あらすじ
ついに、演劇部顧問の倉田先生(柄本佑)が脚本を書き上げ、なつ(広瀬すず)、雪次郎(山田裕貴)らに台本を手渡す。なつが、祖父の泰樹(草刈正雄)を思い入部したことを知る倉田は、物語の重要な役をなつに与える。さらに倉田は、舞台の背景となる絵についても相談する。倉田のイメージが、雪月に飾ってあった絵画であることを知ったなつは、その作者に絵を依頼することを提案。その作者の家を訪ねることに…。
20話ネタバレ
十勝農業高校
演劇部
雪次郎「なっちゃん。」
門倉「ありがとう。」
雪次郎「おう。」
倉田「みんな 聞いてくれ。 これは あくまでも 架空の伝説だ。 十勝 音問別辺りで まことしやかに語られている話を基に 俺が考えた。 テーマは… まあ みんな 読んで分かってると思うが 個人の問題と 集団の問題だ。 よし 明日から稽古を始める。」
一同「はい!」
<いよいよ 女優 なつの出番が やってきました。>
なつ「よっちゃん 行こう。」
良子「うん。」
「あっ… バイバ~イ。」
倉田「あっ 奥原。」
なつ「はい。」
倉田「分かってると思うが 女は お前しかいないんだ。 女の役は みんな お前がやるんだぞ。」
なつ「良子ちゃんもいます。」
倉田「女優志望は お前しかいないんだ。」
なつ「私は 志望なんかしてません。」
倉田「それでも お前しかいないんだ。」
良子「なっちゃんが やるしかないわ。 私は 裏方だから。」
倉田「居村にも期待してるぞ。」
良子「何をですか?」
倉田「いろいろ。」
なつ「けど こんな出番があるなんて…。」
倉田「フッフ~ おじいさんも喜ぶだろう。」
なつ「先生… 先生は 私のじいちゃんの過去まで 調べて書いたんですか?」
倉田「過去? さあ 知らんな。 何かあるのか?」
なつ「いいえ 知らなければいいんです。 さようなら。」
倉田「はい。」
良子「さようなら。」
倉田「あ… あと お前 絵描けるんだって? 雪次郎に聞いたよ。」
なつ「絵なんて描けません。」
倉田「えっ?」
なつ「私が描けるのは 落書き程度で…。」
雪次郎「でも 絵好きだべ? なっちゃん。」
なつ「好きなのと描けるのは違うべさ。」
倉田「うん そうか…。 いや 舞台美術は いつも 美術部に頼むんだが 今回は それでは ちょっと違うような気がしていてな。 あっ 雪次郎の店に いい絵が飾ってあったな。」
雪次郎「えっ?」
倉田「いや ほら あの~ 何だ… ベニヤ板に描いたような。」
雪次郎「あっ! 天陽の絵だ!」
倉田「てんよう?」
雪次郎「山田天陽。 なっちゃんの友達です。 小中一緒だった。 ね!」
なつ「うん。」
雪次郎「うちの父ちゃんが その絵 気に入って 特別に譲ってもらった絵なんです。」
倉田「ほ~う。 いや あんな書き割りが 作れるといいんだけどな。 うん。」
山田家
なつ「実はね 演劇部の倉田先生がね 天陽君に 舞台美術をやってほしい って言ってんのさ。」
天陽「舞台美術?」
なつ「そう。 なしても 天陽君に 背景の絵を描いてほしいんだって。」
天陽「何で…? なしてもってわけないべさ。」
タミ「いいじゃないの やってみれば。」
なつ「おばさんは 賛成してくれますか?」
タミ「私は 演劇のことは よく分かんないけど 光栄なことじゃないの。 うん。」
なつ「私もね 天陽君の絵が 舞台にあったら そりゃ すてきだおるなって思ったよ。 まあ 天陽君は あんまり やりたくないだろうなとも思ったけど。」
天陽「そんなことないさ。 それが なっちゃんや 雪次郎のためになるなら うん やってもいいよ。」
なつ「えっ? 本当に?」
天陽「うん。 まあ だけど あんまり 時間は取れないけど。」
なつ「分かってる。」
天陽「どんな舞台なの?」
なつ「あっ これが 芝居の台本。 読んでみて。」
天陽「ふ~ん。」
なつ「実はね 私が 演劇をやろうって思ったのは じいちゃんのことが きっかけなの。」
天陽「泰樹さん?」
なつ「うん。 じいちゃんが その芝居見て もし 感動してくれれば 何かが変わるような気がする…。」
天陽「『白蛇伝説』なのに?」
なつ「そう。 なのに。 ハハハ…。」
正治「なっちゃん 今 搾ったばかりのうちの牛乳 ちょっと飲んでみてよ。」
なつ「えっ?」
正治「なっちゃんとこの牛乳と どこが違うのか 見てもらいたいんだ。」
なつ「分かりました。」
正治「はい。 どうぞ。」
なつ「頂きます。 うん おいしい。」
正治「ハッ…。」
なつ「う~ん うちのと そんなに変わらんと思うけど。」
正治「そうだよね?」
なつ「うん。」
正治「いや なっちゃんところから 干し草も分けてもらってるんだし そんなに違わないように 努力してきたつもりなんだけど…。」
なつ「何か 問題あるんですか?」
正治「うん… 乳業メーカーがね うちの牛乳は 乳脂肪が低いって言うのさ。」
なつ「えっ?」
天陽「うちの牛乳は どのメーカーに持っていっても 格付けが低くて 安く引き取られるのさ。」
正治「おかしいよ 全く。」
柴田家
居間
