あらすじ
将来どんな道に進むべきか悩んでいたひなた(川栄李奈)は、条映太秦映画村で開かれたミスコンの後にやってきた伴虚無蔵(松重豊)という時代劇調の言葉でしゃべる男から謎の招待を受けます。怪しむるい(深津絵里)からは反対されるものの、再び映画村を訪れたひなたは、虚無蔵からとんでもないお願いをされて驚きます。一度は断ったひなたですが、無愛想な男(本郷奏多)に再会し…。
76話ネタバレ
俳優会館
第1スタジオ
<映画村職員の榊原が ひなたを時代劇の撮影現場に 案内してくれました>
榊原「お邪魔します。」
「危ねっ! 突っ立っとったら危ないやろ。」
榊原「すんません!」
ひなた「すんません。」
榊原「お邪魔します。 あっ お疲れさまです。」
「はい どいて どいて どいて!」
榊原「あっ すんません。」
ひなた「すんません。」
榊原「邪魔にならへんように気ぃ付けて。」
ひなた「はい。」
「照明通りま~す!」
「はい。」
轟「じゃあ 皆さん けがないようにね。」
一同「はい!」
「お願いします!」
轟「え~ 将軍が来たら本番!」
一同「はい!」
榊原「おっ ちょうどラス殺 撮るとこみたいやなあ。」
ひなた「らすたち?」
榊原「クライマックスの大立ち回りのことや。 主人公が悪党どもを斬って 一件落着するとこな。」
ひなた「(心の声)『うそみたい…。 こんな間近で見られるなんて…。』
榊原「ほら あの悪党の中に あの3人。」
回想
畑野「誰か あの 今すぐ 轟組に入れる侍おれへんか?」
平岡「はい 行きます!」
園山「俺も!」
岸「俺も。」
回想終了
榊原「こういう場面の斬られ役は 大抵 大部屋俳優さんの仕事なんや。」
ひなた「そういうことなんですね…。」
畑野「破天荒将軍 入らはるよ~!」
一同「はい!」
畑野「こちらです!」
ひなた「(心の声)『は… 破天荒将軍や…。 本物や!』」
大月家
回転焼き屋・大月
錠一郎「そうか あの時の…。」
るい「まだ言うてんの?」
錠一郎「懐かしいなあ。 もう あれから20年たったんや。」
俳優会館
第一スタジオ
畑野「はい 間もなく本番!」
一同「はい。」
畑野「各部よろしく。」
「カメラ オッケーです。」
「録音オッケー。」
轟「はい 本番。 よ~い スタート。」
(カチンコの音)
「て~やっ!」
「やあ!」
「おわっ…!」
「とりゃ~!」
「やあ~!」
「うおっ!」
「てやっ!」
「うわあ~!」
「ふっ! くっ! やっ…。」
「やあ…。」
「あっ ぐあっ! があ…!」
「世を治めんがため 天荒を破る。 人呼んで…。 破天荒将軍。」
轟「カ~ット。 オッケー!」
「はい オッケー。」
畑野「次 アングル変わります!」
一同「はい!」
畑野「準備~!」
榊原「どないしたん?」
ひなた「えっ? あっ… いや あの… はあ… 感激してしもて…。」
榊原「そんなに好きなん? 時代劇。」
ひなた「はい!」
榊原「そうか。」
ひなた「あっ… うん? 榊原さん。」
榊原「うん?」
ひなた「あの人…。 コンテストの時の。」
榊原「ああ うん。 五十嵐君。」
ひなた「あの人も大部屋の俳優さんですよね?」
榊原「そや。」
ひなた「ここにいてるのに 何で斬られへんのですか?」
榊原「いやいや。 まだ そこまでは。」
ひなた「えっ?」
榊原「確か 五十嵐君は 養成所出たばっかりのはずや。 斬られ役も鍛錬がいるからな。 そう簡単には。」
ひなた「ほな…。」
榊原「今はまだ ああやって 先輩の斬られる姿見て 勉強してるんや。」
回想
五十嵐「アラカンの五十倍だ。 俺は超える。 アラカンも モモケンも。」
回想終了
ひなた「(心の声)『何や 偉そうなこと言うて 大部屋の中でも下っ端なんやん。』」
大月家
玄関
ひなた「行ってきま~す。」
<ひなたが条映に通うようになって 1週間が過ぎました>
俳優会館
休憩所
ひなた「おっ すんません。」
「ああ ごめんなさいね。」
「ごめんなさいね。」
「ひなたちゃん。」
ひなた「はい。」
「こっち お茶もろてええ?」
ひなた「あっ はい。」
「こっちもな。」
ひなた「ただいま!」
<ひなたは次第に 休憩所に出入りする人たちに 認識されるようになってきました>
ひなた「どうぞ。」
「ああ おおきに。」
ひなた「お待ち遠さんです。」
「ありがとさん。」
すみれ「あっ 皆さん お久しぶり。」
「誰か思たら すみれちゃんやないか。」
「久しぶりやな。」
回想
『黍様…』。
回想終了
ひなた「あ… おゆみちゃんや…!」
<それは ひなたが愛してやまない 『黍之丞』シリーズに かつてレギュラー出演していた女優の 美咲すみれでした>
「7~8年になるんちゃう?」
すみれ「さあ… もう忘れちゃったわ。 東京行ってから あんまり慌ただしくて。」
「アハハハッ そうか。」
「今日は出番か?」
すみれ「ううん。 まずは打ち合わせ。」
「ふ~ん。 頑張ってな。」
