ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第59話「なつよ、絵に命を与えよ」【第10週】

あらすじ

仲(井浦新)からアニメーターになるための試験を受けないかと言われたなつ(広瀬すず)。以来、ひと月後に迫った試験のため、寝る間も惜しんで絵を描き続ける。それに伴い、セル画に色を塗る仕事も上達し始める。ある日の昼休み、中庭で人々の似顔絵を描いているところに、陽平(犬飼貴丈)が駆け寄ってくる。なつに告げたのは、十勝で農業をしながら絵を描き続ける幼なじみ天陽(吉沢亮)に関する知らせだった…。

59話ネタバレ

喫茶店・リボン

仲「君を もう一度 試験しようと思っている。 それに受かったら 君を アニメーターにする。」

なつ「やります。 やらせて下さい!」

仲「ただし 条件は 6月に入った者と同じだ。」

なつ「条件?」

仲「普通は 6か月の養成期間の中で 2か月ごとに 能力審査を行って それに合格した者から 動画を任せることにしてるんだ。 君の場合は 特別だから 今 うちにいる そういう養成中の者と比べて 君の能力を 測ろうということになったんだ。 次の試験は 12月だ。 もう あと1か月ぐらいしかない。」

なつ「受けさせてもらえるだけで ありがたいです。 うれしいです。 ありがとうございます。」

仲「やってみるか。」

なつ「やってみます!」

<よかったな なつ。 まずは 口を拭け。>

おでん屋・風車

1階店舗

なつ「ただいま。」

雪次郎「あ お帰り。」

亜矢美「お帰り。」

なつ「雪次郎君! 何してんの?」

雪次郎「客だべさ。 あらららららら なっちゃん 随分あか抜けたもな。」

なつ「そ言ってくれんのは 雪次郎君だけだ。」

亜矢美「せっかくだからさ なっちゃんも ここで 一緒に ごはん食べたら?」

なつ「いや~ 雪次郎君と のんびりしてる時間はないんだわ。」

亜矢美「あららら…。」

雪次郎「あらららららら…。」

亜矢美「また試験受けんの?」

なつ「今回は特別なんです。 特別に許されたんです。」

亜矢美「てことは チャンスをつかんだってわけね?」

なつ「そう チャンスです!」

雪次郎「チャンスか… いいな。 なっちゃんが羨ましい。」

なつ「なしてよ?」

雪次郎「俺は 一人息子だ。 跡取りだべ…。 いつか帰るしかないもね。」

なつ「帰りたくないの?」

雪次郎「チャンスか…。」

咲太郎「ただいま。」

雪次郎「あっ 来た! 待ってました!」

咲太郎「ドサ回りの役者か 俺は。」

亜矢美「よっ 咲太郎! 名前が ぴったりだ。」

雪次郎「いい名前ですよね 役者として。」

咲太郎「雪次郎に言われたくねえよ。」

亜矢美「雪次郎 咲太郎 よっ ご両人! 旅回りの看板役者。」

咲太郎「今の俺は新劇だ。 あっ 雪次郎 いいところに来た。 来年の春公演のポスターが出来たんだ。」

雪次郎「えっ!」

咲太郎「これだ!」

雪次郎「『人形の家』! イプセンの名作ですよね! 初演は明治なんですよね!」

咲太郎「お前 すごいな。 よく勉強してるな。」

なつ「ねえ 人形の家って ちっちゃい家なの?」

雪次郎「そういう意味じゃないわ なっちゃん。 芝居の大きなテーマだ。」

咲太郎「母ちゃん 貼っていいか?」

亜矢美「母ちゃんが貼ってあげようかい…。」

雪次郎「俺 絶対見に行きます!」

咲太郎「おう。 チケットは任せろ。 30枚は売らせてやるよ。」

雪次郎「えっ?」

咲太郎「えっ?」

雪次郎「えっ?」

咲太郎「えっ?」

雪次郎「えっ… ん? あっ びっくりした 30回 見に行くのかと…。」

2階なつの部屋

<それから なつは試験に向けて 寝る間を惜しんで勉強をしました。>

東洋動画スタジオ

仕上課

<やる気の余波なのか 不思議と 彩色の仕事も上達していくようでした。>

作画課

<試験の教材集めにも 余念がありません。>

中庭

麻子「アニメーターになりたかったのね。」

なつ「あ… はい。」

麻子「早く言ってよ。 恥かいたじゃない。」

なつ「えっ?」

麻子「あなたに… 恥ずかしいこと言ったでしょ ここで。 男の人に会いたい気持ちが にじみ出てんのよとか何とか…。」

なつ「けど 私の白娘にも おんなじこと言ってくれました。 にじみ出てるって。 あん時は うれしかったです。」

麻子「そんな おしゃれなんかしてるから いけないのよ。」

なつ「いや マコさんだって 十分おしゃれじゃないですか!」

麻子「あなたのおしゃれと 一緒にしないで。」

なつ「あ… そうですよね。 美大出てるんですもね。 十勝農業高校の私とは違いますもね。」

麻子「ハハハハ…。 ハッ 自慢してるみたい。」

なつ「えっ?」

