あらすじ
東洋動画の仕上課に勤務するなつ(広瀬すず)は、仲(井浦新)に誘われ、作画課の部屋を訪ねる。そこでなつは、仲と井戸原(小手伸也)のふたりが、東洋動画を支えるアニメーターだと下山(川島明)から教えられた。そのとき、奥のほうで男女の口論が聞こえてくる。原画のキャラクターを捉えきれていないと指摘する麻子(貫地谷しほり)に対し、納得できない様子の堀内(田村健太郎)。そんなふたりの様子になつは驚き…。
56話ネタバレ
東洋動画スタジオ
仕上課
なつ「やっぱり すごいです。 こんな絵 こんな動き 私には描けません。」
仲「ようこそ アニメーションの世界に。」
なつ「仲さん 陽平さん。」
仲「作品のことを知りたければ こっちも見に来なよ。」
作画課
<彩色の仕事に就いた なつは 仕事終わりに 憧れのアニメーターの職場を訪ねました。>
なつ「そのパンダって動物 なまら かわいいです。」
仲「見たことあるの?」
なつ「いや 本物はないです。 その絵が かわいいんです。」
仲「じゃ 描いてみれば?」
なつ「えっ?」
仲「ほら あの箱の中に 書き損じが入ってるから それなら いくらでも持ってっていいよ。」
なつ「これは動画ですか?」
下山「いや これは原画に近いもんだね。 あの~ こういうさ ラフな原画を できるだけ きれいな状態にしてから 動画を描く人に渡すんだ。 まあ 何せ ここで原画を描いてんのは 仲さんと井戸原さんの 2人しかいないから そんなに 手が回らないわけ。」
なつ「2人だけで…。」
下山「本当のアニメーターと呼べるのは まだ この2人しかいないからねえ。」
なつ「アニメーター いいですね…。」
井戸原「まあね。」
仲「大げさだな 下山君。」
<アニメーションというのは まず 2枚以上の原画が描かれ その原画と原画の間の動きをつなぐ 動画が 何枚か描かれて 1つのカットになります。 1万枚以上にもなる原画を たった2人で描くというのは 大変なことであります。>
下山「まあ だから 僕も含めた6人が セカンドに回されたってわけ。 っていうか 僕たちだって新人だよ。 それを 仲さんたち原画との間に立って 動画を描く人を指導するんだから。 ま いわば ここでは新人が 新人を育ててるようなもんなんだよ。」
なつ「へえ…。」
麻子「分かんない? できてるか できてないかじゃないんです。 いいか悪いかなの!」
堀内「だから 悪いなら どこが悪いか言ってくれよ! こっちは 指示どおりに 描いてるだけなんだからさ。」
麻子「その指示に従って 自分で考えるのが 動画を描く人の役目でしょ? これじゃ 何にも伝わってこないんです。」
堀内「それは むしろ 原画の問題じゃないの? 原画を こっちで直しちゃいけないのに こっちにばかり 文句を言われても 納得がいかないよ。」
麻子「その原画のキャラクターを 捉えきれてないような気がするんです。 分かんない? とにかく もう一度 考えてみて。 お願いします。」
下山「彼女も 僕と同じセカンドの マコちゃん。」
おでん屋・風車
1階店舗
なつ「ただいま。」
亜矢美「あっ お帰りなさい。 どうだった?」
なつ「うん疲れたけど なかなか楽しかったです。」
亜矢美「そう。 で こっちは…?」
なつ「あっ… この服も褒められました。」
亜矢美「ようござんした。」
なつ「ハハ…。 いらっしゃいませ。 何か お手伝いしましょうか?」
亜矢美「大丈夫。 大した客じゃないから。」
師匠「おい おい おい おい…!」
亜矢美「あっ それよりさ 奥に ごはん作ってあるから それ食べて お風呂行ってらっしゃいよ。 疲れ とらないと。」
なつ「すいません… ありがとうございます。 あの お兄ちゃんは?」
亜矢美「まだ まだ まだ まだ。」
師匠「ちょっと 何 ママ ママ ママ… 何? ママよ… ママの娘なの?」
亜矢美「まあね アッハッハッハ。」
師匠「上に お兄ちゃんもいるの?」
亜矢美「ああ 咲太郎ですか。」
師匠「えっ?」
亜矢美「咲太郎。」
師匠「咲太郎… 咲ちゃんか! 咲ちゃん 知ってるよ 俺。」
亜矢美「咲ちゃん 知ってんの?」
師匠「知ってるよ。 落語なんか やんねえかなと 思ってんだよ。 あと 合ってるとおもうは『抜け雀』。」
1階居間
なつ「わあ!」
1階店舗
弟子「『抜け雀』… 私 まだ教わってませんけど。」
師匠「おめえは いいんだよ…。 あのね 小田原の宿やでね 7日逗留した客が 一文無しだったんだ。 家賃の代わりに 雀の絵を5羽描いたんだな。 ところがさ 翌朝んなってみると ついたてから その雀が いなくなっちゃってんだよ。」
亜矢美「あら。」
師匠「なぜか?」
弟子「餌をついばむために 絵の中から 雀が抜け出したから。」
師匠「一流の芸術てえものはね 魂がこもって 描いた絵が動き出すんですよ。 ねえ。」
亜矢美「はあ~。」
2階なつの部屋
<なつは 早速 作画課で拾った絵を書き写し その技術を学ぼうとしました。>
咲太郎「なつ。」
亜矢美「なっちゃん 風邪引くよ。」
咲太郎「よいしょっと…。」
亜矢美「おやすみ。 何? それ。」
咲太郎「ん? 知らない。 タヌキか?」
翌朝
なつ「ちょっと派手じゃないですか?」
