「あっ かたじけない。」
虚無蔵「ついて参れ。 春雨じゃ。 ぬれていこう。」
ひなた「うん? いや 雨降ってませんよ。 今 夏やし。」
俳優会館
ひなた「そこは そのお茶なんや。 あ… あの… 虚無蔵さんて 映画俳優さんやったんですね。 あっ うちのお父ちゃんとお母ちゃんが 若い時 一緒に見た言うてました。 あの~ うちに貼ってるポスターの映画。 すごい殺陣やったて。」
虚無蔵「めっそうもない。」
ひなた「えっ?」
虚無蔵「拙者 ただの大部屋俳優でござる。」
ひなた「大部屋俳優?」
虚無蔵「名もなき有象無象と心得られよ。」
ひなた「え… 有象無象…?」
虚無蔵「粗茶でござるが。」
ひなた「あっ ありがとうございます。」
虚無蔵「寺子屋通いか?」
ひなた「寺子屋? あっ 学生いうことですか?」
虚無蔵「さよう。」
ひなた「はい。 高3です。」
虚無蔵「夏の休みか。」
ひなた「はい。 夏休みです。」
虚無蔵「休みの間 ここで骨を折ってみぬか?」
ひなた「骨を折る? えっ 嫌です。 そんな痛そうなこと。」
虚無蔵「戯れを。」
ひなた「えっ?」
虚無蔵「働かぬかと申しておる。」
ひなた「あ… バイトいうことですか?」
虚無蔵「さよう言いかえて差し支えない。」
ひなた「何したらいいんですか?」
虚無蔵「座っておればよい。」
ひなた「どこに?」
虚無蔵「ここに。」
ひなた「ここ?」
虚無蔵「うむ。」
ひなた「えっ…。 何のためにですか?」
虚無蔵「それは…。 いずれ分かる。」
ひなた「え~? ヒント。 もうちょっとヒントをください。」
虚無蔵「せんだっての御前芸比べで そなたを見た。」
ひなた「えっ? ああ コンテストのことですか?」
虚無蔵「さよう。 落選は残念であったが…。」
回想
ひなた「んっ… たあ!」
「ぐわあっ!」
回想終了
虚無蔵「そなたが 時代劇をめでていることは伝わった。」
ひなた「見てはったんですか。 はあ…。」
虚無蔵「おひな。」
ひなた「おひな?」
虚無蔵「このままでは時代劇は滅び去る。」
ひなた「えっ?」
虚無蔵「拙者は そなたに 時代劇を救ってほしいのだ。」
ひなた「時代劇を救う?」
虚無蔵「いかにも。」
ひなた「やっぱり遠慮します。 何か よう分からんけど 私の手に負えることやなさそうなんで…。 すいません。」
太秦映画村
ひなた「(心の声)『時代劇を救うなんて そんな大層な。 大体 時代劇が滅び去るて どういうこと? そんなわけない…。』 痛っ! たあ~。 何? えっ。 えっ えっ… 大丈夫ですか? えっ えっ ちょっと… しっかりしてください。 えっ 誰か。 誰か 救急車!」
「はあ… また お前か。」
ひなた「な… 何で こんなとこで寝たはるんですか。」
「どこで寝ようと 俺の勝手だ。 邪魔しやがって。」
ひなた「邪魔て…。」
「大体 何で お前が ここにいるんだ。」
ひなた「えっ?」
「条映城のお姫様になり損なったお前が。」
ひなた「(心の声)『その『お前』いうの やめえ 『お前』いうの。』」
「お前… ウケると思ったのか? コンテストの時だ。 ああいう目立ち方をすれば 勝てると思ったのか?」
ひなた「違います。」
「冒とくだ。」
ひなた「冒とく?」
「侍にも 時代劇にも。 愛も敬意もない所業だ。」
ひなた「そ… そういう あんたは 何なん?」
「何が?」
ひなた「はかま つけて こないなとこで寝てるやなんて そっちの方が 時代劇への冒とくやないの? どうせ 大部屋なんでしょ! (心の声)『あっ 反応した。 これが こいつの弱点か。 よっしゃ。 有象無象の一人なんでしょ?』」
五十嵐「俺は 五十嵐だ。」
ひなた「イガラシ?」
五十嵐「五十の嵐と書いて 五十嵐。」
ひなた「五十の嵐…。」
五十嵐「嵐は 嵐 寛寿郎の嵐 つまり… アラカンの 五十倍だ! 俺は超える。 アラカンも モモケンも。」
ひなた「私は… 大月ひなたや! 侍への 時代劇への愛は 誰にも負けへん! 覚えとき。」
<ひなたと五十嵐は 互いに思っていました>
五十嵐「(心の声)『こいつ…。』」
ひなた「(心の声)『こいつ…。』」
2人「(心の声)『底なしの…。』」
ひなた「(心の声)『あほや。』」
五十嵐「(心の声)『ばかだ。』」
<Hinata and Igarashi thought of each other, “This person is a hopeless fool!”>
