ドラマダイジェスト

夜ドラ「ミワさんなりすます」(第11回)

あらすじ

久保田ミワ(松本穂香)は自分で八海崇(堤真一)に渡したクッキーの袋の中に見知らぬ手紙が入っているのに驚く。それはミワの電話番号を書いた短いファンレター…美羽さくら(恒松祐里)の仕業だった。一介の家政婦にも親切に接してくれ、映画を愛する者同士の親近感さえ示してくれた八海の、その信頼を裏切ってしまったと絶望するミワ。失意のどん底にいるミワに突然八海から電話がかかって来て思いもかけない提案をされるが…。

第11回ネタバレ

八海邸

書斎

八海「ああ… 手作りですね。」

ミワ「何の変哲もないクッキーですが…。」

八海「これは… 手紙ですが?」

<えっ 何それ!?>

ミワ「えっと…。」

八海「これは…。」

ミワ「あっ えっと これは その あ…。 あの これは あの…。」

(ノック)

藤浦「八海さん。」

八海「はい。」

藤浦「一条さんから お電話です。」

八海「分かりました。 失礼します。」

<八海 崇の 笑顔が消えた>

<彼はかつて テレビのインタビューで こんな発言をしている>

回想

司会「SNSの普及で 演者と観客の距離が 近づいたといわれて久しいですが…。」

八海「私はポジティブに捉えていますよ 風通しの良い時代になったなと思いますし。」

司会「なるほど。」

八海「しかし同時に良識を試される時代になったとも感じています。」

司会「良識?」

八海「その距離感を間違えてします人は やはり残念に思います。」

回想終了

道中

ミワ「(泣き声)」

<八海サマは一介の家政婦に これ以上ないというほど 親切に接してくれた>

<なのに私は その好意を踏みにじった 信頼を裏切った。 あの 私欲にまみれた あさましき手紙によって…。 八海サマの あの失望と悲しみに満ちた表情…>

ミワ「死ぬほど つらい…。」

<さくらさん… これが私の罪の重さなんですか? なりすましの 報いなんですか?」

ミワ宅

<聞きたい… 何で あんなことをしたのか>

(着信)

ミワ「もしもし?」

八海『八海です。』

ミワ「えっ…!?」

<それは 神の声だった>

八海『もしもし?』

<今まで映画の中で何万回 何億回と 繰り返し聴いてきた神の声が 私のスマホから聞こえてくる>

八海『もしもし?』

ミワ「はい。」

八海『昼間は 話しの途中で失礼しました。』

ミワ「いや こちらこそ あんな…。」

八海『確認したいんですが あの手紙は ミワさんが書いたものですか?』

ミワ「え…。」

八海『ちょっと 違和感を覚えたので。』

<ここで 本当のことを言ってどうする? さくらさんに罪をなすりつけて なりすましの事実を全部バラす? そんなこと できるはずがない>

ミワ「私が… 書きました。」

八海『そう… ですか。 この電話もするべきか迷いました。 私にも立場がありますので。』

ミワ「はい…。」

八海『場所を考えて頂けませんか。』

<神は言った。 立場をわきまえよ と>

ミワ「ですよね。 本当に… 申し訳ございません。」

八海『えっ 何で謝るんですか?』

ミワ「え?」

八海『え? あ… いや 言葉足らずでしたか。 映画の話をする場所を考えて頂けませんか っていうことなんですけど。』

ミワ「えっ…。」

八海『前に約束というか お話ししましたよね。』

ミワ「あ…。」

回想

八海「次は ゆっくり 映画の話 しましょうね。」

回想終了

八海『家の中でプライベートな話をすると ミワさんのお仕事の邪魔になりますし 電話でお誘いするのも どうかと思ったんですが せっかく電話番号を頂いていたので。 どこか都合のいい場所はありませんか? やはり 私が適当に決めましょう。』

<あまりの出来事に このあとの会話はよく覚えていない>

ミワ「うわあ~!」

<おぼろげな記憶を頼りに 内容を整理すると つまり私は… 私 久保田ミワは 八海 崇と プライベートで会うことになった!>

ミワ「うう~っ!」

(壁を蹴る音)

