あらすじ
昭和30年の初夏。なつ(広瀬すず)が十勝の柴田家に来てから、9年が経過していた。なつは地元の農業高校に通いながら、酪農の仕事を手伝っていた。ある朝、柴田家の牛が産気づき、泰樹(草刈正雄)たちは出産の準備をするが、いざ破水が始まると逆子であることが判明する。必死に子牛を引っ張り出す泰樹や富士子(松嶋菜々子)だったが、生まれた子牛は息をしていなかった。落胆する一同を前に、なつは思わぬ行動をとる…。
13話ネタバレ
柴田家
新牛舎
昭和30年(1955)年6月
<はい 昭和30年の初夏。 なつが 十勝の柴田家に来て 9年の月日が流れました。>
<なつは 農業高校の3年生です。>
富士子「なつ そろそろ。」
なつ「うん。 菊介さん あと そろそろ頼むね。」
菊介「おう あとは任せろ。 行ってらっしゃい。」
なつ「じいちゃんの方 どうかな?」
菊介「おやじが 今 様子見に行ってるよ。」
なつ「う~ん… 私も ちょっと見てこよう。 母さん これ お願い。」
富士子「ちょっと! ごはん食べられなくなるよ!」
なつ「大丈夫 ごはんなら 自転車乗ってでも食べられる!」
富士子「もう… 牛のお産なんて 珍しいことじゃないのに。」
菊介「なっちゃん 何だか 心配してたもな。」
富士子「えっ?」
<柴田牧場も大きくなって 新しい牛舎も建ちました。>
旧牛舎
なつ「じいちゃん 悠吉さん どう?」
悠吉「うん 陣痛は もう来てるみたいだ。」
泰樹「そろそろ 1回目の破水があっても いい頃なんだが…。」
照男「なつ 学校に遅れるぞ。」
なつ「大丈夫だってば。 ごはんなんか すぐ食べられるから。」
照男「飯の話なんか してないべや。」
なつ「それより おなかの落ち方が いつもと違うような気がしたから 何だか 気になって…。」
<なつは この家で 本当の娘のように育てられていました。 おかげさんで なつは 元気に ここで生きています。>
居間
夕見子「(あくび)」
明美「お母さん おかしいね。 日の出る前から働いてる なつ姉ちゃんが元気で さっきまで寝てた 夕見姉ちゃんが あくびしてる。」
富士子「本当だね。」
夕見子「私は遅くまで勉強してるからっしょ。」
明美「本読んでるだけっしょ。」
夕見子「あのねえ 世の中は広いの。 乳搾りと草刈りだけで 出来てるんじゃないの この世界は。」
なつ「明美ちゃん 朝から夕見子に構うと 学校に遅れるよ。」
明美「は~い。」
夕見子「明美ちゃん なつの言うこと聞いてると 時代に乗り遅れるよ~。」
なつ「酪農は これからの十勝に 絶対 欠かせないものなんだよ。 どこが時代遅れなのさ。」
富士子「なつ 構ってると 学校遅れるよ。」
なつ「は~い。」
剛男「なつ おじいちゃん どうしてる?」
なつ「どうしてるって?」
剛男「元気か?」
なつ「一緒に暮らしてるでしょ?」
剛男「いや… 何か 話をしたかなと思って おじいちゃんと。」
なつ「何の話?」
剛男「牛のこととか 農協のこととか…。」
富士子「ちょっと 何話してるの 今。 朝の忙しい時に。」
剛男「ああ… いや 何でもないわ。」
なつ「何よ 父さん。 農協で 何かあったの?」
剛男「いや… いいんだ。 また 後でな。 ほら 学校遅れるぞ。」
<なつを ここに連れてきた この柴田剛男さんは 今 農協に勤めています。 なつに父さんと呼ばれています。>
なつ「ごちそうさまでした。」
富士子「行ってらっしゃい。」
なつ「行ってきます!」
玄関前
なつ「行ってきま~す!」
菊介「行ってらっしゃい!」
悠吉「気ぃ付けてな~!」
菊介「頑張れよ~!」
照男「なつ!」
なつ「ん?」
照男「破水した! じいちゃんが お前呼んでこいって!」
旧牛舎
なつ「じいちゃん!」
泰樹「なつ 逆子だ。」
なつ「えっ… 逆子?」
泰樹「後ろ足から出とる。 照男 獣医呼んでこ。」
照男「分かった。」
(鳴き声)
富士子「逆子だって?」
なつ「母さん…。 このまんま 獣医さんを待ってたら 間に合わんくなる。」
泰樹「だが 母牛だけは助けたい。」
なつ「そんなこと言わないで! じいちゃん 子牛も助けよう。」
富士子「なつ…。」
なつ「逆子は 時間がかかると 途中で へその緒が切れて 子牛が おなかの中で 息ができなくなるかもしれんって 学校で習った。 早く引っ張り出さんと 子牛が生きられんよ!」
泰樹「じゃあ 陣痛に合わせて引くぞ。」
