あらすじ
条映太秦映画村で夏休みの間アルバイトをしていたひなた(川栄李奈)は、「破天荒将軍」の撮影現場で女優の美咲すみれ(安達祐実)の機嫌を損ねてしまいます。ひなたを止めようとした大部屋俳優の五十嵐(本郷奏多)は、却(かえ)ってさらに大きなトラブルを引き起こし、撮影は中断。しかし、そんな二人の時代劇愛に心を動かされたすみれは、新たな気持ちで次の仕事に向かうのでした。
78話ネタバレ
俳優会館
休憩所
ひなた「あんたも見てたんやな 『黍之丞』。 えっ。 はっ ちょっと! 何で そうやって すぐ寝んの あんたは! ホンマ どこまで ふざけたら気ぃ済むん? 五十嵐 五十嵐。 五十嵐 五十嵐。」
畑野「おった。」
第一スタジオ
轟「よ~い スタート。」
(カチンコの音)
すみれ「はっ…! 何者じゃ そなたらは。」
「うん。」
「はっ!」
すみれ「何者じゃ!」
「さあ 来い!」
すみれ「何者じゃ! そなたたちは 何者じゃ!」
「あっ! くせ者!」
すみれ「千代之介!」
「おりゃ!」
「うわっ!」
「やあ~!」
「ああっ! くっ…。」
「おりゃ~!」
すみれ「嫌… 嫌~! 千代之介! 嫌~! 千代之介…!」
轟「カ~ット! オーケー。」
一同「オーケー。」
畑野「引き続き 斬られた千代之介を 発見するシーン いきます! ほな 死体 お願いします。」
五十嵐「はい!」
ひなた「死体?」
榊原「大部屋俳優は 大抵 あそこからスタートなんや。」
ひなた「えっ…。」
榊原「見た目より難しいらしいわ。 肩やら背中やら動いて NG出して怒られてる人も よう見るけど 五十嵐君は 完璧やな。」
回想
ひなた「大丈夫ですか? しっかりしてください!」
ひなた「何で そうやって すぐ寝んの あんたは!」
回想終了
<この役回りのために 五十嵐が練習していたのだと ひなたは初めて理解しました。 For the first time, Hinata realized Igarashi had been preparing for his role>
すみれ「『まこと 破天荒なお方であったこと』。」
轟「カット! オッケーでございます。」
すみれ「はあ…。」
轟「はい。」
畑野「美咲すみれさん これで撮了です! お疲れっした!」
すみれ「ありがとうございました。」
(拍手)
休憩所
ひなた「あの…。 さっきは ホンマに 申し訳ありませんでした。 差し出がましいことばっかり 言うてしもて…。 (心の声)『ひい~! 怖い…。』」
すみれ「お茶。」
ひなた「えっ?」
すみれ「お茶いれて。」
ひなた「はい。」
すみれ「あなた アルバイト?」
ひなた「はい。 大月ひなたです。 高3です。」
すみれ「変わってるのね。」
ひなた「えっ?」
すみれ「そんな若い子が『黍之丞』見てるなんて。 せりふまで覚えるほど。」
回想
ひなた「『黍様。 ご無事でよかった』。」
五十嵐「『おゆみ』。」
ひなた「『ゆみは 三国一の幸せ者でございます』。」
五十嵐「『おゆみ』。」
回想終了
ひなた「あの回は 特別です。 印象に残ってるんです。 おゆみちゃんが潔くて。 侍みたいで。」
すみれ「侍?」
ひなた「はい!」
すみれ「フッ… フフッ… 本当に 変わった子ね。」
ひなた「すいません。 あっ どうぞ。」
すみれ「ありがとう。」
ひなた「いえ。」
すみれ「私は忘れてた。 あのシーンのこと。 ううん。 あのシーンだけじゃなくて… おゆみを演じてたことなんか忘れてた。」
すみれ「忘れたかった。 あのころの自分を。 あのころは 今より更に若くて。 かわいくて 可憐で。 ハツラツとして ピチピチしてて。 それだけで価値があった。 それだけじゃ駄目なんだなって 気が付いたのは 『黍之丞』シリーズ 降板してからよ。 潔くて 侍みたいで… か。」
(何かを書く音)
すみれ「はい。」
ひなた「えっ? えっ… あの…。」
榊原「お疲れさまでした。」
すみれ「お疲れさま。 じゃあ ステージの話は また。」
榊原「はい。 よろしくお願いします。」
ひなた「すみれさんのサインや!」
榊原「へえ~。 よかったな 大月さん。」
ひなた「けど 何で大事な台本に…。」
榊原「潔く 侍みたいに やめたんと違うかな。 テレビに しがみつくのは。」
廊下
すみれ「フン!」
第一スタジオ
「て~や! とう!」
「とう! ぐあっ!」
「てやっ!」
「くう…。」