すみれ「ありがとう。」
ひなた「あの… 美咲すみれさん。」
「アルバイトのひなたちゃんや。」
ひなた「あ…。 あの サインもろてもいいですか?」
すみれ「いいわよ。」
ひなた「あ… あっ ありがとうございます! あの… あっ 色紙買うてきます!」
すみれ『何で私が 映画村のショーになんか 出なくちゃいけないのよ!』
榊原「ちょっと待ってください。」
すみれ「私を誰だと思ってるの? 美咲すみれよ?」
榊原「お電話でお話ししましたとおり ステージでのショーは 映画村のメインイベントで…。」
すみれ「ハッ メインだろうが何だろうが ちゃちなショーでしょ? 忍者だの何だの出てくるような。」
榊原「いや 美咲さん。 この企画はですね テレビ『黍之丞』シリーズ 初代茶屋の娘として人気を博した 美咲さんあってのショーなんですよ。 あのあゆみちゃんが 茶屋の娘として復活! それだけで 往年のおゆみファンは大喜びです。」
ひなた「(心の声)『そうそう そうそう そのとおり。』」
すみれ「要するに 客寄せパンダになれって話でしょ。」
榊原「いや 決して そういうことでは…。」
すみれ「まあ いいわ。 やってあげる。」
榊原「ありがとうございます!」
すみれ「けどね 榊原さん。 一つお願いがあるの。」
榊原「はあ…。」
すみれ「すみれのお願い 聞いてくれるかしら?」
第一スタジオ
榊原「監督。 お願いします。」
轟「あ~ 知らんがな。 何で今更 美咲すみれを使わなあかんねん。」
榊原「なんとか お願いします。 無理は承知の上です。 このとおり!」
轟「あ~ 知らん 知らん 知らん。」
榊原「お願いします。 初めて通った僕の企画なんです。」
ひなた「(心の声)『そやったんや…。』」
榊原「すみれさんに 機嫌よう ショーに出てもらいたいんです。 お願いします!」
轟「おい。」
「はい!」
轟「本くれ。」
「はい。」
轟「この役の女優がな 映画のスケジュールが 押して NGになったんや。 はあ~ ちょっと せりふ直さなあかんけど まあ まあ まあ… ほい。」
榊原「ありがとうございます!」
休憩所
すみれ「へえ~ 監督 轟さんなの? 出世なさったのねえ。 そしたら 今日は ホテルで台本読み込むから ショーの話は また改めて ゆっくり。 ねっ。」
榊原「はい よろしくお願いします。」
すみれ「お疲れさま。」
榊原「お疲れさまでした。」
ひなた「お疲れさまです。」
榊原「ああ 大月さん。」
ひなた「あ… すいません さっき 追っかけてみてました。」
榊原「ああ… そうなん?」
ひなた「あ… 大変ですね。」
榊原「いや まあ… 割と日常茶飯事や。」
ひなた「はあ… 何か ちょっとショックです。 あんな感じの人なんですね。 美咲すみれさんて。 どうぞ。」
榊原「あっ ありがとう。」
ひなた「大好きやったんです。 『黍之丞』シリーズのおゆみちゃん。」
榊原「僕もや。」
ひなた「えっ 榊原さんも?」
榊原「うん。 かいらしかったもんなあ。」
ひなた「ホンマに。」
榊原「ハハッ。 『黍之丞』シリーズ卒業して 東京へ行かはったけど…。 あんまり仕事ないらしいわ。」
ひなた「そうなんですね…。」
榊原「うん…。 映画村で復活してもらえたらと 思たんやけど…。 やっぱり テレビに出たいんやなあ。」
電車
ひなた「(心の声)『榊原さん ええ人やなあ。』」
車内アナウンス『次は 北野白梅町 北野白梅町です』。
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「ただいま。」
るい「お帰り。」
ひなた「五十嵐! なっ 何しに来たん。 何の用や。」
五十嵐「回転焼き買いに来たに決まってんだろ。」
ひなた「えっ?」
るい「はい 熱々1つ お待ち遠さん。」
五十嵐「はい。」
るい「おおきに。 熱いから気ぃ付けて。」
五十嵐「はい。 ありがとうございます。」
ひなた「いや ちょっと! ちょっと。 ちょっと。」
五十嵐「何だ?」
ひなた「こないだ見たで。 『破天荒将軍』のスタジオの隅にいてたん。 偉そうなこと言うて 下っ端中の下っ端やん。 斬られ役にも なられへんくせして はかま つけたまま寝転がったり のんきに回転焼き買うてみたり。 アラカンの五十倍が聞いてあきれるわ。」
五十嵐「明日 第1スタジオに来い。」
ひなた「えっ。 第1スタジオいうたら…。」
俳優会館
第1スタジオ
畑野「はい ご紹介します! 珠姫役 美咲すみれさんです!」
(拍手)
すみれ「また古巣の条映に帰ってこられて とっても うれしいです。 どうぞ よろしくお願いいたします。」
轟「はい よろしく。」
畑野「ほな 各部 テスト準備!」
一同「はい!」
「照明通りま~す。」
「はい。」
「はい 照明通るよ。」
「こちらも通ります。」
ひなた「(心の声)『えっ… あいつ 出番あんの? それも あんな立派な侍の扮装で…。 どういうこと…?』」