麻子「あなた 自分が田舎者だってことに 自信持ってるでしょ。」

なつ「どんな自信ですか? それって。」

麻子「ハハハハ…。 うちの試験 受けんだって?」

なつ「はい。 あ それも マコさんのおかげです。」

麻子「あの絵で? あなたには無理よ。」

なつ「何だべ…。 油断大敵…。」

陽平「なっちゃん!」

なつ「あ 陽平さん。」

陽平「どう? 順調?」

なつ「はい…。 とにかく もう やるしかないしょ!」

陽平「天陽も やったよ。」

なつ「えっ?」

陽平「天陽が 帯広の展覧会に絵を出品して 賞をもらったって。」

なつ「ええっ!」

十勝美術展

(拍手)

天陽「え~ ありがとうございます。 山田天陽です。 え~ 僕は 絵を描きながら 畑を耕し ジャガイモを作ったり そばを作ったりしています。 え~ 牛飼いもして 牛乳も売っています。 今日も早く帰って 搾乳をしなくちゃなりません。」

(笑い声)

天陽「え~ 生きるために 必要なことをやっています。 絵を描くことも おんなじです。 ただ 畑を作る作物や牛乳は その時々で 値段が違います。 それを 受け入れなくちゃなりません。」

天陽「でも… 僕の絵だけは 何も変わらないつもりです。 これからも 社会の価値観とは全く関係ない ただの絵を 描いていきたいと思っています。 え~ 本日は ありがとうございました。」

(拍手)

なつ<天陽君 おめでとう。 私もうれしいです。 やっぱり 受賞したのは 馬の絵だと聞きました。 天陽君が ベニヤに描いた馬の絵 それは 今の私にとっても 大きな憧れ 大きな目標になっています>

山田家

居間

タミ「なっちゃんから手紙来てたわ。」

天陽「ん? そう。」

タミ「読まねえの?」

天陽「うん 後でいい。」

正治「なっちゃん 正月も帰らんのかな。」

タミ「漫画映画の仕事が忙しいから 陽平も帰れんて 今年も また。」

正治「俺たちが東京行くか 3人で。」

天陽「牛を連れていけねえべ。 一日でも うちを空けんのは無理だ。」

正治「そりゃそうだわ。」

タミ「もう 私たちは ここから動けんのよ。 分かってる? 天陽。」

天陽「分かってるって…。」

タミ「牛のことじゃなくて なっちゃんのこと。」

天陽「ん?」

タミ「十勝に戻らない覚悟をして なっちゃんは行ったんでないの。 あんたの気持ちも分かっていながら 捨てたんでしょや。」

正治「おい…。」

タミ「それなのに あんたが 一人で待つことないからね。」

天陽「待ってねえべ…。」

タミ「本当かい?」

天陽「そんな心配すんなや。」

正治「だったら お前も早く見つけろ。」

天陽「えっ?」

正治「この土地で 絵を描くにしても 一人で生きていく覚悟はできねえべ。 それは つらすぎる。 俺や母さんは お前らがいたから なんとか やってこられたんだ。 お前も 早く お前の家族を作れ。 母さんが言いたいのは そういうことだべ。」

タミ「天陽 なっちゃんのことは もう忘れてちょうだい。」

馬小屋

天陽<なっちゃん ありがとう。 こっちでは もう初雪が降って 畑も真っ白くなり 絵を描く時間も増えました。 人に認めてもらうために 描いているわけではないけど 人から認められることは やっぱり大きな喜びですね>

なつ<私の描く絵は 人から認めてもらわなければ 何の価値もありません。 だけど それは おいしい牛乳を 飲んでもらいたいという気持ちと 少しも変わらないような気がします。 私は 単純すぎるのかな>

天陽<俺も 単純に 好きな絵を描きたいと 思ってるだけだよ なっちゃん。 だけど それは 世の中で一番難しいことかもしれない。 泰樹さんのように ただ 荒れ地を切り開くために 俺は ベニヤに向かいたいと思ってる。 なっちゃんも 試験頑張って>

東洋動画スタジオ

昭和31(1956)年12月

試験会場

井戸原「はい お疲れさまで~す。 え~ 6か月の養成期間の中で これが 最後の試験になります。 課題は これまでと同じです。 今日一日8時間で どこまでの動画を描けるか。」

井戸原「いろんな動きを描いてもらい そのデッサン力や 線のきれいさを採点します。 枚数も 15枚以上描かなければ 合格できません。 君たちは 既に6か月を費やしてるんだからね。 まあ 1人を除いて アッハハハハハ…。」

仲「奥原さんは 今 仕上にいますが 今回は 特別に 皆さんと同じ条件で 試験を受けることになりました。」

なつ「あ… よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

井戸原「それでは 始めて下さい。」

<なつよ 頑張れ。 だけど 丁寧にな。>

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