ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第69話「なつよ、千遥のためにつくれ」【第12週】

あらすじ

アニメーション映画のキャラクター検討会が行われ、常盤御前のキャラクターを巡りなつ(広瀬すず)と麻子(貫地谷しほり)の意見がぶつかる。そこで仲(井浦新)と井戸原(小手伸也)は、ある提案を行う。午後になり、仲から呼び出されたなつと麻子は、1枚のキャラクターの絵を見せられる。その絵を見たなつは、みずからの足りない部分を感じ、麻子に謝る。一方麻子は、謝るよりも仕事で責任を取るしかないとなつに伝え…。

69話ネタバレ

おでん屋・風車

2階住居

回想・咲太郎「千遥のために描くんだよ。 お前 言ったよな? 漫画映画は 子どもの夢なんだって。 その夢を千遥に見せてやれよ。」

東洋動画スタジオ

会議室

仲「じゃ 次は…。」

なつ「おはようございます。」

井戸原「うん?」

なつ「遅れて すいません…。」

井戸原「今 キャラクターの検討会を しているとこだ。 牛若丸は もう仲ちゃんの絵で決まった。」

なつ「はい…。 いいと思います!」

井戸原「君は出さないのか?」

なつ「えっ まだ いいんですか?」

井戸原「そのために遅刻してきたんだろう?」

なつ「はい! これです。」

井戸原「うん。 これは… 常盤御前だ。」

なつ「はい。」

仲「じゃ 次は 常盤御前を検討しようか。」

一同「はい。」

<なつは 千遥への不安を抱えながら アニメーターとしての第一歩を 踏み出しました。>

なつ「みんな うまい…。」

仲「やっぱり みんな 美人を描こうとしてるな…。 牛若丸の母親という点では 僕は この絵に 一番 母性を感じるんだけどな。」

なつ「えっ…!」

井戸原「それは また 仲ちゃんの なっちゃんびいきなんじゃないのかい?」

仲「ひいきで 作品は決めないよ。 一つの意見。」

堀内「しかし 常盤御前が ただの母親でいいんでしょうか? 常盤御前は 再開を願って会いに来た牛若丸を 冷たく突き放しますよね? それで絶望する牛若丸が 前半の山場になる。 最初から いい母親みたいな顔していたら 牛若丸が絶望しても 客は感情移入しないんじゃないですか?」

井戸原「う~ん それはあるな…。 最初は 常盤御前を 悪者のように描いた方が 見る人に 衝撃を与えることになる。 その点では 僕は この表情に ひかれるんだけどね。」

茜「あれ もしかして 堀内さんが描いたんですか?」

堀内「違うよ。」

井戸原「これ 誰が描いたの?」

麻子「私です。」

下山「やっぱり 絵には 描く人間が出ますね。」

麻子「どういう意味ですか?」

下山「えっ いや… 女性の内面は やっぱり 女性が鋭く捉えてるな っていう意味ですけど…。」

仲「う~ん なっちゃんと マコちゃんの対決か…。 マコちゃんは 何で こうしようと思ったの?」

麻子「常盤は 初め その美貌と知性で 1,000人の女の中から選ばれ 侍女のような身分で 召し抱えられたにすぎませんでした。 そこから 源 義朝の側室に 上り詰めたんです。 常盤御前は したたかで強い女性なんです。」

