あらすじ
野球部でレギュラー入りが決まった桃太郎(青木柚)は、国語準備室にいる小夜子(新川優愛)に報告しに行きます。そのまま一緒に帰ることになり浮かれる桃太郎でしたが、小夜子が商店街に来た本当の目的を知り、大きなショックを受けることに。以来、あまり元気のない様子の桃太郎を、ひなた(川栄李奈)やるい(深津絵里)も心配します。ある日映画村にやってきた小夜子は、ひなたと一恵(三浦透子)に大事な報告があると言い…。
93話ネタバレ
大月家
居間
(かすれた音)
(かすれた音)
桃太郎「お父ちゃん?」
ひなた「何やってんの?」
錠一郎「ひなた。 桃太郎。」
桃太郎「何?」
錠一郎「お父ちゃんな 昔 トランぺッターやった。」
桃太郎「えっ?」
錠一郎「ジャズバンドでプレーして… レコードデビュー寸前までいった。 けど… 謎の病気になって 挫折した。 それからや。 ひなたと桃太郎が知ってるとおりの お父ちゃんになったんは。
ひなた「アハハッ… 何なん? 急に。 何の冗談? ハッハハ…。 あっ 私と桃が けんかしてんの止めよう思て びっくりするようなこと言うたろ思たん? アハッ いやいや。 そこまで突拍子もないこと言われたら びっくりするより笑てしまうわ お父ちゃん。 フッフフフ…。」
桃太郎「ホンマやで。 作り話でも もうちょっと 信ぴょう性のあること言うてえな。」
錠一郎「作り話やない。 ホンマのことや。」
ひなた「えっ…。 ホンマなん?」
るい「ホンマや。 関西一のトランぺッターを選ぶ コンテストで 優勝した時のサイン。 お父ちゃんは 東京でデビューすることが 決まってたんや。」
ひなた「え…。」
るい「けど…。」
錠一郎「急に トランペットが吹かれへんなったんや。 日常生活は何の問題もなく送れるのに まともな音が出されへん。 訳分からんやろ。 お父ちゃんも 訳分からんかった。 名医っていわれる人やら アメリカ帰りのお医者さんやら さんざん訪ね歩いたけど みんな 分かれへん 治されへん言わはった。」
錠一郎「そのころ お父ちゃんとお母ちゃんは 結婚の約束をしてたけど…。 それも諦めた。 トランペットとったら何にも残らへん。 そんな自分の人生に… 大事な人 つきあわすわけにはいかへん思た。」
るい「いっぺんは別れたんや。」
ひなた「えっ…。」
錠一郎「トランペット失って。 大事な人 失って。 夢 失って…。 もう死のうかなあと思った。 そやけど… お母ちゃんが…。 るいが救ってくれた。 2人で京都に来て。 回転焼き屋さん始めて…。 それからも… お医者さんとか 治療法とか 探し続けてた。」
錠一郎「けど 桃太郎が生まれた頃からかな それも だんだん しいひんようになった。 諦めたっていうか 何か 吹っ切れたんかなあ。 もう一生 トランペットは吹かれへん。 この回転焼き屋で 仕事の役には立たへんけど ひなたと桃太郎の いいお父ちゃんとして 生きられたら それでええ。 それで 僕は幸せや。 …で 何が言いたいかっていうとやな。 それでも人生は続いていく。 そういうことや。」
(風鈴の音)
広場
桃太郎「すごいな お父ちゃん。 そんな過去があったやなんて…。 全く分からへんかった。」
ひなた「お母ちゃんかて ただの 回転焼き屋のおばちゃんやなかったんや。」
桃太郎「うん…。」
ひなた「けど よかった。 お父ちゃんが死なへんかって。」
桃太郎「うん。 その時 お母ちゃんが 止めてくれへんかったら思たら…。」
ひなた「ああ。 あっ ゾッとするわあ。」
桃太郎「うん。」
ひなた「どこ行くん?」
桃太郎「あかにし。 謝ってくる。」
ひなた「お姉ちゃんも一緒に行ったげる。」
荒物屋・あかにし
桃太郎「ごめんなさい!」
ひなた「ちょっと魔が差しただけなんです。 どうか こらえてやってください。」
吉右衛門「いいや こらえん。」
ひなた「今回だけ 見逃してやってください!」
吉右衛門「あかん言うたら あかん。」
清子「吉右衛門。 もう それくらいにしとき。 おめでたい時なんやさかい。」
吉右衛門「しかしやなあ。」
清子「昔 お父ちゃんは 堪忍したげたはったえ。」
吉右衛門「それは知ってるけど。」
吉之丞「ただいま。」
清子「お帰り。」
吉之丞「何や きょうだい そろて。」
ひなた「あ… まあ ちょっと…。」
桃太郎「吉之丞さん。 結婚おめでとうございます。」
吉之丞「おっ…。 な… 何や もう小夜子から聞いたんか?」
大月家
物置
るい「ありがとう。 けど…。 うそやんね? 諦めたやなんて。 私は信じてる。 またジョーさんが トランペット吹ける日が来るって。」
錠一郎「時々 試してた。 今日みたいに。 ある日 突然 治ってるかもしれへん思て。 けど あかんかった。 この30年 何べんも試したけど あかんかった。 初めは しょっちゅう。 そのうち 月に1回 3か月に1回 半年に1回…。」
錠一郎「ここ10年は 何年かに1回くらいになった。 トランペットを持つ。 口に マウスピースを当てる。 息を吹き込む。 夢みたいな音が出る。 薄れていくんや。 あの感覚が。 トランペットが… 僕に さよならを言うてる。 そんな気がするんや。」
荒物屋・あかにし
錠一郎「あ~ ハズレ~ 残念。 でも これ。 メリークリスマス。」
節子「メリークリスマス。」
錠一郎「はい 次の方。」
「お願いします。」
錠一郎「は~い。 1 2 3 4… 10枚だから 10回。」
森岡「ちゃう ちゃう ちゃう! これ 補助券や。」
錠一郎「あっ ホンマや。」
森岡「1回な。」
錠一郎「1回やって。 お~! 大当たり 1等!」
森岡「ちゃうて! 大月さん。 1等は赤玉や。」
(ベル)
森岡「うるさいな!」
錠一郎「はい こっから好きなやつ どうぞ。」
「これ!」
錠一郎「おっ! メリークリスマス。」
「メリークリスマス!」
(おもちゃのラッパの音)
るい「ジョーさん。」
錠一郎「ああ るい。 鶏 買うてきたん?」
るい「手羽やけど。」
錠一郎「上等や。 あれは? 福引き券は?」
るい「もろたけど… 明日にするわ。」
錠一郎「ああ ああ ああ。 僕もすぐ帰るよ。」
るい「待ってるよ。」
大月家
回転焼き屋・大月
るい「おいでやす。 すいません。 すぐ焼きます。 すいませんねえ お待たせしてしもて。 何個しましょ? あの…?」
算太「るい。 るいじゃのう?」