ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」 スピンオフ 秋の大収穫祭とよさんの東京物語①

あらすじ

1作目は坂場(中川大志)に老婆の声を頼まれたとよ(高畑淳子)の単身上京物語。アニメの録音現場を訪れ、土間レミ子に感動し「声優になりたい」と夢を抱く。だがその裏には「雪月」を夕見子たちに任せたいという思いがあり…。

スピンオフ 秋の大収穫祭 とよさんの東京物語①

雪月

昭和51(1976)年4月

妙子「いらっしゃいませ。 雪月へようこそ! どうぞ。」

妙子<ここは 北海道・十勝にある お菓子屋 雪月。 戦前から 親子3代で お菓子作りに いそしみ…>

雪次郎「おやじ 砂糖少ねえよ。」

雪之助「こんなもんだべや。 気ぃ付けれ 雪次郎。 近頃 甘すぎる。」

妙子「あっ 根岸さん 来た。」

雪次郎「あ… はいよ。 すぐ持ってくわ。」

妙子「はいよ。」

妙子<おかげさまで 地元の皆様方からも愛され続け…>

妙子「お待たせしました。」

とよ「ありがとうございました。」

妙子<1972年に 札幌オリンピックが開催 恋人の聖地 幸福駅が大流行 空前の観光ブームも相まって 十勝を代表する お菓子メーカーに成長しました>

夕見子「う~ん やっぱ こっちかしら。」

妙子<そして 我らが初代おかみ! 私のおっかない… もとい 優し~い しゅうとめなんだけども…>

雪次郎「はい 頼むね。」

妙子「お~ はいはい。 根岸さ~ん。」

根岸「はいはい。」

妙子「ミルクまんじゅう お待たせしました。」

根岸「ああ どうも… ありがとう。」

妙子「はい ありがとうございます。」

根岸「あれ 今日は とよさん いないんだね。」

妙子「ええ 実は。」

マコプロダクション

玄関

なつ「あ~ とよばあちゃん!」

とよ「あ~ なっちゃ~ん!」

妙子<一人で 東京に行っちゃいました>

雪月

妙子「ありがとうございました。」

回想

妙子「私が おかみ?」

とよ「あんたから言いだすのを 待ってたんだけど 気が付いたら 10年たってたわ。」

妙子「え… 無理です。 私は そんな器じゃ…。」

とよ「ちょうど 東京さ 行く。 私がいねえ雪月で 2代目おかみを始めればいい。」

回想終了

妙子「お義母さん… 私…。」

マコプロダクション

玄関

とよ「きれいな桜だねえ~。 はあ…。」

なつ「どうぞ。」

とよ「あっ。」

作画室

神地「あ モモッチ。」

桃代「うん?」

神地「この猫なんだけど もう少し 人間らしく見えたらどうかな。」

桃代「ああ いいかも。 もっと 色っぽくしたら?」

妙子<ここは マコプロダクション。 十勝の星 我らがなっちゃんの仕事場です>

坂場「とよさん! いや~ 遠路はるばる ありがとうございます。 お一人で大丈夫でしたか?」

とよ「かわいい子には 旅をさせねえと。 ハハハハ…。」

麻子「お久しぶりです。 とよさん 取材の時には 大変お世話になりました。」

とよ「これ つまんねえもんだけど 皆さんで食べて~。」

麻子「あ~ すみません。 頂きます。 ありがとうございます。」

なつ「ごめんね むちゃなお願いして。」

坂場「早速ですが…。 これが とよさんに出演して頂く作品です。 主人公の神宮寺ツトムが この巨大ロボット スカイジーンを操り 地球の平和を守るために 悪魔帝国と戦います。 うちの作品ではありませんが 急きょ 演出を頼まれて。 僕なりに 作品のリアリティーを 出そうと思ったんです。」

