ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第127話「なつよ、優しいわが子よ」【第22週】

あらすじ

産休が明けてアニメーションの会社に戻ろうとしていたなつ(広瀬すず)は、娘の優を預ける保育園がなかなか見つけられないでいた。そんなとき、仲(井浦新)から呼び出されたなつは、作画監督の話がきていると伝えられる。改めて、社長の山川(古屋隆太)と制作部長の佐藤(橋本じゅん)から、スポーツ漫画を原作にしたテレビ漫画の作画監督の打診を受ける。この主人公の境遇は、なつになら描けるはずだと言われて…。

127ネタバレ

坂場家

<なつとイッキュウさんに 娘が生まれて 優と名付けられました。 なつは 職場に復帰し 昼間は イッキュウさんが 子育てをしました。 2人は 大変な思いをしながらも 優の成長が 何よりの生きがいになっていました。 そして イッキュウさんが マコさんのプロダクションに勤める日も 近づいていましたが…。>

リビング

なつ「あ…。」

坂場「ダメだった。 どこも落ちた。」

なつ「えっ… 全部? 保育園全部落ちたの!?」

坂場「うん…。」

なつ「え~… どうすんのよ?」

東洋動画スタジオ

テレビ班 作画室

なつ「おはようございます。」

荒井「お~ おはようさん。 なっちゃん 仲さん 呼んどったで。」

なつ「仲さんが?」

映画班 作画室

なつ「新しい企画?」

仲「そう。 とうとう なっちゃんにも 作監の機会が回ってきたんだよ。」

なつ「あ… 作画監督の?」

仲「内容は まだ僕も聞いてないんだけどね。」

なつ「テレビ漫画ですか?」

仲「うん だろうね。」

なつ「ああ…。」

仲「なっちゃん 無理なら断ってもいいんだよ。」

なつ「え…。」

仲「まだ育児も 大変な時期だろ。 作監になるのを あと何年か待ってもらっても それで クビになるようなことは ないと思うから。」

なつ「実は 悩んでるんです そのことで…。 イッキュウさんが勤めに出るのに まだ 子どもの預け先が 決まっていなくて…。」

仲「うん… とにかく 話だけは聞いてみようか。」

なつ「はい。」

社長室

(ノック)

山川「はい。」

仲「失礼します。」

山川「どうぞ。」

なつ「失礼します。」

山川「奥原さん。 育児の方は もう落ち着かれましたか?」

なつ「はい おかげさまで。」

山川「それは よかった。 まあ 掛けて。 奥原さんには 約束どおり これから 作画監督を お願いしたいと思っています。 あとは 制作部長の方から。」

佐藤「新しいテレビ漫画シリーズで 放送は 今年の秋からを予定している。」

仲「どういう企画なんですか?」

佐藤「企画は これだ。」

仲「漫画原作なんですか。」

なつ「『キックジャガー』? ちょっと いいですか?」

佐藤「キックボクシングを 題材にした漫画だ。」

なつ「キックボクシング?」

佐藤「見たことある?」

なつ「見たことはありませんが知ってます。 足を使ってもいい ボクシングですよね。」

佐藤「そう。 もともとは タイの伝統的格闘技 ムエタイから来ているんだが キックボクシングは 日本で生まれた新しい格闘技だ。 それが 今じゃ もう大人気で テレビ中継は高視聴率だ。 沢村 忠 スーパースターを生み出した! 知ってるかね? 沢村 忠。」

なつ「いいえ…。」

佐藤「真空飛び膝蹴り! こうやるんだ… アイヤー!」

仲「佐藤部長… 格闘技 お好きなんですね。」

佐藤「大好きだ。 いや 絶対いけるよ これ。 この企画 受けるよ。」

なつ「これ 主人公は覆面をしているんですか?」

佐藤「そう! ジャガーの覆面 その名も キックジャガーだ。」

山川「覆面ってのがいいよ。 しゃべる時に 口を動かさなくて済むからね。」

なつ「はあ…。」

仲「いや しかし 格闘技の漫画を 女性の奥原さんに任せてしまうのは どうなんでしょうか? いや 作監なら もっと ふさわしい人間が ほかにいる思うんですけども。」

