ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」 スピンオフ 秋の大収穫祭とよさんの東京物語②

あらすじ

1作目は坂場(中川大志)に老婆の声を頼まれたとよ(高畑淳子)の単身上京物語。アニメの録音現場を訪れ、土間レミ子に感動し「声優になりたい」と夢を抱く。だがその裏には「雪月」を夕見子たちに任せたいという思いがあり…。

スピンオフ 秋の大収穫祭 とよさんの東京物語②

坂場家

優『ウフフ 驚いた?』。

とよ「『そんな急に話しかけたら びっくりするでしょう。 全く しょうがない子だよ』。(ため息)」

優「とよばあちゃん 元気ないね。」

とよ「え? そったらことねえべ。」

優「そったらことある! オーディションまで あと3日だよ。 絶対 ネバーギブアップ!」

とよ「優ちゃん もう一回お願いします。」

録音スタジオ

島貫『あれは… 来やがったか スカイジーン』。

レミ子『アテンション アテンション… スカイジーン ハアッ! アテンション プリーズ!』

スピーカー・坂場『ストップ。 レミ子さん いつもより セリフに 気持ちがこもってませんね』。

レミ子「すいません。 もう一回お願いします。」

風車プロダクション

とよ『そんな急に話しかけたら びっくりするでしょう』。

島貫「おっ どうした? レミ子。」

松井「鍵閉まって… 開いてんじゃねえか。」

とよ「あっ お疲れさまでした。」

松井 島貫「お疲れさま。」

とよ「ちょっと 師匠に用事があるんだわ。」

島貫「あ… じゃあ 俺らは外で飲むか。」

松井「そうだな。 ごゆっくり。」

とよ「申し訳ない…。」

とよ「どうした…?」

妙子「お義母さん…。」

妙子「私 やりますから。」

とよ「いいの いいの。」

妙子「何か すみません。」

とよ「気にすんでない。」

妙子「あ… 義母(はは)が いつもお世話になってます。」

レミ子「いいえ 私の方こそ…。」

妙子「雪次郎の その節は 本当お世話になりました。」

レミ子「いえ…。」

妙子 レミ子 とよ「あの…。」

とよ「ああ あんたから…。」

妙子「いや どうぞ。」

レミ子「どうぞ どうぞ…。」

とよ「いやいや 師匠…。」

妙子「じゃ いいですか!」

レミ子「どうぞ!」

妙子「お義母さん。」

とよ「何だべ?」

妙子「雪月には やっぱり お義母さんがいないと ダメなんです。」

とよ「何かあったんだね?」

妙子「夕見子ちゃんと雪次郎に 新しい雪月を打ち出したいと言われて 任せたんです。 2人とも よく頑張ってくれた。 でも 私が うまく助けてあげられなくて あげくの果てに 私 どなり飛ばしちゃったんですよ。 ああ もう本当に情けない。 やっぱり 私じゃダメなんです。」

とよ「なして決めつける? あんたは あんたでいい。 妙子さん 私は あと10年 いや 20年は生きる。」

妙子「お義母さん 今 93ですよ。」

とよ「この年で 新しい仲間に出会って 新しいことに挑戦できるなんて うれしくってな。 必ず オーディションに合格してみせる。 それで 今度は菓子屋じゃなくて 声優の道を究めるんだ。 まだ まだ もっと もっと うまくなりたい。」

妙子「どうして そんなに頑張れるんですか?」

とよ「先週までは こんなふうに思えなかった。 いつ死んでもいいと思ってた。 だけど 知らない世界に 一歩 足を踏み込んだら 何でか 生きる気力が湧いてきた。 自分の心の引き出しに ま~だ こんな思いがあったんだな。 妙子さん あんたは雪月のおかみだ。」

とよ「思うように やってみなさい。 あんたはね 本当に小さなことに いろいろ気付ける女なんだ。 お客さんや家族を よ~く見てんだろうね。 私は イノシシみたいな女だから あんたが いてくれたから ここまで やってこれたんだ。 妙子さん あんたがいたから 雪月は雪月なんだ。」

