ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第58話「なつよ、絵に命を与えよ」【第10週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)が仕上課に戻ってくると、机に置いていた動画用紙がなくなっていた。麻子(貫地谷しほり)が作画課に持っていってしまったという。なつは、慌てて麻子のいる作画課に向かうと仲(井浦新)や井戸原(小手伸也)たちが動画用紙を取り囲んでいた。そして、麻子が興奮気味に堀内(田村健太郎)に何かを話していて…。

58話ネタバレ

東洋動画スタジオ

仕上課

なつ「絵コンテ どうなってたっけ…?」

麻子「勝手に拾ったのね。」

中庭

下山「マコちゃんは アニメーションにとって 一番大事なものを 最初から 感覚として分かってる人なんだ。」

なつ「それは 何ですか?」

下山「命を吹き込むことだよ。」

仕上課

なつ「モモッチさん。」

桃代「ん?」

なつ「ここにあった動画 知りませんか?」

桃代「動画?」

なつ「紙です。 下手な絵が 描いてあったと思うんですけど…。」

桃代「さあ…。」

富子「それなら 大沢さんが持っていったわよ。」

なつ「大沢さんって マコさんって呼ばれてる人ですか?」

富子「そうよ。 本当は あさこっていうんだけど。 あなた あれ 勝手に作画の部屋から 持ってきちゃったんだって?」

なつ「あっ いや あれは…。」

富子「あれは 何でも 大事なラフだったらしいわよ。」

なつ「ええっ!?」

作画課

井戸原「なるほど…。」

麻子「どうですか?」

井戸原「これを 堀内君が描いたの?」

麻子「だと思いますが…。」

井戸原「うん…。」

麻子「すいません。 堀内君! 堀内君 ちょっと…。」

堀内「何ですか?」

麻子「これ あなたが描いたのよね?」

堀内「は?」

麻子「前に描いて あの箱に捨てたもんでしょ?」

堀内「どうして これが?」

麻子「どうも 仕上の子が 拾ってったみたいなのよ。」

堀内「ど… どうして仕上が?」

麻子「知らない そんなことまでは。 でも どうして捨てたの? これ。 いいと思う 私は。 これ すごくいいと思う! ただ中割で きれいに動きをつなぐだけが 動画の仕事じゃないんだもの。」

麻子「こんなふうにしていいのよ。 泣く直前に 一瞬 何かを振り向いて まだ戦う目をしながら泣き伏せる。 これよ。 これが中割に入ることで 見る人に 白娘の気持ちの伝わり方が 全然違うでしょ! この強くて恨みがましい目が入ることで 蛇に戻りかけた白娘の悲しみが 際立つじゃない。 戦いに敗れても まだ納得がいかず 許仙は 自分のものだと言いたげに 何より 許仙に会いたいという気持ちが にじみ出てんのよ この顔から!」

麻子「あれ… 前に 誰かに 同じようなこと 言ったような気がするけど…。 ま いいか。 この顔が泣くから より一層 白娘の絶望が伝わってくるのよ。 私が言いたかったのは こういうこと。 ただのきれいな中割は 動きを正確に見せるためには 必要なことだけど 感情表現においては ただの記号にしかならないこともある。 それ 分かってたんじゃない 堀内君も。」

麻子「これは ただの遊びで 描いただけかもしれないけど 私は これを ずっと望んでた!」

堀内「僕じゃないよ。」

麻子「ん?」

堀内「僕が描いたんじゃない。 僕は こんな稚拙な絵は描かないよ。」

麻子「だって これ ラフでしょ?」

堀内「ラフでも こんな絵は描かない! こんな絵を描いたと思われたら心外だよ!」

麻子「じゃ 誰が描いたの?」

なつ「あっ あの…。」

下山「なっちゃん。」

麻子「まさか…。」

なつ「すいません… それは 私が描きました。」

仲「なっちゃんが描いたのか!」

下山「えっ… どれどれ? 見して。 えっ?」

仲「なるほどね。」

下山「いや よく気付きましたよね この表情に!」

仲「うん…。 あっ 井戸原さん。」

井戸原「うん?」

仲「彼女は 今 仕上にいるけど 本当は アニメーター志望なんですよ。」

井戸原「あ そう…。 いや~ 原画を描いた僕にも その発想はなかったわ。」

麻子「どうして描いたの?」

なつ「すいません! 人に見せるつもりで 描いたんじゃないんです。 勉強のために 勝手に ここから拾って描きました。 絵を なぞっているうちに そうしてみたくなったんです。」

麻子「だから どうして そうしてみたくなったの?」

なつ「どうして? 白娘の気持ちになっているうちに そうなったんです。 あ… 私 高校の演劇部で 偶然 白蛇の化身を 演じたことがあるんです。 その時に 自分の経験から 想像して 自分の魂を動かして 演じなくちゃいけないと 先生から教わったんです。 だから その顔は…。」

なつ「自分は ただ 許仙が好きなだけなのに それを周りから どうして悪く思われなきゃいけないのか そういう怒りが 自然と湧いてきたんです。 白娘は ただ 許仙が好きなだけですよね? 本当は 誰も傷つけたくはないし…。」

