あらすじ
上京した直子(川崎亜沙美)はセーラー服のまま口をきかず、優子(新山千春)をいらだたせる。糸子(尾野真千子)は三浦(近藤正臣)に安くて上等の生地を扱う問屋を紹介されるが、大量仕入れが条件のため悩むことに。高校生の聡子(安田美沙子)は有望なテニス選手として新聞に載るが、生地に夢中な糸子は気にとめない。一方優子は、憂うつそうに入学式に向かった直子が、源太(郭智博)という青年を連れて帰ってきたことに驚く。
105回ネタバレ
小原家
2階 座敷
(小鳥の鳴き声)
優子『お母ちゃん 元気ですか? 直子とは無事に 東京駅で会えました』。
東京・小原宅
優子「あんたの荷物 そこに積んどいたから。」
直子「布団は?」
優子「ん? 押し入れだけど。 は? もう寝るの?」
直子「疲れた。」
優子「ねえ ところで 何で あんた セーラー服なの?」
優子『直子は とにかく東京で 自分が ばかにされやしないかって すっごく気にしてるみたい』。
優子「せっかくなんだからさ あんたも 来りゃいいじゃないの。 何着ていいのか 分かんないだったら 私の 貸したべるわよ。」
直子「いらん。」
優子「誰も あんたの格好なんか 気にしてないわよ。」
直子「姉ちゃんの服なんか 格好悪て 着られへんわ。」
優子「はあ? もう知らない! 勝手にしなさい!」
(ドアの閉まる音)
優子『外に出ないなら うちに 友達を連れてきてやれば いいんじゃないかと思ったら また セーラー服 着て』。
「直ちゃんは うちの学校の 9期生になるのよね?」
「そういえば 原口先生が おうちに行かれたって 本当?」
「じゃあ 直ちゃんも お話した?」
「そう お話すればよかったのに。 とってもユニークな先生なのよ。」
「そういや いつだったかの授業 あれ 傑作だったよね!」
「いつ?」
「ほら 夏 夏 夏。」
優子「何で しゃべんないのよ? ほんと感じ悪いったら。 岸和田弁が 恥ずかしいんでしょ? 分かるわよ。 私にも経験あるから。 ま 慣れるしかないわね。」
優子『本当 変な子です』。
泉州繊維商業組合
(談笑)
「そうゆうたら見た? 例のサンローランの。」
糸子「見た!」
「トラペーズライン!」
糸子「ひどいでなあ あれ!」
「奇抜なだけやんな! けったいな事して 目ぇさえ引いたらええと 思てんやで。」
「21の若造が 考えそうなこっちゃ。」
「せやから あんな若い子に任せた あかんかったんや。」
糸子「21て うちの娘と 1つしか違わへん。」
「そや!」
糸子「は せやけど うちが看板あげたんも 21や。」
「いや ほんま? 21?」
糸子「うん。」
「そやかて うちらの頃の21と 今のとは ちゃうで!」
「まあな~!」
一同「う~ん。」
「何や頼んないわ~! このごろの子ぉは。」
糸子「せやなあ!」
3人「う~ん。」
(ドアの開く音)
糸子「あ お帰んなさい!」
「お帰んなさい!」
三浦「あんたら 相変わらず かしましいなあ! 表まで 声 筒抜けや!」
(笑い声)
「せや! うち こんな しゃべってる場合ちゃうかった。 はよ 帰らんと お客さん 来んじょ。」
「うちも 工場行かな あかんかった!」
糸子「うちも帰ろ!」
「ほな うちも帰るわ!」
「ほな お先に!」
「どうも お邪魔しました!」
「お先です!」
三浦「小原さん あんたも 急いてるか?」
糸子「いや うちは 今日は別に。」
三浦「あ そうか。 ちょっと残って。」
糸子「はあ。」
糸子「はあ~。 ああ 上物ですわ。」
三浦「ほうけ。」
糸子「うん。 これ 舶来物でしょ?」
「はい フランスです。」
糸子「はあ~ 高そやなあ。」
三浦「いや せやから そこはな。」
糸子「うん。」
三浦「これ 何ぼや?」
「ダブル幅の50メートル巻き 一反 1万2,000円で。」
糸子「1万2,000円! そない安いんですか?」