妙子「お義母さん…。」

レミ子「私も 妙子さんと一緒だな。」

とよ 妙子「レミ子ちゃん?」

レミ子「女役 自分にはできないって決めつけて 勝手に諦めてたのかもしれない。 今のままが 一番いいんだって 思うようにしてた。 とよさんに いい女って言ってもらえて すごく うれしかったんだ。 とよさんに 背中押してもらえた。」

妙子「うん。」

レミ子「私 挑戦する!」

妙子「私も!」

レミ子「ありがとう とよさん。」

とよ「ううん…。」

妙子「ありがとう お義母さん。」

とよ「頑張れ 妙子! 師匠!」

レミ子「はい!」

妙子「はい!」

とよ「じゃあ 声出すべか 3人で。」

妙子「えっ?」

とよ「よっこらせ…。」

レミ子「あ~!」

とよ「絶対 ネバーギブアップ!」

妙子「私も 頑張りま~す!」

レミ子「お願いします。 挑戦させて下さい!」

光子「咲ちゃん どうするの?」

咲太郎「レミ子… よく言った。」

雪月

雪之助「妙子…。」

雪次郎「あっ 母ちゃん…。」

夕見子「すみませんでした。」

妙子「えっ…。」

雪次郎「ごめんな 母ちゃん。」

雪之助「おめえばっか負担かけて 悪かったな。」

妙子「私こそ ごめんなさい 急に飛び出して…。 子どもみたいよね。 夕見子ちゃん あなたが 雪月を大きくしたい気持ちは よ~く分かる。 だけど 一人一人のお客様を 大事にしてほしいだけだわ。」

夕見子「はい…。」

妙子「雪次郎 あんたの腕は上がってる 頼りにしてるからね。」

雪次郎「はい。」

妙子「あんた… これからも 一緒に頑張ろう。 私 根岸さんのとこ行ってくる。」

夕見子「私も 一緒に行きます。」

雪之助「行っといで。」

雪次郎「あ… じゃあ ミルクまんじゅう 持ってってあげて。」

妙子「うん お願い。」

<いよいよ オーディション当日>

坂場家

とよ「では 行ってまいります。」

2人「絶対 ネバーギブアップ!」

とよ「絶対 ネバーギブアップ!」

録音室

(ドアが開く音)

とよ「師匠…。」

レミ子「この度は 大変なご迷惑をおかけして 申し訳ございませんでした!」

麻子「レミ子さん 本日は よろしくお願いします。 事情は 咲太郎さんから伺っています。 主人公のケン役を辞退して ユキにゃん役のオーディションを 受けるって。」

坂場「レミ子さんのユキにゃん 楽しみにしてます。」

レミ子「よろしくお願いします!」

坂場「じゃ…。」

雪月

夕見子「とよばあちゃん そろそろですね。」

妙子「そうね…。」

雪之助「おい 手ぇ止まってるぞ。」

雪次郎「あ… 悪い。」

録音スタジオ

坂場「それでは『2匹のにゃんこす』の基本設定を ご説明します。 主人公の少年 ケンが 2匹の人間の言葉を話す不思議な猫と 出会ったことから 物語は始まります。 一匹は メスの大人猫のユキにゃん。 もう一匹は 老婆猫のバアにゃんです。 まだ 台本もキャラクターも 完成ではありません。」

坂場「今日 皆さんの声を聞いて 皆さんにしかできない表現を この作品に反映したいと思っています。 まずは ユキにゃんと バアにゃんが ケンと初めて人間の言葉で話すシーンを やってもらいます。 バアにゃん役を柳井さん ユキにゃん役を土間さん。」

