ドラマダイジェスト

夜ドラ「ミワさんなりすます」(第9回)

あらすじ

久保田ミワ(松本穂香)は帰宅途中、本名で呼び止められる。相手は事故から回復したホンモノの美羽さくら(恒松祐里)だった。対峙したさくらに、なぜリスクを冒してまで家政婦になりすましたのかと問われたミワは、自分が昔から八海崇(堤真一)の大ファンであること、残りの人生を棒に振ってでも八海と同じ空気を吸いたかったからだと告白する。冷徹に断罪するかに見えたさくらは突然笑いだすと驚くべき事実を語りだす。

第9回ネタバレ

ミワ宅

<映画にはロマンがある。 ドキドキ ハラハラ。        映画は そんな 心が揺さぶられるような 出来事で満ちあふれている。 私が この数日で経験したこと   それは まるで映画の世界だった>

<29歳 万年フリーターの ワーキングプアが 世界的俳優と奇跡の遭遇>

回想

ミワ「ウッ!」

<それは まさしく映画。 圧倒的ロマンス!>

<だけど人生は 映画じゃない>

さくら「ミワさん。 久保田ミワさん… ですよね? はじめまして 美羽さくらです。」

ミワ「散らかってますが どうぞ。」

さくら「失礼します。」

ミワ「どうぞ。 お茶いれます。」

<美羽さくらさん…>

<もう 逃げられない>

ミワ「どうぞ。」

さくら「先日 私 事故に遭ったんです。 気付いたら病院のベッドの上でした。 慌ててスマホを見たら 会社から留守電が入ってて それを聞いて びっくりしたんです。」

留守電『三毛猫ハウスサービスの重村です。 今日は 初日お疲れさまでした。 今後の勤務について ご相談したいことがございますので ご連絡下さい。 失礼します。』

さくら「初日お疲れさまって どういうことだろうと思って 退院してすぐ 働くはずだった 家の近くまで行ってみたんです。」

回想

ミワ「お先に失礼します。」

池月「ミワさん お疲れさま。」

回想終了

さくら「そしたら あなたが家から出てきた。 どういうことなのか 説明して頂けますか?」

ミワ「本当に… 申し訳ございませんでした。」

さくら「あっ そういうのいらないです。」

ミワ「…え?」

さくら「特に建設的なアイデアを 出すわけでもなく 『お疲れさまです』とか 『お世話になっております』とか 相手に気遣ってますアピールに終始する人 決まって無能です。」

ミワ「すいません。」

さくら「もっと生産的な話をして下さい。」

<生産的…>

さくら「これまでの経緯を教えて下さい。」

ミワ「はい。 ある時 偶然 ネットで 家政婦募集の記事を見つけたんです。」

ミワ「でも 私は その応募条件には満たなくて そこでやめておけばいいのに どんな家政婦さんがいるのか 見たくなって 気付いたら 家の近くにいました。」

回想

(衝突音)

ミワ「あの だ… 大丈夫ですか?」

ミワ『そこで 事故に遭ったあなたが 家政婦だということが分かって…。』

ミワ「えっ!? 三毛猫ハウスサービス。」

回想終了

ミワ「何度も引き返そうとしたのに 気付けば私は 美羽さくらさんに なりすましていました。」

さくら「なるほど。 警察に通報しようか迷ったんですけど その前に どうしても あなたに直接会って 聞いておきたいことがあって。」

ミワ「何でしょうか。」

さくら「どうして そんなリスクを冒してまで 私になりすまそうと思ったんですか?」

<それだけは…。 30前のいい大人が 推しが好きすぎて 家政婦になりすましたなんて 恥ずかしくて言いたくない。 けど 彼女はきっと 地道に努力して 世界的な俳優の家政婦に 選ばれるべくして選ばれた逸材。 私は そんな 彼女の努力の結晶を ひきょうな方法で横取りして…>

