あらすじ
昭和32年。聡子(村崎真彩)がテニスの部活から戻ると優子(新山千春)が帰って来ていた。原口(塚本晋也)という教師の話ばかりする優子に糸子(尾野真千子)はうるさがるが、千代(麻生祐未)は気を回して心配する。優子は直子(川崎亜沙美)に、店は自分が継ぐから画家を目指せと言う。いらつく直子。糸子は三浦(近藤正臣)から周防(綾野剛)の近況を聞き、思いをはせる。一方で組合には同業の女性が増え、心強く感じる。
102回ネタバレ
小原家
玄関前
聡子「あ おばちゃん!」
美代「ああ 聡ちゃん お帰り!」
聡子「帰って来た? 優子姉ちゃん!」
美代「帰って来てんで~!」
居間
聡子「ただいま! 優子姉ちゃん!」
「お帰り!」
優子「お帰り!」
(談笑)
優子「随分 焼けちゃったわね。 真っ黒じゃないの!」
糸子「そら 毎日遅うまで テニスばっかし してんやさかい。 そら日焼けもすんで。」
優子「へえ~ テニス続いてんだ 強いの?」
聡子「まあまあや。」
直子「強いらしいで。 こないだかて 大会1位や。」
美代「ほんまかいな?」
優子「すごいじゃない!」
聡子「ヘヘヘ!」
優子「直子は どうなのよ?」
直子「その前に 何なん? そのしゃべり方。」
優子「何が?」
直子「気色悪いんやけど。 普通にしゃべりいや。」
優子「ちょっと! 普通って何よ? あのね 世間じゃ 岸和田弁の方が 普通じゃないのよ。」
直子「あ?」
優子「あ? って何よ?」
直子「格好つけなよ。」
優子「格好なんかつけてないわよ だから これが普通なの。」
直子「何その ボツボツ ボツボツ?」
優子「これ?」
糸子「こら けんかしな!」
優子「水玉も知らないの?」
千代「直子もなあ 相変わらず 絵が すごいんやで。 こないだかて 何やら賞 取ったしなあ。」
玉枝「何やら賞って 何や?」
直子「毎朝新聞賞の大賞や。」
八重子「そら また! へえ~!」
直子「姉ちゃんが佳作やったやつ。」
美代「あ そうか 糸ちゃん そやけど あんた ええなあ。 娘が そろいもそろって 出来 ようて。」
糸子「おばちゃん! この子らの通知簿 見せちゃろか?」
美代「ええがな まあ勉強の事は なあ!」
「うん。」
<優子が東京へ行って2年。 最初の頃こそ 何やかんやと 弱音を吐いてたもんの このごろは いっぱしの東京娘 みたいな顔で 帰って来るようになりました>
オハラ洋装店
「このごろは ほったらかしやで!」
糸子「なあ! ハハハ! 若かったら ええけどな!」
「誰も見てへん!」
玄関前
糸子「おおきに! また よろしゅう。 あ…。」
優子「お母さん。」
糸子「あ?」
優子「そんなに いちいち お客に 頭下げる事なんかないわよ。」
糸子「あ?」
優子「洋裁師って仕事に もっと 誇りを持った方がいいと思うわ。 原口先生も そう おっしゃってた。」
糸子「また 原口先生かいな?」
優子「だって 本当よ。 原口先生が『これからは 洋裁師の社会的地位が どんどん上がって 芸術家の 仲間入りする事になる』って。」
<原口先生っちゅうのは 東京に 優子を呼んでくれた先生で>
優子「ねえ お母さん ここはね もっと大胆に ダーツを取った方がいいって 原口先生おっしゃったんだけど。」
<すっかりかぶれてしもてるらしい 優子は まあ 二言目には 原口先生 原口先生>
優子「ねえ お母さん 見てよ! 原口先生が…。」
糸子「うる~さい! 仕事中じゃ!」
居間
糸子「はあ?」
千代「そういう事ちゃうやろか。」
糸子「あっほらし。 ほんな訳あるかいな。 そもそも ええ年やろ? 原口先生て。」
