ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」第97話「なつよ、テレビ漫画の幕開けだ」【第17週】

あらすじ

昭和38年夏、なつ(広瀬すず)は東洋動画の原画担当初の女性アニメーターとなった。風車では、週刊誌に載ったなつの話で盛り上がっていた。そんな中、咲太郎(岡田将生)が、劇団の中で雪次郎(山田裕貴)と蘭子(鈴木杏樹)の仲がうわさになっていると口にする。雪次郎が気にしていないか心配になったなつは部屋を訪ねる。一方東洋動画では、大人気テレビ漫画の影響を受け、社内でもテレビ漫画を製作する班をつくる話が出て…。

97話ネタバレ

東洋動画スタジオ

作画課

<はい 1963年 昭和38年の夏になりました。>

昭和38年(1963)年 夏

堀内「来たぞ! 来た! 来た…!」

なつ「1本の長編漫画映画を作るのに 大体 10か月はかかるんです。 1年近く ここにいるアニメーターの人たちは 同じキャラクターを 描き続けることになるんです。」

<なつは 26歳。 東洋動画初の原画を担当する 女性アニメーターになっていました。>

なつ「映画は 1秒間に24コマです。 私たちが作っている フルアニメーションと呼ばれるものは 12コマ以上 少なくとも 12枚の画が必要になります。 絵が生きているように見える あの繊細な動きは そこまで細かく絵を動かさなければ 作れないんです。 漫画映画は 気の遠くなるような作業なんです。」

記者「その基礎を作る原画は 責任重大ですね。」

なつ「原画というものは 何と言っても キャラクターに 最初に命を吹き込む 大事な仕事ですから。」

記者「じゃ ちょっと描いてみてもらえますか?」

なつ「あっ… はい。」

記者「奥原さんの これからの夢って何ですか?」

なつ「夢? それは もちろん すてきな漫画映画を作ることです。 子どもが夢中で… それこそ 夢を見ているように それを見て それが 大人になっても さめない夢に なっていればいいななんて思います。 今の私が 北海道を出て7年 そんなふうに 子どもの頃の夢を 見続けているようにです。」

記者「なるほど。 それは まさに すてきな夢だ。 こちら向いた写真も頂けますか?」

なつ「はい。」

記者「じゃ ちょっとカメラ見て… 右手に。 あ~ いいですね。 じゃ それでいきましょう。」

(シャッター音)

