あらすじ
東洋動画では、なつ(広瀬すず)や麻子(貫地谷しほり)たちが原画を描いている。そこへ演出を担当する坂場(中川大志)が現れ、描き直しの指示をする。周囲は原画を描いた経験のない坂場の進め方に疑問を持つが、理屈を並べる坂場に、反論できずにいた。そんな中、なつは背景画を担当する陽平(犬飼貴丈)の所へいき、愚痴をこぼす。すると陽平は、なつの知らない坂場と天陽(吉沢亮)の意外なつながりについて語り始めて…。
94話ネタバレ
東洋動画スタジオ
作画課
<なつたちの短編映画 『ヘンゼルとグレーテル』の作画作業は 大詰めを迎えていました。>
坂場「う~ん…。」
麻子「まだ不満ですか?」
坂場「この鳥は 何をしたいんでしょうか?」
麻子「何って ヘンゼルとグレーテルを 助けたいんでしょ。」
坂場「それだけですか?」
麻子「ほかに 何があるんですか?」
坂場「鳥たちは この森に 魔女がいること自体に ずっと 不満を 持っていたんじゃないでしょうか?」
麻子「不満?」
坂場「だから ヘンゼルとグレーテルを 助けたいんだと思うんです。 その不満が見えてこないんですよ。 鳥たちが 一致団結して 魔女に抗議してるように見えないんです。 このシーンは 鳥たちが まるで… デモをしてるように見せたいんです。」
麻子「でも!?」
坂場「それで 描き直してみて下さい。 お願いします。」
麻子「そんな思いつきで言われたって困るのよ! こんなんじゃ いくら描いても この作品は終わんないわよ!」
坂場「思いつきではありません。」
麻子「人の描いたものを見てから いつも 何か言うじゃないの!」
坂場「それは 何がダメかを思いついてるだけです。」
麻子「はあ!?」
なつ「マコさん 落ち着きましょう!」
坂場「とにかく描き直して下さい。 お願いします。」
麻子「何なの あの人は! 腹立つ!」
なつ「怒ると 余計に腹が立ちますよ。 腹が立ってることを ますます意識するだけですから。」
麻子「うるさいわね。 あんたまで そんな 持って回った言い方しないでよ。」
なつ「すいません。」
下山「厳しいね イッキュウさんは。」
茜「うん 確かに。 悪いところばっかり よく思いつきますよね。」
なつ「けど 冷静に考えると なるほどって思うことも多いんですよ。」
麻子「こんな何度も描き直してたら なるほども どっか行っちゃうわよ。」
堀内「昔の君も あんな感じだったけどな。」
麻子「一緒にしないで。」
神地「俺の原画は 褒めてくれましたけどね。」
麻子「何が言いたいの あんた。」
なつ「マコさん! 冷静に。」
<なつは 最後に ヘンゼルとグレーテルを救う 木の怪物の動きに 四苦八苦していました。>
坂場「木は こうやって歩くんですか?」
なつ「えっ?」
坂場「木が こんなふうに歩くと思ったのは なぜですか?」
なつ「なぜ…。 何となく…。」
坂場「な… 何となく? というのは 根拠がないということですか?」
なつ「いや 木は もともと歩かないので 根拠はありません。」
坂場「それじゃ この木は 樹齢何年ですか?」
なつ「樹齢?」
坂場「この木が森の中で どれくらいの年月を こう 過ごしてきたのか 歩き方に それが見えないと ダメだと思うんです。 そこを 根拠にしてみて下さい。」
なつ「いや そんなこと言われたって… 分かりませんよ!」
麻子「まあ 落ち着いて。 怒ると余計に腹が立つわよ。」
坂場「とにかく描き直して下さい。 お願いします。」
なつ「えっ いや 無理です…。 そんなの無理です!」
なつ「はあ…。」
美術課