とよ「ああ… 難しいことは よく分かんねえ。」

坂場「お年寄りの役は 実年齢より若い声優が 声色を変えて演じることが多いんですが 今回は 本物のお年寄りに やってもらおうと思ったんです。」

とよ「私のまんまで いいってことかい?」

録音スタジオ

スピーカー・島貫『フフフフ フフフ 神宮寺ツトム 貴様の命も終わりだ』。

レミ子『プリンス・デビルマ将軍!』。

島貫『これで 地球は我々のもの。 凍え死ぬがいい! ヌハ ヌハ!』。

レミ子『負けてたまるか…! 雲が乱れ 雨が暴れ 山が怒り 海が荒れても』。 『俺 絶対 ネバーギブアップ!」

松井『デビルマ将軍 あちらを ご覧ください!』。

島貫『ハッ ヌヌ ヌヌヌ! スカイジーン!?』

レミ子『アテンション アテンション…』。 『スカイジーン! ハアッ! アテンション プリーズ!』

とよ「いよっ 頑張れ! 絶対ネバーギブアップ!」

(拍手)

坂場「場面設定は 悪魔帝国が 町に押し寄せてきて 人々が逃げ回る その群衆の中の老婆のセリフです。」

とよ「あ…。」

坂場「どうぞ。」

とよ(小声で)『お前たちに この町は渡さねえ…』。

坂場・スピーカー『ありがとうございます。 画は気にしないで下さい。 ね。 とよさんらしく お願いします』。

とよ「私らしく?」

坂場・スピーカー『では 本番をお願いします』。

とよ(深呼吸)『おめえらに この町は渡さねえ!』。

坂場「オッケーです。」

とよ「オッケーかい? はあ…。」

坂場「ありがとうございます。 思ったとおりです。 これは とよさんにしかできない。」

とよ「もう お世辞はいいから…。」

坂場「お世辞なんかじゃありません。 まっすぐな人柄が伝わってきました。」

咲太郎「とよさん 俺 胸が熱くなりました!」

とよ「咲太郎 もう私は緊張で もう胸が爆発するかと思ったよ。 喉が カラカラだ~!」

レミ子「とよばあちゃん やるじゃない!」

島貫「すげええな ど素人のくせに!」

松井「いっそ 女優になったらどうだい?」

とよ「(むせる声) またまた! いい思い出ができたもね~。」

レミ子「よし 思い出作りに 一杯やる?」

咲太郎「もし お時間あれば うちの事務所で。」

とよ「じゃあ 一杯だけ。」

雪月

雪次郎「(くしゃみ)」

風車プロダクション

レミ子「とよばあちゃん 雪次郎の気持ち 分かった?」

とよ「演劇は 奥が深い…。」

レミ子「へえ~ 深い?」

とよ「そだ。 たったのひと言でも 自分と違う 別世界の人間になれんだから。」

レミ子「ハハ… 分かったような口きいちゃって。」

とよ「はい 絶対 ネバーギブアップ。」

レミ子「おいしい!」

とよ「ハハハ…。 私は あんたの芝居に 心ば わしづかみされた。 いずれ売れるから頑張んな! ぜったい ネバーギブアップ!」

レミ子「いや 売れてるから 私。」

とよ「へ?」

島貫「テレビで映らねえからな 声優は。」

松井「ああ。 少年役といや 土間レミ子。 土間レミ子といや 少年役。 ちょちょちょ… ダーン! これを見なって。」

とよ「何だべ? これは。」

島貫「ファンレター!」

松井「レミ子がやってる 神宮寺ツトム宛てのな。」

とよ「へえ! あんた 大女優なのかい?」

レミ子「まあ はい。」

(ドアが開く音)

とよ「ああ…。」

咲太郎「まだ飲んでたのか。 うちは飲み屋じゃないんだぞ。」

レミ子「ほれ ほれ ほれ。 飲め 飲め。」

咲太郎「とよさん 今日は お疲れさまでした。」

とよ「ありがとう。 あんたも お疲れさま。 こんな時間まで仕事してたのかい?」

咲太郎「はい。 明日 外国映画の吹き替えがあるんですけど 老貴婦人役の女優が 風邪で声が出なくなっちゃって これから 代役を 探さなきゃいけないんです。 」

とよ「代役… 私 やってみるかい?」

咲太郎「いやいや…。」

とよ「水くさいね あんた。 困った時は お互いさまだべさ。」

咲太郎「いや そういう問題じゃなくて…。」

レミ子「いいんじゃない ねえ!」

島貫「おお。」

咲太郎「まあ 確かに いい芝居はしてたけど…。」

島貫 レミ子「いよっ!」

松井「雪月屋!」

レミ子「ネバーギブアップ!」

とよ「旅は道連れ 世は情け。 初代 雪月おかみ あ 小畑とよに 任せておくんなせ~。」

レミ子「よっ!」

とよ「ハハハハハ…。」

咲太郎「分かりました。 じゃあ これ 老貴婦人のバーバラを 練習してきて下さい。」

とよ「バーバラだな。 分かった。」

(拍手)

