ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第44話「なつよ、東京には気をつけろ」【第8週】

あらすじ

昭和31年の春、なつ(広瀬すず)は雪之助(安田顕)や雪次郎(山田裕貴)と一緒に、東京・新宿へとやってきた。そこで、雪之助が若いころ修業したという老舗・川村屋を訪れ、店主でマダムと呼ばれる光子(比嘉愛未)に出会う。エキゾチックな雰囲気をまとう光子は、なつに兄の咲太郎(岡田将生)に会うためにも川村屋で働くことを薦める。修行する雪次郎とともに、川村屋で働くことになったなつの、東京での生活が始まった…。

44話ネタバレ

東京・新宿

昭和31年(1956)年4月

雪次郎「人がいっぱいだわ。」

なつ「ねえ~。」

<昭和31年 東京・新宿です。 新宿は 戦後の焼け跡から復興し デパートや飲食店 大型書店や映画館 さまざまな娯楽施設が立ち並ぶ文化の中心地 戦前の浅草に代わって 新しい庶民の街になっていました。 なつは まだ 雪残る北海道を旅立ち 新しい春を迎えに来たのです。>

川村屋

<採用試験の6月までの間 なつは 川村屋に お世話になることになりました。>

玄関

雪之助「すっかり変わったな。 角筈という町名もなくなって…。 あ… けど 今も 同じ場所に 川村屋があるだけで ほっとする。 さあ 行くべ。」

雪次郎「うん。」

ホール

野上「いらっしゃいませ。」

雪之助「あ… 野上さん!」

野上「えっ?」

雪之助「いや… ハハハ お懐かしい!」

野上「ちょっ… ちょっと やめて下さい。 あっ 北海道の?」

雪之助「ええ… 小畑です。 小畑雪之助です。」

野上「あまりに老けてて 分かりませんでした。」

雪之助「ハハハハ…。 野上さんは びっくりするぐらい 変らないですね!」

野上「苦労は 顔に出さない主義なんです。」

雪之助「ア~ハッハッハッハ…! この人はね 大正元年から この川村屋にいる 小僧から たたき上げの店員さんだ。 私も よく叱られた。」

なつ「お久しぶりです。」

雪之助「あ~ なっちゃんは知ってますよね? これは 私のせがれです。」

雪次郎「小畑雪次郎です! よろしくお願いします!」

雪之助「今日から よろしくお願いいたします!」

なつ「よろしくお願いします。」

野上「声が… 声が…。 何ですか? 店先で。 どこでも 頭を下げれば 礼儀になると思ったら大間違いですよ。」

3人「失礼しました!」

応接室

雪次郎「この椅子 すげえな…。」

光子「いらっしゃい。」

なつ「マダム!」

雪之助「いや いや いや… 光子ちゃんかい? アッハッハッハッ… 立派になられて。」

光子「ご無沙汰しております。」

雪之助「いや~ 光子ちゃん あのころ まだ かれんな少女だったもね。」

野上「(せきばらい) 今は マダムです。」

雪之助「あっ 失礼しました。 マダム これが せがれの雪次郎です。」

雪次郎「小畑雪次郎です! よろしくお願いします!」

光子「お父様のように 立派な菓子職人になれるよう しっかり ここで修業して下さい。」

雪次郎「はい!」

雪之助「いや~ マダム 私は まだ そんな立派な菓子職人じゃないですよ。」

野上「マダムの気遣いを 無にすることはございません。」

雪之助「失礼しました。」

光子「どうぞ お掛けになって。 それで 奥原なつさんは…。」

なつ「はい。」

光子「あなたは ここで働く気はあるの?」

なつ「それは… 本当に いいんでしょうか?」

光子「ほかに やりたいことがあるのよね? 漫画映画でしたっけ?」

なつ「はい。」

光子「その会社の試験は いつなの?」

なつ「6月に 臨時採用の試験があるそうです。」

光子「そう… それまでは どこかで 生活しなくちゃいけないでしょ? ただし そういう中途半端な人を お客様の前に 出すわけにはいかないので ちゅう房で 皿洗いでもしてもらいます。 それで よければ。」