柳井 レミ子「はい。」

坂場「お願いします。 一から やります。」

麻子「レミ子さんの女役 楽しみね。」

坂場「はい。」

スピーカー・坂場『それでは よろしくお願いします』。 『どうぞ』。

小林『おはよう ユキにゃん バアにゃん』。

レミ子『全く 遅いお目覚めね。 早く ミルク頂戴』。

小林『うわ!』。

レミ子『ウフフ 驚いた』。

柳井『そんな急に話しかけたら びっくりするでしょう』。

レミ子『だって おなか すいたんだもん』。

坂場『それでは 次に ユキにゃん役を田所さん バアにゃん役を小畑さん お願いします。』

とよ「はい。」

田所『ウフフ 驚いた?』。

とよ『そんな急に話しかけたら びっくりするでしょう』。

田所『だって おなか すいたんだもん』。

とよ『全く しょうがない子だよ』。

田所『あ~ やっと しゃべれて すっきりした』。

とよ『若いもんは 辛抱足りないね。 女は 心が大事』。

田所『猫に 女 語られたくないわよ』。

とよ『あなただって 猫じゃない』。

坂場『ありがとうございました』。

麻子「とよさん 上手じゃない。」

坂場「僕が求めているのは こういうことじゃないんです。」

坂場「次は 物語のクライマックスで つり橋が壊れて 谷底に ユキにゃんと バアにゃんが落ちる 直前のシーンです。 今度は ペアを替えてやってもらいます。 皆さんにしかできない ユキにゃんと バアにゃんを見せて下さい。」

雪月

妙子「絶対 ネバーギブアップ。」

録音スタジオ

坂場『それでは 最後のペア ユキにゃん役を土間さん バアにゃん役を小畑さん お願いします』。

とよ「はい。」

坂場『どうぞ』。

小林『ううっ… ユキにゃん バアにゃん 僕が引っ張り上げるから…。 ううっ…うう…! ああ! ううっ… うっ…』。

麻子「レミ子さん どうしたのかしら?」

小林『ユキにゃん ううっ… ああっ…』。

レミ子『バアにゃん… 絶対に 私の尻尾を離しちゃダメだからね!』。

とよ『ユキにゃん 私は 老い先長くないべ…。 いいから その尻尾さ振りほどけ!』。

レミ子『いや… バアにゃん 絶対に諦めないで!』。

とよ『後は任せた。 ユキにゃん ありがとう…。 楽しかった…』。

レミ子『そんなの 絶対に許さないわよ! え~い どっこいしょ~!』。

とよ『うわ~! どきな! ほ~れ 私の手につかまれ! えいや~!』。

レミ子『いった~!』。

とよ『こんなところで くたばらないわ!』。

レミ子『まだまだ 私たち これからが花よ!』。

麻子「こんなの 台本にないわよね。」

坂場「これだ!」

レミ子『よいしょ!』。

とよ『おお~ つり橋が揺れる~!』。

レミ子『うわ~ 諦めないで~!』。

麻子「決まりね。」

坂場「絵コンテ 作り直します。」

坂場『もっと… もっと いけ~!』。

妙子<にゃんと こうして お義母さんと レミ子ちゃんは オーディションに 受かってしまったのです>

とよ『わたしゃ バアにゃん!』

3か月後(7月)

妙子<そして 3か月後>

雪月

妙子「いらっしゃいませ。 雪月へようこそ! どうぞ。」

妙子<おかげさまで 雪月に 活気が戻ってきました>

夕見子「ミルクまんじゅう 4個 承りました。 いつも ありがとうございます。」

「ありがとう。」

妙子<声優デビューしたお義母さんは 週1回 東京で 声優活動中>

レミ子「すいませ~ん。 また お邪魔します!」

妙子<レミ子ちゃんは 少年役に加えて 女性役でも大人気。 声優界一の人気者になりました>

アントニオ「アモーレ!」

妙子<ハンサムな彼氏まで!>

アントニオ「トヨ! ア~ トヨ!」

とよ「あいむ ふぁいん。」

妙子「アントニオ!」

アントニオ「マンマ!」

雪之助「妙子! 何 お前 いい年こいて 若い男と…。」

夕見子「何 お義父さん 焼いてるんですか?」

雪次郎「甘えな。 さすが菓子職人だわ。」

とよ「よく来たね 師匠。 ハハ…。」

「こんにちは。 こないだの写真 出来た。 どうぞ。」

妙子「ありがとうございます。 さあ さあ さあ 写真 写真。」

レミ子「あっ アントニオ。」

とよ「あ~ いい写真だ。」

妙子<おつきあい ありがとうございました。 またのお越しを お待ち申し上げております。 かしこ>

モバイルバージョンを終了