ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第62話「なつよ、アニメーターは君だ」【第11週】

あらすじ

咲太郎(岡田将生)に誘われ、劇団「赤い星座」の舞台を見にいったなつ(広瀬すず)と雪次郎(山田裕貴)。終演後、2人は咲太郎の案内で主演女優の亀山蘭子(鈴木杏樹)を紹介してもらう。風車に帰っても、なつの熱は覚めやらず興奮気味に亜矢美(山口智子)に報告。雪次郎は、周囲が驚くほどに冷静な視点で、物語について語り始める。そしてなつは、アニメーションの仕上げの新しい仕事であるトレースに挑戦する。

62話ネタバレ

東洋動画スタジオ

仕上課

富子「はい… オッケーです。」

山根「ご苦労さまでした!」

<『白蛇姫』の仕上げが やっと終わった その日 北海道から 照男君と砂良さんが 新婚旅行にやって来ました。>

おでん屋・風車

玄関

なつ「砂良さん 幸せになってね。」

照男「心配すんな それは 俺がついてんだ。」

なつ「頼むぞ 照男兄ちゃん。」

砂良「これからは 私も待ってるからね なっちゃん。 家族と一緒に。」

なつ「うん ありがとう。」

劇団・赤い星座

ホール

<それから 間もなくして 咲太郎の劇団の公演が幕を開けました。 なつは 東京で 初めて 本物の舞台を見たのです。>

「何百万という女は それをしてきたのです。」

「そんな だだっ子のようなことを 言うもんじゃない。」

「そうかもしれません。 けど… 私は 今 この時に目覚めたのです! この8年間 私は 見ず知らずの他人と この家で過ごし その人と 3人の子どもまで作った…。 ああ… そのことを考えると 私は耐えきれず この身を引き裂きたくなるのです!」

「ノラ! 私が どう言っても 私は もう 他人以上にはなれないのか!」

「もし 本当の奇跡が起こるなら…。」

「本当の奇跡? それは何だ?」

「私たち2人が すっかり変わって…。 いいえ 私は もう 奇跡なんか信じない!」

「私は信じる! 私たちは変われる!」

「私たちの生活が 本当の結婚になるなら…。 さようなら。」

「ノラ…! ノラ! 奇跡! 奇跡だと!?」

楽屋

咲太郎「はい。」

「また 声かけるから…。」

咲太郎「よろしくお願いします。 よう! どうだった?」

なつ「いかった お兄ちゃん! 何て言うか… 本当に いかった!」

咲太郎「そうか。 雪次郎は?」

雪次郎「はい… 俺は 見ている間 ずっと 体が熱かったです。」

咲太郎「風邪でも ひいたのか?」

雪次郎「いえ… そういうんでなくて…。」

咲太郎「分かってるよ。 な いい芝居だろ?」

なつ「うん。 亀山蘭子さんって女優さんが 本当にすごかった。」

咲太郎「おう 紹介してやるよ。 せっかくだから会ってけ。」

なつ「えっ? い… いいの!?」

雪次郎「えっ えっ えっ…。」

なつ「えっ…。」

(ノック)

咲太郎「蘭子さん お疲れさまです。 ちょっと いいですか?」

蘭子「はい。」

咲太郎「蘭子さん 俺の妹なんです。」

なつ「あ…。 奥原なつです。」

蘭子「あれ 咲ちゃん 家族いた? 孤児院で育ったんじゃなかったっけ?」

咲太郎「育ってはいませんよ。 一時 いただけです。 その時 妹もいたんです。 それから すぐ バラバラになって 9年ぶりに再会して 今 一緒に暮らしてます。」

蘭子「まあ… 新派になりそうなお話ね。 どうでしたか? 舞台は。」

なつ「あ… いかったです! 何て言うか… 本当にすごかったです。」

咲太郎「よかったと すごかったしか言ってないぞ お前。」

なつ「いや ほかに言葉が浮かばなくて…。 あ… 絵に描きたいと思いました。」

蘭子「え?」

咲太郎「あ… なつは 漫画を描いてるんです。」

なつ「漫画映画です。 それに まだ描いてません。 あっ でも この感動は 絵には描けないかなとも思いました。 それくらい すごかったです。」

蘭子「何だか とても こんがらがった感想ね。 フフフフ…。」

なつ「すいません…。」

蘭子「でも ありがとう。 うれしいわ。」

なつ「こちらこそ。」

咲太郎「それから こいつは なつの友達で 北海道の農業高校で 演劇をやってたやつなんです。」

雪次郎「あ… 小畑雪次郎です!」

蘭子「演劇部だったの?」

雪次郎「はい。」

蘭子「へえ… どうでしたか?」

雪次郎「はい。 本物は… 普通なんだと思いました。」

蘭子「えっ?」

咲太郎「お前 何言ってんの?」

雪次郎「あっ 普通っていうのは 普通の人が まるで そこにいるみたいというか そういう アマチュア精神を感じるというか…。」

咲太郎「お前 失礼だろ!」

雪次郎「あっ いえ 普通の人が言いたい言葉を 代弁するというか 伝えるの力が プロなんだと思ったんです。 あの 別に スターとかじゃなくて 普通の人間だから 伝わる精神を持ってるのが なまら すんげえ俳優なんだと 思いました。 それが新劇なんだと思いました。」

