あらすじ
久保田ミワ(松本穂香)は八海崇(堤真一)との夢のような食事会のあと、八海行きつけのバーに誘われる。そこは映画業界人御用達でただの映画オタクであるミワには場違いに思えた。八海に恥をかかせないうちに帰ろうとしたその時ニコラス・シラー監督(ブレーク・クロフォード)が店にやって来る。ミワは世界で最も敬愛するシラー監督にぶつかり服を汚してしまう。ミワをかばう八海とシラーは映画論を戦わせるうちに険悪になり…。
第12回ネタバレ
車
八海「ラスベガスまで お願いします。」
<車で行けるラスベガスとは 一体 どんなところなんだろう?>
八海「行きましょう こっちです。」
「あれ 八海 崇じゃね?」
「えっ マジ!? こんなとこいないでしょ。」
「絶対 本物だって。」
「何 寝ぼけたこと言ってんの 行くよ。」
ミワ「あの… 私 もう少し 離れたほうがいいですよね。」
八海「な… 何でですか?」
ミワ「あ… いや…。」
<八海 崇は動じない。 その心は 海のように広く そして 少しニヒル。 雑誌のインタビューなどでは 決して分からない彼の人柄。 その魅力に触れる度に 私はファンというより 一人の人間として 彼のとりこになっていった>
BAR・らすべがす
八海「どうも。」
ゆき「いらっしゃいませ。」
八海「どうぞ。」
ミワ「ありがとうございます。」
八海「オーナーのゆきさん。 先代のお孫さんです。」
ミワ「こんばんは。」
八海「いつものハイボール。」
ゆき「はい。」
八海「ミワさんは?」
ミワ「私も同じもので。」
八海「ここは 映画好きの常連が集まる店なんです。」
ミワ「ほええ… あっ。」
八海「ここは シラー監督も お忍びで來るんですよ。」
ミワ「え… えっ あのニコラス・シラー監督ですか?」
八海「ええ。 まあ 彼もなかなかセンシティブだから こういった静かなバーが好きみたいで。」
ミワ「へえ~。」
ゆき「センシティブっていうよりかは ただの気難しいおっさんですけど。」
八海「はははは… そうかもしれない。」
<ニコラス・シラー監督。 映画ファンの間でも 繊細なことで有名だ>
回想
シラー「興行収入の話ばっかりだな 何度同じことを言わせるんだ! 聞くべきことは他にあるだろう! 映画の話しかしないぞ!」
回想終了
ミワ「ありがとうございます。」
八海「今は ちょうど 映画のプロモーションで 日本に来ていて 会えたらいいねとは言ってたんですが。」
ゆき「ここに立ち寄る時間 ありますかね。」
<えっ 今日 来るんですか!?>
八海「どうなんだろう…。 もし来ても 言葉の心配はないですよね。」
ミワ「え!?」
八海「ミワさんは うちの家政婦さんなんですけど 語学が堪能なんです。」
ミワ「それほどでも…。」
<そうだ 自分の設定 忘れてた…>
八海「あっ ちょっと失礼。」
ゆき「お手洗いは外です。」
八海「はい 分かります。」
<資格もなければ 語学もできない 家政婦の経歴としては 全てウソ…。 冷静に考えて こんなこと いつまでも ごまかせるわけがない>
ゆき「早く帰ったほうがいいよ。」
ミワ「えっ?」
ゆき「子どもの頃から いろんな業界人を見てるけど あんたみたいな一般人がまざって いいことなんかないから。 八海さんに迷惑かけないうちに帰んな。 急に気分が悪くなったとか 理由つけて帰るなら今のうちだよ。」
<確かに ゆきさんの言うとおりだ。 業界のことなど何も分からない。 ましてや なりすましの私が ここにいるべきじゃない>
ミワ「はい そうします…。」
(ドアの開く音)
シラー『調子はどう?』
ゆき『久しぶり』
ミワ「シ… シラー監督。」
<私は まるで金縛りにあったかのように その場から動けなくなってしまった>
シラー『この席は空いてますか?』
ミワ「あっ はい。 イエス アイ ドゥ。」
<ニコラス・シラーは 私にとって 世界最高の映画監督だ。 初めて見た時の あの衝撃。 文芸的でオフビートなユーモア感覚。 八海サマとタッグを組んだ作品は 私の人生を変えたと言っても 過言ではない>
シラー『今日はえらく道が混んでいたよ 東京はどこも人が多いね』
ゆき『一度 朝の満員電車に乗ってみてよ この街が嫌になるから』
<っていうか ゆきさん 英語ペラペラ!>
シラー『俺も駅員に押し込められてみたいな』
ゆき『ウケる それ動画で撮りたい』
<よし 雰囲気のいい今のうちに そっと帰ろう>
シラー『この不愉快な音を今すぐ消してくれ!』
ゆき「ごめんなさい」
シラー『なんで君が謝るんだ 不愉快なのは そのテレビだ 戦争に疫病に自然災害… 世界中が危機にあるというのに 下世話なゴシップで ぎゃあぎゃあ騒いで 本当にマスコミはクレイジーだよ!』
<怒ってる? 私は どうしたらいいんでしょうか?>
シラー『今日は八海は来ないのか?』
ゆき『来てますよ。 今 お手洗い』
シラー「来てるのか?」
ゆき「ねえ ちょっと 八海さんの様子 見てきてくれない?」
<ゆきさん ナイスアシスト!>
ミワ「はい。」
(ぶつかる音)
ミワ「あっ…!」
<やってしまった…>
八海邸
八海『今日は 少し遅くなります。』
藤浦「そうですか。 分かりました。 明日は10時から取材がありますので。 では よろしくお願いします。」
一駒「それでは 私は失礼します。」
