ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第92話「なつよ、恋の季節が来た」【第16週】

あらすじ

なつ(広瀬すず)が会社から帰ると、風車で働き始めた夕見子(福地桃子)から、カウンターに座っている泰樹に似た風貌の男性を紹介される。彼こそが夕見子と東京にやってきた高山(須藤蓮)だった。なつたちは高山と会話をしようと試みるが警戒心が強く、打ち解けられない。翌朝、東洋動画に出社したなつは、下山(川島明)が原画を手伝うと聞かされる。下山は、仲(井浦新)と坂場(中川大志)の対立が原因だと言い…。

92話ネタバレ

おでん屋・風車

1階店舗

高山「どうも。 高山昭治です。」

なつ「初めまして… なつです。」

亜矢美「なかなか かっこいいよね。」

夕見子「だって 昭ちゃん じいちゃんのまねしてんだもんね。」

なつ「えっ?」

夕見子「私が 写真見せたの。 ほら 新聞社が撮った集合写真。 したっけ この人 じいちゃんが気に入って ひげ生やしだしたんだわ。」

なつ「じいちゃんのこと 気に入ってくれたんですか。」

高山「開拓者の1世にしかない雰囲気がある。 今なら ジャズを聴きながら ウイスキー片手に ナッツでも つまんでいれば 似合いそうじゃないですか。」

なつ「ふだんは まんじゅう食べながら お茶飲んでますけどね。」

亜矢美「お帰り。」

咲太郎「ただいま。」

夕見子「お帰りなさい。」

雪次郎「おっ 夕見子ちゃん 働いてんだって?」

夕見子「うん。 雪次郎も頑張ってっか?」

雪次郎「おう。」

咲太郎「どっかから電話あった? 仕事の。」

夕見子「全く。」

咲太郎「そう…。」

なつ「お兄ちゃん…。」

咲太郎「ん? お客さんか?」

なつ「夕見の… 何て言うか あれ…。」

雪次郎「ええっ 駆け落ちの相手か!?」

なつ「バカ!」

咲太郎「あんたも よく来てくれましたね。 えっと…。」

なつ「高山さん。」

咲太郎「あっ 高山さんか。 今 どこに住んでんの?」

高山「言いませんよ。」

咲太郎「お~ 警戒心が強いね。」

高山「駆け落ち中ですから。」

咲太郎「ハハハ…。」

夕見子「その手には乗りませんもね。」

亜矢美「レミちゃん いつものおでん?」

レミ子「あっ お金が…。」

亜矢美「出世払いでいいよ。」

レミ子「じゃ 全部。」

夕見子「その人は… 雪次郎の恋人?」

雪次郎「えっ? 違うって。 レミちゃんは 咲太郎さんの恋人だ。」

咲太郎「違うって。」

レミ子「咲ちゃんなんて もういいわ。 臆病だから とっくに飽きた。」

咲太郎「あ~ よかった。」

夕見子「したけど 雪次郎の同志なんでしょ?」

雪次郎「同志? うん まあ そうだよ。」

夕見子「私も この人も同志なんだわ。」

雪次郎「この人は… 東京で何したいの?」

なつ「物書きだって。」

雪次郎「物書き?」

なつ「ジャズの評論だっけ…?」

雪次郎「ジャズ?」

亜矢美「ジャズお好きだったら グレン・ミラーとか ベニー・グッドマンとか レコードあるよ。 かけよっか?」

高山「いえ 好きなのは モダンジャズなんで。」

亜矢美「モダン?」

高山「コルトレーンか ガーランドがあれば かけて下さい。」

亜矢美「コッタラネージャー カワランド…?」

高山「新宿は 今や モダンジャズの街になりつつあります。 それを知らなきゃ古いですよ。」

なつ「ちょっと 古いって どういうことですか?」

亜矢美「いや… 本当 古いで~す。 はい ムーランの生き残り…。」

なつ「人それぞれ 大事にしているものが あるのは 当たり前じゃないですか。 それそ 人に古いと言われるのは おかしいですよ。」

高山「君は それでも 映画を作ってる人?」

なつ「は?」

高山「音楽も映画も 時代によって 変わっていくのは 当然のことだべさ。 それに気付かず 古いものに固執することを 古いと言って何が悪いんだ? したけど ダメとは言ってない。 君の言うとおり 人それぞれだからね。 やっぱり いつものジャズ喫茶で待ってるよ。」