隣人『静かにしてもらえませんか。』

ミワ「すいません。」

<ダメだ これじゃ 八海サマの隣に立てない>

<いや 新入社員か>

<結婚式か>

<漫画家みたいになったけど… いいか これで!>

道中

<まるで白昼夢。 この街の人たちは まさか私が今から 八海 崇とプライベートで会うとは 夢にも思わないだろう。 八海サマが指定したのは 銀座のレストラン La Caver neの地下の一室>

レストラン・La Caver ne

「こちらでございます。」

<そこは白昼夢というより デスゲームのような空間だった>

八海「あ… 遅くなりました。 どうぞ。」

<緊張する>

八海「どうぞ。」

<何か 話さなきゃ…>

八海「どうしました?」

ミワ「いえ…。」

八海「ミワさんは 何を飲みますか?」

ミワ「あ… すいません。 つまんない… ですよね。」

八海「えっ?」

ミワ「せっかくのお休みなのに こんな普通の人間と食事なんて…。」

<えっ ちょっと 何言ってんの? 私。 こんなとこで自虐はやめて~。 これ以上 空気を悪くしないで~!>

(指先で テーブルをたたく音)

<八海サマ いらだってる? そりゃ 退屈ですよね>

(指先で テーブルをたたく音)

<いや 待って これは… モールス信号>

(こ ち ら を み て)

八海「やっぱり。 ミワさんなら分かると思いました。 映画で覚えたんですか?」

ミワ「はい。」

八海「必要に迫られてるわけでもないのに 映画好きが高じて モールス信号さえも覚えてしまう。 そんな人 普通ですかね。」

<八海サマは 最初から分かっていた。 私が緊張して 彼の手元しか見られなかったことを。 八海サマの優しさで 私は 彼のイタズラっぽく笑うお顔を はっきり見ることができた>

ミワ「モールス信号といえば 『パラサイト』でも使われていましたよね。」

八海「ああ そうでしたね。」

ミワ「はい。 主演のソン・ガンホさんって…。」

<それから私は 29年間 せき止められていたダムが 決壊したかのように 一気に話し続けた>

ミワ「『殺人の追憶』でした。 サスペンスなストーリーに 巧みに織り込まれたユーモアと社会風刺。 監督が書く脚本も もちろん すばらしいのですが ソンさんのアドリブも すごいんです。 『メシは食っているのか?』。 あれがアドリブだと知った時は もう震えて 何回も何回も見返しました。」

ミワ「すいません 私ばっかり話してしまって。」

八海「とんでもない。 本当に熱心ですね。 業界の人間でも そんなに詳しい人はいませんよ。」

ミワ「いや お恥ずかしいです…。」

八海「それに 知識もさることながら 映画に愛がある。 役者冥利につきます。 それだけの知識があったら お友達との会話も さぞかし盛り上がるでしょう。」

ミワ「子どもの頃 椅子取りゲームが苦手だったんです。」

八海「椅子取りゲーム?」

ミワ「みんなで先を争って席を取り合うのが 何だか恥ずかしかったんです。 そこに入っていくエネルギーが なかったっていうか。」

ミワ「私たち世代のやり取りとか SNSなんかも 私には椅子取りゲームに見えて 自分を前に押し出すエネルギーが やっぱり なくて。 気が付いたら 私の席は どこにもなかったんです。」

八海「それは 座るに値する席なんですかね?」

ミワ「え…。」

八海「地代に合わせて 自分をねじ曲げて そうまでして 本当に しがみつかないといけない席なのか 私も 俳優をやっていて いつも悩むことです。」

<八海サマも 同じ悩みを?>

八海「ミワさんには どこかに もっと ふさわしい席があるんじゃないですか。」

<今 死んでも悔いはない。 そう思わせるほどに 八海 崇の言葉は 私のハートを打ち抜いた>

ミワ「ありがとうございます。」

ミワ「今日は ごちそうさまでした。」

<さようなら 奇跡の一日>

八海「もう一軒 行きましょう。」

ミワ「えっ?」

八海「どうぞ。」

ミワ「失礼します。」

運転手「閉めます。」

(ドアを閉める音)

八海「ラスベガスまで お願いします。」

<えっ ラスベガス? ラスベガス!?>

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