ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第85話「なつよ、ワクワクが止まらない」【第15週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)が帰省中の柴田家に、北海道大学に通う夕見子(福地桃子)が帰ってきた。さらにはっきりとした物言いになっている夕見子に、富士子(松嶋菜々子)をはじめ、泰樹(草刈正雄)までもが振り回され、柴田家に賑(にぎ)やかな日常が戻ってくる。夜、なつと夕見子が久しぶりに枕を並べていると、夕見子はなつの童話集を見て、思いも寄らない感想を口にする。なつはそれを聞いて、あることを思いつき…。

85話ネタバレ

東洋動画スタジオ

なつ「短編映画ですか?」

仲「なっちゃんに 思い切って 原画をやらせたいと思ってるんだ。 3人で話し合って 何か企画を考えてよ。」

3人「はい。」

<なつが初めて原画を任された そのころ 行方の知れなかった妹 千遥が 柴田家に現れました。>

おでん屋・風車

なつ「今すぐ行くから…。 どうしても 千遥に会いたい…。」

<しかし 千遥は なつと咲太郎を待たずに 去っていきました。 2人に宛てた手紙を残して…。>

柴田家

なつ「上手だね 千遥…。」

<その夜のことです。>

居間

夕見子「ただいま。」

なつ「夕見!」

剛男「おお!」

夕見子「何さ この家は。 女は働いて飯を作り 男は座って飯を待つ。 相変わらず 遅れてますもね。」

なつ「夕見子 お帰り!」

夕見子「ただいま。」

<北海道大学に通う夕見子ちゃんが 帰ってきました。 なつとは 実に3年ぶりの再会でした。>

なつ「夕見。」

夕見子「うん?」

なつ「私のお兄ちゃん。」

咲太郎「あ… 咲太郎です。」

夕見子「お~! あの泥棒の咲太郎かい!」

咲太郎「えっ?」

照男「夕見子 失礼だべ!」

なつ「無実だったからね あれは。」

富士子「ちょっと 夕見子。」

夕見子「うん? 」

富士子「あんた 何で来たの?」

夕見子「何でって 母さんが電話してきたからしょ。」

富士子「そうでなくて 帯広から どうやって来たの?」

夕見子「ああ…。」

剛男「そうだ 連絡よこせば 迎えに行ったのに。」

夕見子「大丈夫 車で来たから。」

剛男「車?」

夕見子「うん すぐそこまで送ってもらったから。」

富士子「誰に?」

夕見子「大学の友達。 ドライブのついでだったからね。」

剛男「男の人かい?」

夕見子「まあ… 性別で言ったら 男でないのかい。」

剛男「本当なのかい?」

富士子「どういうつきあいなの?」

夕見子「そんなことより なつ 千遥ちゃんは どうしたの?」

なつ「えっ?」

夕見子「千遥ちゃんが ここに来たんでしょ?」

なつ「今は… いない。 千遥は 自分の場所に帰ったわ。」

夕見子「千遥ちゃんって 年いくつだっけ?」

なつ「今 18。」

夕見子「18で結婚? 結婚するから もう なつにも 咲太郎さんにも会えないっていうの?」

なつ「それは しかたないしょ…。」

夕見子「しかたないって 何がさ? 大体 自分の望んでる結婚なの? それ。」

なつ「どういうこと?」

夕見子「周りが 勝手に望んでるだけで 千遥ちゃんは しかたなく そういう流れに 乗っかってるんじゃないかってことよ。」

照男「おい 勝手なこと言うなや。 なつを 不安にさせてどうすんだよ。」

明美「人の心を ひっかき回すな!」

なつ「私は それが千遥の意志だって 信じてるから。」

夕見子「18で結婚することが そもそも 女の意志って言えんのかい?」

富士子「18だったら 十分 お嫁に行く年だべさ。」

夕見子「それ! 母さん 今 つまんないこと言った。」

富士子「はあ? つまんないこと!?」

剛男「それは言っちゃいかんだろ 夕見子! あ…。」

夕見子「いいですか 皆さん 女が 子どもを産んだら母親になる。 これは 当たり前の話。 したけど その前に 誰かの妻になる。 よそのうちの嫁になる。 自分ではない ほかのものになる。 そういう固定観念を 生み出しているものを疑わなければ 女は いつまでたっても 自由には生きられないと 私は言ってんのです。」

照男「俺は 砂良のこと 俺のもんなんて思ってねえからな。」

砂良「えっ 私は あんたのものじゃないんだ?」

照男「いや 俺のもんだ…。」

砂良「どっち?」

なつ「もう いいでしょや そったらことは。」

夕見子「ダメだ。 もっと普通を疑え なつ!」

富士子「いい加減にして 夕見子。」

咲太郎「ハハハハ…。」

なつ「お兄ちゃん。」

咲太郎「いや 面白いな。 なつは 本当に面白い家で育ったんだな。」

なつ「そう? 普通の家族しょ。」

咲太郎「いや 普通じゃないと思うぞ。」

子供部屋

夕見子「これを 千遥ちゃんが… へえ…。」

明美「さすが なつ姉ちゃんの妹だべさ。 絵がうまいっしょ。」

夕見子「うん。」

明美「やっぱり 私とは大違いだわ。」

なつ「そったら寂しいこと言わんでよ 明美ちゃ~ん!」

明美「やめれ~!」

なつ「明美ちゃ~ん!」

夕見子「不思議だね…。 お父さんの手紙は知らないんでしょ?」

なつ「えっ?」

夕見子「ほら あんたが そこに貼ってた 戦死したお父さんの手紙にあった絵さ。 それを知らないのに 千遥ちゃんも 同じことをしてたってことだべ?」

なつ「お兄ちゃんも 東京で描いてたのさ 家族の絵を。」

夕見子「咲太郎さんも?」

なつ「お父さんのまねをして…。」

夕見子「へえ…。 何だか あんたが絵描きになるのも 必然だったんだね。]

