ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第8話「なつよ、夢の扉を開け」【第2週】

あらすじ

なつ(粟野咲莉)を探して警察を訪れた富士子(松嶋菜々子)や剛男(藤木直人)、泰樹(草刈正雄)たちは、なつが逃げたことを知り、言葉を失う。手がかりを失った柴田一家は、帯広市内で菓子屋・雪月を営むとよ(高畑淳子)や雪之助(安田顕)のもとを訪ねる。そこで剛男は、浅草の孤児院でなつと初めて出会ったときのことを、一同を前に語りだす。

8話ネタバレ

帯広

なつ「シューシャイン! いらっしゃい!」

雪月

泰樹「なつは いるか?」

とよ「なつ?」

泰樹「こないだ来た あの子だ。」

とよ「ああ… あの子が どうかしたの?」

富士子「いなくなったんです。」

とよ「えっ!」

帯広警察署

警察官「今晩は こっちで保護するからね。」

なつ「あの…。」

警察官「えっ?」

なつ「すみません… お便所貸して下さい。」

警察官「お~… 大丈夫か? 急ぐべ 急ぐべ…。 ほら こっちだ。」

剛男「逃げた!?」

警察官「ええ。 便所に行きたいって言うから 行かしたら どうも そこから… 逃げたらしくてね。 う~ん…。」

剛男「なして 逃げたんですか? あなた あの子に何したんです?」

警察官「何にもせんよ。 何を言っとるんだ。 ただ 保護してやると言っただけだ。」

剛男「そうか… あの子は また 施設に送られると思ったんだ。」

富士子「施設?」

剛男「東京で 警察の狩り込みにあって 無理やり 孤児院に送られたんだ。」

夕見子「狩り込みって?」

剛男「警察が 戦災孤児を一斉に捕まえて そういう施設に送り込むことだ。 浮浪児を保護するというより 街を きれいにするために… まるで 野良犬を捕まえるみたいに!」

警察官「ちょっと あんた。 警察が悪いみたいに…。 そもそも あんたんとこが嫌で あの子は逃げ出したんでしょうが! 何を言っとるんだ。」

雪月

とよ「あっ… どうだった?」

泰樹「ダメだ。」

剛男「警察からも逃げたようです。」

とよ「まあ 逃げ足の速い子だねえ。」

妙子「お義母さん そのひと言 余計だと思いますけど。」

富士子「闇市を捜したんですけど どこにも いませんでした。」

妙子「それなら もう この近くには いないかもしれませんね。」

とよ「だから 逃げ足が速いんだろう?」

雪之助「だけどさ 子どもの足で そんな遠くまで行けないでしょう。」

雪次郎「ただいま。」

雪之助「お~ 雪次郎。」

雪次郎「なしたの?」

妙子「お前 あの子 見なかったかい? ほら この前 ここで 柴田のおじいさんと アイスクリーム食べてた…。」

雪次郎「ああ… 夕見子ちゃん?」

とよ「バ~カ。 あれは なっちゃん。 本当の夕見子ちゃんは そこにいるべ。」

雪次郎「えっ? あっ… なっちゃんより めんこい。」

夕見子「知ってる。」

妙子「ねえ そんなことより その辺で なっちゃん見かけなかった?」

雪次郎「見ないよ。 なして?」

剛男「やっぱり あの子は 東京に戻ろうとしたんです。 そのために 靴磨きをして お金を作ろうとしたんでしょうね。」

富士子「孤児院にいるお兄さんに合いたくて そこまで…。」

剛男「あのきょうだいは 特別な絆で結ばれてるんだ。 戦争によって そうなったんだ。 私が 初めて孤児院で会った時…。」

回想

浅草・孤児院

「こら! 向こうへ行ってなさい! すいません。」

剛男「初めまして 柴田剛男と申します。 君たちのお父さんとは戦友です。 戦地で ずっと一緒にいた。 とても仲よくしてもらってました。」

剛男「奥原咲太郎君と なっちゃんでしょ? 君たちを捜し回ったんだよ。 やっと会えた。 あの… もう一人 小さなお嬢さんがいらっしゃると お父さんから聞いてたんだけど まさか…。」

咲太郎「千遥は 親戚に預けました。」

剛男「親戚に? 妹さんだけ?」

咲太郎「まだ小さい妹だけならばって 連れてった。」

剛男「そうだったのか…。 それは つらかったね。」

咲太郎「せっかく ためたお金も ここのやつらに取られて…。 チクショー…。」

なつ「お兄ちゃん 大丈夫だよ。 千遥は 幸せに暮らしてるよ。 ここにいるより ずっといいよ。」

咲太郎「それで… 何の用ですか?」

剛男「ああ… 実は 戦死された君たちのお父さんから 手紙を預かってきたんだ。 それを 渡さなくてはと思ってね。 軍隊の検閲を通さない お父さんの本当の手紙だ。 君たちへの思いが込められてる。」

