ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「なつぞら」 スピンオフ 秋の大収穫祭 十勝男児、愛を叫ぶ!

あらすじ

2作目は「雪月」の若夫婦・夕見子(福地桃子)と雪次郎(山田裕貴)のささいな夫婦げんか。それをきっかけに十勝の男女が大分裂! 仲直りのため男たちが、妻へ愛を語るコンテストを実施することに…!

スピンオフ 秋の大収穫祭② 十勝男児、愛を叫ぶ!

北海道・十勝

柴田家

台所

菊介「はい 戻りましたよ~。」

拓男「ただいま!」

富士子「ご苦労さん。」

菊介「いい匂いだべや。 ハハハハ…。」

菊介<どうも 菊介さんです! ここは ご存じ 柴田家。 なっちゃんの もう一つの故郷です。 今は 昭和51年の夏。 ご覧のとおり 柴田家の日常は いつもどおり 穏やかで 楽しく過ぎています>

昭和51(1976)年 8月

居間

剛男「それじゃあ 頂きます。」

一同「頂きます!」

菊介<と 思いきや…>

夕見子「ただいま。」

剛男「ただいまって…。」

照男「あの声は…。」

夕見子「はあ~ やっと着いた。 おなかすいたね。 よかったわ。 ちょうど ごはんじゃない。」

菊介<あれ? 夕見子ちゃん。>

夕見子「ほら 雪見 一緒に食べちゃおう。 何さ みんな 寝起きの牛みたいな顔して。」

富士子「夕見子 どうしたのさ。 雪見まで連れて…。」

夕見子「嫌気がさしたのさ 雪次郎に。」

菊介<どうやら いつもどおりとは いかないようだわ…>

雪月

菊介<それは 夕見子ちゃんが 突然家に帰ってくる 2時間前のこと>

雪見「ただいま…。」

妙子「はい お帰り 雪見。」

夕見子「雪見…!」

雪次郎「なんした その顔。」

雪之助「あ… なるほどな。 じゃあ あれか ガキ大将に いじめられたってか。」

雪見「いじめられたんでないわ…。 いじめられてる子を かばったんだ。」

夕見子「したからって 殴られて ただ逃げてきたのかい?」

雪次郎「まあ まあ まあ まあ まあ 大したけがでなくて よかったよな。 うん。 ばあちゃんに 赤チン塗ってもらえ。」

とよ「赤チン 赤チン…。」

妙子「あ どこにあったかな。」

夕見子「そいで あんた 情けないと思わないの?」

雪次郎「いやいや いやいや 雪見は いじめられてる子を かばってだな…。」

夕見子「だったら なおのこと 正義を突き通すべきだべさ。 暴力に屈して 尻尾巻いて逃げてくるなんて。」

雪次郎「雪見は そういう性格でねえべや。 もめ事とか争い事とか 昔から嫌いだったべ。 なあ?」

雪之助「ほら 雪見… 拭け 拭け。 な。 夕見子ちゃん たかが 子どもの喧嘩だべ。 そう むきにならずにさ…。」

夕見子「子どもの喧嘩だからです! 大人の出る幕でないから 子どもが 自分で なんとかしなくちゃならないんだべさ。」

雪次郎「もう いい加減にしろって! 雪見も泣いてるべや。 雪見は 夕見子ちゃんみてえに 強くねえんだわ。」

夕見子「あんたに… あんたに何が分かんのさ。」

雪之助「夕見子ちゃん…。」

雪見「お母さん!」

雪次郎「いくら何でも 厳しすぎるべ…。」

柴田家

居間

富士子「早く帰った方が いいんじゃないの? 雪次郎君も心配するっしょ。」

夕見子「はあ… それが しないんだわ 雪次郎ってやつは。 私が出てったのだって いつものことだとか思ってんのさ。 雪次郎に危機感を覚えさすには もうしばらく時間が必要なの。」

雪見「(ため息)」

剛男「子どもが ため息なんかついちゃダメだ。 幸せが逃げちゃうしょ。 したけど 自分の娘ながら お前の母さんは 一筋縄ではいかないな。 なんして あんな強い女に なっちまったんだべか…。」