雪月

妙子「おやすみなさい。」

雪之助「おふくろ 大丈夫かい?」

妙子「レミ子ちゃんたちと お酒飲んだって。」

雪次郎「ハハハ… 打ち上げだな。 あっ そっか 俺が演劇に のめり込んだのは ばあちゃんの魂を受け継いだってことか。」

雪之助「バカ言うんでねえ お前。」

夕見子「ねえ 雪見 『スカイジーン』楽しみだね。」

雪見「うん 明日 学校で自慢する! スカイジーン ハアッ!」

雪次郎「ジャ~ンプ。」

雪見「アテンション プリーズ!」

妙子「よし それじゃ 明日も みんなで頑張っていくわよ。 オ~!」

雪次郎「どうした? 母ちゃん。」

妙子「いや ほら 何となくよ…。 ガッツ。」

<そうしたもんで お義母さんの帰りは延び お義母さんも私も 張り切ってみたものの…>

風車プロダクション

レミ子「落ち込まないで下さい。 初めてなんだから。」

回想

とよ『ご機嫌麗しゅうお過ごしでございます』。

蘭子『とっても。 今日は何の御用で?』。

とよ『コーヒーを頂こうと…』。

スピーカー・藤井『ストップ! こっちは 遊びじゃないんですよ』。

咲太郎「すみませんでした!」

<お義母さんのアフレコ挑戦は大失敗>

回想終了

とよ「うっ…!」

レミ子「あ… 大丈夫ですか? お水 お水…。」

とよ「あ~ 悔しい!」

レミ子「おお うん 悔しい! 忘れんのが一番!」

とよ「レミ子ちゃん 人に怒られるって気持ちいいね~!」

レミ子「は?」

とよ「こんな悔しい気持ちは久しぶりだよ。 あ~ 悔しい! あ~ チクショー! あ~ 悔しくて しかたねえわ!」

レミ子「喜んでんの? 悔しいの?」

とよ「両方! 年寄りの特権で 怒られるなんてねえからな ありがたくて 涙出てくるよ。」

レミ子「心配して損しました。」

とよ「それにしてもだ レミ子ちゃん あんたの老貴婦人には たまげた。 いきなり代役で ス~ッとできんだから。」

松井「レミ子は だみ声だから 老婆はできるんだよ。」

島貫「普通の女は ちょっとな。」

レミ子「うん…。」

とよ「なしてだ?」

松井「お疲れさん。 座れ 座れ。」

咲太郎「お疲れさまでした。」

とよ「咲太郎 迷惑かけて すまなかったな。」

咲太郎「こちらこそ 申し訳なかったです 俺の考えが甘かったです。」

とよ「それは違う。 できねえ私が悪い。 あんたの顔に泥を塗って すまなかった。 このとおりだ。」

咲太郎「頭を上げて下さい。」

とよ「咲太郎。」

咲太郎「はい。」

とよ「私を雇ってもらえねえか? 声優として。」

咲太郎「えっ 本気ですか?」

とよ「本気。」

咲太郎「本気で声優に?」

とよ「下働きでも雑用でも 何でもする。 どうか雇ってもらえないでしょうか。 このとおりです!」

咲太郎「とよさん…。」

とよ「咲太郎。」

咲太郎「無理です。」

とよ「なしてだ?」

咲太郎「年齢を考えて下さい。 いくつですか?」

とよ「女性に 年齢を聞くんでねえ。」

咲太郎「家族が許すわけないでしょう。」

とよ「なして限界を決める?」

咲太郎「とよさん…。」

とよ「年寄りは 開拓したらダメか?」

咲太郎「どうして声優を?」

とよ「ここが熱くなっちまった。 雪月を立ち上げた あのころみてえだよ。 私は 声優に挑みてえ。 いろんなこと足りねえのは 百も承知だ。 だから 東京砂漠に骨埋めるつもりで 100倍 努力する。 私 絶対 ネバーギブアップ!」