なつ「いすぎるくらいです! ありがとうございます! 助かります。」

光子「まあ それにしても なつさんが 絵をね…。」

雪之助「川村屋には 昔から 絵描きのような芸術家が たくさん集まってきますもね。」

光子「ええ。 先代の祖母が好きでしたからね。 なつさんは どんな絵を描くのかしら。」

なつ「あっ 見ますか?」

光子「えっ? 是非 見たいわ。」

なつ「是非! マダムの目で確かめて下さい。」

光子「なるほど… 漫画ね これは。」

なつ「はい。 私がなりたいアニメーターは その絵に 命を吹き込むんです。」

光子「命?」

なつ「はい。 漫画は 紙の上で 物語を描きますが 漫画映画は 絵が物語を演じるんです。 アニメーターは 役者と同じように 物語を 絵で演じる人なんです。」

雪次郎「なっちゃん そんなら 演劇部の経験 生かせるね!」

なつ「そだといいけど…。」

雪次郎「そんなら 東京の演劇も たくさん見た方がいいよ。」

雪之助「お前は 修業に生かせ。」

雪次郎「どうやって?」

雪之助「どうやってもよ!」

なつ「マダムは どう思いますか?」

光子「えっ?」

なつ「私に できると思いますか?」

野上「マダムに聞いて どうすんです。」

なつ「そうですよね…。」

光子「不安を 誰かの言葉で 解消するのはよくないわ。 その不安と戦わないと。」

なつ「はい。」

光子「そういう人なら 私も応援します。」

なつ「ありがとうございます。」

雪之助「マダム あなたは 先代のマダムの意志を 立派に継がれたんですね。 いや… 安心しました。」

光子「なつさん こん新宿も ある意味 北海道と同じように 開拓者が集まる所なのよ。」

なつ「開拓者が?」

光子「ええ。 文化の開拓者…。 あなたのような 新しいことに挑戦したい という若い人たちが これから どんどん集まってくると思うわ。 この川村屋も そんな新宿でありたいと思ってる。 ここから あなたも頑張りなさい。」

なつ「はい!」

光子「ようこそ 開拓者の街へ。」

厨房

光子「皆さん 手を休めず ちょっと聞いて下さい。 明日から 見習いとして ここに入る 小畑雪次郎君です。」

雪次郎「よろしくお願いします!」

光子「それから 奥原なつさんです。 ここで 雑用をしてもらいます。」

なつ「奥原なつです。 どうぞ よろしくお願いします。」

光子「それから 戦前の川村屋で 修業をされていた 小畑さんです。」

雪之助「小畑雪之助です。 雪次郎の父でございます。 え~ この なつの後見人でもあります。 どうか 2人を よろしくお願いいたします。」

光子「戦後 お店を再開した時から 職人たちの職長をしてもらっている 杉本さんです。」

杉本「杉本平助です。」

雪之助「お世話になります。 どうか せがれを厳しくご指導下さい。」

雪次郎「お願いします!」

杉本「ま ここは 軍隊じゃないから そう かたくならずに。」

雪次郎「よかった。」

雪之助「よかったじゃない!」

雪次郎「はい!」

なつ「あっ マダム。」

光子「ん?」

なつ「私 お土産持ってきたんです。」

光子「お土産?」

なつ「はい。 うちの牧場で作ったバターです!」

光子「北海道のバター?」

なつ「これを インド風バターカリーに使って下さい!」

杉本「えっ?」

光子「そのために わざわざ 北海道から持ってきたの?」

なつ「はい。 あっ…。 うん 大丈夫です。 腐ってません。」

光子「これを うちのカレーに?」

なつ「是非 カリーに!」

ホール

雪次郎「うわ~…。」

なつ「う~ん…。」

雪次郎「うまそう!」

雪之助「懐かしいもなあ 川村屋の香りだ。」

野上「今日は特別ですよ。 あのバターでは お客様には出せませんから。 賄いとして調理しました。」

なつ「まかない?」

野上「従業員が食べる食事だ。」

なつ「じゃ 野上さんも食べて下さいね 十勝のバターカリー。」

野上「それは どうなんでしょう…。 川村屋の味にはなりませんから。 落書きが芸術にはならないように。 ハッハッハッハッハ…。」

応接室

光子「まあ おいしい!」

杉本「はい。 いいバターですよ これは…。」

ホール

雪次郎「うん… うめえ!」

雪之助「このカリーはね 先代のマダム… 今のマダムの おばあさんにあたるマダムが その昔 インドの独立運動をしていた インド人革命家を助けたことから ここで作られるようになったんだわ。」

なつ「インド人の革命家?」

雪之助「そう。 その革命家は イギリス政府に追われて 日本に逃げてきたんだわ。 そこで マダムは その革命家を 川村屋にかくまった。 そのインド人が このカリーを伝えたんだわ。」

雪次郎「本場のカリーを伝えたのか…。」

雪之助「いわば これは 命懸けで守った マダムのカリーだ。 革命が生み出した 川村屋の味だ。 それが 今も こうして残ってる。」

なつ「すごい…。」

雪之助「名物となるものはね その店の… その人間の覚悟だ。」

なつ「その覚悟を 今のマダムも受け継いでるんですね。 だから あんなに強くて優しいんだ…。 そんなマダムに 私の兄は 借金をしたんです。」

雪之助「カリーじゃなくて 借りを作ったか。 ハハハハ…。」

雪次郎「それは 別に言わなくていいべさ。」

雪之助「あ~ すまん すまん すまん。」

なつ「あの おじさん 歌を聴きに行きませんか?」

雪之助「歌かい?」

なつ「去年の夏 母さんと聴いたんです。 兄と同じ ムーランルージュにいた人の歌で… お兄ちゃんのことを 何か 新しい情報 知ってるかもしれんから。」

クラブ・メランコリー

カスミ♬『赤い夕陽がガードを染めて ビルの向こうに沈んだら 街にゃネオンの花が咲く おいら貧しい靴みがき ああ 夜になっても帰れない』

レミ子『ねえ おじさん 磨かせておくれよ ほら まだこれっぽっちさ てんでしけてんだ え お父さん? 死んじゃった… お母さん 病気なんだ…』

(拍手)

カスミ♬『墨に汚れたポケットのぞきゃ…』

<なつは その歌を聴きながら 靴磨きをして 兄や妹と過ごした あのころを 懐かしく思い出していたようです。 でもな 東京は 街も人も すっかり変わったぞ。>

カスミ♬『つらいのさ』

<なつよ 気を付けろ。>

モバイルバージョンを終了