麻子「もう分かったわよ! 勝手に勉強してたってことでしょ。」

井戸原「ハハハハ…。 堀内君。 君も なかなか正直でよろしい。」

堀内「は?」

井戸原「君の絵も 純粋な絵だと 僕は思ってるんだよ。 発想のしかた一つで いくらでも変わることはできるはずだ。 技術はあるんだから。 この絵は 今の君とは正反対だ。 これを 君のきれいな線で クリーンナップしてくれないか? 動画として完成させてほしい。 これ 使ってもいいよね?」

なつ「はい… ありがとうございます。」

井戸原「はい。」

なつ「堀内さん 勝手にすいませんでした! どうか よろしくお願いします!」

堀内「それが 僕の仕事ならやりますよ。」

井戸原「それがいいよね。」

仲「なっちゃん もう仕上に戻りなさい。 今は 仕上が 君の大事な仕事なんだからね。」

なつ「はい。 失礼します。」

仕上課

富子「奥原さん どうだった?」

なつ「はい すいません。 ちゃんと謝ってきました。」

富子「あなた どういうつもりなの? 勝手に 動画を持ち出して。」

なつ「私は ただ 動画の勉強がしたくて…。」

富子「仕上は やりたくないというわけじゃ ないでしょうね?」

なつ「そんなことありません。」

富子「だったら 今は彩色の仕事に集中しなさい。」

なつ「はい。 すいませんでした。」

桃代「大丈夫?」

なつ「はい。」

桃代「ただの塗り絵かと思ってたけど そうじゃないのよね これも。」

なつ「えっ?」

桃代「私も ちゃんと動画映画のことを 勉強したいと思えてきたわ あなたを見て。 だって 楽しそうなんだもの。」

なつ「楽しいですよ! 私も 今日 初めて その楽しさが 少し 分かったような気がしたんです。」

桃代「今日? 何があったの?」

なつ「いや… 今は 彩色に集中しないと。」

桃代「私 子どもの頃から 絵を見るのも描くのも好きだったのよね。 普通の高校で 美術部でもなかったんだけど…。 だから 絵を仕事にできるなんて 思ってなくて。」

なつ「絵を仕事にしてるじゃないですか。」

桃代「そうなのよね… してるのよね。 だったら 自分にも もっと 何か できることがあるのかなって…。」

なつ「ありますよ。 モモッチさんは そんなに上手じゃないですか。 楽しさに限りはないと思うんですよ どんなことでも。 ただ… 自分に それを求めるかどうかの違いで。 だって 日本のアニメーションは まだ始まったばっかりなんですよ。」

桃代「あなた 自分のやりたいことに対しては 割と ずうずうしいのね。」

なつ「はい。 そういうとこ 開拓者のじいちゃんに鍛えられたんです。 やるとなったら もうやるしかないしょ。 ああ…。」

桃代「ちょっと 何やってんのよ!」

所長室

仲「どうですか? 露木さん。」

露木「ん? うん いや いいと思うよ。 けどね 演出の立場から 言わせてもらいうと 演出や原画に指示されてないことを 動画の子が 勝手に描くっていうのは どうなんだろうな。 こういうことを許したら 悪い前例にもなりかねない。」

仲「いや しかし 原画を 2人でこなしてる以上 実際 手が回らなくなることもありますよ。 そこを 動画に 補ってもらうことがあっても しかたがないんじゃないですか?」

山川「人手不足は分かるけどさ だからといって 仕上に入ったばかりの子を そうすぐに 作画に移すというのはね…。」

仲「もともと 彼女は 6月のアニメーターの試験に 受かってたはずなんです。」

井戸原「大杉社長に反対されたんだろ?」

仲「いや それは誤解されただけですよ。 身内に 変な人がいるって…。 でも その誤解は解けたんです。」

山川「解けてはいないよ。 仕上に入れる時に 大杉社長に お伺いを立てたけど 社長は 見事に そのことを忘れていただけだ。」

仲「それなら そのまま 忘れていてもらいましょう。」

山川「しかし この絵は ほかの人が クリーンナップしたんだろ?」

井戸原「はい 僕の下の堀内君が。 彼女の描いた絵は こっちのラフです。」

露木「あっ ちょっと貸して 見して。 はいはい…。 えっ… これがラフかい…。 まるで素人の絵じゃないかよ。」

仲「絵のうまい下手なんて 描いていくうちに 上達しない人はいませんよ。 だけど センスは… まして 十九 二十歳の感性は 今しか使えないものでしょう。 彼女を 今から鍛えれば どこまで伸びるか分からないと 僕は思うんですよ。」

露木「仲ちゃんが そこまで言うのなら どうだろう? こうしたら もう一度 試験を受けてもらうんだよ。」

仲「えっ?」

<そして その翌日の昼休みです。>

喫茶店・リボン

<なつは 仲さんに呼ばれて ランチをごちそうになりました。>

仲「君を もう一度 試験しようと思っている。」

なつ「えっ?」

仲「社内部の試験だ。 それに受かったら 君を アニメーターにする。 どうする?」

なつ「やります。 やらせて下さい!」

<なつよ… まずは 口を拭け。>

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