雪月

雪次郎「いつものことだわ。 夕見子ちゃんが へそ曲げんのは。」

雪之助「したけど 結構な迫力だったべ。」

雪次郎「夕見子ちゃんは いっつも ど迫力だべや。 いちいち 怖がってたら 一緒に暮らせねえよ。」

雪之助「まあ おふくろみたいなもんか。 ハハハ。」

とよ「何か言ったかい?」

雪之助「地獄耳 地獄耳。」

とよ「悪口は聞き逃さないよ。 雪次郎 あんた こんなことしてていいのかい。 嫁が出てったっていうのに。」

雪次郎「したから あんなの いつものことだって。」

とよ「あの子は 昔 東京に駆け落ちしたって話だべ…。 やるときゃ やるんでないかい?」

雪次郎「いや そったらこと…。」

(電話の呼び鈴)

妙子「はい もしもし…。」

雪次郎「もしもし 夕見子!」

剛男『あ… ごめん 私で。』

雪次郎「あ お義父さん…。 そちらに 夕見子ちゃん お邪魔してませんか?」

剛男『ああ 来てるわ。 何だか 虫の居どころが悪そうなんだわ。 雪次郎君 一体 何があったのさ?』

雪次郎「いや まあ その 夫婦喧嘩というか…。」

剛男『雪見も不安そうにしてるんだわ。 店が忙しいのは分かるけど 早く迎えに来てやってや。』

雪次郎「はい…。」

雪次郎「母ちゃん ばあちゃん 父ちゃん ごめん!」

とよ「最初から そうすりゃいいべさ。」

柴田家

居間

剛男「雪次郎君 こっちさ来るって。 何だか 飛んできそうな勢いだったわ。」

富士子「ああ そう。 よかったね。」

雪見「うん。」

富士子「夕見子 これで一見落着ね。」

夕見子「はあ?何が一件落着なもんか。」

(電話の呼び鈴)

富士子「夕見子 ほら 雪次郎君でないの。」

夕見子「ああ もう しつこい男だね。 はい もしもし!」

『もしもし 柴田さんのお宅でしょうか?』

夕見子「はい。 そうですけど…。」

『柴田剛男さんは いらっしゃいますか?』

夕見子「父さん… 女の人から。」

剛男「えっ?」

富士子「女?」

夕見子「うん。」

台所

(戸が開く音)

雪次郎「おばんです!」

砂良「あっ 雪次郎君 おばん…。」

雪次郎「お邪魔します!」

居間

雪次郎「夕見子ちゃん 雪見 迎えに来た… ぞ…? お義母さん 夕見子ちゃんと雪見は?」

富士子「もう帰ったわ。」

雪次郎「え… 帰った?」

富士子「昼間 うちの人に電話があってね。」

回想

『柴田剛男さんは いらっしゃいますか?』

回想終了

富士子「東京に行く用事が できたって言うのさ。 したら 夕見子 車出すなら乗ってくわって言って 一緒に。」

雪次郎「なしてですか! 俺が来ること分かってたしょや?」

照男「残念だったな 雪次郎。 いい所に連れてってやるから 元気出せ。」

雪次郎「いい所? 何ですか? それ。」

照男「秘密基地だ。 はい。」

砂良「いやいや… ちょっと あんた! どこ行くの? ちょっと!」

戸村家

秘密基地

照男「お~い みんな みんな ゲストのお出ましだ。」

菊介「おお 雪次郎! とうとう お前も こっち組みか!」

雪次郎「え ここは…?」

菊介「ここは 菊介さんの秘密基地。 家の居場所なき男たちの隠れがだわ。」

門倉「嫁さんたちには ないしょだぞ。」

雪次郎「組合長まで…。」

田辺「俺は視察だ 視察。」

門倉「よ~く言うわ! 時々 飲みに来るのさ。」

菊介「さあ 哀れな雪次郎よ 心行くまで飲みふけるがいいさ。 はい かんぱ~い!」

田辺「乾杯!」

照男「乾杯!」

雪次郎「1杯だけ 1杯だけ…。」

♬『エフ エフ ジェイ エフ エフ ジェイ われらの誇り』

菊介「イエ~イ!」

門倉「イエ~イ ハハハ! いや~ 菊介さんも組合長も 勝農の先輩だったんだもな!」

菊介「そうだぞ 組合長なんて初代番長だ! 番長っぽいべ?」

照男「むちゃくちゃ ぽいっす!」

田辺「押忍!」

一同「押忍!」

雪次郎「ちょっと みんな 一つ聞いてくれ。 夕見子のやつがね もう いっつも だらしがねえ 情けねえ 意気地がねえって さんざん言うんですよ。 したけどね 俺は言ってやりたいんですよ。 俺だって 十勝の男だわって!」

