あらすじ
映画のオーディションに向けて、ひなた(川栄李奈)は五十嵐(本郷奏多)と一緒に虚無蔵(松重豊)に稽古をつけてくれるよう頼むのですが断られてしまいます。それでも役をつかもうと懸命に努力した五十嵐は、なんとか予選を通過。オーディションを翌日に控え、緊張する五十嵐を元気づけようと、ひなたはるい(深津絵里)に頼んで…。
82話ネタバレ
俳優会館
道場
五十嵐「あ… 虚無蔵さん。 おはようございます。 左近の殺陣 教えてください。 お願いします!」
虚無蔵「断ると言ったはずだ。」
五十嵐「虚無蔵さん!」
ひなた「虚無蔵さん! 私からも お願いします。 私ら 見に行ったんです。 虚無蔵さんの出てはった『妖術七変化』!」
五十嵐「感動しました!」
ひなた「私も。」
五十嵐「あの殺陣を超えたいんです! お願いします。」
ひなた「何で あかんのですか 虚無蔵さん。 今更 再映画化やなんて 一世一代の嫌みや思うからですか!?」
(壁にぶつかる音)
ひなた「つう… 痛…。」
五十嵐「おっ おい!」
ひなた「痛~。」
五十嵐「大丈夫か?」
ひなた「痛~い。」
五十嵐「どうして お前は そう ばかなんだよ。」
ひなた「ばかばか言わんといて。」
虚無蔵「殺陣を教えてやれんのは…。 拙者も受けるからだ。」
2人「えっ。」
五十嵐「オーディションを。」
ひなた「今 現代語しゃべった!?」
五十嵐「そこかよ。」
虚無蔵「あの映画のいきさつは 皆が言うてるようなことやない。 モモケンさんが 初代との親子共演を拒否したんやない。 初代が モモケンさんを拒否したんや。」
ひなた「えっ…。」
虚無蔵「当時 モモケンさんは 団五郎を名乗ってはった。 それまで仲たがいしていた 剣之介 団五郎親子を 共演させて 仲直りさせて 映画を当てる。 それが 条映のもくろみやった。 団五郎さんも乗り気やったって聞いてた。」
ひなた「けど… 先代が?」
虚無蔵「映画を見限った団五郎さんを 映画には出さんと。」
五十嵐「それで… どうして 虚無蔵さんが出ることに?」
虚無蔵「先代が 声をかけてくれはった。」
五十嵐「先代モモケンさん自身が 虚無蔵さんを抜てきしたんですか?」
虚無蔵「うむ。 先代は わしのことを よう かわいがってくれはった。 団五郎さんと年も近いし 団五郎さんにしてやれんことを わしにしてくれてはるようなところが あった。 けど 決して わしに期待して 抜てきしてくれはったんやないと思う。 きっと あれは… 団五郎さんへの 一世一代の当てつけやったと思う。」
虚無蔵「自分の代わりが無名の大部屋。 団五郎さんは さぞかし コケにされた気分やったやろ。 わしは せりふが苦手や。 寺子屋の先生の役やったのに うまいことしゃべることができんと NGばっかり出して 何 言うてるか分からん言われて 編集で さんざん切られた。」
虚無蔵「あの映画が当たらんかったのは ひとえに拙者の不徳のいたすところ。 図らずも あの映画が先代の遺作となり 拙者の悔恨は募るばかり。 拙者が 常日頃から 着流し姿で侍言葉をしゃべるのは 日々 鍛錬を忘れぬためだ。」
ひなた「極端やな…。」
虚無蔵「文四郎!」
五十嵐「はい。」
虚無蔵「こたびの左近役 必ずや拙者が勝ち取る。 故に 今は己の鍛錬に励みたいのだ。」
五十嵐「御意のままに。 それがしも励みまする。」
<左近役のオーディションには 全国から 1,000人を超える応募がありました。 最終選考に残ったのは 50人です>
休憩所
一恵「ぎょうさん有名な人の名前あるえ。」
榊原「ハハッ そら 大型企画やからな。」
すみれ「虚無さんが受けるって聞いた時は 驚いたけど まさか最終選考まで進むとはねえ。 見ものだわ。」
榊原「僕がびっくりしたんは五十嵐君です。 まだ養成所出たばっかりやのに 先輩ら押しのけて合格するとはなあ。」
中庭
ひなた「それがしが相手になって進ぜよう。」
五十嵐「なれるか。」
