あらすじ
大阪にダンサー修業に出たはずの算太(濱田岳)が岡山に帰ってきました。しかし、ダンサーの夢を諦めて家業の菓子修行を始めるわけでもなく、相変わらず勝手気ままな様子。一方、稔(松村北斗)は雉真繊維の次期社長として千吉(段田安則)から取引先の軍人・神田猛(武井壮)を紹介されます。そんなある日「たちばな」にこわもての男・田中(徳井優)が押しかけてきました。どうやら算太を追いかけてやってきたようで…。
7話ネタバレ
橘家
お菓子司・たちばな
吉兵衛「もなかがねえたあ どういうことなら!」
金太「あっ 吉兵衛さん えろう すみません。 実は 当分 もなかは作らんことにしたんです。」
吉兵衛「よう そねえな むげえこと! 吉右衛門の好物じゃで!」
吉右衛門「お父ちゃん。 そねん きつう言うたらいけんで。 考えてみられえ。 せんだって 砂糖とマッチが配給制になったじゃろお。 菓子ゅう作るんも ままならんはずじゃあ。」
金太「あの… そのとおりなんじゃ。 とりわけ もなかは 砂糖を ぎょうさん使う上に そねえに 売れ筋でもねえもんじゃから。」
吉兵衛「吉右衛門を 珍しい子供みてえに言うな!」
吉右衛門「お父ちゃん。 あんころ餅3つ買うて帰って お母ちゃんと3人で食びょうや それで僕は幸せじゃあ。」
吉兵衛「吉右衛門。 おめえいう子は…。」
算太「ええ子に育ったのう 吉右衛門。 ケチ兵衛の子たあ思えんで。」
金太「算太!」
小しず「算太!」
安子「お兄ちゃん!」
吉兵衛「誰がケチ兵衛じゃ。」
吉右衛門「ああ この人か。」
算太「うん?」
吉右衛門「僕が生まれた時に ラジオ盗んだん。」
算太「ハッハッハッハッ…。」
吉兵衛「おい。」
吉右衛門「ハハハハハッ!」
算太「子供に何ゅう教えとんなら。」
金太「お~ ろくに連絡もしてこん思うたら 急に!」
算太「ヒヒヒッ。」
回想
『とある ダンスホール』
『雇ってください お願いします。』
『踊れるんだろうな?』
『話にならん。』
『あの曲演奏してくれ。』
♬~(スウィングジャズ)
『私にもダンスを 教えて!』
『私が先よ!』
回想終了
居間
算太「…と まあ そうねえなわけで わしゃあ ダンスホールのダンサーらに ダンスを教える ダンス教師となったわけじゃ。」
杵太郎「ほう。」
金太「そねん うめえ話があるもんか。」
算太「それがあったんじゃ。」
金太「うそをつけえ。」
杵太郎「要するに 要領よう 世渡りしょうったっちゅうことじゃな。」
算太「ところがじゃ そのダンスホールが 閉鎖になったんじゃ。」
ひさ「閉鎖? 閉まってしもうたんかな。」
算太「さいな。」
杵太郎「もともとな 社交ダンスってのは 欧米の享楽主義の権化だとか 男女の乱れた交際を 助長するのいうて 当局から目ぇつけられとったからのお。」
算太「せちがれえ世の中じゃ。」
金太「じゃあからいうて のこのこ帰ってきたんか。」
算太「おうおう のこのこって何じゃ。」
金太「あれだけ たんかあ切って 出といて おめえ 骨のねえやつじゃのお。」
小しず「小言は もう ええがん せっかく帰ってきたんじゃから。」
算太「そうじゃ そうじゃ。 言うたって 母ちゃん。」
安子「お兄ちゃん。」
算太「うん?」
安子「お帰りなさい。」
算太「ただいま。」
菊井「そしたら 坊ちゃん 菓子の修業に戻るんですね?」
算太「いや。 今は小休止じゃ。 わしゃあ ダンスで生きていく。」
小しず「算太。」
金太「今更 戻りてえ言うても 戻しゃあせんわ。 菓子ゃあ そねん甘えもんじゃねえ。」
算太「菓子ゃあ 甘えじゃろ。」
金太「菓子職人の修業は甘うねえと 言うとるんじゃ!」
算太「あ~ ややこしいのう。」
小しず「ちょ… 算太 お行儀の悪い。
ひさ「食べてすぐ寝たら牛になるで。」
算太「そねんこと言うたら 相撲部屋やこ たちまち牛だらけじゃ。」
杵太郎「ハハハッ ああ言うたら こう言う。」
♬~(ラジオ)
ラジオ『ここまで 三根耕一の歌を お楽しみいただきました』。
丹原「今の ディック・ミネじゃねんですか?」
黒鉄「変えさせられたんじゃろ。」
杵太郎「ディックがな 敵性後と見なされたんじゃ。」
算太「うん うん うん うん そねんことを言ようったら エンタツ アチャコのお笑い早慶戦 どねんなるんなら。」
『タッチならず セーフ セーフ これやっぱり 政府(セーフ)の仕事ですか?』
アチャコ『何をしゃべってんねんな。』
アチャコ「触れることならず。 安全 安全。」
エンタツ「それ やっぱり 政府の仕事ですか?」
アチャコ「第4球 打ちました! 大きな当たり 正打 正打。」
エンタツ「人殺しや!」
アチャコ「え~ 伸びてます。 中堅手 下がって 下がって。」
エンタツ「分け目をつけずに 髪を全部後ろになで上げる髪型。」
アチャコ「君 さっきから何言うてんの?」
エンタツ「君もや。」
