ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第103話「なつよ、どうするプロポーズ」【第18週】

あらすじ

東洋動画の新年会で、大杉会長からテレビ漫画に力を入れるよう言われるなつ(広瀬すず)と坂場(中川大志)。新年会後、自分が映画から外されたのは、仲から嫌われているからだと言いだす坂場。だが、仲(井浦新)が才能を買っているはずのなつまで、テレビ漫画に異動させたことに疑問を持つ茜(渡辺麻友)。桃代(伊原六花)が、二人がつきあってると思われているからではと言いだすが、坂場はつきあってないと否定して…。

103話ネタバレ

おでん屋・風車

<昭和39年のお正月 なつは また新しい年を迎えました。>

昭和39(1964)年1月

2階なつの部屋

亜矢美「なっちゃん 今年で いくつになるんだっけ?」

なつ「今年の夏で 27です。」

亜矢美「27か…。」

なつ「亜矢美さんは?」

亜矢美「うん…! なっちゃん… このまま なっちゃん 花嫁衣裳は着ないつもり?」

なつ「亜矢美さんは?」

亜矢美「忘れちゃったな 年なんて。」

なつ「結婚は?」

亜矢美「忘れちゃったよ ハハハ…。」

なつ「いつ忘れたんですか? ちょっ…!」

東洋動画スタジオ

作画課

<毎年1月3日に 晴れ着姿で 新年の挨拶に集まるのが 東洋動画の恒例となっていました。>

♬~(スピーカー『東洋行進曲』)

スピーカー♬『世界に巻き起こす』

大杉「漫画の皆さん 明けまして おめでとうございます。」

一同「明けまして おめでとうございます。」

大杉「まず 皆さんに ご報告したいことがあります。 私 大杉 満は 本年より 東洋映画の社長を退きます。」

(どよめく声)

大杉「そして 会長になります。」

(ざわめく声)

大杉「従って 私が社長として 皆さんに挨拶するのは これが最後となるでしょう。 私はね 皆さん 映画会社の社長になるとは 思ってもみなかった。 子どもの頃から 映画 活動写真の類いを見て 育ったわけではありませんでしたから。 私が子どもの頃から好きだったものは そろばんです。」

(笑い声)

大杉「そろばんが うまくなること。 それが 世の中の役に立つことになると 信じて生きてきました。 例えばね いい鉄道とは どんな鉄道か 分かりますか? それは たくさんの人が利用する鉄道のことです。」

大杉「そろばんのできる鉄道マンは いいレール いい列車を つくることだけを考えない。 レールの周りに家を建て 買い物のできる店を作り 娯楽をつくる。 つまり 街をつくって 人々を呼び込めなければ いい鉄道マンとは言えないのです。」

大杉「皆さんには 子どもたちが 喜んで 集まってくれる街をつくってもらいたい。 どうか 漫画の皆さん いい街づくりをして下さい。 ただし! 予算と期日を守りながら それを成し遂げて下さい。 それでは 本年も よろしくお願いいたします。 乾杯!」

一同「乾杯!」

(拍手)

(拍手と歓声)

神地「しかし あそこまで言われちゃうと かえって すがすがしいよな。」

なつ「間違ったことは 言ってないように思うけど…。」

神地「間違ってないから やっかいなんだ。 金にならない芸術はつくるな 勘違いはするなって 露骨に言われたわけだからさ。」

なつ「芸術をつくってるつもりはないでしょ 別に。」

坂場「しかし 作り手の理念と 経営者の理念を 一緒にされては困りますよ。 芸術的な野心がなかったら 我々の仕事は向上していきませんから。」

下山「まあ まあ まあ まあ… 正月から そんな難しい話やめようよ。」

茜「そうですよ。 私は いかにも経営者らしいスピーチだと 思っただけだわ。」

神地「さすが 茜ちゃん。」

堀内「お前 そのさすがって バカにしてるだろ。」

神地「そんなことないですよ。」

茜「そんなことないわよ。 ね。」

神地「ね。」

堀内「えっ…!」

なつ「日本の漫画映画は あのディズニーに対抗した あの人のそろばんから はじき出されたものと言えるんですよね。 そのそろばんがなかったら 私も ここにいないわけですね。」