咲太郎「分かりました。 では こういうことにしましょう。 1週間後に なつの会社が制作する 新作短編アニメのオーディションがあるんです。」

とよ「『2匹のにゃんこす』。」

咲太郎「主人公のケンは レミ子に決まっていて このユキにゃんと バアにゃんの役を 募集してます。」

とよ「これを 私に受けろと?」

咲太郎「期限は1週間! とよさんが受かれば 役者を続ける。 落ちたら すっぱり諦める。 丁か半か。 いかがでございましょう?」

とよ「張った!」

咲太郎「よござんす! ハハ… ちゃんと家族には話して下さいよ。」

とよ「だな。 ハハハハハ…。」

(拍手)

レミ子「やったじゃないですか。」

とよ「師匠 私に稽古をつけて下さい!」

レミ子「師匠!?」

とよ「お願いします。 師匠しか頼れる人がいねえんです。 師匠 師匠…。」

雪月

妙子「お義母さん 正気ですか…?」

とよ『正気。』

妙子「無理ですよ 声優なんて。」

とよ『絶対 ネバーギブアップ!』

妙子「絶対 ネバーギブアップ!じゃありませんよ。 なっちゃんにも迷惑でしょう。」

とよ『それなら大丈夫だ。 なっちゃん。』

なつ『あ… 大丈夫です。 気を遣わないで下さい。』

妙子「だからって お義母さん もう若くはないんですよ。 いくら気力があったって 体が ついていきませんよ。」

とよ「これで あんたも腹がくくれるな。」

妙子「ちょっと お義母さん!」

雪次郎「ばあちゃん なして声優なんて?」

雪之助「分かんね。 分かんねえけどよ あのおふくろのことだ 何か考えあるはずだべ。」

夕見子「私たちが あれだけ反対しても 東京行くなんて 変ですよね。」

妙子「ねえ 私 明日 迎えに行こうかな。」

雪之助「おい 迎えって何よ 縁起でもねえ… 大体… 店どうすんだ? 店。」

夕見子「だったら とよばあちゃんのいない間に 私と雪次郎に 店任せてもらえませんか?」

妙子「ええ?」

夕見子「前から雪次郎と話してたんですよ。 ね。」

雪次郎「ああ… うん うん。」

夕見子「もっと多くの人たちに 雪月を アピールできる方法はないかって。」

雪次郎「そう。」

夕見子「観光ブームで 新規のお客さんが増えてるし チャンスだと思うんですよ。」

雪次郎「うん。」

妙子「う~ん… したら 暫定的に 私が おかみ代理の立場で 発言させてもらうとするなら… 2人に任せます。」

雪次郎「よし! じゃ 早速 新作の菓子作るべ。」

夕見子「うん 私も デパートの営業さんに話してみるわ。」

雪之助「はあ…。 雪見 雪見… 宿題終わったかい? じいちゃんと一緒に 風呂入るべ…。」

坂場家

リビング

優「これ ママのアニメ?」

なつ「うん。」

坂場「本当に この声優のオーディションを 受けて下さるんですか?」

とよ「バカみてえだろう?」

坂場「いやいや 大歓迎です。 この映画は 猫が大事な役で 人間と同じリアリティーが必要なんです。」

とよ「はあ~。」

なつ「とよばあちゃん 本当は 何か 帰りたくない理由があるんじゃない?」

とよ「なっちゃん 私は 老い先長くないべ。」

なつ「何さ そったらこと急に。」

とよ「それが現実だ。 あの泰樹も 年には勝てんかった。 雪月は こんな年寄りに 頼ってるようじゃダメだ。 これからの雪月を 若いもんたちが見つけていかねえと。 そこに私がいたら お邪魔虫だよ。 なっちゃんには 迷惑かけるね。」