なつ「ただいま。」
富士子「帰ってきた。」
明美「お帰んなさい。」
剛男「お帰り。」
富士子「はあ~。」
なつ「遅くなっちゃった。」
富士子「こんなに遅いのも 珍しいから ちょっと心配してたのよ。」
なつ「あ… ごめんなさい。」
富士子「もう そのままでいいから食べなさい。 疲れたしょ。」
なつ「うん。」
富士子「なつの取って。」
照男「お代わり。」
富士子「はい。」
夕見子「何杯食べんの?」
明美「なつ姉ちゃんの分 食べないで。」
照男「じゃあ 半分で…。」
富士子「いっぱい あるから。 台本が出来たのかい?」
なつ「えっ?」
富士子「台本が出来たら 遅くなるって言ってたしょ。」
なつ「まあ そういうことなんだけど…。」
富士子「ん?」
明美「なつ姉ちゃん どんな役? 主役?」
なつ「どうかな~。」
照男「ん? 出番が少ないのか?」
なつ「いや 出番は多いみたい…。」
明美「それって 主役じゃない!?」
なつ「主役は男だから。 頂きます。」
夕見子「紅一点だから 女の主役になるのは決まってるでしょ。」
明美「夕見姉ちゃんも やりたいの?」
夕見子「えっ? 何でよ。」
明美「ヤキモチ焼いてるから。」
夕見子「はあ? 何言ってんの。」
明美「雪月の雪次郎 なつ姉ちゃんに取られちゃうかもよ。」
夕見子「バ~カ。 子どもが そういうこと言うんじゃないよ。」
明美「バ~カ。 子どもにばっかり 働かせるんじゃないよ!」
なつ「まあ いいから! その話はおしまい。」
剛男「まあ 何でもいいから 頑張れ。 やっと 高校生らしいこと してるんだからな なつは。」
なつ「父さん… 今ね 天陽君の家に寄ってきたんだわ。 そんで遅くなったの。」
剛男「そうなのか。」
なつ「うん。 そんでね じいちゃん。」
泰樹「うん?」
なつ「天陽君のおじさんが悩んでたわ。」
泰樹「何をだ?」
なつ「牛のこと。」
泰樹「牛?」
なつ「牛乳を メーカーに 安く引き取られてしまうらしいの。 乳脂肪が低いって言われるって。」
泰樹「それは しかたないべや。」
照男「まだ 酪農始めたばかりなんだべさ?」
なつ「だけど うちの干し草も分けてあげたし。」
泰樹「だからといって すぐに いい乳が出るわけじゃねえ。」
なつ「そだけど…。」
泰樹「努力すれば そのうち よくなる。」
なつ「だけど もし 脂肪検査が間違ってたら?」
照男「なつ そういうことは 軽々しく言うことじゃないだろ。」
なつ「あっ… ごめんなさい。」
泰樹「うん… 牛飼いは難しい。 他人のせいにするのは簡単じゃ。」
剛男「分かった。 私が見ておくよ。 農協の責任でもあるしな。」
なつ「父さん…。 うん お願い。」
剛男「今は 一軒一軒 小さな農家を助けていくしかないからな。 みんなが団結するまで。」
泰樹「ごっつぉうさん。」
なつ「あ… じいちゃん…。 変なこと言って ごめんなさい!」
回想・富士子「じいちゃんは 農協を頼りたくないのさ。 昔から 何でも 自分の力でやってきて それを支えに生きてきた人だからね。」
富士子「ふ~ん。」
なつ「どう?」
富士子「なかなか面白いじゃない。」
なつ「そう? 面白い?」
富士子「うん。」
なつ「そんで大丈夫かなあ。」
富士子「何が?」
なつ「じいちゃん。 そんな芝居見て 傷つかんかな? まるで じいちゃんのことみたいしょ?」
富士子「そうかなあ…。 似てるような気もするけど 大丈夫しょ。 きっと喜んでくれるわよ。 なつが やるんだから。」
なつ「そうかな… 本当にそう思う?」
富士子「うん。」
なつ「いかった。 ありがとう 母さん。 ね。 面白いしょ。」
富士子「でも 大変な役だね あんた。」
なつ「このぺージ読んだ?」
富士子「うん… たっくさん しゃべってるね。」
子供部屋
夕見子「『俳優の使命は 自分の技術を使って 戯曲を演劇的リアリティーに 転化させることである』。 へえ~。 それから…。」
なつ「あっ… ちょっと 何 勝手に読んでんのさ!」
夕見子「随分 その気になってんだ。」
なつ「違うって! それは 雪次郎君が 勝手に貸してくれたのさ。」
夕見子「何も隠すことないしょ。」
なつ「何も隠してないってば!」
明美「う~ん…。」
なつ「私が演劇をやるのは あくまで じいちゃんのためなんだから。」
夕見子「何さ それ つまんない。」
なつ「えっ?」
夕見子「あんたのそういうところ 本当つまんない。 やるなら 自分のためにやんなよ。 やりたいんでしょ? それとも 本当は やりたくないのかい?」
なつ「いや…。 今は やってみたいかも。」
夕見子「だったら それを認めて 自分のためにやんなよ。 じいちゃんのためとか言って ごまかしてないでさ。 それなら 私も応援する。 してやる。」
なつ「夕見?」
夕見子「ん。 頑張れよ。」
なつ「うん ありがとう。」
夕見子「フフフ…。」
<その晩 遅くまで なつは 絵を描いていました。 初めて 自分のために 演劇と向き合ったのです。>
なつ「あっ!」
<なつよ さあ 新しい日の始まりだ。>