ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第130話「なつよ、優しいわが子よ」【第22週】

あらすじ

ある朝、なつ(広瀬すず)が目を覚ますと娘の優の姿が見当たらない。慌てて探すと、優はなつが仕事で持ち帰った動画用紙に絵を描いていた。なぜこんなことをしたのか問いただすと、優からは思いもよらない言葉が返ってきて、思わず言葉を失うなつ。そんな優の描いた絵を見て、坂場(中川大志)はあることに気付く。その日、なつが東洋動画に出社すると、制作部長からは「キックジャガー」の最終回をどう描くのかと問われ…。

130ネタバレ

坂場家

リビング

なつ「ねえ 優ちゃん…! ああ…!」

坂場「どうした?」

なつ「ねえ 優! どうして こんなことするの! これは ママの大事なお仕事でしょ!」

優「優ちゃん ママのお仕事 手伝いたかったの…。」

なつ「えっ?」

優「そしたら ママ 眠れるから。」

なつ「優…。」

優「ごめんなさい… ごめんなさい ママ…。 ごめんなさい ごめんなさい…。」

なつ「いいの。 いいの こんなの 何でもない。 ママこそ ごめんね。 怒って ごめんね。 そっか 手伝おうとしてくれたのか…。」

坂場「おい 何だ? これ。」

なつ「うん?」

坂場「これは 君が描いたんじゃないよな?」

なつ「え…。」

坂場「めくってみて。」

なつ「ちょっと…。」

坂場「ちゃんと動いてるだろ? 優は 君の仕事を見て いつの間にか覚えちゃったんだ こんなこと…。」

なつ「優! あんた 天才だ!」

優「天才!」

坂場「うん。」

なつ「うん。」

東洋動画スタジオ

テレビ班 作画室

なつ「ね? どう? すごいでしょ」

堀内「うん… 偶然のような気もするけども。」

なつ「偶然じゃないでしょ これは。 偶然だとしても 4歳で これは すごいでしょ? 天才かもしれません!」

堀内「奥原なつも ちゃんと親バカになるんだな。」

なつ「そりゃ なりますよ。」

堀内「そうか…。 確かに 入ってきた時の奥原なつの画力に 近いものはあるかもしれないな。」

なつ「はあ?」

中島「ハハハ… あ すいません。」

堀内「で これ どうするの? 消して描き直すの?」

なつ「消しませんよ! もう大事に取っておきます。 一生の宝物です。 急いで 一から描き直します。」

堀内「お疲れさま。」

中島「完全に親バカですね。」

佐藤「奥原さ~ん!」

なつ「はい。」

佐藤「奥原さん 奥原さん…。」

なつ「はい。」

佐藤「最終回の話は もう決まったんですか?」

なつ「いえ… 演出家が まだ脚本に迷ってるみたいで なかなか絵コンテが上がってきませんね。」

佐藤「そう… 『キックジャガー』は どうなるんだろうね。」

なつ「まあ キックジャガーは よく戦いましたよ。 ボロボロになるまで。」

佐藤「やっぱり 最後は ジャガーのマスクを取って正体を明かす?」

なつ「う~ん… 終わらせるには それしかないと思いますけど。」

道中

茜「今日も ママ遅いから 一緒に ごはん食べようね。 優ちゃんは 今日 何食べたいの?」

優「えっとね… 茜さんのオムライス!」

茜「え~ またか…。 うん? 明子は 何食べたいの?」

明子「ギョーザがいい!」

茜「ギョーザ? えっ ギョーザか オムライスか? え~ どっちがいいかな…。 うん? どっちも食べたいの? え~ どうしよう…。」

東洋動画スタジオ

テレビ班 作画室

なつ「う~ん…。」

佐藤「どう?」

なつ「どうでしょう… キックジャガーは 子どもたちのために戦ってきたのに テレビで 正体がばれたら もう子どもたちには会わないんですか?」

宮田「試合中に マスク取られたら もう会いに行かない方がいいだろう。」

なつ「どうしてですか?」

宮田「どうしてって… 痛ましい姿は見せたくないでしょうよ。 キックジャガーは 孤児たちのヒーローなんだから。」

なつ「自分たちのために ボロボロになりがら 戦ってくれた キックジャガーに 子どもたちは 何も言えないんですか?」

宮田「黙って去る方が かっこいいと思うけどな。」

堀内「男の美学ですよね。」

宮田「うん。」

なつ「美学…。」

坂場家

寝室

優「ねえ ママ これ何だ?」

なつ「ん? あっ ウサギ!」

優「そう!」

なつ「うまい うまい…。 優は 本当に絵がうまいわ。」

優「ママみたいになれる?」

なつ「なれるよ! ママより ず~っと うまくなれるよ。 ねえ 優。」

優「うん?」

なつ「もし キックジャガーに会えたら 何て言う?」

優「キックジャガーに会えるの?」

なつ「いや もしもよ…。 もしも 本物のキックジャガーに会ったら…。 ほら キックジャガーは いろんな敵と戦って もう ボロボロに 痛い痛いになって 疲れてるでしょ。 そのキックジャガーに 何て言ってあげたい?」

