あらすじ
ある日の朝、柴田家からなつ(粟野咲莉)の姿が見えなくなり、富士子(松嶋菜々子)や剛男(藤木直人)は慌てふためく。その中で泰樹(草刈正雄)だけは、なつが東京を目指して家を出たのだと直感する。そのころなつは、やっとの思いで帯広の町にたどり着く。一文無しのなつは靴磨きの店を広げ、兄の咲太郎や妹の千遥といっしょにいた上野で靴磨きをしていたころのことを思い出す。
7話ネタバレ
柴田家
<なつは 戦争で 父親と母親を亡くし 孤児となりました。 ある日 父の戦友だった人に 北海道の十勝に連れてこられました。 そこにいたのは 北の大地で暮らす 開拓者の家族でした。>
なつ「私を ここで働かせて下さい。」
泰樹「その方が その子も ここに いやすいと言っとるんだべ。」
剛男「言ってませんよ。」
なつ「言ってます!」
泰樹「言ってるんでないか。」
富士子「いいから なっちゃん。」
泰樹「それでこそ 赤の他人じゃ。 明日から 夜明けとともに起きて働け。」
なつ「おはようございます!」
泰樹「お前は 堂々としてろ。 堂々と ここで生きろ。」
丘の上のキャンパス
昭和30(1955)年8月
なつ「信さん…。」
なつ「昔 この道を 走って逃げたことがあるんだわ。」
信哉「逃げた? なっちゃんが?」
なつ「そう。 まだ ここに来たばっかりの頃だった。」
信哉「どうして? ここにいるのが つらかったのか?」
なつ「どうしても お兄ちゃんに会いたくなって。」
柴田家
昭和21年(1946)年6月
なつ「さようなら…。」
<なつは 柴田家を 後にしたのです。>
牧場
(鳴き声)
富士子「おはよう!」
菊介「あっ おはようございます!」
悠吉「富士子ちゃん 今日も おきれいで。」
富士子「知ってる。」
悠吉「アッハハハハ…。」
富士子「ちょっと! なっちゃん いつまで働かせてるの?」
剛男「えっ?」
富士子「学校に遅れちゃうでしょ。 なっちゃん どこ?」
剛男「今朝は なっちゃん 寝坊してんだろ?」
富士子「ええっ? 何言ってんの! とっくに起きてるでしょ。」
剛男「どういうこと?」
富士子「えっ どういうこと?」
居間
剛男「なっちゃんのかばんがない! ほら あの… 東京から持ってきたやつ!」
富士子「だから どういうこと? 」
剛男「だから 知らないよ!」
泰樹「おい いないのか?」
剛男「だから いない…。 何か あったんでしょうか?」
泰樹「知らん。」
富士子「別に 何もなかったわよ。 昨日だって 普通にね…。 あっ! 夕見子が 何か 昨日 変なこと言ってた。」
剛男「変なこと?」
富士子「ほら 明美に あの子が何かしたって。 本当かい?」
夕見子「本当だよ。」
剛男「何してたんだ?」
夕見子「だから 明美を泣かしてたのよ。」
剛男「泣かしてた? 何かの間違いだろ。 明美 なつお姉ちゃんに 何か されたのか?」
明美「(泣き声)」
剛男「ほら 明美は 何でもないのに すぐ泣くじゃないか。」
夕見子「あの子 分かんない! 学校でも 何言われたって怒んないし 何考えてんのか さっぱり分かんない!」
泰樹「東京か。」
剛男「えっ?」
泰樹「東京に行ったのかもしれん。」
富士子「東京に 一人で?」
剛男「まさか…。」
帯広
語り<なつは なんと 帯広に着きました。 だけど 一文無しです。 食べるものも 東京へ行く切符を買うお金もありません。 なつは それを稼ぐつもりでした。>
なつ<この時 私は あの浮浪児であふれた上野の街を 思い出していました>
回想
東京・上野
「運べ。」
咲太郎「おい なつ 千遥 出かけるぞ。」
なつ「お兄ちゃん!」
千遥「お兄ちゃん!」
咲太郎「行こうか。」
上野自由市場
「うわっ 米兵さんだ!」
「ギブ ミー チョコレート!」
なつ「チョコ チョコ チョコ チョコ…!」
「「チョコレート トゥ ユー。 オーケー。」
「サンキュー。」
咲太郎♬『俺は村中で一番 モボだと言われた男 うぬぼれのぼせて得意顔 東京は銀座へと来た そもそもそのときのスタイル』
「オ~! ジャパニーズ チャップリン! エノケン!」
咲太郎♬『青シャツに真っ赤なネクタイ 山高シャッポにロイド眼鏡 ダブダブなセーラーのズボン』
「いいぞ いいぞ!」
なつ<兄の咲太郎は 時々 こうやって アメリカ人と仲よくなって すてきなものを たくさん買い込んできました。 それを 闇市の店に売って お金を増やすのです>
咲太郎「こうやって 金をためていけば いつか また 父ちゃんと母ちゃんの店が 建てられるぞ なつ。」
なつ「本当?」
咲太郎「ああ。 きっと 兄ちゃんが建ててみせる。 また そこで 千遥と なつと 3人で暮らそう。 兄ちゃんが 必ず 父ちゃんの店を継ぐから。」