さくら「久保田さん? 久保田さん?」

ミワ「好きなんです。」

さくら「えっ?」

ミワ「雇い主が実は 俳優の八海 崇さんで その… 好きなんです。 子どもの頃から ずっと。」

さくら「え… 好きって…え? あなたは 俳優の八海 崇のファンってこと?」

ミワ「はい。」

さくら「一歩間違えたら 人生めちゃくちゃになるかもしれないのに そんな理由で?」

ミワ「どうしても あの方のそばにいたかった… それだけです。」

さくら「(笑い声)」

ミワ「え?」

さくら「(笑い声) マジ!? あ~ びっくりしちゃった。 まさか 私と同じこと考える人がいたなんて!」

ミワ「ええっ!?」

さくら「うわ~。 はっ… え~ 何これ ヤバッ! これ 全部集めたの!?」

ミワ「はい…。」

さくら「すっご・・・。 あっ… あ~!」

ミワ「えっ えっ えっ?」

さくら「『映画ランド』って もう廃刊だよね!?」

ミワ「あの もしよかったら お貸しするので 持っていって下さい。」

さくら「いいの? ヤッバ。 これは想像以上にヤバいわ。 ねえ ビールとかないの?」

ミワ「はい あります。」

さくら「カンパ~イ。」

ミワ「乾杯…。」

<犯罪者と被害者 敗者と成功者 本来は 決して相いれるはずのない 私たちが…>

<オタクとは因果なもの>

さくら「やっぱ買うよね~ ペルム!」

ミワ「はい 4~5箱は常備してるんで 冷凍庫はパンパンです。」

さくら「分かる~! 新しいCM見た?」

ミワ「はい 録画もしてます。」

テレビ・八海『ペルム』。

<推しの話をしている時は 脳内から謎の分泌物が出ているようで 激しい高揚を抑えることができない>

テレビ『このなめらかさ…』。

2人「マーベラス!」

テレビ『マーベラス!』。

<まるで ここは 好きな人を打ち明け合った放課後の教室>

(笑い声)

さくら「…ん?」

ミワ「調子に乗りました… すいません。」

さくら「別に怒ってないよ。」

ミワ「え?」

さくら「だって 怒るとか悲しむとか そんな感情にいちいち振り回されてる時間 無駄じゃない?」

<すごい… 全てにおいて合理的な人>

さくら「で で どうなの? 八海サマと同じ空気を吸引した感想は!? ってか ふだんの八海サマってどうなの? どんな格好で家にいるの? やっぱり スーツ? 案外かわいいパジャマ着てたりするのかな!?」

<でも 八海サマのことになると 途端に感情のスイッチが入る 不思議な人>

ミワ「ふだん そうですね… ボトルシップを作ったり。」

さくら「あっ 知ってる! 最初は役作りの合間に 息抜きで始めたんだけど 今や撮影前に必ず行う ルーティーンになってるってやつでしょ?」

ミワ「はい。 でも その大事なボトルシップを 私 家政婦初日に壊しました。」

さくら「(吹き出す音) ちょっと 何やってんの!? 重罪じゃん!」

ミワ「はい 初日から大失敗で。」

さくら「それ 怒られなかったの?」

ミワ「でも それが…。」

さくら「あっ 待って。 当てる! その時 八海サマが どんなリアクションしたか。 え~っとね…。」

<この人は どんなエピソードも 全力で楽しもうとする。 まさに オタクのかがみ!>

さくら「はい! 分かった。 八海サマは そんなことで怒ったりしないから むしろ 久保田さんを気遣った。」

回想

八海「気にしないで下さい。 また作ればいいんですから。」

回想終了

ミワ「正解です!」

さくら「やった~! さすが八海サマ~! ほかには? ほかに何か事件あった?」

ミワ「事件? 事件 そうですね…。 地下に書庫があるんですけど そこに八海サマと二人で 閉じ込められました。」

さくら「ひえっ! 何それ! や… 八海サマと ふ… 二人で!? やだ それ死ぬじゃん! えっ! どんだけ徳を積んだら そんな世界線に行けるの!?」

<さすがに ハグをされたことまでは言えなかった>

さくら「奇跡じゃん! そこまで八海サマに近づけるなんて 久保田さん あんたすごいよ!」

ミワ「でも 毎日いっぱいいっぱいで…。」

さくら「で で 八海サマは久保田さんのこと どう思ってるの?」

ミワ「どうって そんな ただの家政婦としか…。」

さくら「え え じゃあ 久保田さんからアプローチするとしたら どうするの?」

ミワ「へっ!?」

<この人は… 何を言ってる?>

さくら「いいじゃん 言うだけ言ってみてよ。」

ミワ「え… 私が八海サマにですか?」

さくら「そうだよ。」

ミワ「ええっ そんな…。」

さくら「どうやって気持ちを伝える?」

ミワ「ク…。」

さくら「ク?」

ミワ「クッキー焼いて渡すとか…。」

さくら「ヒャア~! クッキーって! 小学生じゃないんだから!」

ミワ「なしです。 今のは なし!」

さくら「いいじゃん! 八海サマって 案外 甘い物 好きなんだよね?」

ミワ「いいです! 大体 アプローチなんかしませんから!」

さくら「…ごめん。」

ミワ「いや こちらこそ なりすましの分際で すいません。」

さくら「いろいろ話してくれて ありがと。 こらからも何があったか 聞いていい?」

ミワ「はい… でも あの…。」

さくら「もちろん なりすましは よくないと思うし 私もあなたに会うまでは 訴えようかと思ってたけど でも 何か今は… あなたを応援したくなった。」

ミワ「え…。」

さくら「また ゆっくり聞かせて。」

<オタクの間では 推しにハマっていくことを 『沼落ち』という>

<今の私はまさに 沼に落ちているような感覚だった>

<私は これまで一人で抱えていて なりすましの罪を 被害者に告白できたという 安ど感に包まれていた。 もちろん 私の罪が 根本的に解決したわけではない。 しかし 清らかな泉ではないが 居心地のいい沼に すっかり身を委ねているような 気分では あった>

(チャイム)

ミワ「は~い。」

さくら「おはよう。」

<ただ それは 決して抜け出せない 底なし沼だった>

さくら「材料 買ってきたよ。」

ミワ「へ?」

さくら「クッキー 一緒に焼こ。」

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