あらすじ
なつ(広瀬すず)はアニメーションのトレースという作業に挑戦する。簡単そうで難しい作業に改めてアニメーションの奥の深さを実感する。昼休み、なつが桃代(伊原六花)と話していると、アニメーターの下山(川島明)から、ファッションについて指摘される。驚くなつ。そしてなつは川村屋を訪れる。信哉(工藤阿須加)の取材した迷子のニュースを見るとなつは、妹の千遥のことを思い出す。
63話ネタバレ
東洋動画スタジオ
仕上課
富子「時間がある今 この間に トレースの練習をします。 トレースは 見てのとおり 動画の線を崩さず セルに写し取ることです。」
富子「なかなか うまいじゃない。」
なつ「ありがとうございます!」
富子「それじゃ もう一度 同じ絵を描いてごらんなさい。」
なつ「おんなじものを?」
富子「それじゃ もう一回 同じものを。」
富子「もう一回。 もう一回。 それじゃ もう一回。 それじゃ もう一回。」
<なつは 同じ絵を 10枚も描かされました。>
富子「トレースしたセルを 全部重ねてごらんなさい。」
一同「あ~…。」
なつ「ああっ…。」
富子「それと同じことを ここにいる トレーサーの西部さんにもしてもらいました。 それが これです。」
「すごい きれい…。」
富子「映画のフィルムは 1秒間に24コマです。 私たちが作っているアニメーションは 大半が セル画1枚を2コマずつ使って 12コマで出来ています。 その1秒間に 動いていない部分が これだけ動けば どうなりますか? しかし こっちも きれいに 一本の線に 重なっているように見えて 微妙に ズレがあります。」
富子「どんなに うまく描いても 完璧に重なることはないんです。 けど これが 絵に命を与えることになります。 動いていないように見えるところでさえも こうやって かすかに動いてるから 絵が生きてるように見えるんです。」
なつ「へえ…。」
富子「これが トレースの技術です。 それじゃ みんなも心して練習して下さい。」
中庭
桃代「なっちゃん 見事に いけにえにされちゃったね トミさんに。」
なつ「トミさん?」
桃代「あ… 会社で 石井富子を トミさんって呼べる人は限られてるけど 私たちは 陰で呼んでるの。 おトミさんとか。 まあ 腹が立った時は トミ公だけど。」
なつ「トミコー?」
桃代「うん。 あっ 本人に言っちゃダメよ。」
なつ「言えないってば。」
桃代「でも うまく描けた方なんじゃないの? 初めてにしては。」
なつ「う~ん… 子どもの頃 初めて 見よう見まねで 牛の乳を搾ったこと思い出したわ。 あん時は うまくいったんだけどね…。 やっぱり どんな仕事も 奥が深いんだわ。」
桃代「ねえ その服は自分で買ったの?」
なつ「え 買ってない。 これも 同居してる亜矢美さんの。」
桃代「いいわね。 給料安くて そんなに買えないもんね。」
なつ「モモッチは どんどん おしゃれになっていくべさ。」
桃代「安物で工夫してんのよ。」
なつ「モモッチ 色のセンスあるわ。」
桃代「なっちゃんのセンスに 合ってるだけでしょ。」
なつ「そうかも。」
桃代「なっちゃんは 今も 亜矢美さんに 服を選んでもらってるの?」
なつ「ん~… 選んでくれたのは 最初の1週間だけ。 あとは自分で磨けって。」
下山「2人とも よく頑張っているよ。」
なつ「びっくりした。」
桃代「下山さん。」
下山「今のところ まだ同じ服装を見たことない。 いや 同じ服は着てても 組み合わせは 必ず何か替えてる。 感心するよ ハハハハ…。」
桃代「どうして そんなこと分かるんですか?」
下山「ん? 証拠なら ここにあります。」
なつ「えっ 毎日描いてたんですか!?」
下山「うん。 だって 同じ服装が来たら やめようと思ってたら こんなことになっちゃった。」
なつ「いや そんなこと言われたら 明日から毎日 服 選ぶの難しくなるじゃないですか!」
下山「同じ服装で来たら 逮捕するからね。」
桃代「よし 逃げきってやるわ!」
下山「うん。」
なつ「モモッチ…。」
下山「バン! バン! ハハハ… 頑張って。」
桃代「逃げきろうね なっちゃん!」
川村屋
ホール
野上「いらっしゃいませ。」
なつ「お久しぶりです。」
野上「見る度に あなた 安っぽい芸術家のような 恰好になってきますね。」
なつ「えっ…。 服は変でも 芸術が安っぽいとは 限らないじゃないですか。」
野上「服は変だと思ってるんですね。」
佐知子「あっ なっちゃん! お帰りなさい!」
なつ「佐知子さん!」
野上「(せきばらい)」
佐知子「いらっしゃいませ。」
なつ「1人ですけど。」
佐知子「あいにくと今 満席でして…。」
<川村屋では 去年の暮れから テレビが置かれて ますます 商売繁盛しておりました。>
