あらすじ
いよいよ迎えた「妖術七変化!隠れ里の決闘」の敵役オーディション当日。大部屋俳優の五十嵐(本郷奏多)と虚無蔵(松重豊)は、ペアで殺陣(たて)を披露することに。ひなた(川栄李奈)も、謎の振付師・サンタ(濱田岳)とともにオーディションの様子を見守ります。見事な殺陣を披露する二人ですが、突然、審査員席に座っていたモモケン(尾上菊之助)が立ち上がり…。
83話ネタバレ
俳優会館
道場
畑野「続いて 29番と30番の方。」
剣之介「では 早速 始めてください。」
畑野「29番の五十嵐さんが 左近。 30番の伴さんが 黍之丞。 お願いします。」
虚無蔵 五十嵐「はい。」
轟「よ~い スタート。」
虚無蔵「『暗闇でしか見えぬものがある。 暗闇でしか聴こえぬ歌がある』。 『黍之丞 見参』。」
五十嵐「『現れたな』。 やっ! うっ くっ…。 うっ!」
ひなた「五十嵐… あんなに うまかったっけ…?」
サンタ「相手役が うめんじゃが。」
ひなた「わっ サンタのおっちゃん。」
サンタ「つられて若えにいちゃんも うもうなっとる。」
ひなた「そういうもんですか…。」
サンタ「そういうもんじゃ。 ありゃあ 伴 虚無蔵じゃろ?」
ひなた「はい。」
サンタ「時代劇ゃあ 一流の斬られ役おっての主役じゃ。」
五十嵐「やあっ! くっ… うっ うっ。 うっ…。 うう…。 ふん! うっ! やあっ!」
虚無蔵「ふん!」
五十嵐「うっ! あ…。 ぐわあっ!」
轟「カット!」
畑野「はい! そしたら 次 役 交代します。 29番さんが黍之丞。 30番さんが左近で お願いします。」
虚無蔵「はい。」
轟「よ~い…。」
剣之介「30番さんは 一度は左近を演じたお人。 ひとつ 私がお相手いたしましょう。」
ひなた「何で…?」
サンタ「長かったのう…。」
ひなた「えっ?」
サンタ「20年。」
轟「よ~い スタート。」
剣之介「『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』。 『黍之丞 見参』。」
虚無蔵「『現れたな』。 とりゃ~! 『うりゃ~!』。 う~… はっ!」
剣之介「はっ!」
回想
(すすり泣き)
(泣き声)
サンタ「う~ん うるせえのう…。」
(すすり泣き)
サンタ「後学のために聞きてんじゃけど… この映画 どけぇ そねん感激しよんなら? うん? まあ 確かに殺陣は見事じゃったあ。 さすがはモモケンじゃ。 わしゃあ デビューの頃から目ぇつけとったんじゃ。 ありゃあ 阪妻もアラカンも 超える逸材じゃあ言うて。 ヘッヘッヘッヘッヘッ…。」
サンタ「あんた 団五郎じゃろう? モモケンのせがれの。 え~? ハッハッハッ。 何ゅう 泣きょんなら? はっはあ~ 分かった。 親父さんが 無名の俳優と あねえ見事な殺陣をやったもんじゃから やきもちゅう やきょんじゃろう。」
団五郎「う…。」
(泣き声)
団五郎「はあ~ あ~あ。」
回想終了
虚無蔵「うわあっ!」
回想
団五郎「当てつけとしか 思えません。 私を拒否して 無名の大部屋と共演するなんて…。 そんなに許せないでしょうか? 映画を離れて テレビに飛び込んだ私のことを。」
サンタ「そうかもしれんのう…。 じゃあけどのう ダンゴちゃん。」
団五郎「ダンゴちゃんって…。」
サンタ「親父っちゅうんは 一筋縄ではいかんもんじゃ。」
団五郎「えっ? 許しとるようで 許しとらん。 許しとらんようで 許しとる。 親父さんは あんたに 黍之丞をやってもれえてんじゃねえか? 敵役の左近じゃのうて。」
回想終了
虚無蔵「え~い!」
剣之介「やっ!」
虚無蔵「があ~!」
畑野「(小声で)監督。」
轟「あん? あ… カット!」
剣之介「はあ…。 これが…。 父が見た景色なんですね。 20年前に。 だけどね 虚無さん。 あんたじゃ 駄目なんだ。」
虚無蔵「わしが無名やからか。」
剣之介「そうじゃない。」
虚無蔵「せりふが下手やからか。」
剣之介「そうじゃない。 虚無さん。 私は 私の左近を探しに来たんです。 父が あんたという左近を見つけたように。 あんたに頼ったんじゃ 父を超えられない。」
虚無蔵「ありがとうございました。 文四郎とも… 手合わせしてやってください。 拙者 これにて。」
剣之介「あっ 虚無さん。 あんた 思ってるでしょう。 父が あんたを抜てきしたのは 私への当てつけだったと。 父は言ってました。 伴 虚無蔵は 桃山団五郎より ずっといい役者だと。 父は 役者として あんたに一目置いてたんです。」
虚無蔵「それは… ホンマですか? 何で… 何で もっと早うに 言うてくれへんかったんですか。 わし… 20年 思い詰めてましたがな。」
剣之介「何でって? 私はスターですよ。 大部屋なんぞに軽々しく声はかけません。」
虚無蔵「恐れ入りました。」
畑野「本日のオーディションは以上です! お疲れさまでした。」
休憩所
ひなた「ふう…。」
道場
剣之介「待ってください。 あなたと話がしたかったんです。」
ひなた「えっ?」