記者「ああ かっこいい!」

おでん屋・風車

1階店舗

亜矢美「あ~! うわ~! かっこよく写ってる!」

なつ「いや~ この服でよかったかな…。」

亜矢美「いいよ いいよ。 できる女って感じよ。」

なつ「何か 目立ちたがり屋みたいじゃないですか。」

亜矢美「今更 ハハハ…!」

なつ「だけど こんなに買って どうするんですか?」

亜矢美「あっ 売るんだよ ここで。」

なつ「えっ?」

亜矢美「だって 欲しいってお客さん いっぱいいるもの。」

なつ「誰がいるんですか・」

亜矢美「あ~ 茂木社長とか。」

なつ「本屋じゃないですか。」

亜矢美「あっ 社長のとこから買ったんだ。 アハハハ…。」

なつ「ここで売ったら 営業妨害になりますよ。」

亜矢美「あっ そうだ 北海道のご家族にも 送って差しあげないとね。」

なつ「まあ そうですけど…。」

亜矢美「あと 信さん。 あれ 今どこにいんだっけ?」

なつ「札幌の放送局です。」

亜矢美「あっ そうか まだ北海道か。 あと ほかに 送りたいとこある?」

なつ「千遥に送れたらいんですけどね。」

亜矢美「千遥ちゃんか…。 うん… いや きっと どこかで見てるって。 知ってるんでしょ?」

なつ「漫画映画を作ってることは…。」

亜矢美「だったら 絶対 この記事だって見てるって。」

なつ「えっ そうでしょうか…。」

レミ子「こんにちは。」

咲太郎「おう 母ちゃん。」

亜矢美「あら 珍しいね どうした? こんな早く。」

咲太郎「今日は レミ子の新しい仕事が決まって ここに来たいって言うからさ。」

亜矢美「ハハ… レミちゃん 今日も全部?」

レミ子「あっ 全部。」

なつ「お兄ちゃん これ。」

咲太郎「おお これか! 出たか!」

<咲太郎の声優プロダクションも なんとか形になって 今は 四谷という場所に 事務所を構えています。>

なつ「レミさん また新しい仕事 決まったんだ。 おめでとう。」

レミ子「男の子の声ばっかりだけどね。」

咲太郎「レミ子は もう うちの貴重な戦力だよ。」

レミ子「なっちゃん。」

なつ「うん?」

レミ子「雪次郎とは 最近 話してるの?」

なつ「雪次郎君と? 雪次郎君も 仕事は順調なんでしょ?」

録音スタジオ

<雪次郎君も 努力のかいがあって 吹き替えの当たり役を得ました。>

藤井「全体的に ゆっくりなんですよね これね。」

蘭子「はい。」

藤井「何か セリフ足しましょうか。」

蘭子「はい…。」

雪次郎「じゃあ… 『あなたも私も』って 足したらどうですか? 『おいしく作れた方が 今日は 夕食を作るの。 あなたも私も おいしいものが食べたいでしょ』。」

蘭子「いいかも… あっ どうですか? 藤井さん。」

藤井「お~ いいね ハハハ。 小畑 さえてるじゃないか お前 ハハハ…。」

蘭子『分かったわ。 どっちが夕食を作るか 料理で決めましょう』。

雪次郎『ナンシー 一体 何の話をしてるんだい?』。

蘭子『おいしく作れた方が 今日は 夕食を作るの。 あなたも私も おいしいものが食べたいでしょ』。

雪次郎『はあ… どっちが勝ったとしても 2人とも もう十分 おなか いっぱいになってるよね』。

<アメリカのシチュエーションコメディー 『ビューティフル・ナンシー』で 気の弱い夫の声を演じています。 気の強い妻役の亀山蘭子さんと 共演を果たしました この番組は 大人気となりました。>

おでん屋・風車

1階店舗

咲太郎「どうも 劇団で 妙なうわさが立ってるらしいんだ。」

なつ「うわさ?」

咲太郎「うん。」

亜矢美「雪次郎君の?」

咲太郎「うん。 あの亀山蘭子と雪次郎が 恋仲になっているとか。」

なつ「えっ! うそでしょ?」

レミ子「劇団の中じゃ すっかり事実として扱われてるわね。」

なつ「えっ でも 本当じゃないでしょ?」

咲太郎「ああ それは分からない。」

レミ子「雪次郎の本音を なっちゃんに聞きたかったのよ。」

なつ「いや 私だって分かりませんよ。 そんなこと。」

咲太郎「劇団の恋のうわさっていうのは まず当たってるんだよ。 な 母ちゃん。」

亜矢美「まあね。 そういうとこは 昔っから変わんないわな。」

咲太郎「なつの職場は そんなことないか?」

なつ「ある。 いや だけど…。」

雪次郎宅

(ノック)

雪次郎「はい 開いてるよ。 何だ なっちゃんか。」

なつ「元気?」

雪次郎「どうしたの?」

なつ「借りる。」

雪次郎「うん。」

なつ「う~ん 実はね… これ。」

雪次郎「週刊誌?」

なつ「私が取材を受けて これに載ったんだわ。」

雪次郎「えっ 本当かい! どれ どれ どれ どれ どれ どれ どれ…。 どこ どこ どこ?」

なつ「ここ。」

雪次郎「うわ~! こんなに でっかく載ってますもね! かっこいいな! これ 柴田牧場の人たち 知らせたのかい?」

なつ「それは まだ これから 恥ずかしくてさ…。」

雪次郎「すぐ知らせなきゃ! うちにも知らせるわ これ買うようにって。 いや これ 帯広でも買えるべな? これ。」

なつ「うん 多分…。 ねえ 演劇は? 楽しくやってんの?」

雪次郎「えっ? 何で そんなこと聞くんだ?」

なつ「うん…。」

雪次郎「何か聞いたのか? 咲太郎さんや レミちゃんから…。」

なつ「うん。」

雪次郎「俺と蘭子さんのことだべ? まあ そういう うわさになってるのは知ってる。」

なつ「うん。」

雪次郎「でも 何でもねえんだ。」

なつ「あっ そうなの? 何だ…。」

雪次郎「なっちゃん。 俺はな あの人に 早く追いつきたい。 俺の中に強くある思いは 魂は やっぱり そこなんだわ。 なっちゃん… 好きだ何だと そったらこと言ってる場合でねえんだ。」