なつ「いや そんなことないよ。 まあ私も こんなふうに とよばあちゃんと ゆっくり話せて うれしい。」

坂場「僕も とても うれしいです。」

とよ「2人とも ありがとうね。」

優「優ちゃんも うれしい!」

とよ「あら 優ちゃんも ありがとうね。」

とよ「お先に 頂きました。」

なつ「は~い。」

とよ「すごいね なっちゃん。 うちでまで仕事して大変だ。」

なつ「すいません 今日中に仕上なくちゃいけなくて。」

とよ「いいさ 気にしないで。 はあ…そんなふうにして アニメーションっていうのは描くのかい。」

なつ「はい。 私たち アニメーターは この紙 一枚一枚に いろんな客ターの表情 動き 人生を描いていくんです。」

とよ「はあ…。」

なつ「そこに 最後に命を吹き込んでくれるのが 声優さんなんですよ。」

風車プロダクション

レミ子「早口言葉の『外郎(ういろう)売り』 一日で間違えずに 口上できるようになって下さい。」

とよ「これを 一日ですか…?」

レミ子「『拙者親方と申すは 御立合の中に 御存知のお方もござりましょうが お江戸を立って二十里上方 相州小田原一色町をお過ぎなされて 青物町を登りへお出なさるれば』以下省略。」

とよ「師匠 すげえです!」

レミ子「『外郎売り』は 発声技術も計算されてるから アクセントも矯正できるのよ。」

とよ「はあ~。」

レミ子「とりあえず 第三段まで 明日 テストするわよ。」

とよ「ほう!?」

レミ子「オーディションまで1週間しかないの。 できないなら諦めなさい。」

とよ「私 絶対 ネバーギブアップ!」

レミ子『絶対 ネバーギブアップ!』

とよ『拙者親方と申すは御立合…。』

とよ「薫風喉候(のんど)より来たり 口中薇涼(こうちゅうびりょう)…』。

とよ『茶立ちょ ちゃっと立ちょ 茶立ちょ』。

光子「ありがとうございます。」

とよ「どういたしましたちょ 立ちょちょ ああ! 『そりゃそりゃそりゃ そりゃ廻って来たは 廻って来るは…』」。

レミ子『絶対 ネバーギブアップ!』

妙子<そして 次の日>

とよ「『拙者親方と申すは御立合の中に 御存知のお方もござりましょうが お江戸を立って二十里方 相州小田原…。 お茶立ちょ茶立ちょ ちゃっと立ちょ茶立ちょ 青竹茶筅で お茶ちゃと立ょ』。」

レミ子「…。」

とよ「師匠…。」

レミ子「合格。 一日で よくここまで上達したわね。 どんな執念?」

とよ「はあ~ よかった。 もう 師匠ってば驚かさないで下さいよ。」

妙子<一方 そのころ 雪月では…>

雪月

夕見子「ありがとうございました。」

雪次郎「ありがとうございました。」

妙子「お待たせしました。 幸福サンシャインば~むです。」

「かわいい。」

妙子<若い2人による雪月改革が功を奏し 2代目おかみも 鼻高々でございます>

「おいしい! 早く食べて。」

風車プロダクション

レミ子「読み合わせの練習 始めるわよ。」

とよ「よろしくお願いします。」

レミ子「ユキにゃんの声は 私がやるわね。 『全く 遅いお目覚めね。 早くミルク頂戴。 ウフフ 驚いた?』。 ちょっと どうしたの?」

とよ「師匠 たまげました。 色っぽいですね!」

レミ子「本当? 『ウフフ 驚いた?』。」

とよ「色っぽい たまげた~!」

レミ子「やだ もう…。 はい はい はい…。」

とよ「ああ…。」

とよ『女は 心が大事』。

レミ子『猫に 女 語られたくないわよ』。

とよ『あんただって 猫でない』。

レミ子「なまってるわ。」

とよ「あっ ああ…。 気持ち入ると どうしても なまるんです。」

レミ子「雪次郎と一緒ね。」

とよ「もう一回 お願いします!」

レミ子「オッケー。」

(おなかが鳴る音)

