あらすじ
はな(山田望叶)は、夜中に忍び込んだ教会から逃げる途中で、朝市(里村洋)を置き去りにしてしまう。朝市のことを気にかけつつ、奉公へ出発する朝を迎える。はなとの別れを惜しむふじ(室井滋)や周造(石橋蓮司)ら家族たち。ところが、迎えに来た奉公の仲介人は、話が違うと言いだす。欲しいのは力仕事のできる男で、女の子はいらないと言うのだ。はなは落ち込むが、そのとき兄・吉太郎(山崎竜太郎)が意外なことを言いだす。
4回ネタバレ
道中
朝市「つかまれし!」
はな「朝市 大丈夫け?」
寅次「こら~!」
はな「朝市。」
森「待ちなさい!」
はな「朝市 つかまれし。」
朝市「おらは いいから 早く行け!」
寅次「牧師様 あっちでごいす! こら~! こら~!」
朝市「早く。 早く!」
寅次「待て~! 待てし! いたです!」
森「何だ 子どもじゃないか。 大丈夫か?」
安東家
玄関
ふじ「はな! どけえ行ってたでえ!」
翌朝
<朝市の事が気になりつつも はなは いよいよ 奉公先へと旅立つ時を迎えました。>
はな「おじぃやん おかあ 兄やん かよ もも。 しばしの別れずら。」
かよ「お姉やん。」
はな「かよ。 ももの子守り 頼むだよ。」
吉太郎「はな。 逃げて帰ってくんじゃねえぞ。」
ふじ「いや はなは 辛抱強えボコだ。 ふんだけんど 辛抱できんくれえ つれえこん あったら いつでも帰ってこい。」
はな「おかあ…。 大丈夫さ。 奉公は 3年の約束だ。 3年なんて すぐだ。 おじぃやん。 体に気ぃ付けてくれろし。」
周造「はなも 元気でいろし。」
リン「朝市 見送りに来てねえけ? どけえ行っちまっただか 姿が見えんだよ。」
はな「おばさん。 朝市 まだ帰ってこんだけ…。」
リン「うん…。」
吉太郎「あっ 迎えが。」
三郎「ちょっくら ごめんなって。」
はな「花子でごいす。 よろしゅうお頼み申します。」
三郎「ほれが まずいこんになっただ。 話が違って 女のボコじゃ いらんだと。」
はな「え…。」
三郎「先方は 力仕事ができる 男のボコを お望みで。」
はな「ほんな…。」
ふじ「ほんじゃあ はなは お役に立たんですね。」
「ほうじゃ。 男のボコしか いらん。」
周造「そうさな… はなは どこにも行かんで ずっと ここにいろし!」
はな「ふんだけんど…。」
リン「何ずら 人騒がせな話じゃんけ! 餞別の腹巻きまでやったに!」
(笑い声)
三郎「ふんじゃあ 前に置いてった この俵 持ってくわ。」
吉太郎「待ってくりょう! 男なら ここにおる! おらが 奉公に行くずら。」
ふじ「吉太郎!」
はな「兄やん!」
吉太郎「おらを連れてってくりょう。」
はな「ほりゃあ 駄目だ! 兄やんが いんようになったら おじぃやんも おかあも 困るじゃんけ! おら 力仕事でも 何でもしますから おらを連れてってくれちゃあ。」
吉太郎「はな! 女は いらんちゅうとるじゃんけ。 おらが行く。」
居間
ふじ「吉太郎! 考え直してくれちゃあ!」
吉太郎「おかあが止めても おらは 行く。」
ふじ「どういで?」
吉太郎「おらは おとうに好かれちゃいん。 いつか このうち 出てこうと思ってただよ。」
周造「キチ…。 ちょうどいい折じゃんけ。 おらが行けば 米が残る。 冬が越せるじゃんけ。 おかあ… ふんじゃあな。」
玄関
はな「あっ 兄やん! 兄やん!」
ふじ「吉太郎! 気ぃ付けて…。」
はな「兄やん…。 兄やん… 兄やん! 兄やん! 兄やん! (泣き声) 兄やん!」
作業場
はな「おらが 奉公先なんか 頼まんかったら 兄やんが行くこたぁ なかったさ。 おらのせいだ。」
