ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第88話「なつよ、ワクワクが止まらない」【第15週】

あらすじ

咲太郎(岡田将生)は、劇団を辞めて声優のプロダクションを立ち上げるとなつ(広瀬すず)に宣言する。咲太郎は、所属第1号の蘭子(鈴木杏樹)とともに、雪次郎(山田裕貴)やレミ子(藤本沙紀)に声優という仕事の可能性を語る。季節が巡り、制作の期限が迫ってきた初夏。東洋動画では、短編映画のストーリーがなかなかまとまらず、なつは、麻子(貫地谷しほり)や坂場(中川大志)らとともに生みの苦しみを味わっていて…。

88話ネタバレ

東洋動画スタジオ

会議室

坂場「ヘンゼルとグレーテルは 魔女を殺さずに 魔女から逃げ出したいんです。」

なつ「その塔には 闇の世界を支配する悪魔がいるんです。」

下山「悪魔?」

神山「面白い! グレーテルの味方になるんです!」

なつ「すごい! 面白い!」

<なつが 短編映画作りに夢中になっていた ある晩のことでした。>

おでん屋・風車

1階店舗

なつ「ただいま。」

亜矢美 咲太郎「お帰り。」

なつ「あっ 蘭子さん!」

蘭子「こんばんは。」

なつ「お久しぶりです。 どうなさったんですか?」

咲太郎「俺がお連れしたに 決まってるだろ。」

雪次郎「なっちゃん お帰り。」

レミ子「お帰り。」

なつ「みんなそろって 劇団の打ち上げ?」

咲太郎「そうじゃないよ。 こんな寂しい打ち上げがあるかよ。」

茂木「まあ… なっちゃん おいで。」

なつ「あっ… 茂木社長もいらしたんですか。」

茂木「え~… 影薄いんだな 俺。 ウスバカゲロウだよ。」

(笑い声)

咲太郎「なつ 蘭子さんはな お前の作ってる漫画映画に 声で出るようになってから 声の仕事が たくさん来るようになったんだ。」

なつ「へえ… ああ ラジオとか?」

咲太郎「違う。 外画」

なつ「ガイガ?」

咲太郎「外国のテレビ映画だよ。 吹き替えだ。」

なつ「あ~ あの… 川村屋で見たことある あの日本語の外国映画?」

咲太郎「そう それだ。 テレビの世界では 今 そういう仕事が増えてるんだよ。 俺は 蘭子さんに ついて 放送局を回るうちに これは チャンスかもしれないと思ったんだ。」

なつ「チャンス?」

咲太郎「なつ 俺は劇団を辞めて 会社を作ることにした。」

なつ「えっ…。」

咲太郎「声だけのプロダクションを始めるんだよ。」

なつ「声だけの?」

咲太郎「声だけの俳優 声優だ。 お前の漫画映画にも 使えるぞ。 な? いいだろ?」

なつ「いいだろって言われても…。 いいの? それ。」

亜矢美「いいんだろうか?」

咲太郎「いいんだよ!」

亜矢美「う~ん… いいの?」

咲太郎「う~ん… いいんだよ! 蘭子さんが うちの所属第1号ということになる。 そして 雪次郎とレミ子も うちで 声の俳優になるんだ。」

なつ「みんなで 劇団辞めちゃうってこと?」

蘭子「まさか 辞めないわよ。」

雪次郎「辞めるわけねえべさ なっちゃん。 俺も レミちゃんも やっと研修生から 劇団員になれるとこまで 決まったんだから。」

なつ「本当? そんなら どして?」

咲太郎「別に 劇団を辞める必要はないんだよ。 劇団の芝居をしながら 映画やラジオに出るのと同じだ。 俺の会社は 声の仕事だけを扱うだけってことだ。 赤い星座だけじゃなくて いろんな劇団にも声をかけて 役者を集めてるんだ。 俺は 日本の劇団と役者を救いたいんだ。」

