あらすじ
ひなた(川栄李奈)と五十嵐(本郷奏多)は、完成した映画「妖術七変化!隠れ里の決闘」を一緒に観に出かけます。大月家に帰ってきてもなお興奮冷めやらぬ様子の二人を、るい(深津絵里)や錠一郎(オダギリジョー)は微笑ましく眺めるのでした。それから7年の時が流れて、1992年。ひなたの弟の桃太郎(青木柚)は高校に入学し、ひなたは27歳になりました。時代劇や映画村を取り巻く環境は大きく変化していて…。
86話ネタバレ
大月家
居間
テレビ『去年 決勝で敗れたPL学園。 今年は サヨナラのチャンス。 ツースリーから…』。
(打撃音)
錠一郎「おっ。」
テレビ『センターも抜けていった! ランナーは 三塁を回りました。 ホームに向かった! サヨナラゲーム!』。
錠一郎「おおっ!」
桃太郎「やった~!」
テレビ『PL得意のサヨナラゲーム!』。
桃太郎「PL サヨナラや!」
錠一郎「PL すごいなあ。」
小夜子「よかったね 桃ちゃん。」
桃太郎「小夜ちゃん!」
小夜子「おじさん。 こんにちは。」
錠一郎「いらっしゃい。」
小夜子「ひなちゃん いてますか?」
錠一郎「あ~ 今日は出かけてるわ。」
小夜子「あ…。」
映画館
ひなた「文ちゃん 早う 早う! ここ空いてる ここ。」
五十嵐「うるさいな。 大声出すな。」
ひなた「お客さん ぎょうさん いてはる。」
(開演のブザー)
高山『お侍様 どうかお助けください。 この里は 妖術使いに操られているんです』。
ひなた「(小声で)あっ もうすぐや。 もうすぐ。 もうすぐ。」
五十嵐「シ~ッ!」
高山『伊織様。 ああっ!』
五十嵐『おふね…。 ここは危うい。 逃げよう。』
高山『はい!』
五十嵐『左近様? 何故 ここに? ぐあっ!』
高山『キャ~!』
五十嵐『はあ はあ はあ… 左近様… あなたは…。』
『フフフフフフッ…。 フフフフフフッ… ア~ハッハッハッハッハッ! アッハッハッハッ!』
剣之介『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある。 黍之丞…。 見参!』
『ハッ 現れたな。』
『うりゃ~! あ~! 黍之丞! 覚悟! てやっ! はっ! お~! たあっ!』。
『お~らっ! ア~ハッ! がっ! はあっ! ふっ はっ! う~ はっ。 うりゃ~!』
剣之介『えいっ!』
『あ…。 あ~… やあ~!』
剣之介『梨棗 黍に粟つぎ 延う葛の 後も逢わんと 葵花咲く』。
高山『黍様…』。
五十嵐「はあ…!」
大月家
居間
ひなた「ホンマに かっこよかったわあ。」
五十嵐「いつまで言ってんだよ。」
ひなた「黍之丞!」
五十嵐「黍之丞かよ。」
ひなた「うそうそ。 伊織の方が もっとかっこよかった。」
桃太郎「僕も見に行く。」
錠一郎「おっ 珍しいな 桃太郎。」
五十嵐「招待券あるよ。」
桃太郎「2枚頂戴。」
ひなた「誰と行くん?」
桃太郎「小夜ちゃん。」
ひなた「えっ?」
るい「今日 来てたんや 小夜ちゃん。」
ひなた「そうなん?」
桃太郎「『一緒に行こ』言うたら 『ええよ』て。」
ひなた「あかん。 小夜ちゃん 大学忙しいのに。」
五十嵐「おじさんとおばさんも よかったら。」
錠一郎「あっ もちろん。」
るい「楽しみやわあ。」
桃太郎「おにいちゃん これもおいしいで。」
五十嵐「おっ。 頂きます。 おいしい!」
るい「よかった。」
商店街
五十嵐「これ ください。」
「500円です。 ありがとうございます。」
五十嵐「んっ。」
ひなた「えっ? 文ちゃん… ありがとう。 文ちゃん?」
五十嵐「拙者 家禄も僅か。 主君の覚えも めでたからず。」
回想
五十嵐「『されど…』。」
回想終了
五十嵐「されど…。
回想
五十嵐「『そなたを幸せにしたい』。」
回想終了
五十嵐「そなたを幸せにしたい。 ついてきてくれるか。」
ひなた「ハハ… 文ちゃん…。 えっ。」
五十嵐「今度は斬るなよ。」
ひなた「アハハッ もう 文ちゃん。」
大月家
五十嵐「おはよう ひなた。」
ひなた「おはよう 文ちゃん。」
五十嵐「朝から豪勢だな。」
ひなた「だって 今日は『大河ドラマ』の撮影でしょ。」
五十嵐「いや それにしても。」
ひなた「信長だって 出陣の朝は 特別なお膳を食べてたはずよ。」
五十嵐「ありがとう ひなた。」
ひなた「いいのよ 文ちゃん。」
五十嵐「本当に ありがとう。 ひなた。」
ひなた「文ちゃん。」
五十嵐「ひなた。」
ひなた「文ちゃん。」
五十嵐「ひなた。」
ひなた「文ちゃん。」
ひなたの部屋
るい「ひなた。 はよ起きなさい。」
ひなた「お母ちゃん…。 何 その恰好。」
玄関前