門倉「ああ そうだ いいぞ 雪次郎!」

菊介「いいぞ! でも それ 組合長な!」

雪次郎「夕見子も おふくろも ばあちゃんも 十勝の男は弱えって言うけどさ 違えんだって…。 あんたたちが強すぎるだけだって!」

菊介「うん それ 組合長な!」

雪次郎「菊介さ~ん… もう夫婦って 一体 何なんでしょうね…。」

菊介「俺にも分かんねえよ 雪次郎…。」

雪次郎「うん…。」

菊介「嫁とも娘とも どうも ギスギスしちまってよ…。」

公英「お父さん これ どこ置けばいいの?」

菊介「その辺でも置いとけや。」

公英「ねえ お父さん。」

菊介「えっ?」

公英「いい加減 お母さん 迎えに行きなや。 もう1週間だよ。」

菊介「何だよ おい…。」

田辺「何だ 嫁さん 実家に帰っちゃったのか?」

雪次郎「えっ?」

菊介「おい 公英 人前で みっともないこと言うんでねえよ。」

公英「みっともないと思うなら さっさと謝って 許してもらいなや。」

菊介「な~んで 俺が謝んなきゃ…。」

公英「元はと言えば お父さんが 結婚記念日 忘れたのが原因でしょ。」

菊介「こっちは 毎日 忙しく働いてんだ。 そったらこと いちいち覚えてられっか。」

公英「意地張っちゃって… はんかくさ!」

雪次郎「あっ あ~…。」

門倉「あ~あ…。」

照男「ギスギスしてたな…。」

門倉「ハハハハ…。」

田辺「近頃まれに見る ギッスギスだ…。」

雪次郎「菊介さん 嫁さん 出てっちゃったんすね。」

菊介「一緒にすんなっつうの!」

(笑い声)

門倉「したけど… 男の立場が低いのは どこも同じなんだな。」

田辺「おい! これからの十勝を 支えていくのは 君たちだろ! そんな調子で どうすんだよ!」

菊介「そうだ! このままじゃ 十勝男児の名が廃る! 女たちに 俺らの男らしさを 思いださせねばなんねえ! な!」

門倉「そうだ! そうっすよ 先輩!」

菊介「今こそ 女たちに持つイメージを 書き換えるんだ!」

門倉「うお~!」

照男「そんなこと できんのかって?」

菊介「できる! やる!」

雪次郎「したけど どうやって…。」

菊介「十勝男自慢コンテスト! これしかないべ!」

雪月

一同「『十勝男自慢コンテスト』?」

良子「何なのさ このはんかくさい催しは…。」

妙子「うちの人 うれしそうに ビラまいてたわ。」

夕見子「男自慢って こんなの ただの自己満足でないの。 気持悪いったらありゃしない。」

とよ「『女たちよ これが十勝男児だ!』。」

(悲鳴)