なつ「救うって?」

咲太郎「声の仕事は 食えない役者の救いにもなるんだよ。」

亜矢美「どう思います? 社長。」

茂木「咲坊 俺は いいところに目をつけたなと思ってるよ。」

亜矢美「本当?」

咲太郎「本当ですか!?」

茂木「これからは いやが上でも テレビの時代にある。 放送局も増えて テレビは もう 一家に一台の時代になる。」

なつ「テレビの時代ですか…。」

咲太郎「藤正親分にも褒められたよ。」

亜矢美「親分にも話したの?」

咲太郎「うん。 一応 挨拶に行ってきたんだ。 元気にしてたよ。」

藤田「ごめん。」

亜矢美「あっ 藤正親分!」

なつ「えっ 親分!」

咲太郎「何か 今 親分の気配を感じてたところです!」

藤田「なつさんか… 元気かい?」

なつ「はい。 おかげさまで。」

亜矢美「どうぞ どうぞ。 いつものですか? 親分。」

藤田「今日は 客じゃねえんだ。 咲太郎に 頼みがあって来た。」

咲太郎「俺にですか? 何でしょう?」

藤田「おい 入れ!」

島貫「やあ 咲坊!」

咲太郎「師匠 島貫さん… 松井さんも…!」

松井「おう 咲坊 久しぶりじゃねえか。」

島貫「よう 亜矢美。」

松井「亜矢美ちゃん いい店やってんな。」

亜矢美「お久しぶりです。」

咲太郎「どうしたんですか? 2人して。」

藤田「咲太郎 お前 今度 新しい劇場を作るんだろ?」

咲太郎「はあ!?」

藤田「そこへ こいつら 出してやってくんねえか。」

島貫「どんな劇場だ? まさか ストリップじゃねえだろうな?」

松井「ぜいたく言うな。 お前は 何でも偉そうだから 師匠なんて呼ばれてんだぞ。」

咲太郎「ちょっと待って下さい 親分!」

藤田「分かってる。 そのことは もう水に流せ。 昔は ムーランで 苦楽を共にした仲間じゃねえか。」

松井「これが 博打の戦利品なんだ。 質屋に持ってけば ひょっとしたら 10万くらいになるかもしれねえぞ ああ。」

松井「あの時は悪かったな 咲坊。 お前が金に困ってたらから つい…。」

なつ「それじゃ お兄ちゃんは その人のせいで 警察に捕まったってことですか!?」

藤田「その罪は 自主して償ったんだ。 なつさん 許してやってくれ。」

松井「あれは 悪いやつから 借金のカタに取り返しただけなんだよ。 まさか通報するとは思わなかったもんな。」

島貫「『盗人たけだけしい』とは お前のことだ。」

松井「こいつと芝居すんのが嫌で あのころは やけになってたからよ。」

咲太郎「そのことは 別にいいんですよ。」

なつ「いいの?」

咲太郎「だけど 違うんですよ。 俺が作るのは 声優のプロダクションですよ。」

藤田「何だ? そりゃ。」

咲太郎「主に 吹き替えの仕事です。 ここにいるのが そういう役者です。」

松井「なるほどね…。 顔じゃ売れない役者のやることか。」

蘭子「失礼ね!」

レミ子「何言ってんのよ!」

雪次郎「あなたは 劇団赤い星座の亀山蘭子さんを 知らないんですか!」

なつ「雪次郎君 落ち着いて。 その人 シャバにはいなかったからよ。」

松井「とっくにいたよ。」

藤田「とにかく こいつらの面倒見てやれ。 な。 咲坊。」

咲太郎「分かりました。」

東洋動画スタジオ

会議室

<季節は 初夏を迎えました。 なつたちは 『ヘンゼルとグレーテル』の ストーリーが固まらず 生みの苦しみを味わっていました。>

下山「もう そろそろ決めて 作画の作業に入らないと間に合わないぞ。 このままだと 上から もう作るなと言われかねない。 次の長編も 迫ってきてるわけだし…。」

なつ「そんな…。」

麻子「もう限界よ…。」

なつ「あと一歩のところまで来てるんです。 結末が見えてないだけで…。」

麻子「ここまで来て 結末が見えてないのが 限界だって言ってんの。 しょせん 私たちは作家じゃないのよ。 絵描きなの。」