俳優会館
ひなた「信じます。 私の時代劇への愛を信じてくれた 虚無蔵さんを。」
虚無蔵「では…。」
ひなた「やります! 時代劇を救うアルバイト。」
虚無蔵「明朝9時より この詰め所に控えおれ。」
ひなた「御意のままに!」
<こうして ひなたは 虚無蔵の誘いを 受けることに決めました。 So Hinata decided to accept kyomuzo’s invitation>
翌朝
ひなた「(心の声)『香盤表? 何やろ。 えっ! 『破天荒将軍』? 第1スタジオ? どういうこと? 今日 ここで撮影してるいうこと? え~! 『江戸を蹴る』も『金太郎侍』もある。』」
<今更ながら ひなたは気が付きました。 ここは条映の休憩所。 つまり このすぐそばで 人気時代劇の数々が 撮影されているのです>
ひなた「パラダイスや…。」
ラジオ『こんにちは。 今日午後の 近畿地方の天気予報をお伝えします』。
ひなた「(心の声)『あの人たちは ドラマ撮影の裏方さんやろか。』」
ひなた「『こっちは 映画村の職員さんかな。 ここは 撮影所と映画村 両方の詰め所… いや 休憩所なんや。 お茶でも いれよかな。』
ラジオ『京都盆地など 内陸部を中心に 所によって にわか雨や雷雨がありそうです。 お出かけには 折り畳み傘があるとよいでしょう。 以上 午後の天気予報を お伝えしました。 さて 続いては この曲をお送りしましょう。 『セーラー服と機関銃』です。 どうぞ』。
♬~(ラジオ)
ひなた「お疲れさまです。」
榊原「ああ どうも。 あっ…?」
ひなた「うん?」
榊原「ああ 君。」
ひなた「えっ?」
榊原「ああ ああ ああ。」
ひなた「えっ えっ えっ えっ?」
榊原「ミス条映コンテストの。」
ひなた「ひい~ すいません。」
榊原「エントリーナンバー10番。」
ひなた「大月ひなたです。」
榊原「ああ そうそう。 大月ひなたさん。 いやいやいや あの時は ありがとう。 おかげで盛り上がったわ。」
ひなた「えっと あの…。」
榊原「僕は あのイベントの企画スタッフや。」
ひなた「あっ そうやったんですか。」
榊原「榊原いいます。」
ひなた「榊原さん。」
榊原「僕が審査員やったら 特別賞あげたんやけどなあ。」
ひなた「あ~ めっそうもない。」
榊原「アハハッ。 …で 大月さん。 ここで 何してるん?」
ひなた「いや~ よう分からんのですけど 伴 虚無蔵さんに 夏休みの間 ここで バイトするよう言われて。」
榊原「虚無蔵さんに?」
ひなた「何か… 時代劇は このままやったら滅びるって。 それを 私に救ってほしいて。」
榊原「虚無蔵さんが そんなことを…。」
ひなた「はい。 どういうことなんでしょう?」
榊原「君 すごいな。」
ひなた「えっ?」
榊原「虚無蔵さんに見込まれるやなんて。」
ひなた「はあ…。」
(ドアが開く音)
平岡「何で 朝から3時間も押すんや。」
榊原「お疲れさまです。」
園山「かなんなあ… 監督は。」
岸「こっちは 斬られて死ぬだけやのになあ。」
園山「ホンマや。」
ひなた「あの人たちは…。」
榊原「大部屋の俳優さんたちや。」
ひなた「えっ。」
回想
虚無蔵「拙者 ただの大部屋俳優でござる。」
ひなた「大部屋俳優?」
虚無蔵「名もなき有象無象と心得られよ。」
回想終了
ひなた「有象無象…。」
岸「何か 言うたか?」
榊原「あっ! いや こっちの話。 ヘヘッ どうも。 (小声で)『有象無象はあかんわ。』」
ひなた「あっ すいません。」
(足音)
畑野「誰か あの 今すぐ 轟組に入れる侍おれへんか? いや あの 監督が 『斬られ役の人数 増やせ』て 言いだしたんや。」
平岡「はい! 行きます。」
園山「ほい!」
畑野「ほい。」
岸「俺も。」
畑野「オッケー! 行こう!」
平岡「ダブリ ダブリ。」
園山「ついとんな。」
ひなた「あの人ら 今 仕事終わらはったとこやないんですか?」
榊原「大部屋さんいうたら 大体 あんな感じや。」
ひなた「え~。」
榊原「一本いくらの仕事やし あったらあっただけ ハシゴしはるわ。 あの3人は 立ち回りも うまいしな。 ちょっと のぞいてみる?」
ひなた「えっ。」
榊原「撮影現場。」
ひなた「えっ。 い… いいんですか!?」
<ああ 本当に ここは ひなたにとって パラダイスです。 For Hinata, it’s more than paradise!>