ひなた「私 うまいんやで。 子供の頃から 一人で立ち回りしてたんやから。」
五十嵐「子供の遊びじゃないんだ。」
ひなた「分かってる。 本気でやるえ。」
五十嵐「邪魔すんな。」
ひなた「あっ。 もう…。 痛~。」
大月家
回転焼き屋・大月
ひなた「何や ごじゅうあらしが 落ちてしもたらええんや。 せっかく人が 何か力になったろ思てんのに。 ただいま。」
るい「お帰り。」
回想
五十嵐「あったかくて 甘いあんこの味が広がって 生き返った気がした。 気合い入れたいと思う時ここの回転焼きが食べたくなる。」
回想終了
ひなた「お母ちゃん。」
映画館
場内
『暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』。
『黍之丞 見参』。
回想
団五郎「父さん。 一体 何を考えてるんですか。 よりによって どうして あんな無名の大部屋を…。 父さん!」
初代剣之介「どうして? お前より よほどいい役者だからだ。」
回想終了
俳優会館
休憩所
<いよいよ 最終選考が 明日に迫りました。 最終選考では 2人一組で 黍之丞 対 左近の殺陣を 披露することになるのですが…>
五十嵐「うそだろ…。」
虚無蔵「文四郎。 では 明日。」
五十嵐「はい…。」
大月家
回転焼き屋・大月
五十嵐「おう。」
ひなた「あっ いらっしゃい。」
五十嵐「おばさんは?」
ひなた「今 ちょっと。」
五十嵐「そっか…。 じゃあ また後で。」
ひなた「あっ 五十嵐。」
五十嵐「うん?」
ひなた「回転焼き買いに来たんとちゃうの。」
五十嵐「そうだよ。」
ひなた「ほな 買うたら?」
五十嵐「おばさん いないんだろ?」
ひなた「うん いてへんよ。」
五十嵐「うん だったら…。」
ひなた「ちょっと 五十嵐。」
五十嵐「はあ… 何だよ。」
ひなた「あ… だから…。」
五十嵐「ああ?」
ひなた「あの…。 もうええわ! あほ。」
五十嵐「はあ? 何だよ。」
るい「もう~。 素直に言うたらええのに。」
五十嵐「おばさん…。」
ひなた「そうかて…。」
るい「五十嵐君。 明日 オーディションの最終選考なんやてね。」
五十嵐「はい…。」
ひなた「もうええて。 お母ちゃん。」
るい「ひなたが 五十嵐君に 熱々の回転焼き 焼いてあげたいんやて。 毎日 帰ってから練習してたん。 よかったわあ。 ひなたが店番できるようになってくれて。」
五十嵐「熱々1つ。」
ひなた「はい。」
ひなた「はい。 明日 頑張って。」
五十嵐「うん。 これで頑張れる。 あっつ!」
俳優会館
廊下
「井上岳彦です。」
ひなた「こちらでお待ちください。」
「分かりました。」
ひなた「次の方。」
「はい。 新田 充です。」
道場
畑野「それでは これより 最終審査を始めたいと思います。 1番さんが 黍之丞。」
「はい。」
畑野「2番さんが 左近。」
「はい。」
畑野「…で お願いします。」
「お願いします。」
「お願いします。」
轟「よ~い スタート。」
「黍之丞 見参。」
「てや~! ほっ!」
「たあっ! とうっ!」
「やあ~!」
「てや~! やあ~!」
「ていっ! たあ~!」
「うあ…。」
轟「カット!」
畑野「続いて 3番さんと4番さん。」
「やあっ!」
「てやっ!」
「あっ!」
「やあ…!」
「はあっ はっ はっ… ふん ふん…。」
畑野「続いて 29番と30番の方 お願いします。 まず29番さん どうぞ。」
五十嵐「おはようございます。 五十嵐文四郎です。 五十の嵐と書いて 五十嵐 アラカンの五十倍です。 よろしくお願いします。」
剣之介「随分 大きく出ましたね。」
轟「あほが。 フッ。」
ひなた「(心の声)『よかった…。 五十嵐 落ち着いてる。』」
畑野「30番さん どうぞ。」
虚無蔵「伴 虚無蔵です。 よろしくお願いいたします。」
剣之介「では 早速 始めてください。」
畑野「お願いします。」
2人「はい。」