藤浦「お疲れさまでした。」
一駒「珍しいですね ご主人様が こんな時間まで外出されるなんて。」
藤浦「ご友人と会ってるみたいですよ。」
一駒「ご友人?」
藤浦「ええ。」
一駒「あっ ご友人ですか。 なるほど 失礼します。」
BAR・らすべがす
シラー『なぜ黙っているんだ? 何か言うことがあるだろう?』
<えっと 謝らなきゃ… えっと ごめんなさいって英語で…>
ミワ「あ… アイム…。」
(ドアの開く音)
八海「あ~ シラー監督 いらっしゃってたんですか。」
<八海サマ!>
八海「ミワさん 何かあったんですか?」
シラー「八海のツレか?」
<えっ 日本語?>
シラー「服を汚されたのに ずっと黙ってるんだ。」
八海「それは失礼しました。 きっと あなたの顔があまりにも怖かったので 言葉が出なかったのでしょう。」
シラー「もともと こういう顔だ。」
ミワ「(小声で)あの シラー監督って 日本語 お話しされるんですか?」
八海「(小声で)酔うとペラペラになるんです。」
ミワ「あの… 大変 申し訳ありませんでした!」
八海「飲みましょう。」
シラー『彼らの分も一緒に もう帰る』
ゆき「OK。」
八海「シラー監督 待って下さい。 服を汚してしまったおわびも兼ねて 一杯 ごちそうさせてくれませんか。」
シラー「ん…。」
八海「私に用件があったんでしょう?」
シラ「…分かったよ。」
<ああ 八海サマにご迷惑をかけてしまった…>
八海「新作の構想ですか?」
シラー「そうだ。 今度は日本で撮ろうと考えてる。」
八海「日本で?」
シラー「NINJAが 現代の日本によみがえって 夜の街を飛び回る話にしようかと 思ってるんだ。」
八海「忍者ですか。」
シラー「ジャパニーズ・スパイ映画。 新しいヒーローを作る。」
八海「ん…。 忍者はヒーローにならないでしょう。 表に出て 大衆から称賛されるような 存在じゃない。」
シラー「新しいNINJAがあってもいいと思う。」
八海「ハリウッドも そうやって 80年代 90年代と 謝った忍者像を 世界中に広めてきたわけですが 日本の歴史や文化を 単なるファッションとしか考えてない。 あなたは 同じことをやろうと してるんじゃないですか?」
シラー「彼らとは違う。 私はちゃんと 『葉隠』の精神を映画に取り込む!」
八海「『葉隠』?」
シラー「八海 『葉隠』も知らずに 私がNINJAをやることに反対してるのか?」
八海「知ってますよ。 江戸中期に書かれた書物でしょう。 忍者にしろ 武士にしろ 彼らは 主君に対する忠誠を 守ってるだけです。 分かりやすく 世間のヒーローになったりしません。」
シラー「何だって?」
八海「分かりやすくすれば ヒットするかもしれない。 でも…。」
シラー「それを言うなら 八海。 君だって最近は 分かりやすい日本人ばっかり 演じてるじゃないか。 それは 心から演じたい役なのか? 最初に会った頃の 守りなんて一切考えない ギラギラした役者魂は どこへ行った!?」
八海「あなたこそ 観客なんか どうでもいいと 自分が獲りたいものだけを追求していた あの熱い気持ちは どこ行ったんですか。」
シラー「表に出ろ 八海。」
八海「しょうがないですね。」
(拍手)
ミワ「(はなをすする音)」
八海「えっ?」
(拍手)
八海「ミワさん…?」
ミワ「まさか お二人のバトルを 生で見られるとは思っていなかったので。」
八海「え?」
ミワ「これ!」
八海「『コーヒー&ブルース』。」
ミワ「あ… こっちです。 『八海&シラーの大激論』! 覚えてますか?」
八海「いや…。」
シラー「全然。」
ミワ「この時も お二人がやりたいことをぶつけ合って つかみ合いのケンカしながら 作られたのが 『コーヒー&ブルース』。」
八海「そんなこともありましたか。」
シラー「ん…。」
ミワ「あ… すいません。 また新しい映画が生まれる瞬間に 自分が立ち会ってるのかと思ったら 一人で舞い上がってしまって…。」
八海「いや 見苦しいところをお見せしました。 すみませんでした。」
シラー「Sorryy about that.」
ミワ「いいんです。 ぶつかり合ってこそ 名作が生まれるんだと思います。 では ケンカの続き お願いします!」
八海「ミワさん…。」
シラー「驚いた。 こんな昔のものを覚えてるなんて 君は一体 何者なんだ?」
ミワ「いや あの 私は…。」
八海「彼女は 家政婦のミワさんです。」
シラー「Your housekeeper?」
八海「Yes.」
道中
<風が吹いている。 あの日も 風が吹いていた>
回想
八海「風が… 吹いてますね。」
回想終了
<あの日 私は考えていた。 彼の時間が いかに貴重であるか。 常に分刻みで組まれるスケジュール。 私との時間を 八海サマは どう思っているんだろう>
八海「ミワさん。」
ミワ「はい。」
八海「楽しかったです。」
ミワ「そんな… 私なんか ただの家政婦ですし…。」
八海「楽しいと感じることは 私にとって とても重要なんです。 気持ちが動かなくなれば 俳優は死にますから。」
<私が 八海サマの気持ちを動かした?>
八海「それと ミワさん。」
ミワ「はい。」
八海「ミワさんは 私にとって ただの家政婦さんじゃありません。 掛けがえのない人です。」