なつ「陽平さん。」
陽平「あっ なっちゃん。」
なつ「背景の森を見せて下さい。」
陽平「いいよ。 いくらでも見てって。 何か悩んでるの?」
なつ「悩んでるなんてもんじゃありませんよ。 イッキュウさんの言うことに ついていけなくて…。 あっ これ… 木の怪物を描いてるんですけど 樹齢が 歩き方に 見えないって言うんですよ。」
陽平「アッハハ… 彼らしいな。 うちら美術に関しても うるさいからね。」
なつ「自分が描かないから 描く人の苦労は考えないんでしょうか。」
陽平「そうじゃないと思うよ。 人に苦労かけてる分 あれは 相当勉強してると思うよ。」
なつ「絵をですか?」
陽平「絵だけじゃないと思うけど。 あっ 天陽の絵も知ってたんだよ イッキュウさんは。」
なつ「えっ… 本当ですか?」
陽平「うん。 帯広で賞もらった時 小さな美術雑誌に載ったんだけど それを見たらしいんだ。 僕の弟かって聞かれて…。 すごく その絵に感動してくれてた。」
なつ「ふ~ん… 天陽君の絵を イッキュウさんが…!」
陽平「彼の演出力は まだよく分からないけど 絵に対する貪欲さは 絵描き以上かもしれない…。 負けないで頑張ってよ こっちも頑張るから。 いい作品にしよう。」
なつ「はい。 頑張ります。」
陽平「うん。」
なつ「お願いします。」
陽平「はい。」
おでん屋・風車
1階店舗
♬~(『ムーンライト・セレナーデ』)
夕見子「いいですね グレン・ミラーは…。」
亜矢美「あらららららら… そったらこと言ってると モダンジャズの彼氏に怒られちゃうよ。」
夕見子「いいんですよ そんなの。 私は 人の好みに合わせる気なんて 全くないんですから。」
亜矢美「ねえ 彼はさ 毎日 今 何やってんの?」
夕見子「原稿書いて 『スイングジャーナル』って雑誌に 持ち込んでるらしいんですけど どうも うまくいかないみたいです。」
亜矢美「そりゃ 最初っから うまくはいかないよ。」
夕見子「当たり前ですよね。 したけど それで落ち込んじゃってて…。 最近は 喧嘩ばっかりしてるんです。」
亜矢美「あっ そうなの…。」
夕見子「あの人は もともと お金持ちのお坊ちゃんで生きてきたから 自立して強くなるためには 少し時間がかかりそうです。」
亜矢美「夕見子ちゃんは冷静なんだね。」
夕見子「お互いに好きになったんですから お互いに強くならなければ 不公平になるだけですよ。 そのために 東京に出てきたんですから。」
亜矢美「ハッ… なるほどね。」
(電話の呼び鈴)
夕見子「あっ 咲太郎さんの仕事の電話でしょうか。」
亜矢美「いいよ いいよ。」
夕見子「あっ。」
亜矢美「はい 風車でございます。」
『北海道音問別4141番からです』。
亜矢美「あっ…。」
『お待ちください』。
亜矢美「間違えました! すいません!」
夕見子「えっ どうしたんですか?」
亜矢美「いや 何か 間違えたみたい。」
夕見子「えっ こっちから言うんですか?」
その夜
なつ「あっ もしもし 母さん?」
柴田家
居間
富士子「ああ なつ…。」
なつ『ねえ 母さん 夕方 こっちに電話したしょ?』
富士子「したよ。」
おでん屋・風車
1階店舗
なつ「やっぱり…。」
亜矢美「あっ…」
富士子『亜矢美さんに ご挨拶したいと思ったんだけど あの子がいたから 切られたんだね…。』
なつ「待って。 今 亜矢美さんと代わるから。」
亜矢美「えっ… そうなの? ちょっと ちょっと… ちょっと待って。 (せきばらい) はい 亜矢美でございます。」
富士子『亜矢美さん? 初めまして 富士子です。』
