ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第86話「なつよ、ワクワクが止まらない」【第15週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)と咲太郎(岡田将生)が東京に帰ってきた。二人は、十勝での出来事を亜矢美(山口智子)に報告。亜矢美は、千遥の心の内にあるものを察し、落ち込む二人を元気づける。翌日、なつが東洋動画に出社すると、下山(川島明)、麻子(貫地谷しほり)、坂場(中川大志)から、宿題だった短編映画の企画案を求められる。そこでなつが、帰省中にヒントを得た企画について話しだすと、皆興味を持ちだし…。

86話ネタバレ

おでん屋・風車

玄関

<なつと咲太郎が 新宿に着いたのは 翌々日の早朝でした。>

なつ「亜矢美さんには話したの?」

咲太郎「電話で簡単にな… 千遥に会えなかったってことも。」

なつ「それじゃ 元気出した方がいいね。」

咲太郎「うん そうだな。」

1階店舗

2人「ただいま!」

1階居間

亜矢美「うん…。 置屋ってさ 東京のどこにある置屋だろうね?」

なつ「それは言わなかったみたい。 だから 手紙にも わざと書いてないんです。」

咲太郎「結婚するなら 置屋には もう いなくなるんだろう。」

亜矢美「う~ん… 結婚する相手のことも わざと詳しくは書かなかったのね。 そんだけ あんたたちのことを 思ってるってことよ。」

咲太郎「もう少し 信用してくれてもいいのにな。 幸せを邪魔するようなことは 絶対しないのに。」

亜矢美「千遥ちゃんの方が 会いたい気持ちを 抑えきれないからだって 書いてあるでしょ。」

なつ「でも そんな結婚をして 幸せになれるんでしょうか?」

亜矢美「なれるよ。 自分で こうって決めたことなら どんなことがあったって 前に進んでいける。 で もし『ああ つらい ああ もう しんどい ああ もうダメだ』って思った時には 千遥ちゃんには 今 北海道ってものがあるんじゃないの。」

なつ「フッ… そうですよね!」

2階なつの部屋

<なつは 宿題になっていた 短編映画の企画に 『ヘンゼルとグレーテル』を 提案することにしました。>

回想

夕見子「あんたら きょうだいにとって そのパンが 絵何だわ。 パンを落とす代わりに 絵を描いてんの。 それが 自分の家に帰るための道しるべなんだわ!」

回想終了

東洋動画スタジオ

会議室

なつ「1週間近くも ご迷惑おかけして すいませんでした。」

麻子「何があったかは聞かないけど ちゃんと 短編の企画のことは 考えてきたんでしょうね?」

なつ「あっ… はい。 マコさんと坂場さんは?」

麻子「あなたがいない間に さんざん 2人で話し合ったんだけどね どうも ダメなのよ 全然 考えが合わなくて。」

なつ「そうなんですか?」

坂場「とりあえず君の提案を聞いてから また意見を 擦り合わせようということになってね。」

麻子「考え方の違いだから 擦り合わせようがないんだけどね。」

なつ「どう違うんですか?」

麻子「いいから あなたの考えを言いなさい!」

なつ「あっ はい! あの… 私は これがいいと思うんですけど…。 『ヘンゼルとグレーテル』です。 『ヘンゼルとグレーテル』を原作にして 短編映画を作りたいと思ったんです。」

下山「ふ~ん 『ヘンゼルとグレーテル』か…。」

麻子「グリム童話ね。」

なつ「そです。 マコさんの好きな 『白雪姫』とおんなじです。」

麻子「関係あるの?」

なつ「別にないです。」

坂場「なぜ『ヘンゼルとグレーテル』なんですか?」

なつ「なぜ?」

坂場「なぜ これをやりたいと思ったかです。」

なつ「ああ…。」

坂場「それは 休みを取った理由と 関係があるんですか?」

なつ「あの… 私は 戦争で孤児になったんです。 あっ 兄が生きています。 それに 子どもの頃に生き別れになった 妹もいます。 この休みの間に その妹が 元気に生きていることが 確認できたんです。」

麻子「そうだったの…。」

なつ「3人とも それぞれ いろんなことがあって いろんな人に助けられながら 今日まで生きてきました。」

坂場「なるほど…。 それは つまり 『ヘンゼルとグレーテル』に あなたたち きょうだいを 投影したいということですか?」

なつ「いや そこまでは考えてません。 まあ でも ひかれたきっかけには なってると思います。 ヘンゼルとグレーテルは まま母に捨てられて 道に迷い お菓子の家を見つけたせいで 魔女に捕まってしまいます。」