佐藤「ただの格闘技漫画じゃないんだよ。 キックジャガーはね 孤児院の出身で 孤児たちのために戦ってるんだ。 泣ける いい話なんだ。 君なら この作品の世界観 描けるだろ。」

山川「無理なら無理だと はっきり言ってもいいからね。」

なつ「分かりました。 やらせて下さい。」

仲「なっちゃん…。」

なつ「約束は約束ですから。」

仲「本当に大丈夫なの? 悩んでるんでしょ?」

なつ「それは… なんとかします。」

山川「作画監督は 全ての作画に目を通し 絵の質や キャラクターを 統一しなくてはならない激務です。 意地で引き受けることはないですよ。 契約にしろなんて もう言いませんから。」

なつ「意地ではありません。 覚悟はしてましたから。 期待して頂けるなら 応えてみせます。」

休憩所

なつ「(ため息)」

神地「あっ なっちゃん。」

なつ「神っち…。」

神地「何か 大変な仕事 引き受けたんだって?」

なつ「いや… 仕事自体は 別にいいんだけどさ。」

神地「子どものことか?」

なつ「うん…。 保育園には 全部落ちてしまって。」

神地「預ける先がないのか。」

なつ「うん… それなのに イッキュウさんに相談もせず 新しい仕事を引き受けてしまった。 はあ… 私はバカだ。」

神地「まあ バカだから やってけんだよね こんな仕事。」

なつ「バカな母親は 始末が悪いの…。 私も飲もう。」

坂場家

リビング

坂場「作画監督か。」

なつ「うん。」

坂場「とうとう来たか。」

なつ「ごめんね 相談せずに引き受けて。」

坂場「いや 引き受けることは 子どもを産む前から 分かってたことじゃないか。 しかたないよ。」

なつ「うん そうなんだけど…。」

坂場「なんとかするしかないよ。 そのビラで 誰か見つかるかもしれないし。」

なつ「うん… でも作監なんてしたら 預かってもらう時間も長くなるよね。 ねえ いくらまでなら出せると思う?」

坂場「よいしょ… う~ん… まあ 月6,000円までが限度だろうな。」

なつ「6,000円って安くない?」

坂場「いや それ以上は 君と僕の収入では きついだろう。 それは 純粋な人件費で 経費は別に払うんだから。」

(優の声)

坂場「うん?」

なつ「うん…。」

(優の声)

坂場「ああ… よいしょ。」

(優の声)

坂場「はい はいはい…。」

(ブザー)

なつ「あっ。」

坂場「誰か来た。 よいしょ… 優。」

なつ「はい。」

坂場「はい。 は~い。」

玄関

(戸が開く音)

