ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第64話「なつよ、アニメーターは君だ」【第11週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)たちが制作した「白蛇姫」のアフレコを咲太郎(岡田将生)の劇団の女優、亀山蘭子(鈴木杏樹)が担当することになる。アフレコの現場を見たなつは、自分が関わったアニメーションを見ると…。アフレコの見学のあと仲(井浦新)に感想とお礼をいうなつ。すると仲からある言葉をかけられる。それを聞いたなつは、驚いてしまい…。

64話ネタバレ

東洋動画スタジオ

仕上課

<公開を間近に控えた『白蛇姫』は 俳優が 声を吹き込む アフレコ作業を残すのみとなりました。 その間も なつは セル画に線を写し取る トレースの練習に励んでいました。>

作画課

<一つの作品が終わると アニメーターたちにも しばらく のんびりした時間が 訪れるようで それぞれが 自分の勉強などをして 過ごしていました。>

仲「マコちゃん。」

麻子「はい。」

仲「ちょっと これ見てくれる?」

麻子「何ですか? これ。」

仲「奥原なつが描いた動画だよ。 一人で練習したらしい。」

麻子「仕上げの仕事しいながらですか?」

仲「うん そうだよ。 見てくれって 今朝 僕のところに持ってきたんだ。」

麻子「こんなに…。」

仲「とにかく描くのが早くてね あの子は。 これ 君が見てくれないか。」

麻子「えっ…。 どうして私に?」

仲「何たって 君は 奥原なつの才能に 最初に気付いた人かも しれないんだからね。」

麻子「あれは才能なんでしょうか?」

仲「まあ 正直言って 僕にも分からないよ。」

麻子「えっ?」

仲「君の意見を聞かせてほしい。 頼んだよ。」

中庭

仲「デッサンは 全ての道に つながってるからさ。」

なつ「仲さん。」

仲「なっちゃん…。 ちょっと ごめん。」

「はい。 え~…。」

なつ「すいません… あの 見てもらえましたか?」

仲「ああ それは 違う人に見てもらってるよ。」

なつ「えっ?」

仲「そう そう そう ところで 君のお兄さんなんだけどさ まだ あの劇団にいるのかい?」

なつ「赤い星座ですか?はい いますけど… それが何か?」

仲「うん… アニメーションは プレスコといって 最初に セリフや音楽を録音してから 後で我々が それに合わせて 絵を描いたわけだけど 描いてるうちに かなり変更されて とり直すことになったんだよ。 けど そのセリフを吹き込んだ 映画スターが 2人とも 声だけの出演は嫌だと言いだして 降りてしまったんだよ。」

なつ「降りた?」

仲「うん。」

なつ「2人ともっていうのは…?」

仲「あっ… 2人のスターが 全部の声をやってたんだ。 会社は 話題になると思ってね。 演出の露木さんと まあ どうも うまくいってなかったようだから それが原因だと思うけど。」

仲「露木さんも 全部違う声で セリフをとり直すと言いだしてさ 新たに 役者を 2人立てたんだ。 で その一人が 赤い星座の亀山蘭子になったんだよ。」

なつ「えっ!?」

録音スタジオ

露木「これが白蛇姫です。」

蘭子「これが私?」

露木「はい。 これは 人間の姫となった白娘です。」

蘭子「これ 私に似てませんわね。 どっかの映画スターじゃないかしら? 私 こんな美人じゃありませんわよ。」

露木「あっ いえいえ 問題はありません。 顔は出ませんから。 声が美人なら もう それでいいんです。」

蘭子「まあ 正直に失礼なことおっしゃるのね。」

露木「アッハハハ… はい。 失礼しました。 この役は 亀山さんにしかできないと 私は ずっと そう思っていたんです。 先日の『人形の家』のノラ役 拝見しました。 すばらしかった。 漫画映画といえども この作品には 芝居の深みが欲しい。 スターの声なんていらないんです。」

蘭子「まあ やってみましょう。」

露木「よろしくお願いします。 それとですね こちらの侍女の小青(しゃおちん)役も お願いしたいんです。 小青というのは 青魚の妖精なんです。」

蘭子「これも 私がやりますの?」

露木「はい。 あっ 適当に 声を変えて頂いて。」

山川「豊富遊声先生が お見えになりました!」

露木「先生 おはようございます。」

遊声「いや~ おはよう。」

露木「どうぞ こちら。」

遊声「はい。」

蘭子「亀山蘭子です。 先生 よろしくお願いいたします。」

遊声「蘭子ちゃんね。 よろしく。」

露木「あの 先生 絵は 先に出来ちゃってるんで 声を絵に合わせて頂くしかないんですが。」

遊声「私は 活動弁士をやっていたんだよ。 任せなさい。」

露木「よろしくお願いします。」

蘭子『許仙様 白娘様が あなたをお待ちかねよ』。

遊声『ぱいにゃんさま?』。

蘭子『ええ。 私のご主人様 あの城のお姫様ですわ』。

露木「ちょっと待った。 ストップ。 あのね 小青は そんな やり手ババア みたいな声じゃないんですよ。 まだ 少女なんです。 少女でありながら 色気があって それでいて ちゃめっ気もあるんですよ。 ちょっと やって。」