仲「なっちゃん。」

なつ「はい。 あ…!」

仲「こちらが 猿渡君と一緒に テレビ漫画『百獣の王子サム』の原画を 担当している奥原なつです。」

大杉「奥原なつさんか。 どうも ご苦労さん。 好調だね テレビは。」

なつ「はい ありがとうございます。」

大杉「10年前 私は アメリカを視察して いずれは 日本も テレビの時代が来ると読んでいた。 その時こそ このスタジオが 生きると思って造ったんだ。 その時が ついに来たのだよ アータ。」

なつ「はい。」

大杉「映画をつくる人間には まだ テレビを 電気紙芝居などと言って 見下している者もいるがね 必ず そんなことは言ってられなくなる。 それに先駆けて テレビ漫画こそ その電気紙芝居のパイオニアになるものだ。 漫画と紙芝居だけにね。 違う?」

井戸原「はい おっしゃるとおりだと思います。」

なつ「私も そう思います。」

大杉「うん。 頑張ってくれたまえ。」

仲「彼が 一緒に演出をしている 坂場一久君です。」

大杉「ああ サカバ君か アータもご苦労さん。」

坂場「あっ… ありがとうございます。」

大杉「ハハハ… じゃ 奥原なつさん。 奥原なつ…? 奥原なつ… あっ。」

なつ「えっ!」

大杉「アータのお兄さん 元気かね?」

なつ「あ… 思い出して頂けましたか…?」

大杉「アータを 面接で落とさなくてよかったよ。 ハハハハハハ…。」

(笑い声)

なつ「落としたことは忘れてるんだ…。」

喫茶店・リボン

坂場「終わったな もう これで。」

なつ「何がですか?」

坂場「僕も君も もう映画には戻れないということだ。」

桃代「そうなの?」

なつ「そんなこと まだ分からないでしょ。」

坂場「それを わざわざ知らせるために 仲さんと井戸原さんは 僕たちを大杉社長に紹介したんですよ。」

下山「いや… そりゃ考え過ぎだって イッキュウさん。」

坂場「僕が 仲さんに嫌われていることは 確かでしょう。」

下山「まあ 仮に そうだとしてもだ…。」

茜「イッキュウさんはともかくとして どうして なっちゃんまで? 映画じゃなくて テレビに追いやったってことでしょ? 仲さんが そんなことするかしら。 なっちゃんの才能を 誰よりも買ってるのは仲さんなのに。」

なつ「そんな才能なんてないんですけど 仲さんが そんなことするとは思えません。 だって 茜さんだって一緒だし。」

坂場「茜さんは いずれは 戻れることもあるでしょう。」

なつ「どうして 私はないんですか?」

坂場「君の場合は…。」

桃代「あっ イッキュウさんと つきあってるから?」

なつ「えっ?」

桃代「いずれ 2人は 結婚するって思われてるからってこと?」

なつ「ちょっと。」

坂場「それは あくまで うわさですけどね。」

なつ「それは無責任でしょう。」

坂場「無責任?」

なつ「ただのうわさだと思うなら どうして否定しないんですか?」

坂場「君は すればいいよ…。」

なつ「えっ?」

茜「ねえ 実際は どうなのよ? 2人は つきあってるんでしょ?」

なつ「違います。 ね?」

坂場「はい。」

なつ「はあ… どうして そんなうわさが流れたのかな…。」

桃代「だって イッキュウさんと なっちゃんほど 馬が合ってる人いないでしょ?」

神地「確かに 合ってる 合ってる。」

なつ「ねえ もしかして モモッチが 仕上課で流してるんじゃないでしょうね?」

桃代「違うわよ。 なかなか進展しないから 最近は言ってないわよ。」

なつ「最近って…!」

坂場「仲さんに言えばいいことです。 僕とは 何も関係ないと。 仲さんに そう あなたは主張して下さい。」

なつ「そんなことは言えません!」

坂場「えっ?」

なつ「そんなこと言えば 仲さんを疑ってるみたいじゃないですか!」

下山「そうだよ。 そんな人間じゃないって 仲さんは。 それに そこまで イッキュウさんを 憎む必要だってないだろ?」

神地「分かりませんよ。 自分の作品を守るためなら。」

下山「えっ?」

神地「うちの映画は ますますダメですよ。 仲さんに頼った動物ものばかりで 童話的な世界から抜け出そうとしない。 代わり映えしませんよ あれじゃ いつまでたっても。 俺一人が頑張ったって どうしようもない 仲さんも かわいそうだ。」