千代「せやから 余計 心配なんや。 あんな若い娘が あない 原口先生 原口先生て。 ちょっと おかしい。」
糸子「あの子は 昔から そうやんか。 小学校で 軍事教育 受けて 竹やり持って やあ~ やあ~て 練習してたがな。 先生に言われたら 何でもかんでも ごっつい ありがたがる タチなんや。」
千代「その… 何や おかしな事 なってんとちゃうやろか。」
糸子「ないて! あんなあ お母ちゃん。 そもそも お母ちゃんはな 若い頃 別嬪やったよって 男ちゅうたら 寄って来るもんや思てるやろ。 ほんな事ないんや。」
千代「ええ?」
糸子「うちかて お母ちゃんが いちいち うれしがるほど 何も モテへんかったしな。 優子かて 見てみ? そら ちょっとは 東京行って あか抜けたかもしれへんけど。 まだまだ じゃがいもみたいなもんや。 そんな 東京の男の先生 かもってくれるかいな。」
千代「いや ほんな事ないで。 優子は 今日 帰って来やった時かて はれ どこの女優さんや? ちゅうくらい きれなってたしな。」
糸子「身内の欲目や。」
千代「はあ~。」
優子「ふ~ん。 これ? 大賞 取ったってやつ。」
直子「そうや。」
聡子「優子姉ちゃん その寝巻き かいらしいなあ。」
優子「これ?」
聡子「うん。」
優子「これ 私が縫ったのよ。」
聡子「へえ~!」
優子「あんたにも縫ったげようか?」
聡子「え? うん! 縫うて。」
優子「分かった。 じゃあ 東京で縫って 送ったげる。」
聡子「わ~ ありがとう!」
優子「いいじゃない。 すごく。 やっぱり あんたは才能あるわよ。 本気で絵描き 目指すといいわ。」
直子「何や それ。」
優子「え?」
直子「自分は 途中で投げたくせに。」
優子「そうよ。 だって 長女だもの。 姉妹の誰かが 背負わなきゃいけないものを 私が背負ってあげたの。 だから あんた達は 私の分も 本気で 自分の道 進まなきゃ駄目よ。」
玄関前
昌子「は~ 間に合うた!」
オハラ洋装店
優子「うわ~! 忠岡堂のおまんじゅう!」
糸子「東京の人らに食べてもらい。」
優子「ありがとう! 原口先生も びっくりされていたのよ。 岸和田には こんなに おいしい おまんじゅうが あるんですかって。」
松田「どないしましたか?」
千代「いや ちょっとな。」
優子「はは…。」
<優子は 最後の最後まで 原口先生を連発しながら 東京へ戻って行きました>
糸子「気ぃ付けてな!」
優子「行ってきま~す!」
一同「行っちょいで!」
糸子「行っちょいで~!」
泉州繊維商業組合
糸子「こんばんは!」
三浦「お~う! どうや 元気やったけ?」
糸子「おかげさんで!」
三浦「う~ん。」
三浦「元気やったで 周防も。」
糸子「はあ ほうですか。」
三浦「こないだな 紳士服の経営者の 会合があってな。 そこに 顔だしよった。」
糸子「はあ。 うちも 恵さんが月に一回 集金に行ってるんですけど しっかりした ええ店になってるて 言うてました。」
三浦「うん。」
斉藤「お邪魔します~!」
糸子「あ 斎藤さん。 こんばんは!」
<このごろは 繊維業も ごっつい栄えてきています。 女の経営者も 今はもう うち1人やありません>
「死にはったな ディオール。」
糸子「せや もう びっくりしたで!」
「うちも あの日は 泣いて 仏壇 拝んだわ。」
「会社は やっぱし サンローランが継ぐんやてな。」
「サンローランて?」
「ディオールが育てた 若いデザイナーや。 まだ21歳。」
「21?」
糸子「むちゃやで! ほんな若い子に あのディオールの 後釜なんか 務まるか?」