なつ「急いで。」
泰樹「来るぞ。 よし 引っ張れ! もっと! 戻すな!」
泰樹「泰樹 ちょっと待て… やんだ。」
新牛舎
「おはようございま~す。」
菊介「ご苦労さん。」
「あれっ? 今日は1人かい?」
菊介「ああ。 難産の母牛がいるもんで。」
「難産?」
菊介「どうも逆子みたいでさ。」
「あらららら 逆子かい。 それは あずましくないね。」
旧牛舎
泰樹「もっと引け! 戻すな! 引っ張れ!」
なつ「お願い 助かって!」
泰樹「よし 引け! よ~し 出るぞ。」
なつ「なして動かんの?」
泰樹「息をしとらん。」
なつ「えっ?」
悠吉「間に合わんかったか…。」
泰樹「ダメだ…。」
なつ「じいちゃん 私にやらして!」
泰樹「なつ これで 息をしとらんかったらダメだ 諦めろ。」
なつ「まだ! 学校で 人工呼吸習った。」
富士子「人口呼吸? 牛に?」
なつ「お願い やらして。」
富士子「なつ…。」
なつ「羊水飲んだのかもしれん!」
悠吉「なっちゃん そったらことまで…。」
富士子「なつ!」
なつ「あっ…。 やった…。 やった~。 やった~。」
悠吉「生き返った… 生き返ったぞ! すごいな なっちゃん!」
泰樹「よくやったな!」
なつ「ハハッ…。」
泰樹「なつ!」
なつ「よかった~。」
泰樹「よくやったな! よくやった。」
なつ「よかった~。」
泰樹「ハハハハハハ…。」
なつ「よし! 立った! 子牛が立った!」
なつ「飲んでる。」
子供部屋
なつ「今日 新しい命が生まれました。 無事でした。 ありがとうございました。」
<戦争で亡くなった父と母のことも なつは 大切に思ってくれていました。 本当の兄と妹は 今も 行方が知れません。>
玄関前
富士子「なつ 本当に 今から学校行くの?」
なつ「うん。 まだ 午後の授業には大丈夫だから。」
富士子「今日ぐらい 無理して行くことないのに。」
なつ「だって さっきのこと 早く みんなに話したいんだわ。」
泰樹「なつ 行くなら馬で行け。」
なつ「えっ?」
泰樹「馬なら 寝てても お前を連れてってくれるべ。」
なつ「分かった そうする。」
富士子「寝たら落ちるしょや。」
泰樹「夕方の搾乳はいいからな。 ゆっくり帰ってこい。」
なつ「ありがとう じいちゃん。」
道中
十勝農業高校
畜産科
倉田「第二の世界とは どんな世界か。 貧乏だが晏如(あんじょ) 安らかで落ち着いた学問の世界だ。」
なつ「おはようございます! 遅くなって すいませんでした!」
倉田「奥原!」
なつ「はい。」
倉田「大幅に遅刻したくせに 反省はしてないようだな。」
なつ「はい してません。」
倉田「うん 何していた?」
なつ「それ 聞きますか?」
倉田「ほう 聞いてほしそうだなあ。 何だ?」
なつ「倉田先生 授業の邪魔では?」
倉田「いいから しゃべれ!」
なつ「はい! 牛のお産を手伝っておりました! それが 逆子でした。」
倉田「逆子?」
良子「なっちゃん それで どうなったの!?」
なつ「うん そんでね へその緒が切れたら大変だと思って 急いで引っ張り出したんだけど 生まれた子牛は仮死状態だった。」
倉田「それで 助かったのか?」
なつ「はい! 私が 人工呼吸をして助けました!」
(拍手)
なつ「先生 学校で教わったことに うそはありませんでした。」
倉田「当たり前だ。」
雪次郎「よくやった なっちゃん!」
(拍手)
なつ「ありがとう ハハハ…。」
倉田「おい ちょちょちょちょ… それで どうやって人工呼吸やったんだ?」
なつ「はい。 じゃあ… よっちゃん手伝って。」
良子「えっ? ちょっと… どうするのよ なっちゃん。」
なつ「よっちゃん ここに寝て。」
良子「寝るの? やだわ… ふしだらよ。」
なつ「大丈夫 牛だから。」
良子「私が牛なのか?」
なつ「早く。 まずは 鼻にたまった羊水を吸って ペッ 吐き出しました。 それから こんなふうに 子牛の前足をつかんで 胸を開いて 戻すようにしました。 開く時には 子牛の体が… 浮くぐらい 大きくして…。」
良子「なっちゃん 痛いわ!」
なつ「戻して 開いて 戻す…。」
<なつは とにかく ここで生きることに夢中でした。>
山田家の畑
<そして その日 なつは 寄り道をしたのです。>
なつ「天陽君!」
天陽「おう なっちゃん!」
<なつよ その笑顔 十勝晴れの空に よく似合う。>