夕見子「あっ うん 後で行く。 ここは払っとくから。」

亜矢美「あっ これ持ってけば?」

なつ「えっ ごめん 何か怒らせた?」

雪次郎「いや なっちゃんが怒るの当然だわ。 あの人の言ってることは 分からんでもねえが 言い方ってもんがあるべ。」

レミ子「あんたも 言い方なまってるよ!」

夕見子「あの人 ある金持ちの跡継ぎでね 親の決めた いいなずけまでいるの。」

亜矢美「それで 卒業前に 2人で逃げてきた?」

夕見子「逃げたというより しがらみの外へ 踏み出したと言って下さい。」

東洋動画スタジオ

作画課

下山「おはよう。」

「おはようございます。」

「おはようございます。」

下山「おはよう。」

一同「おはようございます。」

下山「あっ おはよう。 みんな 早いね。 あっ 今日から 僕も 原画を描かせてもらうよ。」

なつ「えっ 手伝ってくれるんですか?」

麻子「どうしてですか?」

下山「そんな 時間もないしさ… とにかく この短編映画は成功させないと。」

なつ「どうかしたんですか?」

下山「いや… 子どもが純粋に楽しめるような 面白アクション満載の 『ヘンゼルとグレーテル』にしようと思って…。 いいよね? いいよね? それで… ね。」

なつ「はい…。」

麻子「何があったんですか?」

下山「イッキュウさんが ちょっとね…。」

回想

坂場「その考え方は もう古いんじゃないでしょうか。」

仲「古い?」

下山「おい ちょっと イッキュウさん…。」

坂場「漫画映画は 子どもが見るものだと 決めつける考え方です。 これからの漫画映画は 大人のためにも作るべきだと思います。」

仲「僕は そうは思わない。 漫画映画は あくまで 子どものために作るべきだと思うよ。」

坂場「それじゃ その子どもが 大人になったらどうなりますか? 同じ漫画映画を見て 懐かしいと思うほかに 改めて面白いと感じることは あるでしょうか?」

仲「あると思うな。 子どもの時に 面白いと感じたのなら その感性は大人になっても 必ず残ってるはずだよ。 そうやって 夢や希望を残してやることが 漫画映画の使命なんじゃないかな。」

坂場「おもちゃとしての夢なら それでも いいでしょう。」

井戸原「おもちゃ?」

坂場「子どもの頃には分からなかったことが 大人になって 初めて分かることもある。 そういう漫画映画が生まれなければ 子どものおもちゃとして いずれは 廃れていくだけじゃないでしょうか。」

仲「廃れる…?」

坂場「僕は 漫画映画を ほかの映画と比べても遜色ないくらい いや それ以上に 作品としての質を高めていかなければ 未来は残らないと思うんです。」

仲「分かったよ 坂場君。 だけどね たとえ そこに どんな意味があろうと 純粋に 子どもが楽しめる漫画映画に してくれるんだろうね? それができなければ いくら高い理想を掲げたって つまらない漫画映画だと 言われるだけだよ。」

坂場「それは…。」

井戸原「それができなければ 君は失格だ。」

坂場「はい…。」

回想終了

下山「まあ でも つまらないものには したくないだろ。」

茜「えっ そのために 私たちが頑張るんですか? イッキュウさんを助けるためにですか?」

堀内「何だか やる気がうせるよな。」

下山「いや… イッキュウさんのためじゃないよ。 作品のためだ。 それに 僕は どうしても マコちゃんと なっちゃんに 原画で成功してほしんだ。 これは そのための短編映画なんだから。」

神地「おはようございま~す。 ん? あれっ どうかしたんですか?」

下山「遅刻だよ 少し。」

神地「すみません…。 でも 徹夜して これだけ 原画を描いてきたんです。 あっ 面白いかどうか 見てもらってもいいですか?」

茜「神のようなタイミング…。」

神地「えっ?」

中庭

なつ「どうして 仲さんに そんなこと言ったんですか?」

坂場「話の流れで つい言っただけです。 言うつもりではなかった。」

なつ「それじゃ 本気で言ったわけじゃない ということですか?」

坂場「いえ うそを言ったつもりもないです。」

なつ「仲さんの作る漫画映画が古いなんて よくも…。 どうして そんなことが言えるんですか!」

坂場「作るものではなくて 考え方が古いと言っただけです。」

なつ「同じじゃないですか!」

坂場「まあ… そうですね。」

なつ「は?」

坂場「あなたが怒るのは どうしてですか?」

なつ「えっ?」

坂場「仲さんを尊敬しているからですか?」

なつ「もちろんです。 そのとおりです。」

坂場「仲さんが描くものは すばらしいです。 面白いし かわいい。 子どもの心を捉えるし 大人が見ても かわいい。」

なつ「あなたにも かわいいと感じる心があるんですね。」

坂場「かわいいものは大好きです。」

なつ「真剣な顔で言わないで下さい。」

坂場「しかし 子どもは かわいいと感じるだけじゃない。 面白いと思うだけでもない。 もっと いろんな感情を 世界から受け取って生きているんです。」

なつ「それは もちろんです…。」

坂場「僕も 子どもの頃 空襲に遭いました。 焼け跡を 一人で 家族を捜して歩き回りました。 幸い 親も生きていましたが あの孤独と 飢え死にしそうな絶望感を 忘れることはありません。」

坂場「大人の冷たさを 子どもの卑しさを 嫌というほど見せつけられました。 でも 反対に 見知らぬ人の愛も 知ったんじゃないですか? そういう子どもの時の体験が 今や僕や あなたを作っているんです…。 違いますか?」

なつ「だから 何だと言うんですか?」

坂場「だから…。 仲さんたちとは違うものを作るのは 僕らの使命です。」

喫茶店・リボン

麻子「仲さん この作品だけは 何があっても 最後までやらせて下さい。 お願いします。」

仲「何か 勘違いしてるよ。 僕は 君たちの邪魔をする気は ないんだから。」

麻子「みんなで決めたとおりに作らせて下さい。」

仲「それも分かってるよ。 だけど 君も あの坂場君に 随分 影響 受けてるみたいだね。」

麻子「初めは 私も疑ってました。 坂場さんと奥原さんの熱意は本物です。 あの2人は ずっと先に向かって アニメーションのことを考えてるんです。」

仲「君が そこまで思うなんて…。」

麻子「イッキュウさんは ともかくとして… 奥原さん… なっちゃんのことを 最初に認めたのは仲さんじゃないですか。」

中庭

坂場「僕はもっと あなたには 仲さんたちとは違う アニメーターになってもらいたい。」

なつ「どんなアニメーターですか?」

坂場「世界の表も裏も描けるような 現実を超えた現実を見せられる それを 丸ごと 子どもたちに 体験させることのできるような アニメーターです。」

坂場「僕も そういう演出家に なりたいと思っています。 一緒に 作ってほしいんです。」

なつ「一緒に…。」

坂場「一生をかけても あなたと作りたいんです。」

<なつよ 古い人間の私は 腰が抜けたぞ。>

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