ひなた「はい。 あ~ お父ちゃん もうちょっと寄って。」
錠一郎「よっしゃ よっしゃ。」
ひなた「行き過ぎ 行き過ぎ。 はい いくよ。 はい チーズ。」
(シャッター音)
ひなた「よし。 もう一枚 撮るよ。」
森岡「お~! ももたろさん 入学式か。」
桃太郎「ももたろさん言わんといてえな。 おっちゃん。」
森岡「京都西陣高校やて? 野球の名門やがな。 おめでとうさん。 おめでとうさん。」
桃太郎「ありがとう。」
森岡「よし。 おっちゃんが撮ったろ。 ひなたちゃんも入り ほら。」
ひなた「私はええわ。」
森岡「えっ? 何でえな。」
ひなた「寝起きで化粧もしてへんし。」
森岡「いや そんなん言わんと入り はよ。」
るい「ひなた。」
ひなた「ありがとう おっちゃん。」
森岡「はい はい はい。」
錠一郎 るい「ありがとうございます。」
森岡「うわっ ご主人。 いつもと えらい違いやな。」
錠一郎「ああ… いやいや…。」
森岡「ダンディーやな!」
錠一郎「ダンディー…。」
森岡「はい。 はい 撮るでえ。 はい チーズ。」
(シャッター音)
<桃太郎が高校に入学しました>
俳優会館
休憩所
♬~(ラジオ)
<ひなたは… 相変わらず 条映映画村の業務部に勤務しています>
榊原「大月さん。 ちょっとええかな。」
ひなた「はい。」
ひなた「え… これ ホンマなんですか?」
榊原「うそ書いて どないするん。」
ひなた「そうですけど…。 こないに お客さん減ってるなんて…。 そらあ そんな気ぃしてましたけど こう はっきりと 数字で突きつけられると…。」
榊原「もともと映画村は 撮影所の危機を救うために作られた。」
ひなた「えっ… そうやったんですか。」
榊原「うん。 テレビが普及し始めた時 映画館の動員が落ちてしもてな。 このままやったら 映画がつくられへんいうて その製作費を稼ぐために出来たんが 映画村なんや。」
ひなた「知らんかった…。 知らんと9年も勤めてました。」
榊原「ハハッ…。 実際 映画村の収益で たくさんの時代劇映画がつくられてきた。 『妖術七変化』も その一つや。 でも… その収益自体が落ちてきてるんや。 このままでは 共倒れや。 撮影所も… 映画村も…。」
ひなた「なんとかせんと。」
榊原「うん。 それを 大月さんにも考えてほしい思てる。 どないしたら 映画村の来場者数を増やせるか。 アイデアを出してほしい。」
<二代目桃山剣之介による 『妖術七変化 隠れ里の決闘』は 話題を呼び ヒットしました>
<しかし それは条映時代劇が咲かせた 最後のあだ花でした>
第一スタジオ
<扮装や美術にお金のかかる時代劇は 時代とともに スポンサーから敬遠されるようになり… テレビ時代劇の本数も 徐々に減っていきました>
畑野「雨でぬれてるから くれぐれも くしゃみせんようにな。」
一同「はい!」
畑野「はい よ~い スタート!」
(カチンコの音)
「てやあ~!」
「くっ…。」
「やあ!」
「えいやっ!」
「があっ!」
<五十嵐も 大部屋のままです。 あの映画以来 せりふも 役名も もらったことがありません>
「『世を治めんがため 天荒を破る。 人呼んで… 破天荒将軍』。」
畑野「カット!」
(カチンコの音)
「はい オッケー!」
一同「オッケー!」
「は~い 次!」
五十嵐「はあ…。」
休憩所
ひなた「お疲れさま。」
五十嵐「ああ。」
ひなた「今日は このあと 何か入ってんの?」
五十嵐「いや 今日は さっきので終わり。」
ひなた「それやったら 第2スタジオ行ってみたら?」
五十嵐「何か撮ってるのか?」
ひなた「あれ。 今回は ホテルのアフタヌーンティーに 出かけた ぼたんが そこで殺人事件に出くわす話なんやて。」
五十嵐「それで?」
ひなた「そのアフタヌーンティーのシーン もうちょっと人欲しいて 監督が さっき探してはったから。」
五十嵐「ひなた。」
ひなた「うん?」
五十嵐「言っただろ。 俺は時代劇以外はやらない。 その志は変えたくないんだ。」
ひなた「あ… そやったね。 ごめん。」
五十嵐「いや…。」
ひなた「あっ そしたらさあ 今日 うちに晩ごはん食べに来いひん? お父ちゃんも お母ちゃんも 『最近 文四郎君 来いひんなあ さみしいなあ』て言うてる。 桃も今日から高校生や。」
五十嵐「ごめん。 今日は やめとく。 また今度。」
ひなた「うん。 分かった。」
五十嵐「じゃあ…。」
ひなた「うん。」
<ひなたは 27歳。 五十嵐は 29歳になっていました。 The years passed. Hinata turned twenty-seven and Igarashi turned twenty-nine>