算太「ハハハハッ! …んなもん さっぱりわやや。」
(笑い声)
お菓子司・たちばな
安子「やっぱり お兄ちゃんがおったら 場が楽しゅうなる。」
きぬ「気ままな人じゃけど 今の世にゃあ必要な人材じゃな。 それで? お正月は帰ってくるん? 勇ちゃんのお兄さん。 稔さんじゃったかな。」
安子「あっ うん…。 どうじゃろか。 夏休みも帰ってこれなんだし…。 どうも。」
料亭
千吉「長男の稔です。 大阪商科大学の予科2年です。」
神田「おう。」
千吉「稔。 こちらは 海軍主計中佐の神田さんじゃ。」
稔「初めまして。 父が お世話になっております。」
神田「立派な息子さんですな。」
千吉「神田さんが大阪にご用があると伺うて わしも来ることにしたんじゃ。 おめえを紹介してえと思うてな。 この度 神田中佐のお骨折りで 雉真への軍服の発注数を 倍増していただけることになったんじゃ。」
稔「はあ。」
神田「雉真さんの製品は 足袋も学生服も 丈夫なことで知られていますからな。 技術を存分に生かして 帝国軍人にふさわしい軍服を どんどん作っていただきたい。」
稔「名誉なことです。 ありがとうございます。」
千吉「いずれは これに 雉真を任せるつもりでおります。 若輩ですが どうぞ ごべんたつください。」
橘家
お菓子司・たちばな
金太「何ら。」
算太「うん?」
金太「おめえが店番しょうったんか。」
算太「いや? 母ちゃんが ちょっとの間 座っといてって。」
金太「じゃから そりょう店番いうんじゃ。 こりゃあ! 売りもんぞ。」
算太「あ~ うめえなあ。」
金太「当ったりめえじゃあ。」
算太「神戸でも大阪でも うちおり うめえ菓子ゅう 食うたことがねえで。 おう 母ちゃん。 ほんなら。」
小しず「やっぱり 分かっとるんですねえ お菓子の味は。」
金太「あいつ 本当は戻りてんかな うちの仕事。 あいつのことじゃ ダンサーにゃあなれなんだ 諦めたいうて 言い出せんのじゃねえじゃろうか。」
映画館
卯平「おっ お~! 算太!? ハハハハッ 久しぶりじゃのう!」」
算太「ああ 豆腐屋のおっちゃん! お~! え~ どうじゃった?」
卯平「ああ そりゃあ モモケンが最高じゃ。」
算太「おう そうじゃろ そうじゃろ。 わしゃあ 新人の頃から 目ぇつけとったんじゃ。 こりゃ 阪妻もアラカンも 超える逸材じゃいうて。」
卯平「本当か? アハハハ。」
算太「おう。」
卯平「おめえは調子がええんじゃから。」
算太「じゃあのう。」
田中「ちょっと すんまへん。」
卯平「おう。」
田中「この辺に たちばないう菓子屋ありまっか。」
卯平「ああ それじゃったら 今 そこに息子の…。 あ… おりゃあせんわ。 えっ? おったんよ。」
喫茶店・ディッパーマウス・ブルース
定一「お~ 頂きます。 うん! うん うめえ! これ うちのコーヒーにぴったりじゃ。」
安子「アハハッ。」
健一「父さん わしの分も置いといてよ。」
安子「ご注文いただいて うれしかったです。」
健一「しゃあけど 御菓子司 たちばなって 安子ちゃん もしかして 橘 算太って…。」
安子「兄です。」
健一「はあ い~やっ 似とらんなあ!」
安子「知っとられるんですか?」
健一「小学校の2級上じゃった。」
安子「何か ご迷惑おかけしたんじゃ…。」
健一「いや… 直接ってわけじゃ…。」
安子「すんません。」
健一「ああ えんじゃ えんじゃ。」
安子「あっ どうも。」
定一「安子ちゃん 一人娘じゃねんじゃあ。」
安子「はい。」
定一「よかったな。」
安子「よかった?」
定一「うん。 稔のお嫁さんになれるがん。」
安子「そ そ… そんな おつきあいじゃあ…!」
定一「しゃあけど 初めてじゃったで。 稔が こけえ おなごん子 連れてきたんは。 のう?」
健一「うん。」
安子「えっ…。」
(笑い声)
橘家
玄関前
丹原「黒鉄さん! 映画館にはおらなんだです。」
菊井「パチンコ屋でも 見たという人はおりません。」
黒鉄「もう 町ゅう 出てしもうたんかもしれん。 わしゃ 駅へ行く。 おめえらは バス停と隣町も見てけえ。」
丹原 菊井「はい。」
お菓子司・たちばな
田中「因果な息子さん持ったもんでんなあ。 わしは 金さえ返してもろたら そんで よろしおきますけど。 あっちこっちで いろんな人が泣き寝入りしてはりまっせ。 ダンスホールの支配人も 前払いした給料 踏み倒されたいうし。 さんざん貢いだのに 黙って姿消した言うて 泣いてるおなごも 1人や2人やおまへんで。 食うた 食うた。 熱~いお茶が怖い。 ほな これは確かに。」
金太「ちょっとでも あいつが菓子ゅう作る気になったと思うた わしが あほうじゃった! 二度と あいつにゃあ この家の敷居は またがせん。」
小しず「金太さん…。」
金太「ええのお! 算太は もう… 橘の人間じゃねえ。」
<算太は再び たちばなから姿を消しました>