なつ「あっ おとうさんの絵だ!」

剛男「絵が とても上手だよね。 部隊では いろんな人の似顔絵を描いて お父さんは とても人気があったんだ。 明るくて 面白い人だったね。」

剛男「嫌な上官の似顔絵を 面白く描いて 暗い戦地で その時だけは 笑い声が起こった。 そのうち いろんな人から 家族の似顔絵を頼まれるようになって お父さん 一所懸命に その人から 特徴を聞いて 丁寧に 明るく すてきな絵を描いてね。 みんなに それで喜ばれて。」

咲太郎「どうも ありがとうございました…。」

剛男「ねえ あの… よかったら おじさんと 一緒に来ないか? おじさん 北海道に住んでるんだけど とても広い所だ。 ここより ずっと広い。 これから そこに帰るんだけど 一緒に来ないか? 君たちのお父さんと約束したんだ。 何かあった時には お互い助け合おうって。」

咲太郎「おじさん!」

剛男「咲太郎君…。」

咲太郎「なつだけ… 妹だけ お願いできませんか?」

剛男「君は どうするんだ?」

咲太郎「俺まで行ったら 下の妹が かわいそうだから…。 千遥を 迎えに行けなくなるから…。 それに なつのことも 必ず そのうち 迎えに行きますから! だから それまで…。」

咲太郎「大丈夫だよ なつ ちょっとの辛抱だ。 手紙を書くから。 兄ちゃん しっかり働いて 必ず なつを迎えに行くからな。 千遥と一緒に 迎えに行くよ。」

咲太郎「だから おじさんの家で 辛抱して待っててくれ。 なっ? おじさん お願いします。 なつを幸せにして下さい。 不幸にしたら 絶対 許さねえからな! 覚えとけ!」

剛男「はい!」

回想終了

剛男「それから あの子は 泣かずに 私についてきました。 今 思うと あの子は お兄さんの負担を 少しでも減らそうとしたのかもしれない。 だから 必死に我慢して…。 そのお兄さんに どうしようもなく会いたくなっても それは しかたがないさ。」

富士子「あの子は さぞ怒ってるでしょうね。 大人らに あっちに行かされ こっちに行かされて。」

泰樹「怒りなんていうのは とっくに通り越しとるよ。 怒る前に あの子は諦めとる…。 諦めるしかなかったんだ。 それしか 生きるすべがなかったんじゃ。 あの年で…。 怒れる者は まだ幸せだ。」

泰樹「自分の幸せを守るために 人は怒る。 今のあの子には それもない。 争いごとを嫌って あの子は 怒ることができなくなった。 あの子の望みは ただ 生きる場所を得ることじゃ。」

河原

天陽「うわ~…。」

なつ「あっ 天陽君!」

天陽「奥原… なつ?」

なつ「どうしたの?」

天陽「兄ちゃんと 帯広に買い物に来て 俺は ここで釣りをしてる。」

なつ「お兄ちゃんがいるんだ。」

天陽「君は?」

なつ「うん… 私も家族と。」

天陽「家族って 柴田夕見子の?」

なつ「うん。 買い物に来て… ここで待ってるの。」

雪月

剛男「とにかく その辺を捜してきます。」

泰樹「おい ちょっと待て。 あの子は賢い。 もし 一人で生きようとするなら 水だ。」

河原

なつ「よいしょ…。」

天陽「お~ 来た!」

なつ「はい。」

天陽「うわっ うまいな…。」

なつ「ねえ この魚 頂戴。」

天陽「もちろん いいけど… 食べるのか?」

なつ「うん。」

天陽「一人で?」

なつ「家族を待ってる間に…。 おなか すいちゃった。」

天陽「何かあったのか? 家で。」

なつ「何もないよ。 どうして?」

天陽「君が寂しそうだからに決まってるだろ。」

なつ「寂しくなんかないよ。」

陽平「天陽。」

天陽「兄ちゃん。」

陽平「誰だ?」

天陽「学校の同級生。 家族とこっちに来てるんだって。」

陽平「こんにちは。」

なつ「こんにちは。」

陽平「帰るぞ。」

天陽「うん。 一緒に帰るか?」

なつ「ううん ここで待ってないと。」

天陽「そうか。 じゃあ 明日 学校でね。 学校で会おうな。」

なつ「分かった。」

天陽「ほら… 抱えて。」

なつ「ありがとう!」

天陽「うん!」

語り<なつよ そんなに寂しく笑ってみせるな。>

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