「なあ!」
「いや せやけどな 年なんか 関係ないんやて。」
「ほんま?」
「ふん やっぱし とにかく デザイナーちゅうんは 才能が大事なんやて。 せやから それさえあったら…。」
糸子「これ どこのん?」
「これ?」
糸子「フランスやて!」
<いずれも 女手一つで 店やったろちゅう経営者 みんな そら 研究熱心で>
糸子「イタリア? はあ いい色やわ。」
「へえ~!」
糸子「何や?」
北村「どんな生地かな思て 見に来ただけやないか。」
糸子「あんたには関係ない。 レディーメードで扱える生地ちゃう。」
北村「何や お前 こら~!」
「そんな いけず言わんと どうぞ 見て下さい 北村さん。」
北村「なあ!」
「これ フランスの…。」
北村「のいて ちょっと! あ~ やっぱり上等やの これ。」
「北村さん 北村さん! これこれこれ!」
北村「のいて!」
「イギリスですて これ。」
北村「イギリスけ? これ。 はるばる来たて。 これ全然ちゃうな これ!」
糸子「ほんまに 分かってんけ?」
北村「ようこそやの やっぱり これ! ようこそ いらっしゃったわ。」
糸子「いや これ! ええわ これ!」
北村「ええのう これやっぱり! これ きれえや!」
糸子「これが やっぱりええと思うわ。」
珈琲店・太鼓
(テレビ)
「まだまだ 男やわ。 男が強い。」
「そら やっぱりな そんな簡単に 世の中 変わらへんわ。」
糸子「いや せやけど だいぶ変わってきたて。 子供の頃に 女の自分が 店 持てるやて 夢にも思われへんかった。」
「確かに。 うちも 女は男に仕えてなんぼじゃ 言われて育ったわ。」
糸子「それが こないして 幸か不幸か女手一つで 店やらしてもらえてんや。 とこどん好きなだけやったらんと 損やで。」
「まあな。 フフフ!」
糸子「うちのおばあちゃんがな よう言うてたわ。 女には女のやる事があらしな ちゅうて。 このごろ ほんま そう思うわ。 女にしか でけへん商売ちゅんが ある気ぃすんや。」
「分かるわ。 確かに 男の人の商売 見とったら 何で こんなとこに 意地張らんならんの? チャラっと頭下げとったらええやんて 思う。」
糸子「そう。 女は そこを チャラっと下げられるんや。 張らんならん意地なんか ないさかいな。 これは 強みやで。」
「ほんまやな。」
<同じ志の女の人らがおる ちゅうんは お互い ほんまに うれしい頼もしい事で うちらは それからも度々 寄り合っては いろいろな意見や情報の 交換をするようになりました>
アメリカ商会
(鼻歌)
木之元「あ いらっしゃ!」
「あ~ どうも。 ご主人ですか?」
木之元「はあ そうです!」
「あ~ いや~ なかなか すばらしい店ですね!」
木之元「ああ おおきに!」
「非常に 何ていうか 情熱を感じますよ。 自分は これが好きなんだ! 好きで好きで たまらないんだ! というね!」
木之元「ひや ほうでっか? そら そない言うてもろたら うれしいなあ! いや ちょっとまあ 立ち話も なんやさかい 座って下さいな!」
「ほら これがまた これ いいじゃない これ! ね!」
木之元「そうですやろ? ここが難しかったんですわ。」
聡子「ただいま~!」
木之元「お お 聡ちゃん! これ 小原三姉妹の末っ子ですわ。 聡子いいます。 な!」
「おう そうでうか!」
聡子「はあ 聡子です。」
木之元「お客さん!」
聡子「え?」
木之元「東京からの。 お客さんやで。」
聡子「東京?」
木之元「うん。」
原口「どうも。 初めまして。 東京で 優子さんの指導をしております 原口です。」