あらすじ
ついに、なつ(広瀬すず)は、念願の東洋動画に入社。早速、即戦力として仕上課でセル画に色を塗ることに。なつが席に着くと、隣で作業していた先輩の桃代(伊原六花)から、あいさつもそこそこに手ほどきを受ける。初めてのことだらけで要領を得ず、いざセル画に向かうも緊張のあまりに手が震えてしまうなつ。昼休みになり、夢中になって絵コンテに見入るなつの元へ、仲(井浦新)と陽平(犬飼貴丈)がやってきて…。
55話ネタバレ
東洋動画スタジオ
昭和31(1956)年10月
<昭和31年10月 上京して半年余り なつは 念願の東洋動画に入社しました。 多少の不安もありましたが それよりも 何よりも 今 なつのめの前には 夢にみた世界が広がっていたのです。>
仕上課
山根「え~ 今日から 皆さんに働いて頂く ここが 仕上の作業室です。 仕上というのは 作画の人たちが描いた絵を 透明なセルロイドに書き写し 色を塗って セル画というものに仕上げることです。 書き写すことを トレース 色を塗ることを 彩色 この2つが 仕上の仕事です。 覚えて下さいね。」
山根「仕上は これから ますます 猫の手も借りたいような状態に なってきます。 そのために 皆さんは 厳しい試験を通って 臨時に採用されたわけです。 つまり 即戦力として見込まれたわけなので 実際に仕事をしながら その技術を 磨いていってもらいたいと思ってます。」
山根「え~…。 あっ…。 あっ すいません…。 こちらが 皆さんの大先輩 石井富子さんです。 詳しくは 石井さんから。 石井さん お願いします。 頑張って ハハハ…。」
富子「大先輩といっても 私も まだ30歳です。 ここで働く人たちは みんな若いです。 本格的に 総天然色の漫画映画を作るのは 日本で ここが初めてなのです。 ちなみに 世界では 漫画映画を アニメーションと呼んでいます。」
なつ「アニメーション…。」
富子「アニメーションに欠かせないものが セル画です。 映画館で 観客が見るのは この セル画の絵なのですから。 皆さんは これを作る仕事をするんです。 いいですね?」
一同「はい。」
富子「トレースの方は いきなり やれと言っても難しいので 皆さんには まず 彩色をやってもらいます。 今 制作している映画『白蛇姫』の色見本が ここにあります。 試験では セルに 好きな色を塗ってもらいましたが 実際は こういった色を 正確に塗らなくてはいけません。」
富子「1本の映画を作るのに 作画の人たちは 数万枚の絵を描き 我々 仕上も それを数万枚のセルに 仕上げなくてはいけません。 漫画映画は 気の遠くなるような作業です。 分からないことは 教わりながら 早く 仕事を覚えて下さい。 よろしくお願いします。」
一同「よろしくお願いします。」
なつ「やっと会えた… 白蛇姫に…。」
なつ「奥原なつです。 よろしくお願いします。」
桃代「森田桃代です。 よろしくお願いします。」
なつ「森田桃代先輩… ですね。」
富子「奥原なつさん。」
なつ「はい。」
富子「まずは このカットをお願いします。 よろしくね。」
なつ「はい!」
桃代「ダメよ。」
なつ「えっ?」
桃代「手袋して。」
なつ「あっ…。」
桃代「中に セルが入ってるから。 セルは 素手で触っちゃダメって言われなかった? 指紋がついちゃうから。」
なつ「そうでした。 すいません…。 わあ… かわいい…。 あの~ この紙は…?」
桃代「えっ? ああ 動画用紙は外して セルだけを そこに置いて 色を塗るの。」
なつ「あ… あの 先輩!」
桃代「はい?」
なつ「この紙 全部外してもいんですか?」
桃代「それは いいけど。 後で戻せば。」
なつ「はい。 ありがとうございます。 わあ…。 かわいい…。 なまら かわいい…!」
桃代「なまら? 何してるの?」
なつ「先輩 やっぱり すごいです。 こんな絵 こんな動き 私には描けません。」
桃代「それは 当然でしょ。 ちゃんと そういう人が 描いてるだから。」
なつ「どんな人が 描いたんでしょ…。」
桃代「その袋に 名前書いてあるでしょ。」
なつ「えっ? あっ 仲さんだ! 仲さんが描いたものなんだ。」
桃代「知り合いなの?」
なつ「はい。 私も 仲さんみたいになりたいと思って ここに入ったんです。」
桃代「ん? あなたも 作画をやりたいってこと?」
なつ「あ… でも 仕上げも頑張ります。 頑張ります!」
なつ「うっ ダメだ…。」
桃代「どうしたの?」
なつ「いや… これが 映画館に映されるかと思うと 緊張しますね…。 手が震えて はみ出しそうです…。 試験の時は こんなこと なかったんですけど…。」
桃代「大丈夫よ はみ出しても消せるから。」
なつ「えっ そなんですか!」
桃代「うん。」
なつ「いかった。 失敗しても大丈夫なんですね。」