下山「俺一人って また おっきいこと言うね。」

神地「また破天荒な『ヘンゼルとグレーテル』みたいなものを作りたいな。 今度は ちゃんとした長編映画で。」

坂場「それが 今は許されていないということです。」

なつ「だけど 今は テレビを頑張れってことじゃないですか。」

坂場「あなたは 今のテレビで 満足していますか?」

なつ「テレビのパイオニアになれって 大杉社長の言葉に 私は うそがないと信じます。」

下山「そう それこそ なっちゃんだ!」

坂場「一番大事なのは 予算と期日を守ることですか?」

なつ「それでも頑張るんです!」

おでん屋・風車

玄関

なつ「全く あんなに煮えきらないやつだとは 思わなかったわ…。 つきあってるのか つきあってないのか そのくらい はっきりしてよ…。」

1階店舗

なつ「ただいま…。」

一同「お帰り!」

なつ「皆さん 明けましておめでとうございます。」

一同「おめでとう!」

カスミ「ございます!」

なつ「元ムーランルージュの新年会ですか。 いいですね。」

茂木「なっちゃん ほら おいで おいで。 おお 晴れ着姿 ほら ちゃんと見せてごらん ほら…。」

なつ「茂木社長も いらしてたんですか。」

茂木「いや いるよ。」

なつ「藤正親分 おめでとうございます。」

藤田「うん。 きれいだ。」

なつ「やめて下さい。」

藤田「このまま 嫁にも行かねえなんて もったいねえぞ。」

茂木「いやいや… 嫁に行く方が もったいないです。」

藤田「ハハハハ…。」

カスミ「ここには もったいない女ばかりがいるわよ。」

レミ子「そのとおりです。」

咲太郎「まあ なつも座れよ。 嫁に行かなくてもいいからさ。」

なつ「何それ。 その前に ちょっと着替えてくるわ。」

茂木「いや ちょっと待って。 そのまんま… そのまんま ちょっと お願い 一杯だけ お酌して。 こんなきれいなべべ着て もう ハハ…。 よし じゃ…。」

なつ「はい どうぞ。」

茂木「はい ありがとう。」

咲太郎「指名料 取るからね。」

茂木「どうぞ どうぞ。 嫌なことは しめい料…。 ね なっちゃん。」

なつ「ダジャレは控えて下さい。」

カスミ「ねえ 雪次郎君 田舎に帰ったんだって?」

なつ「はい。」

松井「あいつも もったいないよな せっかく吹き替えで売れだしたのによ。」

島貫「いや それなのに 辞められたんだから大したもんだ。 偉い。」

松井「お前も 辞められたらよかったのにな。」

茂木「今年は せっかく うちの新しいビルも完成して 角筈屋ホールっていう 劇場まで出来るのに…。 雪次郎君にも 亀山蘭子と一緒に 立ってほしかったな… 残念だ。」

なつ「帯広のお菓子屋さんを継ぐという もともとの夢があったんです。 だから 残念じゃありません。」

松居「亀山蘭子と 何かあったんじゃねえのか?」

島貫「スキャンダルか…。 亜矢美にもあったよな 昔。」

なつ「えっ… えっ?」

亜矢美「ちょっと…。」

なつ「スキャンダルが?」

藤田「スキャンダルじゃねえ。 あれは美しい悲恋だ。」

なつ「悲恋?」

藤田「そうよ…。 その悲恋が 岸川亜矢美を 一躍 ムーランのスターにしたことは 間違いねえ。 新宿で 知らねえ者はいねえだろ。」

亜矢美「やめて下さいよ そんな昔の話。」

なつ「ダメですか? 亜矢美さん その話 聞いたら。」

亜矢美「むか~し むか~しの思い出。」

なつ「亜矢美さんが結婚しないのは その思い出があるからなんですか?」

<なつよ 亜矢美さんの恋 今の君は 何を思うのかな。>

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