ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第71話「なつよ、千遥のためにつくれ」【第12週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)たちアニメーターのいる作画課に、新人の演出助手、坂場(中川大志)が突然やってきた。そして原画担当の下山(川島明)に、動画の動きについて、ずばずば疑問をぶつける。見ると、それはなつが描いた馬の絵だった。必死に意図を説明するなつに対し、淡々と理詰めで動画の矛盾を指摘してくる坂場。なつが追い詰められたその時、坂場の言いたいことはわかったと、下山がふたりの間に割って入ってきて…。

71話ネタバレ

東洋動画スタジオ

ライブアクション

露木「よ~い スタート!」

(カチンコの音)

牛若丸『お母様!』。

<なつは ライブアクションに参加しました。 ライブアクションとは 俳優が 実際に演じたものを撮影し それを アニメーションの資料にすることです。 ディズニー映画でも行われていて 東洋動画も この作品で 本格的に取り入れようとしていました。」

常盤『そなたなど知らぬ。 すぐに ここから出ておゆきなさい! 出ておゆき! 出ていかねば 人を呼んで追い払いますよ!』。

牛若丸『牛若に 会いたくはなかったのですか?』。

常盤『誰が お前のような子を…』。

牛若丸『お母様!』。

露木「牛若! 君! 君… お母様に そこ 抱きつく!」

牛若丸『お母様!』。」

露木「常盤 突き飛ばす!」

常盤『え~い! 二度と その姿を見せるな!』。

露木「カット!」

(カチンコの音)

露木「はい いいですね。 それで もう一回いきましょう。 いいね。 突っ込んで… はい… いいよ。 よ~い スタート!」

(カチンコの音)

坂場「あっ いって…。」

露木「お前 大丈夫か おい…。」

坂場「すみません…。」

カメラマン「おい お前 ぶきっちょだね。」

(笑い声)

露木「じゃ ちょっと練習してみな。」

坂場「ちょっと痛いです。 やっぱり右手で…。」

露木「右手?」

坂場「右手でやります…。」

(カチンコの音)

<この不器用な青年が やがて アニメーターとしてのなつに 大きな影響を 与えてゆくことになるかもしれません。 霊感です。>

作画課

<東洋動画 総天然色 長編漫画映画 第2弾 『わんぱく牛若丸』の作画作業が 始まりました。 この作品から 3つ穴のタップと呼ばれるものが作画用紙を固定するために 使われるようになりました。 重ねた紙が ずれる心配がなくなり これが 日本のアニメーションにとって 大きな技術革新になりました。>

<アニメーターの机には こうして 鏡があります。 こんなふうに 自分の顔を映し 表情を確認しながら キャラクターを描いていくのです。 馬にだって何だって ならなければなりません。>

<そして 作画作業が佳境に入ったある日。>

坂場「下山さん すみません。 演出助手の坂場です。」

下山「は~い。」

坂場「ちょっと お聞きしたいんですが この動画は これでいいんでしょうか?」

下山「えっ? あっ 君か。」

坂場「これなんですが…。」

なつ「あっ カチンコ君…。」

下山「これ どうかした?」

坂場「これでいいんですか? この動画の動き おかしくないですか?」

下山「おかしい? うん?」

下山「おかしいかな? えっ ちょっと…。」

堀内「あっ。」

なつ「ん? あっ それ 私が描いた動画ですか?」

下山「うん そうだよ。」

なつ「何か おかしいですか?」

坂場「おかしくないですかと 僕が聞いてるんです。」

下山「君が答えていいよ。」

なつ「えっ…。 あの これは 馬が崖を下っていくシーンです。」

坂場「それは分かります。 牛若丸が 馬に乗る訓練をしてるところですよね。」

なつ「そです。 ものすごい崖なんで 加速して 地面が迫ってきます。 だから 牛若丸も馬も 怖がりながら走ってるんです。 そんで こういう表情になるんです。」

坂場「あっ いや あの… そこが分からないんです。 怖がっているなら なぜ 体が前に つんのめってるんですか? 怖がっているなら 体を後ろに のけぞらそうとしませんか?」

なつ「いや それでは 速く走っているように 見えないじゃないですか。」

坂場「どうしてですか? 速く走ってるから 怖がるんですよね?」

なつ「そです。 だから それを 表情で表してるんです。」

坂場「表情で説明していれば それで済むんですか?」

なつ「はっ? あ… 表情は説明なんかじゃありませんよ! アニメーターにとって キャラクターの表情は 大事な表現なんです。」

坂場「表現?」

なつ「そです。 見て下さい。 馬が 崖を下っていく動きに合わせて 牛若丸や馬の顔が 伸びたり縮んだりしてますよね? こういうのを アニメーションでは…。」

坂場「ストレッチ アンド スクオッシュですか?」

なつ「えっ…。」

坂場「ディズニーの原則ですよね。」

なつ「そです。」

坂場「そういう表現は 動きに リアリティーがなければ ただの説明になりませんか?」

なつ「それは 分かってます。」

坂場「だったら どうして こういう動きになるんですか?」

なつ「牛若丸の性格です!」

坂場「性格?」

なつ「この牛若丸は わんぱくなんです。 だから 怖くても後ろに引かないんです。」

坂場「なるほど。 危ないからやめろと 周りの人に言われても 一歩も引かず 見ていろと崖を下ってゆく。 それが 後に 鵯越の逆落としにつながる ということを 想像させる場面ですからね。」