桃代「いや 大丈夫じゃないけど まあ すぐ慣れるわよ。」
なつ「はい。 先輩は もう何年もやってるんですか?」
桃代「半年。 今年の4月からだから。」
なつ「えっ…。」
桃代「ん? 私 19歳よ。」
なつ「私と同じですか。」
桃代「だから 先輩なんて呼ばなくていいの。
なつ「あ… いや 先輩は先輩です。」
桃代「フッ…。 慣れたら モモッチって呼んで。」
なつ「モモッチ?」
桃代「森田桃代でしょ。 なぜか みんな モモッチって呼ぶのよね。」
なつ「モモッチ先輩。」
桃代「先輩は いらないから。」
なつ「モモッチさん。」
桃代「そのうち さんも取っていいから。 あなたは 何て呼ばれたい?」
なつ「う~ん 私は 名前が なつなので 割と早めに なっちゃんと呼ばれることが 多いですね。」
桃代「ふ~ん。 あのね なっちゃん。」
なつ「はい。」
桃代「慣れてきたらでいいんだけど 話す時は なるべく 手を動かしながら話そうか。」
なつ「はい すいません!」
桃代「うん。」
富子「うん なかなか うまいじゃないの。」
なつ「え 本当ですか? ありがとうございます。」
富子「それで何枚目?」
なつ「1枚目です。」
富子「遅い!」
なつ「すいません…。」
富子「まあ 初めだから しかたないけど。 丁寧なのは いいことです。 筆に水をつけ過ぎると ムラになるから 気を付けてね。」
なつ「はい。」
富子「モモッチ お願いね。」
桃代「はい。」
なつ「あの モモッチさん。」
桃代「え?」
なつ「これ 牛みたいに白黒なんですけど 仲さんが考えた 架空の動物なんでしょうか?」
桃代「ああ パンダでしょ。 中国にいるらしいわよ そういう熊が。」
なつ「熊なんですか! いるんですか 実際に こういうのが…。」
桃代「脚本に書いてあって まあ 誰も見たことはないらしいけど。」
なつ「へえ…。 あの 台本は配られないんでしょうか?」
桃代「台本?」
なつ「はい。 この絵が 一体 どんな話の どのシーンなのか それが分かったら もっと色を塗ってても 気持ちが入ると思うんです。 きっと 楽しいんじゃないでしょうか?」
桃代「脚本はないけど 絵コンテならあるわよ。」
なつ「絵コンテ?」
桃代「うん。 映画の 設計図みたいなものだって。」
なつ「それ見たいです!」」
桃代「あ… 仕上課にも 1冊だけあるから 空いてる時間に見られるわよ。」
なつ「はい。 ありがとうございます。」
桃代「あなた そんなに好きなの? 漫画映画。」
なつ「う~ん 好きって言うほど まだ知らないんです。 だから どんなことでも知りたくて。」
桃代「それが 好きってことじゃないの。」
なつ「モモッチさんは 好きじゃないんですか?」
桃代「好きとか嫌いとか考えたことない。 高校で求人を見て ほかの仕事より面白そうとは思ったけど。」
なつ「私は ずっと作りたいと思ってたんです。 漫画映画を。 よし。 できた。」
(チャイム)
桃代「ちょうど お昼だ。 よかったわね 1枚できて。」
なつ「はい。 モモッチさんは?」
桃代「私は 10枚。」
なつ「すごっ…。」
桃代「このカット袋が 何百 何千とあるんだからね。」
なつ「はい…。」
桃代「でも あなたも すごいじゃない。」
なつ「えっ?」
桃代「これって やりたい仕事だったんだ。」
なつ「そですよ!」
<なつは お昼休みに 食事をとるのも忘れて 絵コンテを見ていました。 絵コンテとは 映像の構図や カメラの動きなどが 書き込まれたものなのです。」
陽平「なっちゃん!」
仲「ようこそ アニメーションの世界に。」
なつ「仲さん 陽平さん。」
仲「おや なかなか おしゃれだね なっちゃん。」
なつ「あ いや これは… まだ修業中です。」
陽平「お昼は食べたの?」
なつ「いえ。 あの 絵コンテ見たくて…。」
仲「ああ。 あそこから 俺たちが いろいろ アイデアを膨らませて 絵を動かしてるんだ。 作品のことを知りたければ こっちも見に来なよ。」
なつ「えっ いいんですか?」
仲「いいに決まってるじゃないか もう同じ仲間なんだから。」
なつ「ありがとうございます。」
作画課
<そして なつは 自分の仕事が終わると すぐに 仲さんたちの部屋へ向かいました。 そこは 作画課と呼ばれる アニメーターたちの仕事場でした。>
下山「あれっ 君…。」
なつ「あっ…。」
下山「本当に来ちゃったんだね ここまで。」
なつ「下山さん!」
下山「えっ 僕のこと覚えててくれたの?」
なつ「もちろんです。 元警察官の!」
下山「あっ そう そう そう。」
回想
下山「バン! バン!」
回想終了
下山「バン!」
なつ「えっ?」
下山「いや… バン! バン! バン!」
なつ「ううっ! あっ…。」
麻子「ちょっと!」
なつ「ごめんなさい…。」
<なつよ まあ あまり浮かれずに 頑張りなさい。>