夕見子「なんという ナルシシズム…。」

良子「『女たちよ』って 私たちに抗議してるつもりかい?」

砂良「だとしたら 的外れもいいとこよ。 うん? 腕相撲に 集乳缶重量挙げ 牛と綱引き…。」

とよ「あんたら バカにされてんでないのかい。」

砂良「あっ そうだ! 聞いて下さいよ。 この間 洗濯してたら 上着のポケットから 変な名刺が出てきたんです!」

一同「え~!」

砂良「あれは多分 女の子のいるお店のやつだわ。」

照男「妹として情けないわ。」

良子「うちの旦那も 毎晩 飲み歩いてばっかりさ。 その上 今度 トラクターを買うんだとか 言い出して… どこに そんな金があんのさ!」

妙子「何か 腹立ってきた! こんな悪ふざけ やめさせないばなんないね!」

夕見子「いやいやいや それじゃ 腹の虫が治まんないわ。 どうにか 一泡吹かせらんないべか。」

公英「こんにちは。」

夕見子「あっ いらっしゃい… ああ 公英ちゃん いらっしゃい。 久しぶりだね。」

公英「うん。」

夕見子「あっ ちょっと待って…。 ちょっと いいこと思いついた。」

戸村家

秘密基地

雪次郎「うっ…。」

菊介「よ~し やってんな。 みんな 俺たちの新しい仲間だ。」

正治「何だか よく分からねえが 心配かけてた家族に 元気な姿を見せたいと思う。」

雪之助「よろしくな!」

菊介「おやじだ ハハハハ…。」

門倉「おっ おい た… 大変だ!」

雪次郎「どうしたんだ? 番長。」

門倉「良子に 俺たちが ここにいること ばれちまった…。」

菊介「え~!?」

門倉「早く片づけろ!」

夕見子「毎晩 どこ ほっつき歩いてんのかと 思ったら こんなとこにいたとはね。」

良子「あんたら ここで何してんのさ。」

門倉「練習だよ。 十勝男自慢コンテストの。」

夕見子「コンテストね… いいじゃないの。」

雪次郎「えっ?」

夕見子「そんなに やりたきゃ やってもらおうじゃない。 ただし! やるのは このコンテストだけどね。」

一同「『十勝女房自慢コンテスト』?」

門倉「何じゃ こりゃ!」

夕見子「『このコンテストは 男たちが 妻への愛を競い合うものである。 各人 好きな方法で 妻への愛をアピールし 妻に認められれば 男として正当に評価し 認められなければ 夫婦生活を 終了するものとする』。」

正治「夫婦生活を終了…?」

菊介「こんな理不尽なことがあるか! 一方的に別れるだ何だって!」

公英「あれ~? お母さんの心を つなぎ止める自信がないってことかい?」

菊介「そ… そんなことはねえけど。」

夕見子「妻への愛をアピールして より夫婦の絆が深まる。 大した すばらしいイベントだと思わない?」

良子「どうすんの? やるの! やらないの!」

菊介「いや みんな だまされるな! こんなの変だ!」

門倉「や… やります!」

菊介「番長 お前 勝手なこと言うんでねえよ!」

門倉「菊介先輩! これは 逆に チャンスかもしれねえ!」

菊介「チャンス?」

門倉「要は 女たちをメロメロにして 俺たちを見直させればいいんだべ? 男自慢コンテストと 目的は同じだべさ。」

照男「確かに 言われてみれば…。」

正治「菊介さん。 男には やらなきゃいけない時がある。 俺たちにとって 今が その時だ。」

菊介「山田さん…!」

雪之助「やるべ 菊介さん!」

照男「やろう 菊介さん!」

菊介「おお… おお おお…!」

夕見子「雪次郎 あんたは どうすんの?」

雪次郎「やってやるべ!」

菊介「よし 妻たちよ 見てれよ!」

菊介<うお~! ああ 失敬。 興奮しました。 さて 十勝で 男たちと 女房たちの戦いが始まったのと同じ頃… 剛男さんは 東京に来ていました>

坂場家

玄関

(ブザー)

坂場「は~い。 ああ お義父さん。 ご無沙汰してます。」

剛男「久しぶり。 急に泊めてもらって すまんね。」

坂場「いやいや お待ちしてました。 なつ!」

なつ「あっ 父さん! いらっしゃい。」

優「おじいちゃん いらっしゃい。」

剛男「優ちゃん おじいちゃん来たよ。」

なつ「長旅ご苦労さま。 疲れたしょ。 入って。」

剛男「お邪魔します。」

坂場「どうぞ どうぞ。」

剛男「ああ ありがとう。」

居間

剛男「はあ~ 旅の疲れがとれたわ。」

なつ「それは よかった。 それで どうだったの? 手紙 見つかったんでしょ。」

剛男「ああ うん。」

回想

(鈴の音)

剛男「五十嵐君のことは よ~く覚えてます。 自由時間に こっそり 上官の愚痴を言い合ったりして…。 よく笑う人でしたね。」

静「ええ。 2か月前… 肺がんでした。」

剛男「そうですか…。」

静「お電話で お話ししたものです。 主人の遺品を整理していましたら こちらが…。 失礼を承知で 中を拝見しました。 その手紙は 柴田さんのものではありませんか?」

剛男「はい。 これは 僕が書いたものです。 僕は 戦友の奥原さんという人と お互い 手紙を託したんです。」

剛男「戦死された君たちのお父さんから 手紙を預かってきたんだ。 君たちへの思いが込められてる。 どちらかに 何かがあった時には 家族に それを届ける約束をして…。」

剛男「見つからないと思ってました。 ご主人が持っていてくれたんですね。」

静「主人は 皆さんが その後 どうされているのか 気にかけていました。 どうか 聞かせてやって下さい。」

剛男「はい もちろん。」

回想終了

剛男「読んでみるかい?」

なつ「え… いいの?」

剛男「うん。 あ 内容は みんなに言わないでね。 恥ずかしいから。」

なつ「うん 分かった。 ありがとう。」

剛男『富士子ちゃん 照男 夕見子 明美。 僕は 今 北支の西の方にいます。 いつ敵が襲ってくるか分からないので 心が落ち着く暇がありません。 そんな時は いつも 穏やかな十勝の暮らしを思い出します。 富士子ちゃんの作った煮物の味 照男の腕の中で 小さく笑う明美 夕見子が 最後に言ってくれた言葉 忘れることができません』。