坂場「あ こんばんは。 どうぞ。」

麻子「お邪魔します。」

リビング

なつ「あ… マコさん!」

麻子「こんばんは。 まあ 優ちゃん! 大きくなったわね ハハハハ…。」

なつ「マコおばさん 覚えてる?」

麻子「おばは いらないでしょ おばは。」

なつ「あ… マコさん。 すいません。」

麻子「マコちゃんって呼んでね。 預け先が見つからないんだって?」

なつ「えっ?」

麻子「昼間 イッキュウさんから電話もらったの。 預け先が見つかるまでは 入社を待ってくれって。」

なつ「そうなの?」

坂場「しかたないだろ。 どうぞ。」

麻子「もう こうなったら 私も 一緒に考えるしかないでしょ。」

なつ「マコさん…。」

麻子「私のためでもあるでしょ。」

なつ「本当に すいません。」

麻子「あなたが肩身の狭い思いをする必要なんて これっぽっちもないの! そんなんじゃ戦っていけないわよ。 優ちゃんも自分も守っていかなきゃ しょうがないでしょ。」

なつ「はい…。」

麻子「バカ 泣いてんじゃないよ。 どうしたの?」

なつ「いや すいません…。 マコさんに会うと 何か ほっとして。」

麻子「それで 今は 何が一番必要なの?」

坂場「もう行政には頼れないので 無認可の保育園か 個人で保育を引き受けてくれる人を 探すしかないんです。」

なつ「そのビラを 今 描いてたところなんです。 これ。」

麻子「これ どうするの?」

坂場「近所の電信柱や 掲示板に貼るんです。」

麻子「よし。 あと何枚 必要なの?」

なつ「とりあえずは 10枚は。」

坂場「うん…。」

麻子「私も手伝う。 優ちゃんに会いたくなるような絵を 描けばいいんでしょ? ハハハハハ…。」

なつ「マコさん… ありがとうございます!」

坂場「すいません。」

麻子「ペンと紙を下さい。」

坂場「あ… じゃ ここで。」

麻子「はい。」

麻子「なっちゃんは今 どんな仕事してるの?」

なつ「今度 作画監督を 引き受けることになったんです。」

麻子「作画監督? 引き受けたの?」

なつ「はい。 それで どうしても このビラが必要なんです。」

麻子「それじゃ 本当にいい人を 見つけないと ダメじゃないの。」

なつ「はい…。」

麻子「それで どんな作品?」

なつ「マコさんの好みじゃないと思います。 これなんですけど。」

麻子「『キックジャガー』やるの?」

なつ「知ってますか?」

麻子「私も読んでるわよ。 そうか 東洋動画で決まったのか。 チクショー。」

なつ「チクショー?」

坂場「どんな話?」

なつ「キックボクシングの話。」

麻子「知らない?」

坂場「うん…。」

麻子「あの 実際にいる 沢村 忠みたいなスター選手がいて タイから 一人の刺客が送り込まれてくる。 それが ジャガーの覆面をつけた キックジャガーなの。 キックジャガーは反則業でも 何でも使うんだけど それは 悪徳プロモーターが仕組んだ 八百長だった。」

坂場「なるほど…。」

麻子「ところが この悪役のはずのキックジャガーが スターに勝ってしまうの。 怒った悪徳プロモーターは 次々と 今度こそ 本当に 刺客を送り込むの。 実は このキックジャガーの正体も 日本人で それが ばれないように ジャガーの覆面をつけてるの。」

なつ「マコさんも 格闘技が好きだったんですか!?」

麻子「別に。 勉強のためよ。 時代に遅れないために。」

なつ「あ… 私も勉強します。」

麻子「必殺技は ダブル真空飛び蹴り!」

坂場「えっ ダブル真空跳び蹴り?」

麻子「相手の頭上まで飛び上がって 空中まで両足を蹴って 蹴って…。」

坂場「蹴って?」

麻子「トーヤー!」

坂場「あ いや… 危ない!」

(ブザー)

坂場「ちょうど ゴングが鳴りました。」

麻子「ね。」

なつ「誰だろうね…。」

坂場「は~い。」

玄関

下山「よっ。」

坂場「おお… こんばんは。」

下山「夜分に ごめんなさいね。」

坂場「いや。」

下山「ちょっといい?」

坂場「ああ どうぞ。」

下山「お邪魔します。 あら えっ…。」

麻子「茜ちゃん 久しぶり。」

茜「マコさん!」

なつ「いらっしゃい。」

リビング

坂場「どうしたんですか?」

下山「いや… 散歩がてら ちょっとね。」

なつ「うれしいね うれしいね。」

下山「マコちゃんに会えるとは 思わなかったよ。」

麻子「ちょっと…。」

茜「いや マコさんにも会えるなんて 思わなかった。」

麻子「明ちゃんにも会えるとは思わなかった。 ハハハ…。」

茜「マコおばさんよ 覚えてる?」

麻子「おばは いらない!」

茜「えっ…。」

下山「アッハハ…。」

<なつよ 今日は やけに 戦友が集まる日だな。>

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