あらすじ
広大な平野と日高山脈。牧場を見下ろす丘の上、キャンパスに向かい北海道・十勝の風景画を描くなつ(広瀬すず)。なつが十勝にやってきたのは昭和21年、戦争が終わった翌年の初夏、9歳のときだった――復員服を着た剛男(藤木直人)に手を引かれ焼け野原の東京から十勝にやってきたなつ(粟野咲莉)。夫の無事の帰還に喜ぶ富士子(松嶋菜々子)たち柴田家の家族だったが、剛男が連れてきた見知らぬ少女の姿に戸惑いを覚える。
1話ネタバレ
丘の上のキャンパス
昭和30(1955)年8月
なつ<ここは 私が育った 北海道の十勝です。 私の大好きな風景に 今日も風が吹いています>
<私は 子どもの頃 たった一枚の絵から アニメーションの世界と 出会うことになりました>
<そして 18の夏。 その懐かしい人は 突然 私の前に現れました。 私は その手に救われたことがあります>
<昭和20年3月 東京に大空襲があった日>
(爆撃音)
<私は 荷が惑う人の波に流されて 家族を見失いました>
なつ「お母さ~ん!」
<避難所の学校に 私は とにかく向かいました。 そこかしこに 無数の焼夷弾が降っていました>
<その時 誰かが 私の手をつかんだのです。 私は その手に導かれて 学校のプールに飛び込みました>
<それで生き延びたのです>
<だけど その日から 私の人生は一変しました>
なつ「信さん…? 本当に 信さん!?」
信哉「元気だったか?」
なつ「うん。」
信哉「なっちゃんに また会えてよかった。」
なつ「私も。 ずっと ずっと 会いたかったわ。」
<これから語る この物語は 紛れもなく 私の人生そのものです。 私は やがて アニメーションという世界に その人生をかけてゆくのです>
昭和21(1946)年5月
語り<はい 今は 昭和21年 戦争が終わった翌年の初夏です。 なつは 初めて 北海道・十勝にやって来ました。 まだ 9つの時です。>
剛男「どうだ 広いだろう。 東京は焼け野原だけど ここは 本当の野原だ。」
なつ「お~!」
剛男「ああ… ハハ…。」
なつ「うわっ…。 あっ。」
剛男「どうした? あっ… タンポポか。 あっ! ああ…。 何だ 腹減ってんかい。」
剛男「もう少しの我慢だよ。 あの~ なっちゃん。 ここまで来て言うのもなんだけど 最初は 怖いおじいさんが いるかもしれないけど 大丈夫だからな。 おじさんは 婿養子なんだ。 まあ いいや。 行こう。」
なつ「うん!」
<どうして なつが この大地で生きることになったか まずは そこからお話ししましょう。>
柴田家
剛男「あれが おじさんの家だ。 今日から なっちゃんの暮らす家だよ。 行こう。」
玄関前
富士子「剛男さん! 剛男さんが帰ってきた! 照男! 夕見子! お父さんが… お父さんが帰ってきましたよ!」
照男「お父さん!」
夕見子「お父さん!」
富士子「あなた お帰りなさい。」
剛男「ただいま。 やっと帰ってこられたわ。」
富士子「きっと帰ってくるって信じてました。」
剛男「照男 夕見子 大きくなったな。 よく今まで頑張った。」
照男「お帰んなさい。」
夕見子「お帰んなさい。」
剛男「明美か! もうこんなに大きくなったんか。 お父さんだぞ ず~っと会いたかったんだ。 うん? ほ~ら よしよし よしよし…。」
富士子「分かる?」
剛男「お義父さん ただいま戻りました。」
泰樹「うん よく戻った。」
富士子「で この子は誰なんですか?」
剛男「あ… なっちゃん。」
富士子「なっちゃん…?」
なつ「こんにちは! 奥原なつと申します。」
剛男「まずは 風呂たいてくれんかい? なっちゃん お風呂に入れてやりたい。」
<なつがやって来た柴田家は 苦労して 荒れ野を切り開き この地に移り住んだ 開拓者の一家でした。>
