ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第87話「なつよ、ワクワクが止まらない」【第15週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)が初めて原画を務める短編映画の制作が始まった。脚本家をたてない坂場(中川大志)のやり方に、麻子(貫地谷しほり)は難色を示しながらも、下山(川島明)を中心になつや麻子、新人の動画マンが集まり、ストーリーの検討会が行われる。互いに意見を言い合いながら物語が少しずつできあがっていく中、今まで口を閉ざしていた新人動画マンの神地(染谷将太)が、突如遠慮なく意見をぶつけてきて…。

87話ネタバレ

おでん屋・風車

坂場「妹さんも 絵を描くんですか?」

なつ「そうだったんです… 絵は 私たち きょうだいにとって ヘンゼルとグレーテルが 落としていったパンだと ある人に言われました。」

坂場「パン?」

なつ「帰り道を残すための道しるべなんです。」

坂場「これは 君が作るべき作品です。」

なつ「えっ…。」

坂場「そのために 僕が必ず この企画を通します。」

<そして その企画は無事に通り なつが初めて原画を務める 短編映画の制作が始まりました。>

東洋動画スタジオ

会議室

坂場「演出部の坂場です。 え~ これは短編なので 長編とは違うやり方をしても いいと思います。 まず 脚本を最初に作り それを 皆さんが絵にするのではなく 脚本自体も 皆さんと一緒に 作っていきたいと思います。」

茜「えっ それは つまり… どういうことですか?」

坂場「まず キャラクターのイメージを膨らませ アニメーターの意志や アイデアによってストーリーやセリフも 生み出していくということです。 漫画映画では アニメーターが 作家にもなり 役者にもなる。」

坂場「そういうやり方が もっと試されていいはずなんです。 どんなに ありえない話でも 本当のように見せる力は アニメーターにしか発揮できないんです。」

神地「面白い!」

堀内「君 誰だっけ?」

下山「新人君だよ。」

神地「神地航也です。」

下山「じゃ メンバーもそろったし やってみよっか… ね。 ハハハ…。」

坂場「よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

作画課

<坂場君の提案により 脚本を作る前に アニメーターが キャラクターを描くことになりました。 ヘンゼルとグレーテルを なつが 魔女を マコさんが担当しました。>

喫茶店・リボン

麻子「仲さんは どう思いますか? 脚本も作らずに いきなり イメージを アニメーターに描けと言われても… 脚本までは 演出の方が きちんと書いてもらわないと困ります。」

仲「うん… 坂場君のやり方か…。 まあ しかし これは短編だからね そう珍しいやり方でもないと思うよ。 この会社が出来て やっと日本でも 長編が作られるようになったけど それまでの漫画映画は 脚本家に頼らず アニメーター主導で作ってた 短編ばかりだからね。 坂場君は その原点を やろうとしてるんじゃないのかな。」