咲太郎「すみません 蘭子さん こいつの感想も こんがらがってます。」

雪次郎「すいません…。」

蘭子「あなた 今 何をしてらっしゃるの?」

雪次郎「はい… 新宿の川村屋で お菓子作りの修業をしています。」

なつ「雪次郎君の家は 帯広で お菓子屋さんをしてるんです。 お菓子と おんなじくらい 雪次郎君は 本当に芝居が好きなんです。」

蘭子「そう…。 それで よく 芝居をやめられたわね。 今日は どうも ありがとうございました。」

なつ「ありがとうございました!」

咲太郎「お疲れさまでした!」

蘭子「お疲れさま。」

なつ「どしたの? 雪次郎君。」

雪次郎「いや…。」

<なつたちにとって この出会いも また 一つの運命かもしれません。>

おでん屋・風車

1階店舗

なつ「びっくりしました。 人形は出てこないんです。 人形は奥さんなんです。 子どもの頃 父親に 人形のようにかわいがられてて 大人になってから 旦那さんに 人形のようにかわいがられてた奥さんが 最後に 目が覚めたと言って 家を出ていってしまうんです!」

亜矢美「うんうん… 確か そういう話だ。」

咲太郎「目覚めることが この芝居のテーマなんだから。」

なつ「私は 無理やり 家を出ようとした時 母さんに たたかれたことがあった。 そんで 目が覚めた。」

咲太郎「お前の場合は 牛の家だろ。 牛は たたけばいいが 人間は そうはいかないからな。」

なつ「牛だって たたいちゃダメだ。」

亜矢美「うんだ うんだ。」

咲太郎「長い間 女は家の中に閉じ込められてきた。 それを 解き放とうという運動なんだよ この芝居は。」

雪次郎「運動なんかじゃないです。」

咲太郎「えっ?」

雪次郎「芝居は 運動なんかじゃないです。」

亜矢美「あれ… 何か いつもと目が違わない?」

雪次郎「演劇や文学の目的は 問題の解決にあるんじゃないと イプセンは言っています。 その目的は 人間の描写です。 人間を描き出すことです。 イプセンは 詩人や哲学者として それを描いたんです。 そして それを見た観客も 詩的や哲学的になることなんですよね。」

亜矢美「キャ~ 見事に そのとおりになってる。 ね ね ね…。」

咲太郎「お前 よく勉強してんな 本当に。」

雪次郎「いや いくら本を読んでも 分からなかったことが あの人の演技を見て よく分かったんですよね。 実感できたんです。」

亜矢美「亀山蘭子?」

雪次郎「はい。」

なつ「人間の描写か…。 うん… あんな芝居も 絵に描けたら すごいな。」

2階なつの部屋

<なつは 蘭子さんの芝居を思い浮かべて 『白蛇姫』のワンシーンを 描きたくなりました。>

回想

仲「結論から言うと 不合格でした。」

なつ「自分が描きたいものに 自分の手が追いついていかないんです。 自分が下手なんだって よく分かりました。 特に きれいな線を描こうとすると 全然ダメで それが悔しくて…。」

回想終了

<それからも なつは 動画の線をきれいに描く クリーンナップの練習を続けていました。 それが できなければ どんなに気持ちを込めても 使いものになりません。>

東洋動画スタジオ

仕上課

<作画から仕上げまで 『白蛇姫』の仕事が終わると なつたちは うそのように暇になりました。>

富子「時間のある今 この間に トレースの練習をします。 トレースは 見てのとおり 動画の線を崩さず セルに写し取ることです。」

富子「同じ仕上の仕事でも その技術は 年季が必要で 彩色より 向き不向きがあると思います。 自信があるっていう人はいますか? 誰も 挑戦したい人はいませんか?」

富子「奥原さん… あなたは 作画に行きたいんじゃなかったっけ?」

なつ「あ いえ… 作画になりたいとは思ってますが もちろん 仕上げも ちゃんとやりたいです。 仕上げで使える人間になりたいです。」

富子「自信があるの?」

なつ「う~ん… やってみなければ分かりませんが ずっと 動画のクリーンナップの練習を してたので きれいに線を描くのは 大丈夫だと思います。 というより… 思いたいです。」

富子「あら そう。 なら ここに座って やってごらんなさい。」

なつ「はい。」

富子「これを描いてみなさい。」

なつ「はい。」

富子「墨をすって そのペンで描いてみて。 正確にね。」

なつ「はい。」

富子「1回ごとに ペン先をスポンジで拭いて。」

なつ「はい。」

富子「へえ~。 なかなか うまいじゃない。」

なつ「ありがとうございます!」

富子「それじゃ もう一度 同じ絵を描いてごらんなさい。」

なつ「おんなじものを?」

富子「そう。」

富子「それじゃ もう一回 同じものを。」

なつ「はい…。」

富子「もう一回。 もう一回。 それじゃ もう一回。 それじゃ もう一回。」

<なつは 同じ絵を 10枚も描かされました。>

富子「それじゃ トレースしたセルを 全部重ねてごらんなさい。」

なつ「はい。」

なつ「ああっ…。」

<なつよ 線が ずれまくってるぞ。 まだまだってことだな。>

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