居間
泰樹「奥原なつと言ったな どこの子じゃ。」
剛男「あの子は 僕の戦友の子なんです。 その人は 残念ながら 満州で戦死してしまったんだ。」
泰樹「そんで?」
剛男「それで その人と約束したんです。 もし どっちかが戦死した時には その家族に宛てた手紙を 必ず届けるべって。」
富士子「手紙を?」
剛男「うん。 本当に 家族に 書き残したいことを書いて 軍に検閲されないよう お互いに託したんだ。」
富士子「遺書みたいなもんかい?」
剛男「そだな。」
富士子「あんたも書いたの?」
剛男「ああ 書いた。」
富士子「どんなこと書いたの?」
剛男「いや それは恥ずかしいな 生きてるのに。」
泰樹「んなことは どうだっていい。 何で その子どもが ここにいるんじゃ?」
剛男「ですから その手紙を 届けようとしたんです。 その人は 東京の日本橋で 料理屋をやってると聞いていたんで 復員して ここに帰る前に寄ったんだわ。 でも その家もなかったんですよ 空襲で。」
風呂場
なつ<私は 真っ赤な夕日を見て あの日のことを思い出していました>
<空襲があったその日 夜が明けると 私の住んでた東京の町街は 跡形もなく消えていました>
回想
咲太郎「なつ!」
なつ「お兄ちゃん! 千遥!」
千遥「お姉ちゃん!」
咲太郎「なつ 無事だったか よかった…。」
千遥「お姉ちゃん。」
咲太郎「お前は 佐々岡医院の…。」
信哉「佐々岡信哉です。」
なつ「お母さんは?」
咲太郎「ダメだった… 死んだんだ。」
なつ「えっ…。」
咲太郎「最後まで なつのこと心配してた。 なつが 無事でよかったよ。」
信哉「うちもダメだった。 父さんと母さんは防空壕の中で…。」
咲太郎「大丈夫だ。 兄ちゃんがついてる。」
回想終了
剛男「あの子は 空襲で お母さんも亡くして まだ12歳のお兄さんと 幼い妹と 子どもだけで生きてきたらしいです。 僕は 孤児のいそうな所を必死に探して 事情があって あの子だけ 引き取ることにしたのさ。」
富士子「引き取るって これから ここで暮らすってことかい?」
剛男「ほっとけなかったんだ。」
富士子「いや したけど…。」
剛男「すまん。 苦労かけるけど なんとか頼むわ。」
富士子「分かった。 大丈夫よ。 1人ぐらい増えたって。 かわいそうだものね。」
泰樹「かわいそうだからって 犬猫みたいに拾ってくるやつがあるか。」
剛男「お義父さん。」
泰樹「牛や馬なら まだしも 役立たんやつ増やして どうするんじゃ。」
剛男「あの子は 僕の大事な戦友の子なんです!」
泰樹「赤の他人に変わりはないべや。」
剛男「そんな冷たいこと言わないで下さいよ。」
富士子「大丈夫よ。 父さんは 一人で 北海道に渡って 苦労をし過ぎて 苦労が まひしてんの。 だから そんな 血も涙もないことが言えるんだわ。」
泰樹「お前は 苦労し過ぎて 誰んでも優しくしなければなんないと 思い込んどるだけじゃ。」
富士子「いや したらさ 時と場合を選んで 人を助けろって言うのかい?」
泰樹「何でもかんでもは 考えなしと同じだべ。」
剛男「やめて下さい! 2人が喧嘩することはないんです。 とにかく あの子は 僕が守りますから。」
夕見子「いるよ そこに。」
剛男「えっ?」
富士子「あっ… もう上がったの。 また そんな汚い服着て。」
脱衣所
富士子「お風呂は 気持ちいかったかい?」
なつ「はい。」
富士子「そう いかった。 長旅で疲れたっしょ。 今日は ぐっすり寝なね。」
なつ「おばさん ありがとう…。 (泣き声)」
富士子「あれ どうしたの。」
なつ「(泣き声)」
富士子「大丈夫… もう大丈夫よ。」
語り<なつは ここで 生きてゆくしかありませんでした。 なつよ 思いっきり泣け。>