光子「あっ なっちゃん 久しぶりね。」
なつ「あっ マダム。」
光子「元気そうね。」
なつ「はい。 東京の兄も元気です。」
光子「誰も聞いてないわよ そんなこと。」
なつ「あっ マダムは『人形の家』 見て下さいましたから?」
光子「あ… 忙しくて無理ね。」
野上「チケットは買ってましたけどね 10枚も。」
なつ「えっ?」
光子「それは… 新劇好きのお客様に あげるためですよ。」
なつ「マダムは やっぱり 兄を…。」
光子「違うわよ! 恋じゃない!」
なつ「いえ… 応援してくれてるのかと思って。」
野上「実のところ 似た者同士だったりはしますね。」
光子「野上さんまで 何を言ってるんですか。」
信哉「こんにちは。」
光子「あら いらっしゃい。」
野上「いらっしゃい。」
信哉「なっちゃん!」
なつ「信さん。」
信哉「来てたんだ。」
なつ「うん。」
信哉「あっ ちょうどよかった。 もうじき テレビジョンで 僕が取材したニュースが流れるんだ。 一緒に見てよ。」
なつ「へえ~ 本当に?」
信哉「うん。」
テレビ『日夜 増幅し続ける街 東京。 そんな中 取り残されるのが 子どもたちの存在です。 東京の玄関口 上野では 毎月30人の迷い子が保護されます。 一日3回 駅を巡回しているのは 上野署の警察官たち。 この日も 駅で泣きべそをかいていた マツカワカツミちゃん 7歳に 声をかけました。 どうやら 離れて暮らす父親に 会いに行こうと駅まで来たものの 途方に暮れていた様子。 母親が迎えに来た瞬間 大粒の涙をこぼす カツミちゃん。 その姿に警察官も…』。
回想
千遥「お母さんに会いたい!」
なつ「大丈夫だってば!」
回想終了
テレビ『恋しくて しょうがなかった という感じで 何度も見つめ合う2人。 都会という名の砂漠を潤す家族の絆です』。
光子「これが 信さんのニュース?」
信哉「はい。 1年かけて 顔なじみの警察官も増えて やっと踏み込んだ取材が できるようになったんですよ。」
なつ「ねえ 信さん… お願いがあるんだけど。」
信哉「何?」
なつ「千遥を見つけたい。」
信哉「えっ?」
なつ「千遥の行方を捜したいの。」
<なつの知りたいニュースは それだよな。>
信哉「それは 僕も ずっと 着にはなってはいるけど… 咲太郎は 捜してもしょうがないと言うし…。」
なつ「お兄ちゃんは 千遥は とっくに 私らのことを忘れて幸せにしてるから それを邪魔しちゃいけないって 言ってるだけ。 居場所が分かったって 千遥の幸せを邪魔するようなことは 絶対にしない…。」
光子「咲ちゃんは 違うんじゃないのかな。」
なつ「えっ…?」
光子「もし会っちゃったら 自分が どうなるか分からなくて 苦しんでるんじゃないかしら?」
信哉「どういう意味ですか?」
光子「千遥ちゃんに 今の自分が何をしてやれるかって… そんなふうに 自分の心が乱れるのが 怖いのよ きっと…。 なっちゃんの時も そうだったじゃない。」
なつ「お兄ちゃんには 私が話す。 したら 信さん 捜してくれる?」
信哉「それは もちろん 必ず捜すよ。」
おでん屋・風車
2階なつの部屋
回想
(2人の遊ぶ声)
回想終了
咲太郎「ただいま。」
なつ「お帰りなさい。」
咲太郎「相変わらず頑張ってるな。 体 気を付けろよ。」
なつ「うん お兄ちゃんもね。」
咲太郎「こっちは 明日が千秋楽だ。 おい 雪次郎が 毎日見に来てるぞ 仕事が終わってから。 だから 第3幕だけな。 何回も見てるよ。」
なつ「あのさ お兄ちゃん。」
咲太郎「ん?」
なつ「話があるんだけど。」
咲太郎「話? 何だ?」
なつ「千遥のこと。 今 どこにいるのか知りたい。」
咲太郎「なつ…。」
なつ「千遥が 私らのこと忘れててもいい。 千遥がいることを確認するだけ。 遠くから見るだけでもいい…。 千遥に会いたい…。」
咲太郎「だけど どうやって捜すんだ?」
なつ「信さんが捜してくれるって。」
咲太郎「信が…?」
なつ「ねえ お願い… おばさんが引っ越す前の住所 教えて。」
咲太郎「これが おばさんから孤児院に来た 最後の手紙だ。 そこに 千遥は幸せに暮らしてると 書いてある。」
なつ「ねえ それじゃ… お兄ちゃんが孤児院を出たあと 引っ越し先を知らせる手紙が 来てるかもしれないね。」
咲太郎「来てないよ。 それからは 一通も来てないそうだ。 引っ越す前の家にも行ったんだ。」
なつ「えっ…。」
咲太郎「近所の人に聞いても どこに行ったか分からなくて。」
なつ「お兄ちゃんも やっぱり 会いたかったんだよね。」
咲太郎「当たり前だろ。 信に よろしいく頼むと言ってくれ。」
なつ「ありがとう お兄ちゃん。」
咲太郎「無理するなよ。」
<川谷としは なつの母親のいとこです。 なつよ どうしても知りたいか? 知りたいよな…。>