神地「あの… もう作画しながら 考えるっていうのは どうでしょうか?」

麻子「ダメ! 何言ってんの。 これ短編なのよ。 先が見えないで 長さ どうやって測んのよ。」

神地「長くなったら 削ればいいかと…。」

麻子「時間と労働の無駄!」

神地「はい…。」

坂場「森なんですよ…。」

なつ「森?」

坂場「兄を助けようと いちずなグレーテルに 心を打たれた魔法使いの魔女が 森を支配する悪魔を裏切り そして ヘンゼルとグレーテルを連れて 森の中へ逃げていく。 そこに 悪魔の放った 無数のオオカミたちが迫ってくる。 そこまでは いいですね?」

なつ「はい。」

坂場「あとは その森で 何が起きるかです…。 僕は この話 子どもたちが いかにして 森を信じられるかだと思っています。 それは つまり 自分の生きる世界 生活を信じられるかどうかです。 どんなに恐ろしい世界でも そこに生きるものが 自分の味方だと思えれば 子どもたちは 未来を信じることができます。」

なつ「森を味方にするってことですか…?」

茜「ねえ なっちゃん 北海道に森はないの?」

なつ「いや そりゃ ありますよ いっぱい。」

下山「う~ん… 森…。」

作画課

<なつは その夜 遅くまで 十勝を思い浮かべながら 森のイメージを描いていました。>

なつ「はあ…。」

なつ「ええっ! ちょ… ちょっと ちょっと… うわ~ ちょっと ちょっと…!」

なつ「う~ん…。」

坂場「どうしました?」

なつ「ええっ!?」

坂場「あっ いや あの… うなされてたようなので 具合でも悪いのかと…。」

なつ「あっ… 大丈夫です…。 ちょっと 変な夢見ただけです。」

坂場「夢?」

なつ「あっ… その夢で 何か思いついたんです!」

坂場「何を思いついたんですか?」

なつ「魔法です!」

坂場「魔法?」

なつ「魔女が 魔法で 森にある一本の木を怪物に変えたらどうでしょうか!?」

回想

弥市郎「自分の魂を 木の中に込めるんだ。」

回想終了

なつ「その怪物が ヘンゼルとグレーテルを守るんですよ! 悪魔のオオカミたちを やっつけるんです!」

坂場「その怪物って何なんですか?」

なつ「えっ 何って?」

坂場「いや… 魔女が 魔法をかけただけですか?」

なつ「いや あの… その怪物が魔女なんです! 魔女の魂が 森の木に宿ったんです!」

坂場「なるほど… 森と魔女が一体化したのか。」

なつ「その木に守られたら 森を味方につけたことになりませんか?」

坂場「あなたを信じましょう。」

なつ「描いてみます。」

なつ「こういうの どうでしょう?」

坂場「うん…。 うん… いいと思います。 もっと描けますか?」

なつ「はい…。」

<こうして なつは イメージを描き 坂場は ストーリーを作り 2人の作業は 朝まで続きました。>

茜「それで 最後はどうなるの?」

なつ「最後は その木の怪物が 悪魔の塔を倒すんです。 すると がれきの中から 今まで食べられてきた子どもたちが よみがえるんです。 そして 木の怪物が その塔があった場所で 静かに また動かなくなる。 鳥たちが集まってきて その枝に とまる。 木漏れ日が降り注ぎ ヘンゼルとグレーテルを包み込む。 ああ 森の平和がやって来た。」

坂場「そこで 完!」

なつ「はい!」

神地「面白い!」

なつ「ありがとう!」

下山「よし とにかく これで進めてくれ。 うん。」

なつ 坂場「はい。」

坂場「ありがとう。」

なつ「こちらこそ ありがとうございます。」

<とんでもない『ヘンゼルとグレーテル』に なりそうだ…。 グリムさんに怒られないか?>

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