小島病院
茂兵衛「もう10年になる。 何度か危ない時があったが持ちこたえた。」
裕一「どうして 僕をここに?」
茂兵衛「お母さんになる人だろう。」
裕一「そ… そうですね。」
茂兵衛「今 目 動いたか?」
裕一「嫌… 気付きませんでした。」
茂兵衛「いや 動いた! 裕一 手 握ってやってくれ。」
裕一「あっ… ゆ… 裕一です。」
病院の外
茂兵衛「ほら。」
裕一「ああ… ありがとうございます。」
茂兵衛「舶来品だ! 返せよ。」
裕一「伯父さんは?」
茂兵衛「先生に 話 聞いてくる。 帰りは 車 呼ぶから 心配ねえ。」
裕一「それじゃあ。」
裕一の部屋の前
三郎「おっ!」
裕一「何?」
三郎「音さんが来た。 母さんと話してる。」
裕一「そう。 僕には関係ない。」
三郎「そんなわけねえだろ! 音さん おめえのために来たんだ。 すぐ帰るぞ。」
裕一「父さん… もう お願いだから来ないでほしい。 もう… ほっといて。 僕は権藤裕一になる。」
裕一は 淡々と 銀行の仕事を こなすようになっていました。
福島日民新聞社
編集長「おい テツ。 あの天才の留学 世界恐慌の影響で 取り消しになったらしいぞ。」
鉄男「えっ?」
裕一の部屋を見に行く鉄男
落合「村野さん。」
鉄男「あいつは?」
落合「恐らく 教会でしょう。」
鉄男「あいつは大丈夫ですか?」
教会
司祭「今日は弾かないんですか?」
裕一「もう やめようと思ってて。」
司祭「お客様が来てます。 許可をもらってから会いたいと。」
裕一「誰ですか?」
司祭「関内 音さんと申されてました。」
音「ごめん また来て。」
裕一「ううん… どうしたの?」
音「怒っとる?」
裕一「ううん … 何も。 何?」
音「私 レコード会社を回ったの。 裕一さんを作曲家として 雇ってもらえないかって。」
裕一「いや… こんな田舎の 音楽学校も出てないやつ 誰も相手にしないよ。」
音「コロンブスレコードが 契約してくれるって。 裕一さん 認められたんだよ! 音楽 作れるんだよ! もう1回 挑戦しよう! 裕一さんなら やれる… きっと やれる!」
裕一「ありがとう。」
音「じゃあ。」
裕一「それだけで…。」
音「これ 断ったら 終わっちゃうよ。 本当に終わっちゃうんだよ。 いいの? 裕一さん!」
裕一「音さんは… 音さんの人生 歩んで下さい。」
鉄男「おめえ 何言ってんだ!?」
音「誰?」
裕一「小学校からの知り合い。 昔 よく いじめられてた。」
おい! おめえ どうした? 何で そんなに ひねくれてんだ!」
鉄男「せっかく この人が見つけてくれた契約 何で断んだ? 東京に行け… なっ? 俺も行く! 作詞する! お前は曲作る! なっ?」
裕一「何で…? 何で? 何でみんな… みんな 僕のこと ほっといてくれないんだ。」
音「救われたからよ! 励まされたからよ! 元気をくれたからよ! みんな あなたに幸せになってもらいたいの。 自分の人生を歩んでほしいの!」
教会を出ていく裕一
裕一「自分の人生…。自分の人生…。 家族の幸せ… 家族の幸せ 家族の幸せ…。