麻子「原点ですか…? そうは感じませんけど。」

仲「とにかく 僕は 短編には 口を挟まないから マコちゃんと なっちゃんが 中心になって頑張ってよ。」

麻子「仲さんは どうして 私と一緒に 奥原さんを 原画にしようと思ったんですか?」

仲「不満?」

麻子「不満はないです。 彼女の能力は認めています。」

仲「お互いに いい刺激になると思うんだ 君と なっちゃんは。」

東洋動画スタジオ

作画課

なつ「すいません。 あの これ描いてみたんですけど どうですか?」

坂場「なるほど… 面白いです。」

<なつは 坂場君と一緒に キャラクターから 物語のイメージを 膨らませていきました。>

坂場「いいと思います。 けど…。」

なつ「けど?」

会議室

<そして なつが描いたイメージをもとに ストーリー作りが始まりました。>

坂場「これから ストーリーを 皆さんと検討したいと思います。」

茜「あの すみません。」

坂場「はい。」

茜「そのイメージボード まっすぐに貼り直してもいいですか?」

坂場「あ… どうぞ。 すみません。」

麻子「相変わらず不器用ね。」

下山「え~ 親に捨てられて 森の中で迷い お菓子の家を見つけて 魔女に捕らえられる。 ここまでは ほぼ原作どおりだよね。」

坂場「はい。 問題は ここからなんです。 ヘンゼルとグレーテルは 魔女を殺さずに 魔女から逃げ出したいんです。」

下山「逃げる?」

坂場「これは 奥原さんのアイデアですが 魔女よりも もっと悪いやつがいたらどうかと。」

堀内「魔女よりも悪いやつ?」

茜「魔女が 最終的な敵じゃないってこと?」

なつ「はい そうです。」

下山「つまり 影の本丸か?」

なつ「魔女は その本丸に 仕えているだけなんです。 例えば 森の奥に こういう高い塔が建っていて そこに いたらどうかと。」

下山「うん バベルの塔のように。」

茜「そこは お菓子の塔じゃないんだ。」

なつ「はい。」

下山「いや ちょ ちょ ちょ ちょ ちょ ちょ ちょい…。 イッキュウさんが貼ったら それ ピサの斜塔みたいになっちゃう。 やめて。」

なつ「あっ… で その塔には 闇の世界を支配する悪魔がいるんです。」

下山「悪魔?」

なつ「その悪魔の塔に 魔女は 捕まえた子どもたちを 連れていかなくちゃならないんです。 その途中で ヘンゼルとグレーテルが逃げるんですよ。」

堀内「どうやって逃げるの?」

なつ「鳥が助けるんです。」

堀内「鳥?」

なつ「ほら 森に来る時に ヘンゼルは パンをちぎって 落としていくじゃないですか。 そのパンを食べた鳥たちが 今度は ヘンゼルに恩返しをするんです。 鳥たちが 魔女を襲って ヘンゼルたちを逃してやるんですよ。」

堀内「話を作り過ぎてないか? それじゃ もう グリム童話の 『ヘンゼルとグレーテル』ではないだろう。」

神地「面白い! あっ 面白いと思います! 僕も やっと この企画に 乗れるような気がしてきました。」

なつ「本当?」

堀内「新人が 生意気なこと言うなよ。」

神地「遠慮なく意見を言えって言われたんで…。」

坂場「いいですよ 何でも言って。」

神地「あっ それから どうなるんですか? 鳥が助けられたあとは。」

茜「そう まさか そこで終わりじゃないわよね? あっ 悪魔が まだ出てきてないもの。」

なつ「はい。 あの ヘンゼルとグレーテルは それで逃げるんですが 魔女が追ってきて また捕まっちゃうんです。 例えば 妹のグレーテルが 魔女に捕まって 兄のヘンゼルが 悪魔の塔に助けに行くんですよ。」

神地「面白くない!」

なつ「えっ?」

神地「僕は 捕まるなら 兄のヘンゼルだと思います。 それを 妹のグレーテルが 助けに行くんです。 ずっと魔女の手伝いをさせられながら 兄を助けようとしてきた。 その思いを 最後まで いちずに貫かせてやるべきです!」

なつ「なるほど…。」

麻子「ちょっと。」

なつ「えっ どうやって塔の上まで登るの?」

神地「壁を よじ登ればいいと思います。 あの絵だと 塔に つたが絡まってるんでしょ? そのつたを よじ登っていくんです こうやって…。 まなじりを決して登る グレーテル。」

「おお…。」

なつ「面白い!」

茜「悪魔の目的って何だろう?」

なつ 神地「えっ?」

下山「そりゃ もちろん 魔女に代わって 子どもたち食べるんだろ?」

なつ「普通に考えれば そですよね。」

神地「あ~ もう それじゃ面白くない! オオカミは どうでしょう!?」

なつ「オオカミ?」

神地「悪魔は 塔の上で オオカミを飼っているんですよ。 ペットのように。 そのオオカミの餌食として 魔女は 子どもを太らせて 連れてくるように命じられていたんです。」