なつ「そう…。」

雪次郎「うん。 芝居が好きなように 俺は 蘭子さんが好きだ。」

なつ「うん。 何か安心した。」

雪次郎「何に安心したんだ?」

なつ「雪次郎君は 昔の雪次郎君のままだから。」

雪次郎「昔のように セリフは なまんねえよ。」

なつ「んだな。」

雪次郎「んだ。」

(笑い声)

雪次郎「あっ 写真の方が美人だな。」

なつ「はい?」

東洋動画スタジオ

作画課

なつ「おはようございま~す。」

一同「おはようございます!」

堀内「『夢を見続けていたい。 奥原なつ』。」

なつ「もう… ちょっと やめて下さいよ! そんなことするために わざわざ 1冊ずつ買ってくれたんですか!?」

仲「なっちゃん おはよう。」

なつ「おはようございます。 よかった 仲さんまでしてなくて。」

仲「今日10時に 会議室に来てくれる? 大切な話がるんだ。」

なつ「はい。 分かりました。」

<仲さんは 今や 会社の中間管理職 作画課長になっています。>

「あっ はんこじゃなくて大丈夫です。」

仲「本当に?」

茜「私も呼ばれてるのよ そこに。」

なつ「あっ 茜さんも?」

堀内「大切な話って 何だろうな。」

神地「あれじゃないの? 今度 茜ちゃんと 競争させようってことじゃ?」

茜「何の競争よ。」

神地「ほら 美人アニメーター! マコさんの時みたいに。」

なつ「マコさんと そんな競争した覚えはない!」

神地「冗談だよ…。」

茜「もう… あんまり調子に乗ってると そのうち 冗談じゃ済まされなくなるからね。」

下山「でも あれじゃないの? もしかして…。」

なつ「あれ?」

下山♬『空をこえて ラララ 星のかなた』

♬『ゆくぞ』

会議室

仲「今年の1月から 手塚治虫さんのプロダクションが 制作してる『鉄腕アトム』が テレビで放送されてることは知ってるね。」

茜 なつ『はい。』

仲「その『鉄腕アトム』が テレビ漫画として大ヒットしてる。 そこで うちでも テレビ用のアニメーション テレビ漫画を制作する テレビ班を作ることになったんだ。 なっちゃんは 原画として 茜ちゃんは 動画として そのテレビ班に行ってもらいたい。」

井戸原「君たちには 長編映画を外れて テレビ漫画に専念してもらいたい。」

なつ「もう映画には関われないんですか?」

仲「今は 東洋動画らしく このテレビ漫画を成功させることが 何よりも先決なんだ。」

露木「坂場君は このテレビで ようやく 演出家として 世に出られることになった。 君たちの若い力に期待してるよ。」

山川「放送は 今年の12月からだ。 企画は ここにいる 猿渡君から出たもので 彼にも 原画を描いてもらう。 題名は『百獣の王子サム』と決まった。」

なつ「『百獣の王子サム』?」

猿渡「舞台は 架空のジャングルです。 そこに ライオンに育てられた 人間の少年が一人いるんだ。 姿形は 人間だから 動物たちからは 差別を受けるわけね。 その少年 サムが さまざまなトラブルを解決していって やがては 百獣の王の子として 動物たちから認められるようになる。 そういう話ね。」

なつ「面白そうですね。」

猿渡「でしょ!」

茜「猿渡さん いつの間に こんな企画を考えてたんですか?」

猿渡「僕は テレビをやりたかったからね こっそり企画を出してたんだよ。」

なつ「あの 仲さん 一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

仲「うん。 何?」

なつ「東洋動画らしくというのは 『鉄腕アトム』とは 違うやり方で 作れっていうことでしょうか?」

仲「いや… 『鉄腕アトム』と 同じやり方で作らなければ テレビでは成立しないだろうね。」

山川「低予算で しかも 時間もない中で作って あれだけヒットさせていることに 『鉄腕アトム』の価値はある。」

なつ「そうですか…。」

坂場「仲さんは あれをアニメーションだと 認めていますか?」

仲「えっ?」

坂場「僕は 少なくとも 東洋動画らしい アニメーションの作り方だとは思えません。 仲さんは どう思っていますか?」

仲「もちろん あれは フルアニメーションではないと思っているよ。」

坂場「それでも 作る価値があると思いますか?」

なつ「イッキュウさん…。」

<なつよ 新しい時代の波が押し寄せてきた。 君は その波に翻弄されるのか? それとも乗るのか?>

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