蘭子「『許仙様 白娘様が あなたをお待ちかねよ』。 こうですか?」

露木「もうちょっと 声に しなを作って 歌うように。」

蘭子『許仙様 白娘様が あなたをお待ちかねよ』。

露木「あっ いい。 そんな感じ。 それで いきましょう。」

蘭子「あ… はい。」

露木「お願いしますよ。 はい もう一回。」

蘭子『許仙様 白娘様が あなたをお待ちかねよ』。

遊声『ぱいにゃんさま?』。

蘭子『ええ。 私のご主人様 あの城のお姫様ですわ』。

遊声『お姫様が なぜ僕なんかに?』。

蘭子『そんなこと お会いになれば きっと分かりますわよ』。

蘭子『許仙様 あなたに 私の胡弓を弾いてほしいのです』。

遊声『こんな立派な胡弓を僕に?』。

蘭子『ええ』。

遊声『なんて美しい音色なんだ。 まるで白娘様のように…。 こんなきれいな音は 聴いたことがない』。

蘭子『それは あなたをお慕いする 私の心そのものだからよ』。

遊声『白娘様… ああ これは夢じゃないのか?』。

蘭子『夢じゃありませんわ 現実よ』。

蘭子「咲ちゃん これも劇団のため 活動資金を稼ぐためよね。」

咲太郎「はい そうです。 けど いいですよ。 面白いです。」

蘭子「豊富先生は さすがにお上手ね。 元弁士だけあって。」

咲太郎「上手ですが 森繁久彌なら もっと うまい気がします。」

蘭子「フッ… まあ。」

仲「失礼します。」

なつ「お兄ちゃん。」

咲太郎「なつ! 仲さんも。」

仲「お久しぶり。」

なつ「仲さんにお願いして 見学に来ちゃった。 こんにちは。」

蘭子「こんにちは。」

仲「こんにちは。」

咲太郎「妹のなつです。」

蘭子「知ってるわよ。」

咲太郎「なつは 偶然 この会社に勤めてるんですよ。」

蘭子「ああ あなたが描いてる絵って これだったの?」

なつ「はい… 色を塗ってるだけですけど。」

仕上課

(ドアが開く音)

麻子「あっ トミさん。」

富子「あっ マコちゃん まだ仕事?」

麻子「ちょっと聞きたいんですけど… 奥原なつって優秀ですか?」

富子「優秀? …とは言えないわね。 入って1年もたってないし 彩色の仕事は丁寧なんだけど とにかく遅いのよ。」

麻子「遅い? 動画だと とにかく早いって話だったけど…。」

富子「えっ? 何かあるの?」

麻子「あの子 ただの素人なのか それとも天才なのか…。 どっちなんでしょう?」

富子「何かあるの?」

麻子「どっちだと思います?」

録音スタジオ

蘭子『キャッ!』。

遊声『離れろ 許仙! その女は 白蛇の化け物じゃ!』。

蘭子『何をおっしゃいます!』。

遊声『やめろ 法海!』。 『えい! 正体を現せ 白蛇め!』。

蘭子『許仙様 私を信じて下さい…』。

遊声『あっ 白娘! 白娘! どこ行った!? 白娘!』。

蘭子『こうなったら 許仙様を思う私の心が勝つか 私を憎むあなたの心が勝つか 戦いましょう!』。

遊声『望むところじゃ! とっとと消えうせい! えい! えい! やあ~! そら!』。

蘭子『私の心を思い知るがよい!』。

遊声『うわ~! うわ~…! ええい! やあ! 勝ったぞ! ハハハ わしの勝ちじゃ!』。

蘭子『ああ 許仙様… ああ 許仙様…』。

回想

麻子「泣く直前に 一瞬 何かを振り向いて まだ戦う目をしながら泣き伏せる。 これよ。 これが中割に入ることで 見る人に 白娘の気持ちの伝わり方が 全然違うでしょ!」

井戸原「これ 使ってもいいよね?」

なつ「はい… ありがとうございます。」

回想終了

中庭

なつ「仲さん。 どうも ありがとうございました。」

仲「どう 映画を作る面白さ 感じられた?」

なつ「はい。 こんなにドキドキするとは 思いませんでした。 まるで 夢を現実に見てるみたいでした。」

仲「なっちゃん… 次の作品の制作が決まったよ。」

なつ「えっ 本当ですか? 楽しみです。」

仲「そこで… また 動画のテストを受けてみないか?」

なつ「えっ!」

<なつよ… その夢の続きを 見られるか。>

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