レミ子「あっ。」

とよ「師匠…。」

(おなかが鳴る音)

とよ「あ…。 あっ こんな時間まで すいません。」

レミ子「あ いいんです。 どうせ 帰っても一人だし 待ってる人もいないし。」

坂場家

リビング

レミ子「お邪魔しま~す。」

とよ「はい。 すまないね また 台所借りちゃって。」

レミ子「私も お邪魔しちゃって ごめんね。」

なつ「いいの いいの。 優も喜んでるから。」

とよ「したら…。」

一同「頂きま~す。」

レミ子「じゃあ いっちゃいます。 おいしい!」

とよ「ハハハ よかった。 でも 師匠のオムライスには かなわねえわ。」

レミ子「ううん。」

優「オムライス? 優ちゃんも食べたい!」

レミ子「じゃあ 今度 作ってあげるね。」

優「うん!」

とよ「今日 気付いた! 師匠は いい女だ!」

レミ子「何よ 今日 気が付いたの?」

とよ「師匠は 女役もいけると思います。」

レミ子「ああ それは無理よ。」

とよ「なして? こんな女らしいのに。 やりたくないんだべか? 女役。」

レミ子「そりゃ やりたいわよ 女なんだから。」

とよ「したら…。」

レミ子「いい? 私は 少年役だから仕事がもらえてるの。 私の女役なんて 誰も興味ないわよ。」

とよ「え~… そうだべか?」

なつ「レミさんには ファンが多いから。 今の『鉄戦士スカイジーン』の神宮寺ツトム 優も大好きだもんね。」

優「アテンション プリーズ!」

(笑い声)

レミ子「ありがとう。」

なつ「今の風車プロは レミさんなしでは 考えられないだろうしね。」

レミ子「そういうこと。 この話題は お~しまい!」

とよ「あんた それでいいんだべか? 自分のやりたいことに正直になれなくて 苦しくないのかい? 行くべ。」

レミ子「どこに?」

とよ「風車プロに決まってる。」

レミ子「いいって。」

とよ「よくない! 私も一緒に行って 咲太郎に直訴してやる。 戻るべ。」

レミ子「いいんです!」

とよ「なして? やりたいんだべ?」

レミ子「声の仕事が やっと見つけた居場所なんです。 風車プロのみんなが 私の家族なの。 その場所を失いたくないんです。」

雪月

妙子「ありがとうございました。 また お越し下さい。」

夕見子「この新作の幸福サンシャインば~むを そちらでも全面的に…。」

「あの~ お茶のお代わり頂けますか?」

「雪月さんのお菓子は 人気ありますからね。 幸福サンシャインば~む…。」

夕見子「このオレンジは 列車の色を 忠実に再現しているんです。 あっ どうぞ 召し上がって下さい。 お土産は これを薄くスライスして 更にたべやすくしてるんですよ。 そちらで 是非。」

妙子<そして とうとう次の日。>

夕見子「いらっしゃいませ。」

根岸「えっと… ミルクまんじゅう 4つもらえるかい?」

夕見子「今 品切れで…。 こちらの幸福サンシャインば~むは いかがですか?」

根岸「うちの人は 洋菓子苦手だから 今日は いいわ。」

夕見子「あ… すみません。 ありがとうございました。」

妙子「根岸さん どうしたの?」

夕見子「在庫がなかったので 新商品 おすすめしたんですけど…。」

妙子「どうして そんな勝手なことしたの? すぐに作ってさしあげれば よかったでしょう。」

夕見子「いや 新商品を売ることを 第一に考えたんです。」

妙子「第一に考えるの お客さんでしょ。」

夕見子「任せるって言ったの お義母さんでないですか!」

妙子「お客様を 何だと思ってんの!」

雪次郎「どうした? おふくろ。」

妙子「あ… 雪次郎 どうして ミルクまんじゅうの在庫切らしてんのよ?」

雪次郎「いや 今 次の商品 考えてて…。」

妙子「え~…。」

雪之助「まあ まあ まあ…。」

妙子「あんたも 黙って もう何も言ってくんない! 雪月 どうしたいのよ! もう… やっぱり 私じゃダメなのよ。」

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