夕見子「随分 幼稚なの読んでんだ。」

なつ「えっ?」

夕見子「これ。」

なつ「あっ それは 仕事のために読んでんの。」

夕見子「仕事?」

なつ「漫画映画の原作になるものを 探してるんだわ。」

夕見子「えっ あんた もう そんな仕事まで さしてもらってんの?」

なつ「短編映画だけどね…。 若手の育成のために 企画から 作らせてもらえることになったのさ。」

夕見子「へえ…。」

明美「で 何の話にするの?」

なつ「それが決まんなくて…。」

夕見子「そういえば… あんたら きょうだいって 『ヘンゼルとグレーテル』みたいだもね。」

なつ「『ヘンゼルとグレーテル』?」

夕見子「そう。 兄と妹の話だよね これ。 まま母に捨てられたきょうだいが 森の中で お菓子の家を見つける話だよね。」

なつ「うん そう。」

夕見子「ほら 深い森の中に連れていかれる時 兄は 帰り道が分かるように パンを ちぎって落としていくでしょ?」

なつ「うん。」

夕見子「あんたら きょうだいにとって そのパンが 絵なんだわ。」

なつ「え?」

夕見子「パンを落とす代わりに 絵を描いてんの。 それが 自分の家に帰るための 道しるべなんだわ! だけど そのパンは 鳥に食べられてしまって きょうだいは 帰り道を見失ってしまう。]

夕見子「その鳥は… そう 時の流れという名の鳥なんだわ! 時は流れて 子どもは いつしか 子どもじゃなくなっていく…。」

明美「ねえ 何言ってんの?」

夕見子「ねえ ぴったりっしょ! なつがやるなら これしかないべ!」

なつ「『ヘンゼルとグレーテル』…?」

居間

剛男「咲太郎君… 君らを こんな運命にしてしまったのは 私かもしれんな…。」

咲太郎「そうですよ。」

剛男「そだな…。」

咲太郎「だから 俺は 心から感謝してます。」

剛男「ありがとう…。」

富士子「さあ 飲んで。」

咲太郎「ああ すいません…。」

泰樹「咲太郎。」

咲太郎「はい…。」

泰樹「お前は ここまで よくやったな。」

咲太郎「えっ?」

泰樹「よく頑張って生きてきた…。 この先も 胸張って生きりゃいい。」

旧牛舎

悠吉「なっちゃん 腕は なまってないな。」

なつ「うん… これで また 当分できなくなるから しっかり この手に残しておきたくて。」

悠吉「本当に もう 今日戻っちゃうんかい?」

なつ「これ以上いたら 東京に戻りたくなくなっちゃうでしょや。」

菊介「だったら戻るな。 このまま ここさ いろ! 漫画映画を作りたければ ここで作ればいいべさ! この菊介さんが手伝ってやっから。」

悠吉「お前に 何ができんだ?」

菊介「なっちゃんの… 肩もみぐらいはできるべよ。」

なつ「ありがとう 菊介さん。 それ聞いて やっと戻る気になれたわ。」

菊介「いや そりゃないべ なっちゃん!」

(笑い声)

子供部屋

なつ「はい 出来た。」

明美「ありがとう なつ姉ちゃん。」

なつ「うん。 行ってらっしゃい。 元気でね…。」

明美「なつ姉ちゃんも。」

なつ「うん。」

明美「行ってきます。」

なつ「行ってらっしゃい。」

明美「行ってきます。」

なつ「気を付けてね。」

台所

富士子「体 気ぃ付けてね。」

なつ「うん… みんなも。 それじゃ また。」

砂良「今度は もっと ゆっくりね。」

なつ「砂良さん 照男兄ちゃん 赤ちゃん 楽しみにしてる。」

砂良「産まれたら会いに来て。」

照男「咲太郎さんも また来て下さい。」

咲太郎「そっちの兄さんも 東京に また。 皆さん 俺もですが… 千遥が 本当にお世話になりました。」

なつ「千遥の服は ここに置いとくから。」

富士子「分かった。 いつか 取りに来てくれるといいね。」

なつ「うん。 それじゃ 夕見 またね。」

夕見子「そのうち 東京にも連絡すると思うわ。」

なつ「必ずよ。」

夕見子「うん。」

なつ「じいちゃんも また。」

泰樹「うん。 こっちのことは心配すんな。 咲太郎。」

咲太郎「はい。」

泰樹「しっかりしろや。」

咲太郎「はい。 最後に怒られた…。」

(笑い声)

剛男「じゃ 行こうか。」

なつ「うん。 行ってきます。」

一同「行ってらっしゃい。」

(車のエンジン音)

<こうして なつの短い里帰りが終わりました。 なつよ 千遥の目にも きっと この風景は 焼き付いているだろう。>

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