周造「ほうじゃねえ。 そうさな… 貧乏神のせいずら。 汗水たらして働いて 寝る間も惜しんで こうして内職して ふんでも貧乏なんだから 誰も悪くねえ。 悪いのは 貧乏神ずら。 元気出せ。 ん…。 熱いぞ。 はな 熱があるじゃんけ!」
居間
周造「大変だ! はな 熱出しただ!」
ふじ「えっ! 朝 ぬれて帰ってきたから 風邪ひいたずらか! はな 大丈夫け。 ああ 水 水。」
はな「(荒い息遣い)」
ふじ「ああ… また 熱が上がったみてえじゃん。 困ったよ…。」
<はなは 罰が当たったと思いました。 朝市を置き去りにして 自分だけ逃げて帰ってきた罰です。>
寅次「うう~! う~ん! 牧師様! 教会で悪さしたボコは ここんちにいるずら。」
森「ど~れ。」
寅次「ほこのボコ 出てこう!」
森「出てこないと こうだぞ!」
はな「キャ~! やめてくりょう!」
森「お前は 友達を置いて逃げた ひきょう者だ!」
<想像の翼は いつもは はなを勇気づけてくれますが 時には こんなふうに 恐ろしい幻想の世界に 迷い込んでしまう事もあるのです。>
はな「ごめんなさい… ごめんなさい…。 ひきょうもんは おらでごいす…。 本の部屋さ行って おらだけ逃げちまって…。」
ふじ「本の部屋? 何ずら?」
はな「牧師様… 許してくれろし…。 助けて おとう…。」
周造「おとうは 帰ってこんから じぃやんで我慢しろ。」
はな「おとう… おとう…。」
労働者の集会
<その おとうは…。>
浅野中也「我々 労働者は 過酷な労働を強いられ 生活は 一向に改善しない!」
一同「そうだ!」
<労働者の集会に参加していました。>
浅野「労働者の権利を保護する法律を 作るべし!」
一同「法律を作るべし!」
浅野「労働者教育の充実を図るべし!」
一同「充実を図るべし!」
安東家
玄関
<はなの熱は 2日たっても下がりませんでした。>
吉平「よう 朝市。 何しとるんじゃ。」
朝市「あっ おじさん 大変じゃん! はなが…。」
居間
吉平「はな! はな! 大丈夫け!?」
ふじ「あんた やっと帰ってきただけ。 はな ずっと うわごとで 『おとう おとう』って 言ってるだよ!」
吉平「はな! しっかりしろし!」
はな「あ… おとう…。」
吉平「はな… おとうが悪かっただ。 はなが 死ぬほど つれえ思いしてる時に そばにいてやらんで…。 心細かったら…。 すまんなあ。 こんな おとうを許してくれちゃ!」
かよ「お姉やん!」
はな「おら… やっぱし死ぬだな…。」
周造「バカこくでねえ! 死んじゃ駄目じゃん。 はなは まだまだ 生きんきゃ駄目ずら!」
はな「まだまだ…?」
周造「ああ! 何十年も まだまだ これからだ!」
はな「おとう 書くもん あるけ?」
吉平「あ?」
はな「筆と紙をくりょうし。」
ふじ「どうしただ。 無理するじゃねえ。」
はな「おとう 早く。 筆と紙…。」
吉平「これかい? これかい?」
吉平「こりゃあ…。」
ふじ「何ずら?」
吉平「こりゃ はなの辞世じゃ。」
周造「え…?」
吉平「辞世の歌じゃ…。」
はな「『まだまだと おもひすごしおるうちに はや しのみちへ むかふものなり はなこ』。」
ふじ「あっ!」
吉平「はな~!」
ふじ「はな! はな!」
吉平「はな!」
はな「今まで お世話になりゃんした。 ありがとうごいす。」
吉平「ああ~! (泣き声) …医者には 診しただけ?」
ふじ「医者?」
吉平「何で 医者に診せんだ!? はな! まだ 辞世の歌は早え!」
<この辞世の歌が はなの運命を 大きく変える事になるのでした。 では ごきげんよう。 さようなら。>