なつ「うん…。」
咲太郎「あっ ハハ… 信も一緒に暮らそうな。」
信哉「いいよ 僕は。 家族じゃないし。」
なつ「ダメよ! 信さんも一緒じゃないと。」
千遥「一緒がいい!」
信哉「ありがとう。」
咲太郎「お前は もう 俺たちの家族だろ。 水くさいこと言うなよ。」
信哉「ハハッ 何だよ 最初は忘れてたくせに。」
咲太郎「ごめんって…。」
(魚が跳ねる音)
咲太郎「おっ 来た!」
なつ「お~!」
咲太郎「お~!」
信哉「すげえ!」
咲太郎「鯉だ! 鯉!」
なつ「鯉 久しぶりだね! お~… ハハッ…。」
信哉「よいしょ…。」
咲太郎「あっ そうだ なつ いいもん買ってきたんだ。」
なつ「えっ?」
咲太郎「はい。 アメリカ製の靴墨だ。 これがあれば もっと客が来るぞ。 悪いけど もう少しの辛抱だ。 これで頑張ってくれ。」
なつ「大丈夫。 私 靴磨きは得意だから。 任しといて! 千遥 一緒に頑張ろうね。」
千遥「うん!」
咲太郎「ありがとう。」
信哉「頑張れよ。」
なつ「うん。」
なつ<私たちは ささやかだけど 幸せを感じることができのです。 あの日までは…>
子ども「狩り込みだ! 狩り込みだ! 狩り込みだ~!」
「全員 そのまま動くな!」
「これから 諸君を保護する。」
咲太郎「信 狩り込みだ! なつを頼む!」
信哉「分かった! 行くよ なっちゃん。」
「うわっ…!」
(子どもたちの叫び声)
信哉「なっちゃん 俺が出て引き付けるから その間に逃げろ。」
なつ「嫌だよ! 信さんも 一緒に行こうよ!」
信哉「俺は 必ず なっちゃんに会いに行くよ。 どこにいても きっと見つける。 またね。」
なつ「信さん!」
信哉「放せ 放せ…!」
なつ「信さん!」
「止まりなさい! 待ちなさい!」
なつ<その日から また 私たちの人生は一変したのです>
なつ「放せ!」
回想終了
「サンキュー。」
なつ「サンキュー! アイ ラブ アメリカン! シューシャイン! いらっしゃい!」
警察官「一人かい? どっから来たの? ちょっと おいで。」
なつ「あっ!」
警察官「いいから おいで。」
剛男「どうしたんです?」
泰樹「いや…。」
雪月
泰樹「おい いるか?」
とよ「おいって 何さ~。 あれっ もしかして あなた 富士子さん?」
富士子「はっ?」
とよ「あなたが 婿の… 剛男さん? 今度こそ 柴田さんのご家族?」
剛男「今度こそ? はい こんにちは。」
泰樹「そんなことは どうだっていいから なつは いるか?」
とよ「なつ?」
泰樹「こないだ来た あの子だ。」
とよ「ああ… あの子が どうかしたの?」
富士子「いなくなったんです。」
とよ「えっ!」
泰樹「なつは ここには来てないのか。」
帯広警察署
警察官「どっから来たの?」
なつ「東京です。」
警察官「と… 東京!? 誰と来たの?」
なつ「一人です。」
警察官「分かんないもね。 それが どうして帯広に来たんか? そこ黙ってちゃ分かんねえべさ。」
なつ「お願いします。 私を 東京に戻して下さい。」
警察官「えっ?」
なつ「私を 東京に帰して下さい! お願いです!」
警察官「東京には 誰がいる?」
なつ「家族です。 お兄ちゃんがいます。」
警察官「東京のどこにさ?」
なつ「浅草の孤児院です。」
警察官「孤児院?」
雪月
とよ「ここで アイスクリーム食べた あの子が…。」
雪之助「いなくなったんかい?」
富士子「アイスクリーム? 父が ここに連れてきたんですか?」
雪之助「うん… いつも 柴田さんには ごひいきになってます。」
剛男「お義父さんが アイスクリームを なっちゃんに?」
富士子「何で言わないの?」
回想
なつ「おいしいです!」
泰樹「うちのもんには ないしょだぞ。」
なつ「はい。」
回想終了
とよ「それなのに いなくなったんかい。 恩知らずだねえ。」
剛男「いえ その前に さんざん働かされてきたんで。」
泰樹「わしのせいだって言うのか?」
剛男「あっ いえ…。」
とよ「どういう子なんだい? あの子は。」
剛男「私の 亡くなった戦友の子なんです。 東京の孤児院から引き取って 連れてきたんです。 私の責任なんです。」
妙子「あの~ 警察は?」
富士子「えっ?」
妙子「家出なら 警察に 保護されてるかもしれないでしょ。」
富士子「そうよ!」
剛男「お義父さん!」
帯広警察署
警察官「とりあえず 今晩は こっちで保護するからね。 女の子が 一人で マーケットになんか いたら… うん? 物騒だべさ。」
なつ「あの…。」
警察官「えっ?」
なつ「すみません… お便所貸して下さい。」
警察官「お~… 大丈夫か? 急ぐべ 急ぐべ…。」