一同「う~ん…。」

仲「なっちゃんは どう思うの?」

なつ「私は… そんな怖い顔の母親を 子どもに見せたくありません。」

麻子「は…?」

なつ「いや 子どもだって いろいろ考えながら見ると思うんです。 ただ怖いだけの母親 見せられて 後で優しくなっても それじゃ 納得できないんじゃないですか?」

麻子「顔が怖いからって 根っから優しくない人だと 思わないわよ 子どもだって。」

なつ「そでしょうか? 子どもには どんなに怒られた時でも 母親の愛情は伝わると思うんです。」

麻子「何の話をしてるの? あなた。」

なつ「えっ…。 漫画映画は 子どもが見るものです。 子どもが 夢を見るように 見るものだと思うんです。」

仲「まあ 確かに こっちの常盤御前も こっちの常盤御前も 内面的には 両方あるはずなんだよ。」

井戸原「そう。 結局 2人とも中途半端ってことだろうな。 一面的で 人物の奥行きが感じられない ってことだろう。」

なつ「はい…。」

麻子「はい…。」

井戸原「よし じゃ 次いこう。」

一同「はい。」

中庭

なつ「(ため息)」

下川「何かあった?」

なつ「別に何も…。」

下川「別に何も か…。 うそだね。 あった。 明らかに 何かあった。 明らかに いつもと様子が違う。」

なつ「そんなに明らかですか?」

下川「うん 明らかだよ。 だって その服装 前にも見たことあるもん。」

なつ「えっ?」

下川「とうとう 前と全くおんなじ服装で 来ちゃったよ ハハハ…。 証拠見せようか? あのね これね…。」

なつ「いいです! いいです…。 そんな… 毎日替えるのは無理ですよ。 夏は そんな重ね着しませんし。」

下川「まあ それは許すけど… 何かあったんなら話してみなよ。 本官に話して 楽になれ。」

なつ「警察…。 あ… あの 私の住んでるおでん屋に よく来るお客さんの話なんですけど… 親戚の家から 幼い妹が 一人で家出をしたんです。」

なつ「その家では 警察に届けたって言ってるんですけど もし その子どもに何かあったんなら そういう知らせが その家にあるものですか? 路上で暮らす子どもも 亡くなる子どもも まだ たくさんいた 戦後間もない頃です。 そういう子どもが まだ生きてると思いますか?」

下川「う~ん…。」

なつ「そんなことは奇跡ですか?」

下川「あのころは 警察も 混乱していたかもしれないけど そこにいるのは やっぱり人間だからね。 僕が まだ新米で 派出所に勤務していた頃 近くの飲食店から逃げ込んできた 娘さんがいたんだ。 生活に困って娘を売るっていう記事が 新聞に載っていた頃だから その子は その店が怖くなって逃げたんだ。」

なつ「逃げてきたんですか?」

下山「店との間には あっせん業者が入っていて まだ その時点では 違法とは言えないって 警察の上司は判断した。 だけど そこにいた僕の先輩は 諦めなかった。 法律を 一生懸命 勉強して 戦後定められた日本国憲法の中に 『何人も いかなる奴隷的拘束も受けない』という条文があるのを発見して それを根拠に 娘を自由にしたんだ。」

なつ「勝手にですか?」

下山「うん。 上司も 飲食店の店主も怒ってね。 先輩は 辞職も覚悟してた…。 あっ 今 その子は 先輩の知り合いの旅館で 元気に働いてるよ。 奇跡なんてもんは 案外 人間が 当たり前のことをする 勇気みたいなもんだよ。 その勇気を持ってる人間は どこにでもいるよ。」

なつ「その先輩は 下山さんじゃないんですか? だから 警官を辞めたんですか?」

下山「僕? ハハハハ… いや いや いや…。 僕なんて 勤務日誌に 似顔絵ばっかり描いて 怒られてた人間だよ ハハハハ…。 え~ だから辞めたんだ ハハ…。 きっと そのお子さんも 誰かに助けられてるんじゃないかな。」

なつ「そうですよね…。」

下山「ほら… 早く食べなよ それ。」

なつ「はい…。」

下山「ゆっくりね…。」

なつ「頂きます。」

作画課

仲「なっちゃん マコちゃん。」

2人「はい。」

仲「ちょっと。」

仲「2人の絵を合わせて ちょっと描いてみたんだけど こんなので どうかな?」

なつ「すごい…。 どうしたら こんな絵が描けるんだろう…。」

仲「なっちゃんは 誰かを思い浮かべて 常盤御前を描いたの?」

なつ「あ… はい。 北海道にいる母を…。」

仲「うん やっぱり お母さんか…。 お母さんを描くのが 悪いわけじゃないんだけど 自分の母親には 優しさばかりを 求めしまいがちだからね。 お母さんだって 一人の女性だし 内面には もっと 怒りや苦しみ 悲しみだとか 子どもが見たくないものだって いっぱい持ってるはずだろ?」

なつ「はい…。 私は 子どもの気持ちばかり考えて 常盤御前のことを 考えてなかったかもしれません。」

麻子「私は 生い立ちだとか 理屈ばかり考えてました。」

仲「どれも大事なことだよ。 それに なっちゃんの悩みは正しいと思うよ。 子どもが見て 本当だと思ってくれるような絵を 僕らは 探し続けなきゃいけないんだから。 子どもの力を侮ったら それで終わりだ。」

なつ「子どもの力…。」

仲「ね。 マコちゃん。」

麻子「もちろんです。」

なつ「あの マコさん… さっきは すいませんでした。 生意気なこと言って。」

麻子「だから 謝らなくていいのよ。 口に出したことは 仕事で責任取るしかないのよ 私たちは。」

なつ「仕事で?」

麻子「じゃないと 本当に認めるなんて できないでしょ。」

仲「仕事で認め合うしかないのが アニメーターのつらいとこだ。 なっちゃんは もう アニメーターなんだから。」

なつ「はい。」

<なつよ 今は 頑張るしかないぞ。>

モバイルバージョンを終了