亜矢美「あっ どうも 初めまして。」
富士子『この度は 夕見子が 大変お世話んなって 本当に 何て お礼を申し上げていいか…。』
亜矢美「いえいえ… 今 お店をを手伝って頂いておりまして もう助かっております。」
富士子『いや… して なつのこと ずっと お礼が遅れて 本当に申し訳ございませんでした。』
亜矢美「いやいや… お互いさまですから そんな他人行儀なこてゃ もう よろしいんじゃございませんか。」
富士子『あっ はい そうですね。 すいません…。 して 夕見子は 今 どんn様子でしょうか? そろそろ 迎えに行きたいと 思ってるんですけど…。』
亜矢美「だいぶ 冷静になってきましたよ。 お母さん 今がチャンスかもしれません。」
なつ「チャンス?」
柴田家
居間
富士子「あっ 分かりました。 すぐ行きます。 したらね。」
剛男「夕見子が どしたんだ?」
富士子「わっ!」
おでん屋・風車
1階店舗
なつ「ねえ それで 今が 何のチャンスなんですか?」
亜矢美「そりゃ もちろん 夕見子ちゃんが このまま先に進むのか 立ち止まるのか 夕見子ちゃん自身が それを考えるチャンスかも。」
なつ「うん…。」
柴田家
居間
剛男「なして そんなこと黙ってんだ!」
富士子「シッ… みんな起きるしょや。」
剛男「そんなこと隠しとくなんて どうかしてるべさ。」
富士子「少し時間が欲しかったのさ。」
剛男「何の時間だ?」
富士子「夕見子の気持ちが落ち着くまで…。 すぐ行って騒いだら 火に油を注ぐようなもんでしょ 夕見子の性格からして。」
剛男「俺に黙っとくことないべや。」
富士子「男親は 娘の気持ちより 相手の男を 抹殺することしか考えないでしょや。」
剛男「抹殺って 忍者でないんだから。」
泰樹「抹殺… 確かに そうじゃ。」
富士子「だから黙ってたのさ。」
剛男「全く… どんなやつ そいつは!」
富士子「高山昭治。 札幌にある老舗デパートの長男。」
剛男「調べたのかい?」
富士子「そりゃ調べるしょ。 2人とも 大学には 休学届を出してるみたい。」
泰樹「結婚する気はあるのか?」
富士子「そら 調べようがないからね。 でも なつの話では… 今はないと思う。 亜矢美さんは だいぶ落ち着いてきたから 会いに来るなら 今がチャンスかもしれないって。」
剛男「後悔してるんだわ… 許せんな そいつは。」
富士子「どっちが言いだしたことか 分かんないんだよ。」
剛男「そいつが悪いに決まってる! 男が悪いに決まってるべ!」
富士子「夕見子が聞いたら また それは 固定観念だ何だって…。」
剛男「いや とにかく悪い! 男が悪い!」
富士子「はいはい…。 このぐらい いつものあんたで なくなるんだから。」
泰樹「お前が行くのか?」
富士子「私が行ってもいいけど 親が行ったら せっかく冷静になろうとしてる時に また冷静でなくなる気がして…。」
剛男「何言ってんだ。 夕見子が何と言おうと 親が連れ戻さなきゃダメだ!」
富士子「それで 余計傷つくのは夕見子だよ! ここは… 昔 なつが言ってた 慣れてない人がいいって。」
剛男「慣れてない人?」
富士子「じいちゃんに 優しくされたら つい 夕見子も 素直な気持ちが出せるんじゃないかって。 甘えさせてやってや 夕見子を。」
泰樹「いや… 無理じゃ!」
<それから 数日後のことでした。>
おでん屋・風車
1階店舗
なつ「夕見… どしたの?」
夕見子「なつ… あんた うちの家族にしゃべったしょ。」
なつ「えっ…。」
夕見子「裏切ったしょ!」
<なつよ どうする?>