「やあ~!」
「があっ!」
「くわあ…。」
「世を治めんがため 天荒を破る。 人呼んで…。 破天荒将軍。」
轟「カ~ット! オッケー! 以上!」
(カチンコの音)
畑野「本日の撮影 以上です! お疲れっした!」
一同「お疲れさまでした!」
畑野「撤収!」
轟「おい お前。 お前や! さっきの死体役。」
五十嵐「はい!」
轟「『毎回毎回 おんなじ展開。 おんなじセットで おんなじ場所で おんなじことが起きて おんなじクライマックス迎えて 大立ち回りで拍手喝采』。」
回想
五十嵐「同じ場所で 同じことが起きて 同じクライマックス迎えて。 大立ち回りで拍手喝采。」
回想終了
轟「それがテレビ時代劇。 あほしか喜ばへんマンネリ! ホンマに死体にしたろか! …っちゅうのは冗談や。 大部屋の新入りなんぞが あんまり生意気なことを言うてたら 二度と使わへんで。」
五十嵐「すいませんでした!」
轟「あっ。 虚無さん。 こいつ 面倒見たってや。 なっ? コンテストで斬られてたん お前やな?」
回想
ひなた「たあ!」
五十嵐「うおっ! ぐわあっ!」
回想終了
轟「アドリブにしては 悪なかった。 稽古してへんかったら ああはできひんぞ。 うん。」
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「お父ちゃん 見て見て! すみれさんのサイン!」
錠一郎「すみれさん?」
ひなた「おゆみちゃんや! 『黍之丞』に出てた。」
錠一郎「あ~! あの お茶屋の看板娘か。」
ひなた「そうや!」
錠一郎「えっ すごいな。 これ 台本か?」
ひなた「うん。 『破天荒将軍』の。」
錠一郎「破天荒やなあ。」
ひなた「色紙も買うてたんやけどな。」
錠一郎「ああ… いやいや いやいや。 そら もう こっちの方が価値あるわ。」
るい「ああ おいでやす。」
五十嵐「こんにちは。」
るい「熱々1つやね?」
五十嵐「はい。」
るい「すぐ焼くわ。 そっち座って ひなたと話でもしといて。」
ひなた 五十嵐「えっ。」
るい「お友達でしょ?」
ひなた「友達なんかや…。」
五十嵐「友達なんかじゃ…。」
錠一郎「あっ そうなん? ああ 入り入り。」
五十嵐「いや 本当に。」
るい「焼けるまで ちょっとかかるから。 入って。」
錠一郎「ほら ほら ほら。 どうぞ どうぞ。」
ひなた「何なん? 2日続けて。」
錠一郎「俺の勝手だろ。」
ひなた「まあ そうやけど…。」
錠一郎「はい どうぞ。」
ひなた「稽古やったんや。 ただ寝転がってたんやなくて。 ごめん。 何も知らんと。」
五十嵐「今日の仕事は まだマシな方だ。 スタジオだからな。 この季節に 外で辻斬り死体の役 やらされてみろ。 地獄だぞ。 汗かくなって どなられるんだから。 最悪なのは 真冬の土左衛門役だ。 本当に このまま死んだ方がマシだと思った。 真冬の土左衛門になった日…。」
五十嵐「ここの回転焼きを食べた。 目の前で おばさんが 熱々を焼いてくれた。 あったかくて 甘いあんこの味が広がって… 生き返った気がした。 もう少し頑張ろうと思った。 それからだ。 やめようかと思う時。 気合いを入れたいと思う時。 ここの回転焼きが食べたくなる。」
るい「はい。」
五十嵐「あ…。」
るい「お待ち遠さん。 ここで食べていく?」
五十嵐「いえ。」
るい「そう。 おおきに。」
桃太郎「あっ! お姉ちゃんに斬られてた おにいちゃんや。」
錠一郎「ああ あのコンテストの時の?」
ひなた「桃。 あんた いらんこと覚えてんでええねん。」
桃太郎「こんにちは。」
五十嵐「こんにちは。」
桃太郎「お父ちゃん ランニング行こ!」
錠一郎「ああ… 今日の分の宿題は済んだんか?」
桃太郎「あさっての分まで やったわ。」
錠一郎「おっ 破天荒やなあ。」
るい「アハハッ ちょっと 桃。」
桃太郎「早く!」
るい「待ち 待ち。 ちょっと待って。」
錠一郎「あ… ちょ…。」
五十嵐「あっ お茶 ごちそうさまでした。」
錠一郎「ああ ほなね。 じゃあ 行ってくるわ。」
桃太郎「行ってきます!」
るい「行ってらっしゃい。」
五十嵐「じゃあな。」
ひなた「あっ うん。」
五十嵐「どうも。」
るい「おおきに。 素直な ええ子やねえ。」
ひなた「素直? どこが!?」
<あの五十嵐が 素直な いいやつだなんて>
<素直に認められない ひなたでした>