ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第104話「なつよ、どうするプロポーズ」【第18週】

あらすじ

風車では、カスミ(戸田恵子)や茂木社長(リリー・フランキー)たちが集まり、亜矢美(山口智子)が、かつてムーランで踊り子だったころの悲しい恋の話がはじまる。それを聞いていたなつ(広瀬すず)は、今も結婚していない亜矢美の気持ちに思いを巡らせる。年が明け、テレビ漫画の「百獣の王子サム」が大人気となり、ますますアニメーションの仕事に追われるなつたち。そんな中、同僚の茜(渡辺麻友)が結婚することになり…。

104話ネタバレ

おでん屋・風車

1階店舗

なつ「亜矢美さんが結婚しないのは その思い出があるからなんですか? もし よかったら教えて下さい。」

亜矢美「よくある つまんない話だって。」

カスミ「ないわよ あんなこと。 めったにある話じゃない。 岸川亜矢美を スターにしたのは 岸川亜矢美に恋をした 一人のお客だったのよ。」

カスミ「そのお客は 早稲田の学生さんでね 毎日のように ムーランに通い詰めてた。」

松井「インテリの学生に 人気があったからな ムーランは。」

なつ「亜矢美さんのファンだったんですか?」

亜矢美「ファンっていったって そのころの私は 集団で踊ってる中の 一人にすぎなかったからね。 年も 25だったし。 地味で目立たない踊り子だったの。」

なつ「何か その方が想像つきません。」

カスミ「その学生は 想像したのよ。」

なつ「えっ?」

カスミ「地味で目立たない 自分より年上の踊り子に 恋をしただけでなく 亜矢美ちゃんの才能を信じたのね。」

なつ「才能を…?」

カスミ「うん。」

茂木「伊崎っていったかな その学生。」

カスミ「そう。 伊崎君 自分で レビューの台本書いて ムーランに持ち込んだのよ。」

なつ「台本を?」

カスミ「そう! それが採用されて おまけに当たってね。 それから 何本も何本も書いてきちゃ 亜矢美ちゃんを ソロで踊らせて…。 それで 徐々に 人気が出始めたのよ。」

なつ「まるで おとぎ話みたい…。 シンデレラみたい! すごい。」

カスミ「亜矢美ちゃんだって あれじゃ 恋に落ちるしかないわよね。」

咲太郎「母ちゃんは 結婚の約束までしたんですよね その人と。」

カスミ「うん…。 だけど 伊崎君 大学出る前に 学徒出陣でね… そのまま 帰らぬ人となってしまったわ。」

なつ「えっ…。」

カスミ「出征する直前 彼は 客席で立ち上がって叫んだ。 『岸川亜矢美 万歳!』って。 そして それっきり…。」

松井「あれだけの才能をな…。」

島貫「どんな天才でも 戦争に もってかれるしかなかったんだ。 鉄で出来た俺たちの風車と おんなじように。」

亜矢美「私は あの人の才能に ほれたってわけじゃないからね。 才能ばっかり惜しまないでよ。」

茂木「でも まあ もう一度 見たかったな。 伊崎君の作品で踊る岸川亜矢美を 角筈屋ホールで! ハハハハ…。」

亜矢美「ほら だから言ったでしょ。 最後は よ~くある話だって。」

なつ「亜矢美さん… 悲しいけど すてきな話です。」

藤田「(嗚咽) 戦後の亜矢美は 見てられなかった… 痛々しくて…。 あのスターだった亜矢美が 生きる気力もなくして…。」

亜矢美「親分 話を しめらせないで下さいよ。」

藤田「それを救ったのが咲太郎だ! 闇市で きったねえ 野良犬みてえな咲太郎を拾ってきて…。」

咲太郎「ひでえな 親分。」

藤田「ハハハ…。 それが 亜矢美の生きる力になったんだよ。 また 踊れるようになったんだよ。」

亜矢美「はい おしまい! この話は おしまい。 ほら こうやって しんみりしちゃうから だから 話したくなかったの。」

なつ「ごめんなさい。」

亜矢美「そんな しめっぽく謝んないの。」

カスミ「よし 歌おう!]