剛男『ああ 会いたいな。 僕は家族に会いたい。 富士子ちゃん 会いたいです。 富士子ちゃん 大好きです。 富士子ちゃん 富士子ちゃん 富士子ちゃん。 声に出して呼びかけたい。 今すぐにでも 富士子ちゃんに会いたいです。 柴田剛男』。

なつ「フフ… ねえ 父さん 会いたい 会いたいばっかりでないの。」

剛男「しかたないだろ そん時は 本気 そう思ってたんだから。」

なつ「でも うれしいよ。 こんなに会いたいと思ってもらえるのは。 父さんは 本当に みんなのことが大好きなんだね。 ねえ 夕見子が最後に言った言葉って?」

剛男「えっ? ああ それはね…。」

(電話の呼び鈴)

なつ「はい もしもし。」

富士子『もしもし なつかい?』

なつ「母さん?」

剛男「富士子ちゃん?」

富士子『ちょっと大変なんだわ。 夕見子に たきつけられて…。 男たちが わやなこと始めたんだわ!』

戸村家

秘密基地

菊介<十勝女房自慢コンテスト 前夜のことです>

菊介「よし みんな 集合。」

門倉「はい。」

菊介「いよいよ 十勝女房自慢コンテストが 開催される!」

門倉「おう!」

菊介「名前は乗っ取られちまったが 俺は 今でも男自慢コンテストのつもりだ。 男らしいところを見せつけて 女房たちを ほれ直させるべさ!」

門倉「おう!」

雪月

回想

夕見子「私は もし 結婚するとしたら あんたしかいないと思ってた。」

雪次郎「えっ… いつ いつから?」

夕見子「いつって… いつの間にか そう思ってたわ。」

回想終了

雪次郎「夕見子ちゃん…。」

(戸をたたく音)

雪次郎「あっ お義父さん!」

剛男「ごめんね こんな朝早く。 急いで帰ってきたら 変なタイミングで着いてしまって。」

雪次郎「いや なんもです。 これ よかったら どうぞ。」

剛男「ありがとう。 それにしても すごいことになったね…。 あ… 夕見子が面倒かけて申し訳ない。」

雪次郎「あ いえ… 言いだしたのは男たちですから。」

剛男「でも まあ 思ったより 物騒な話でなくてよかったよ。 女房自慢 楽しそうじゃないのさ。」

雪次郎「そったら のんきなものじゃありませんよ。 夕見子ちゃん 出てっちゃうかもしれないんですよ!」

剛男「あ ごめん…。」

雪次郎「あ いや いや… すいません むきになって。 自分が不安なだけで。」

剛男「不安?」

雪次郎「俺が 夕見子ちゃんに してあげられることって あったんだべかって…。 夕見子ちゃんは 俺と違って しっかりしてるし 強い人だし 俺なんかいなくても 生きていけるんでねえかって…。 何かしたいんですよ。 したけど どうしたら 夕見子ちゃんに ふさわしくなれるのか 分かんなくて…。」

剛男「雪次郎君が 夕見子と会ったのは 小学校に入ってからだもね。」

雪次郎「はい。 あのころから よく どなられてました。 雪次郎は男らしくねえっつって。」

剛男「ハハハ… そうかい。 したけど もともと夕見子は あんなふうに はっきり 物を言う子でなかったんだわ。」

雪次郎「えっ?」

剛男「部屋で本ばかり読んで あまり 人と話したがらない子だった。」

雪次郎「夕見子ちゃんが…?」

剛男「うん。 いや したけどね 僕が戦争に行くってなって もしかしたら もう戻れないかもしれない ってことを伝えた時 あの子は 泣くのを我慢して こう言ったんだわ。」

回想

夕見子「お父さんが帰ってくるまで 私が うちを守るから! したから 絶対に帰ってきて!」

回想終了

剛男「もしかしたら あれから ずっと 夕見子は みんなを守らなくちゃって 思ってるのかもしれない。」

回想

雪次郎「雪見は 夕見子ちゃんみてえに 強くねえんだわ。」

夕見子「あんたに… あんたに何が分かんのさ。」

回想終了

雪次郎「俺… もう少し考えてみます。」

剛男「うん。」

雪次郎「はい。」

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