なつ「何を言ってるんですか?」

坂場「牛若丸が 前のめりになるのは 正確描写として分かることにしましょう。 けど 馬はどうですか? 馬は怖がりませんか?」

なつ「何で…。」

坂場「そうは思いませんか?」

なつ「あっ 思います…。 あっ… かもしれません。」

下山「分かった! 君の言いたいことは よ~く分かった。 しかし それは 演出の露木さんの意見なのか? それとも 君の意見?」

坂場「露木さんも 同じことを 疑問に思ってました。 けど 僕が 初めにそう思ったので 聞きに来たんです。」

下山「あ… そうか。 分かった。 直すよ。」

なつ「えっ?」

下山「直すって 露木さんに 伝えといてくれない?」

坂場「それじゃ よろしくお願いします。」

なつ「あの… ちょっと待って下さい!」

坂場「はい…。」

なつ「リアリティーって何ですか? アニメーションのリアリティーって 実際の人間や動物の動きを そっくり おんなじに描く っていうことですか? それで 子どもは楽しいんでしょうか? アニメーションにしかできない動きを したりするから 楽しいんじゃないでしょうか?」

坂場「アニメーションにしかできない表現ということですか?」

なつ「はい そです! 子どもが見て ワクワク ドキドキするような。」

坂場「子どもが見るものだから リアリティーは無視してもいい ということですか?」

なつ「いえ そんなことは言ってません!」

坂場「僕には 実際 まだ分かってないんです。 皆さんのやろうとしていることが。」

なつ「えっ…。」

下山「は? どういうことかな?」

坂場「現実的な世界のリアリティーを 追求しようとしているのか それとも おっしゃるとおり アニメーションにしかできない表現を 追求しようとしているのか… どこに向かってるのか 分かってないんです。 すみません 新人なもので。 これからも教えて下さい。」

下山「あっ 君 えっと…。」

坂場「坂場一久です。 失礼しました。」

下山「しかし すごい新人が入ってきたね。」

麻子「カチンコも たたけなかったくせに。 東洋動画の問題点を ずばり 口にしやがった…。」

なつ「問題点?」

茜「えっ それは何ですか?」

堀内「この会社の方向性だよ。 僕も 前から よく分からなかったんだ どこに行きたいのか。 今 やってるのだって 日本の時代劇に ディズニーの要素を 適当に入れてるだけじゃないか。」

なつ「待って下さい。 適当なんですか? 私は 仲さんや下山さんの原画は その2つを結びつけてて すごいなって思います。」

仲「ありがとう。 でも いいんだよ。 僕たちに 気を遣ってくれなくても。」

なつ「仲さん 気を遣ってるわけじゃありません。」

仲「あの新人の言うことも 堀内君の言うことも正しいんだよ。 アニメーションの作り方に 明確な方法は まだないわけだから。」

井戸原「ディズニーの原則だって もう古いのかもしれないしな。」

下山「我々は 我々ができる新しい表現を 今 ここで 見つけていくしかないんだからね なっちゃん。」

なつ「はい…。」

麻子「それから 奥原さん。 あなた まさか 鵯越の逆落としが何なのか そんなことも 知らないわけじゃないわよね?」

なつ「えっ…。 知ってますよ そんくらい。」

制作課

露木「お どうだった?」

坂場「描き直してくれるそうです。」

露木「えっ 本当か? もめなかったのか?」

坂場「別に。 大丈夫でした。」

露木「よく プライドの高い絵描きたちを 納得させたな。」

坂場「分からなかったんで 聞いただけです。」

中庭

桃代「なっちゃん? 久しぶり!」

なつ「モモッチ。」

桃代「お昼? 一緒に食べよう。」

なつ「うん。」

桃代「どう 動画の仕事は もう慣れた?」

なつ「まだ全然…。 実際やってみると 本当に 何も分かってなくて… 外で お昼ごはんを食べる暇もないくらい。」

桃代「今日は大丈夫なの?」

なつ「大丈夫じゃないけど 今日は何となく モヤモヤしてて。」

桃代「モヤモヤ?」

なつ「今年の新入社員で 演出助手の坂場って人 知ってる?」

桃代「ああ 東大出身の?」

なつ「東大?」

桃代「哲学を専攻してたって。」

なつ「哲学?」

桃代「そういう情報は 仕上課にすぐ回るから。 その人が どうかしたの?」

なつ「う~ん… そんな人に 生意気なこと言っちゃった…。 でも すっごく変な人だった。」

桃代「う~ん アニメーションにしかできない表現か…。 逆に言えば 何でもできるからね アニメーションは。」

なつ「そう… 何でもできるから やりたいことが分かってないと ダメなのかなって。 その坂場っていう人が言うとおり…。」

桃代「やりたいことって何?」

なつ「それが 自分でも何なのか 分かってないんだわ。 どこに向かって 絵を描いてんのか そんなことも考えなくなってたんだ 私は…。」

桃代「アニメーターになったばっかりで そこまで考えることないんじゃない?」

なつ「だけど 向こうだって新人だよ? こっちよりも…。 早く名前 出したいなんて よく言えたもんだわ。」

桃代「名前?」

なつ「あ… ううん 何でもない。」

作画課

<なつよ 早速 あの青年が 君に影響を与えたようだな。>

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