亜矢美「全然。 これくらいじゃないと。 何事もね 最初が肝心だから。 あっ この人は しゃれてんな… ってのも 最初の第一印象で決まっちゃうんだから。 初日はね ちょっと遠慮しちゃったんだけど 今日から これが私よ ビラビラビラッていかないと。」
なつ「かえって 印象悪くないですか? 新人なのに。」
亜矢美「うん? だって おしろい 塗ったくってるわけじゃないんだから ツルツル スベスベ サラサラ… はい 胸張って! 元気出して 行ってらっしゃい!」
なつ「はい 行ってきます!」
亜矢美「靴は 赤にしよう。」
なつ「赤? お兄ちゃん 行ってきます。」
咲太郎「は~い… 行ってらっしゃ~い。」
東洋動画スタジオ
仕上課
桃代「えっ 新宿に住んでるの?」
なつ「はい。 居候ですけど。」
桃代「それじゃ 毎日 遊びに帰ってるようなもんじゃない。」
なつ「遊んでませんよ。」
桃代「そんな おしゃれして。」
なつ「これは たまたま… お下がりなんです。」
桃代「生まれたのも新宿?」
なつ「生まれたのは 日本橋の方です。 それから 北海道で育ちました。」
桃代「北海道?」
なつ「戦争で 両親を亡くしたんです。 そんで 北海道の知り合いの家に 引き取られたんです。」
桃代「へえ… 苦労したんだ。」
なつ「それが 全然 苦労はしてなくて…。 北海道が快適すぎました。」
桃代「ここでは たくましい方よ きっと。 ここは 割と お嬢さんが そろってるからね。」
なつ「そなんですか?」
桃代「うん。 まるで 会社が いい花嫁になりそうな人を 選ん集めてるみたい。」
なつ「どうしてですか?」
桃代「その方が面倒ないでしょ。 いくら 給金が安くても お金に困らない 花嫁修業中のお嬢さんなら 文句言われないでしょ。」
なつ「モモッチさんもですか?」
桃代「私は違うわよ。 お金には困ってるもの。 まあ でも 実際 みんな 遊びに来てるようなところがあるからね ここには。」
(笑い声)
山根「あんまり分かりませんけど アッハハハハ…。」
なつ「そなんですか…。」
<なつは 時間さえあれば 絵コンテを見返して 『白蛇姫』の世界を想像しました。>
なつ<『白蛇姫』は 中国の古いお話。 許仙(しゅうせん)という若者は 胡弓(こきゅう)を弾きながら 子分のパンダと 楽しく暮らしていた。 ある日許仙は 市場で 見せ物にされていた白い蛇を かわいそうに思い それを買って 逃がしてやる。 その時 許仙に恋をした白蛇は ある嵐の晩に 美しい人間の娘 白娘(パイニャン)に変身する。 そして 2人は 深く恋に落ちていく。>
なつ<その時 許仙に恋をした白蛇は ある嵐の晩に 美しい人間の娘 白娘(パイニャン)に変身する。 そして 2人は 深く恋に落ちていく。 ところが 白娘が 化け物と知った 法海(ほっかい)という偉い人がいて 兵隊を 2人に差し向ける。 許仙だけが捕らえられてしまい 白娘は嘆き悲しみ 許仙に会いたい一心で 追っていこうとする>
なつ<白娘の恋は 報われない悲劇なのか…>
作画課
なつ「それは 白娘と兵士が戦うシーンですね。」
下山「分かる?」
なつ「悲しい恋の話なんですよね 『白蛇姫』って。」
下山「おっ 勉強してるね。 まあ だからこそ こういう戦いのシーンは 面白くしたいんだよね。」
なつ「面白そうですね それ。」
下山「立ち回りはね 僕 得意だからね…。」
なつ「ハハハ…。 私も いつか 描いてみたいです。」
下山「え 描いてみる?」
なつ「えっ?」
下山「僕だって 家に帰ってから 練習してるんだよ 今でも。 ゴミ箱から拾って 先輩の絵を どんどん模写して 自分なりに描いてみるといいよ。」
なつ「はい。」
下山「うん。」
なつ「ありがとうございます。」
なつ「あ… すいません。」
麻子「やっぱりダメです。 やり直して下さい。」
堀内「だから どこがダメなの?」
麻子「表情が死んでるように思うんです。」
堀内「表情? 原画と同じように描いてるつもりだよ。」
麻子「だから ダメなんじゃないですか? 表情を変えずに 泣き崩れたって 何も伝わってこないんですよ。」
堀内「だったら その表情を 原画で描くべきだろ。」
麻子「動画は ただのつなぎじゃないでしょ? それじゃ面白くないでしょう? やってて面白いの? これは 戦いに敗れた白娘が 白蛇に戻ることを知って 許仙を思って泣くシーンでしょ? それを思って動かしてよ!」
堀内「う~ん…。」
麻子「もういい。 ここ 私がやる。」
中庭
麻子「何なの? あなた。」
なつ「あっ…。」
麻子「何しに来てんの? ここに。 結婚相手でも探しに来てんの?」
なつ「えっ?」
麻子「そんな おしゃればっかり気ぃ遣って。」
なつ「あ いや これは…。」
麻子「それしか考えてないんでしょ? 会社の男は みんな 自分のものみたいな 顔しちゃって。 将来の旦那に会いたいって気持ちが にじみ出てんのよ その顔から!」
なつ「はあ!?」
麻子「男 探しに来てるだけなら 目障りだから 私の前 うろちょろしないでちょうだい。」
なつ「えっ…。 はあ…。 何だべ 今の…。」
<なつよ それは 初めて味わう 何と言うか… 会社の人間関係?」
なつ「ええ…。」