茜「怖い!」

神地「闇のオオカミたちです。 その前に差し出される ヘンゼル。」

なつ「危機一髪 そこに グレーテルが助けに来た!」

坂場「さしずめ そのオオカミは 戦争 兵器の象徴といったところか…。」

茜「で どうなるの? そこから2人は どうやって逃げるの?」

なつ「どうしよう?」

神地「魔女が裏切るんですよ。」

なつ「えっ?」

神地「魔女が 悪魔を裏切って グレーテルの味方になるんです!」

なつ「すごい! 面白い!」

麻子「ねえ ちょっと待ってよ! これは短編なのよ! そんなに 話 複雑にしてどうすんの!」

堀内「ますます 何の話だか 分からなくなってきたな。

なつ「えっ でも 面白くないですか?」

茜「私は 何となくですが 面白いと思いました。」

麻子「面白いか面白くないかじゃなくて…。」

神地「アクションの連続にすれば 時間は大丈夫ですよ。」

麻子「1本も作ったことない人が 何言ってんの!」

神地「まあ そうですけどね…。」

下山「とにかく 今日は もう この辺にしとこう。 あんまり時間もないけど…。」

坂場「また 話し合いましょう。」

下山「はい。」

堀内「はい…。」

喫茶店・リボン

なつ「すごいですね あの人。」

坂場「うん… 神地航也君か…。」

なつ「新人とは思えません。」

下山「まあ 生意気な新人は ここじゃ珍しくないけど あそこまで 物言う新人って 珍しいかもね。」

なつ「大学を出たばかりということは 私より 年は1つ上ですか。」

下山「研修期間の能力試験じゃ 1番の成績で 動画になったらしいよ。」

なつ「へえ…。」

麻子「そんなことより これから どうするんですか? 私も 奥原さんも 初めて原画をやるアニメーターなのよ。 坂場さんだって 演出するのは これが初めてなんでしょ? きちんとした話もなくて どうやって作るの?」

坂場「今更 脚本家を立てろと言うんですか? 未経験の我々だから 新しいものを生み出せる可能性だって あるんです。」

なつ「マコさんは 内容に不満なんですか?」

麻子「私が不満なのは 自分が何を作ってるか 分かんないってことよ。」

下山「まあ 確かに アニメーターっていうのは 話を前に 絵を作る人間なわけであって 話を作る人間じゃないからね 普通は。」

なつ「でも… 怖いけど その分 ワクワクもしてるんです。 マコさんだって 童話を そのままやっても 大した冒険にはならないって 言ってたじゃないですか。」

麻子「だから 話を作る才能も 必要だってことを言ってるのよ。」

店員「いらっしゃいませ。」

下山「あれ 神地君!」

神地「すいません ちょっといいでしょうか?」

下山「えっ どうしたの?」

神地「さっき話してたところを 僕なりに絵コンテにしてみたんですけど。」

下山「絵コンテ?」

神地「あっ… とはいっても 描いたことがないんで 絵コンテみたいなものですけどね。 見てもらえますか?」

坂場「是非 見せて下さい。」

なつ「私も見たいです!」

下山「はい はい…。 えっ これ… 君が描いたの?」

神地「言いっ放しもどうかと思ったんで。 使えなかった捨てて下さい。」

坂場「この先は? 魔女が裏切るところは 描いてないんですか?」

神地「あ… そこは まだです。 僕は その魔女のキャラクターが 大好きなんです。 怖いけど どこか滑稽で 愛嬌があって。 だから つい 味方にしたくなっちゃったんですよね。 見てる子どもたちも 喜ぶんじゃないかと思って。 何か… あっ どうも すいません…。 失礼しました。」

なつ「よかったですね マコさん。」

麻子「何が?」

なつ「魔女のキャラクター マコさんが描いたんじゃないですか。 マコさんの絵が 神地さんを動かしたんですよ。」

麻子「新人に褒められて 喜んでる場合じゃないでしょ。」

下山「うん… まあ でも これからは 神地君みたいな 絵も話も作るのが得意なアニメーターが 現れても不思議じゃないよね。」

坂場「そうですよ。 これからの日本の漫画映画には いつ どんな才能が現れるか 分からないんです。」

なつ「才能…。 何だか ますます ワクワクしてきました。」

<なつよ その心の高ぶりは 一体 何だ?>

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