亜矢美「いいね カスミねえさん! よっ!」

カスミ♬『紅いルージュにひかされて 今日もくるくる風車』

1階居間

亜矢美「くる… くるくる回って…。」

咲太郎「何言ってんだよ…。」

2階廊下

なつ「亜矢美さんは?」

咲太郎「眠ったよ。」

なつ「酔いつぶれるなんて珍しいね 亜矢美さんが。」

咲太郎「そうだな。 あっ なつ 俺 今から事務所に戻るから 母ちゃんのこと よろしくな。」

なつ「今から?」

咲太郎「うん。 やることがあるんだよ。」

なつ「もう ほとんど そっちで暮らしてるみたいだね。」

咲太郎「忙しいからな。」

なつ「ふ~ん。 ねえ お兄ちゃん…。」

咲太郎「うん?」

なつ「亜矢美さんが 今まで結婚しなかったのは 伊崎さんって人がいたからなんだね。」

咲太郎「俺も その話を聞いてからは 何も言えなくなった。 母ちゃんには また幸せになってほしかったけどな。」

なつ「お兄ちゃんがいることが 理由じゃなかったんだね。」

咲太郎「バカ… そこまで 俺の面倒を見る義理はねえだろ。」

なつ「うん… まあ そうだよね。」

咲太郎「じゃ 母ちゃんのこと頼むな。」

なつ「うん。」

1階居間

亜矢美「咲太郎…。」

東洋動画スタジオ

作画課

<新しい年も 相変わらず なつは 仕事に追われる日々でした。 『百獣の王子サム』は 大人気となって アニメーターや演出家も 次々と新しい人間が投入され 放送期間は 1年半にもなってゆきました。>

荒井「よっしゃ 今日も いったってや~! どんな感じ?」

<その間に なんと茜ちゃんが あの人と 電撃結婚をしました。>

一同「ええ~っ!」

下山「いや~ 一か八かで告白をしたら オーケーをもらいました。」

(拍手)

下山「皆さんの前で 僕は 永遠の愛を誓います!」

茜「いやいや… ここで誓わなくてもいいから!」

(拍手)

神地「ちょっと待った!」

茜「神っち…。」

神地「いや それはないよ 茜ちゃん!」

堀内「往生際が悪い。」

茜「自分でも驚いてるのよ。 でも… 前から好きだったって気付いたの。」

下山「僕も驚いています。」

♬~(スピーカー『東洋行進曲』)

神地「茜ちゃん 最後に俺と踊って下さい!」

茜「えっ?」

神地「君との別れのダンスを 体が覚えていれば いつか 仕事の役に立つ時が 来ると思うんだ!」

茜「う… うん いいわよ。」

神地「あっ 手… はい。 あっ ちょっと あっち行って。」

下山「うわっ ちょっと おい…!」

神地「ステップ。」

茜「ステップ?」

神地「ステップ。」

茜「何? これは…。」

坂場「さすが神っち…。」

なつ「どんな時も前向きだわ。」

♬~(スピーカー『東洋行進曲』)

神地「ああ…。」

神地「ああ かわいい! 回って 回ろう 回ろう 回ろう… 回って 回って… 回ろう 回ろう…。」

<なつには 全く そんなこともなく テレビに追われる日々が続きました。 そして 翌年の春。>

昭和40(1965)年 春

第二会議室

井戸原「下山君。 君には 今度 長編映画の作画監督になってもらいた。」

下山「作画監督?」

仲「原画や動画 全てを監修して 1本の作品に仕上げる そういう責任がある者を 置こうと思ってるんだ。」

井戸原「つまり アニメーターの仕事を 全て指揮する監督だ。 いいね。 茜ちゃんを物のした 君のしたたかさに 我々は かけてるんだ。」

下山「それ 関係ないでしょう。」

井戸原「うん まあ 冗談なんだけどね。」

下山「は?」

井戸原「我々としては 君しかいないと思ってるんだよ。」

下山「分かりました。」

仲「そこで どんな企画をやりたいのか 演出家は 誰がいいか それを考えて 我々に提案してくれないか。」

下山「はあ…。 あっ… だったら 演出は イッキュウさん… 坂場一久君でお願いします。」

井戸原「いや 彼はダメだよ。 彼には テレビを 続けてもらうことになってるんだ。」

下山「なんとか 彼に チャンスを 与えてやってくれませんでしょうか? 仲さん お願いします。」

仲「長編漫画映画は 今 お客の数が減ってきてる。 失敗したら 後がないかもしれないよ。」

下山「だったら なおさら 僕と一緒にやるのは 坂場イッキュウしか考えられません!」

作画課

なつ「どうしたんですか?」

坂場「ちょっと…。」

なつ「えっ?」

階段

なつ「長編映画を?」

坂場「うん。 下山さんが 仲さんたちを 説き伏せてくれたんです。」

なつ「あ そう… それは よかったですね。」

坂場「もちろん 君にも テレビを抜けて こっちの原画に 参加してもらいたいと思ってる。」

なつ「うん… もし 会社が そうしろと言うなら 喜んで。」

坂場「そ… そして もし… もし この長編映画を成功させたら… 成功したら… 僕の人生には… 君が必要だということになります。」

なつ「は?」

坂場「僕と…。」

なつ「

坂場「ぼ… 僕と… 僕と… 僕と! 結婚して下さい。 結婚… してくれませんか?」

<なつよ… 出た。>

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