なつ「それで 食べられそうになっても 生きることを諦めませんでした。 何か そういう 困難と戦って生きていく 子どもの冒険を 描きたいって思ったんです。」

坂場「なるほど。 広い意味で これは子どもの戦いですからね 確かに。」

下山「冒険物ね… 面白そうじゃない?」

麻子「面白そうですが 実際には どう面白くするかです。 童話を そのまま映像にするだけなら 大した冒険にはならないと思います。」

なつ「はい。」

坂場「それは これから考えましょう。 テーマさえ 明確にあれば あとは どう面白くするか そのアイデアを出すだけになりますから。」

麻子「ちょっと待って。 やっぱり 脚本作らないつもり?」

なつ「えっ?」

坂場「脚本を作らないとは言っていません。 脚本家を立てないと言ってるんです。」

なつ「えっ どういうことですか?」

麻子「そこが 考え方の違いなのよ。 私は 話を重視して企画を決めたいのに この人は テーマがあれば 話はいらないって言うの。」

坂場「いらないとは言っていません。 最初から決める必要はないと 言っているんです。」

下山「まあ まあ まあ まあ まあ まあ まあ まあ… 『ヘンゼルとグレーテル』でいいか それだけでも決めない? ね。」

坂場「僕は いいと思います。」

麻子「私も これをやること自体はいいです。」

なつ「ありがとうございます。」

喫茶店・リボン

桃代「へえ~ じゃ あの坂場さんと一緒に 作品を作るんだ?」

なつ「うん… 短編だから お互い勉強のために そういうチャンスをもらったってだけ。」

桃代「なっちゃんは 自分で チャンスをつかんだのよ。 経験を買われて 原画を任されたんだから すごいことじゃないの。」

なつ「でも 実際 どこまでできるか分かんないし 怖いよ。」

桃代「大丈夫よ。 自分の力を試してみればいいじゃない。 せっかくもらったチャンスなんだし。」

なつ「うん… そだね。 何か モモッチと話してると 気が楽になるわ。」

桃代「それで?」

なつ「ん?」

桃代「坂場さんとは うまくいきそう?」

なつ「イッキュウさん?」

桃代「イッキュウさん?」

なつ「ほら 坂場一久って 坂場イッキュウとも読めるでしょ。」

桃代「ああ ハハハ…。」

なつ「う~ん… 何を言いだすか 分かんないから 怖いけど でも この人がいれば きっと いい作品ができるって 妙に安心すんの。」

桃代「へえ~…。 ねえ それって もしかして… 好きになった?」

なつ「えっ? 違うわ! そんな意味はないからね。」

桃代「イッキュウさんのお父様って 大学教授らしいわよ。」

なつ「ふ~ん そうなんだ。」

桃代「結婚しても 肩凝りそうじゃない?」

なつ「うん…。 本当 何もないからね!

桃代「ん?」

なつ「ん?」

桃代「フフフ ふ~ん…。」

おでん屋・風車

<そして その晩のことでした。>

1階店舗

亜矢美「あ~ いらっしゃい! お一人?」

坂場「はい。」

亜矢美「じゃあね… ここ詰めて。」

坂場「いえ あの… こちらに 奥原なつさんは いらっしゃいますでしょうか?」

亜矢美「なっちゃんの知り合い?」

坂場「はい。 同じ会社の坂場と申します。」

亜矢美「じゃ なっちゃん呼ぶよ せ~の…。」

一同「なっちゃ~ん!」

「彼氏来てるよ!」

「いい男だよ!」

「早く 早く…!」

なつ「はい 何ですか? あっ!」

坂場「ちょっと相談があって ここに来ました。」

なつ「はあ…。」

坂場「おでん屋さんに下宿をしてると 聞いたもので お邪魔しても差し支えないかと…。 今 企画書を書いてるんです。」

なつ「あっ いや あの ここじゃなんですから…。」

2階なつの部屋

なつ「どうぞ。」

坂場「失礼します。」

なつ「私も 今 考えてたとこなんです。 すぐに 絵を描ける場所の方が 話しやすいですから。 あの…。」

坂場「あっ… はい。」

なつ「あっ… あっ 今 お茶でも…!」

坂場「結構です。 お構いなく。 すぐに おいとましますから。」

なつ「じゃ 座って下さい。 適当に。」

坂場「はい。」

なつ「あっ…。」

坂場「もしかして 子どもの頃に 生き別れになったという妹さんですか?」

なつ「はい… その妹が 急に現れて まあ 事情があって 会うことはできませんでした。 そのかわりに 手紙と この絵を残してくれました。」

坂場「妹さんも 絵を描くんですか?」

なつ「そうだったんです… 絵は 私たち きょうだいにとって ヘンゼルとグレーテルが 落としていったパンだと ある人に言われました。」

坂場「パン?」

なつ「帰り道を残すための道しるべなんです。」

坂場「それで『ヘンゼルとグレーテル』を やろうと思ったんですね。」

なつ「そうです。 それで 相談したいことというのは?」

坂場「ああ… あらすじです。」

なつ「あらすじ?」

坂場「はい。 兄のヘンゼルが 魔女に食べられそうになっていて 魔女は おいしい食べ物を たくさん ヘンゼルに与え 太らせようとします。 それを 妹のグレーテルが手伝わされていて 最後に 魔女を かまどに突き飛ばして 焼き殺します。 ヘンゼルを助けるために。」

なつ「はい。」

坂場「それで いいんでしょうか?」

なつ「そうなんです! 実は 私も 一番 そこが引っ掛かってるんです。 そんな残酷な結末を 子どもに見せたくないんです。」

坂場「それなら どうしますか?」

なつ「例えば…。 魔女を殺さずに 逃げたらどうなるんでしょうか?」

坂場「逃げる? きょうだいで逃げるわけですね 魔女の家から。」

なつ「そうです。」

坂場「それを 魔女が追ってきたら どうなりますか? 逃げても逃げても追ってくる魔女… 魔女とは 子どもたちの自由や未来を奪うような 社会の理不尽さみたいなものの象徴です。 逃げても逃げても追ってくる 社会の理不尽… それと どう戦うか…。」

なつ「あっ…。」

坂場「すいません。 今 君の話を聞いて確信しました。 これは 君が作るべき作品です。」

なつ「えっ…。」

坂場「そのために 僕が必ず この企画を通します。 うん…。 失礼します。」

なつ「えっ? あっ ちょっと待って下さい…!」

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