優「えっとね… もういいよって。」

なつ「そうか… 優は優しいね。 『もういいよ』か…。 もういいよ…。 そうだよね… もう戦わなくていいよね!」

優「うん。」

なつ「そうだ…。」

東洋動画スタジオ

テレビ班 作画室

なつ「やっぱり 子どもたちに 会いに行きましょう!」

宮田「会いに行って どうするの?」

なつ「素顔を明かして 負けたことを子どもたちに謝るんです。」

堀内「それで 子どもたちは?」

なつ「子どもたちは キックジャガーに 泣きながら こう言うんですよ。 もういいよ もう戦わなくていいよって。 そこで キックジャガーも 初めて涙を流せるんです。」

佐藤「『もういいよ もう戦わなくていい』か…。 いいね! 泣けるね!」

なつ「でも 戦うんです。」

佐藤「えっ?」

なつ「キックジャガーは その言葉を聞いて もう一度 リングに向かう決意をするんですよ。 今度は 素顔のまま 中神拳矢として 一人の正統派キックボクサーとして もう一度 リングに復活するんです! それが この物語のラストカットです。」

宮田「いい! それ いいよ!」

堀内「敗者の美学だ!」

佐藤「すばらしい! それでいこう!」

なつ「はい!」

テレビ

♬~(『キックジャガー』のテーマ曲)

実況『さあ 何をする気だ? キックジャガー。 おっ マスクに手をかけた! どういうことだ!? 会場から悲鳴が上がる! なんと マスクを脱ぎ捨てた!』。

子どもたち『拳矢にいちゃんだ! 拳矢にいちゃん!』。

キックジャガー『子どもたちよ 見ろ。 俺は 戦うことをやめない』。

子どもたち『頑張れ!』。

(ゴング)

キックジャガー『マスクを捨てて 正々堂々と 君たちに戦う姿を見せる!』。

<こうして完成した『キックジャガー』は お茶の間に 大きな感動を呼びました。」

下山家

リビング

明子「優ちゃん 今日 ママ 具合が悪いの。 言うこと聞いてちょうだい。 それは まだ ダメ! あ~! ママ~!」

茜「うん? どうしたの?」

明子「優ちゃんが蹴った!」

茜「あ…。 優ちゃん 蹴っちゃダメじゃないの!」

明子「もう 優ちゃんとは 一緒に遊ばない。 ママ 一緒に遊ぼう。」

茜「あ… もう 2人とも困ったな…。 あのね ママ 今日は 本当に ちょっと具合が悪いのよ…。」

(チャイム)

茜「あっ ほら 優ちゃんのママ帰ってきた。 ほら 玄関行こう。 あ~ もう ちょっと2人とも… どうぞ!」

なつ「遅くなって ごめんなさい。」

優「ママ お帰り。」

なつ「優 ただいま。」

茜「ああ よかった…。 ちょっと ごめんなさい…。」

明子「ママ 大丈夫!?」

なつ「明ちゃん 大丈夫よ…。」

坂場家

リビング

坂場「2人目?」

なつ「そう。 今日 病院に行って はっきり分かったんだって。」

坂場「ああ… そうか。 いや 下山さんは子ども好きだから 喜ぶだろうな。」

なつ「うん。 おめでたいよね。」

坂場「ああ。 だけど 優は もう預けられなくなるか…。」

なつ「うん… 茜さんは 今3か月だから 来年の春までは大丈夫だって 言ってくれてるけど…。 今でも つわりは つらそうだから。」

坂場「うん…。 また考えないとな。」

なつ「まあ やっと 『キックジャガー』が終わったから 次は なるべく早く帰れるように 作画監督の仕事は やめるようにする。」

坂場「うん… まあ それでも 誰も当てにしないってわけには いかないだろ 仕事を続ける以上は。」

<そして 数日後。>

道中

「こんにちは。」

なつ「あっ こんにちは。」

下山家

玄関

なつ「イッキュウさんとも相談して なるべく早く ほかの預け先を探すようにしますから。」

茜「あ そう… 悪いわね。」

なつ「いえ。」

茜「もう優ちゃんに会えなくなると思うと 寂しいな…。」

なつ「2人目が生まれたら もっと にぎやかになるじゃないですか。」

茜「でも もっと大変になるわ。 とうとう 親にも頼らないと やっていけないかも。」

なつ「おめでたいことなんですから…。 さあ 優 帰ろう。 えっ?」

優「帰らない。」

リビング

なつ「すいません…。 どうして? 帰らないの?」

茜「あ… 分かった。 今日は 明子のお誕生日だからよ。」

なつ「あっ そうか。 明ちゃん おめでとう。」

明子「ありがとう。」

優「優ちゃんも お誕生日する!」

茜「あ… そういうことか。 おじさんも 今日は 早く帰ってくるって言ってたしね。」

なつ「ねえ 優… それじゃ 邪魔しちゃ悪いでしょ。 ほら わがまま言わないで 早く帰ろう。 優!」

優「やだ!」

なつ「ダメよ!」

茜「優ちゃんは 一緒に 明子の誕生日を 祝ってくれようとしてるんだよね。」

なつ「そうなの? 優。」

茜「じゃあ そうしようか。」

なつ「いや だけど…。」

茜「いや もし いてくれたら 明子も喜ぶから。 もう明子と優ちゃんは 本当の姉妹みたいなもんだもんね。」

なつ「いや…。 ねえ ママは帰っちゃうよ? パパの夕食作らないと。」

優「いいよ。 茜さんと一緒にいる。 茜さんと一緒がいい。」

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