「いや ただし 条件があるんですわ。 10反を一括 即金で 買い取ってもらえたらというのが。」
糸子「10反? 即金? はあ~!」
三浦「無理け?」
糸子「いや~ 買えん事は ないですけど 50メートル巻き 10反。 さすがに うちは よう さばかん。 いや… どうやろな?」
三浦「いやいや。 それな 無理にという話ではないんや。 あんたとこ 1軒で さばけへん ちゅうんやったらば あれやで よその店と分けて さばいても かめへん。」
糸子「はあ。」
三浦「ただ わしとしてはや こんな上物 この値段や。 これ ごっつい目玉になると 思うんや。 うん! とりあえずな あんたに 一番に知らせちゃろ思てな。 それだけや。」
糸子「はあ。 そら おおきに。」
三浦「いやいや。」
小原家
玄関前
聡子「おっちゃん ただいま!」
木之元「聡ちゃん! 新聞 見たで! すごいやんか。」
聡子「見た?」
木之元「おう おう おう!『テニスの強豪 和泉女子高に 大型新人が入部』ちゅうて。 聡ちゃん 中学の大会で 何べんも優勝してんやて? 糸ちゃんも 何も言えへんし。」
聡子「お母ちゃんは うちのテニスなんか 全然 興味ないさかい。」
木之元「次あったら 絶対 言うてや。 応援しに行くよってな!」
聡子「分かった!」
木之元「おう サーブや!」
聡子「スマッシュや!」
木之元「おう わあ~!」
台所
聡子「ただいま~!」
千代「お帰り! 載ってたで 今日の新聞!」
聡子「ふん。」
千代「ええ事 書いてもうてた! おばあちゃん 鼻が高いわ! フフフ!」
聡子「いちごや!」
千代「ああ これな。 北村さんが また送ってきてくれてん。」
居間
聡子「ただいま!」
糸子「お帰り!」
聡子「お母ちゃん!」
糸子「うん?」
聡子「今日の新聞 見た?」
糸子「うん。」
聡子「うち 載っててんで。」
糸子「はあ 載ってたなあ。 昌ちゃんらが えらい騒いじゃったわ。 ああ… 何か方法ないか? あれ? いちごなんかあんの?」
聡子「ふん。 また 北村のおっちゃんが 送ってくれてんて。」
糸子「北村か。」
聡子「ふん。」
糸子「北村なあ。 あ~ 北村… 北村 北村。 北村…。 よっしゃ! それや!」
松田「はれ! 聡ちゃん!」
聡子「ただいま!」
松田「昌ちゃん! 聡ちゃんやで! ちょっと すごいなあ! 新聞 載ちゃったやんか!」
聡子「ああ!」
昌子「聡ちゃん! 見たで! すごかったなあ!」
聡子「ありがとう!」
珈琲店・太鼓
テレビのアナウンサー『満員の後楽園球場…』。
北村「毎度!」
店主達「いらっしゃい! 毎度!」
北村「おう 長嶋け?」
「わあ ええわこれ。」
糸子「こら! はよ座って! うち 忙しいんや。」
北村「自分から呼び出しといて 偉そうやのう。」
北村「おっちゃん!」
糸子「座ちゃあたら…。」
北村「うるさい!」
糸子「あんな…。 こないだ あんたが言うてた話。」
北村「あ?」
糸子「『既製品で大きい商売 仕掛ける』ちゅうてたやろ。」
北村「お前 その気になったんけ?」
糸子「まあ 聞かせてみ。」
北村「その気になったちゅう事やの!」
糸子「いや まだ分かれへんけどな。 とにかく聞かせてみ ちゅうてんや。」
北村「ああ~ まあ あの 既製品商売ちゅうのはな 今 全国で ごっつい伸びてんねや。 ま わいんとこも 工場 2回 増築したし ミシンが10台 縫い子が26人。 店も3つにしたやろ。」
北村「そこの売り上げが もう ごめんやけど 天井知らずや。 天井ぐらい知っといた方が ええんちゃうか思うねんけどな。 もう知るか言うて ぐわ~ 伸びてっちゃあねん これ。 いてっ!」
糸子「自慢は ええんじゃ! 続き。」
北村「工場 大きなったやろ。 んで 百貨店 大口の問屋とも 顔は つながった。 作れるし 売れるんや。 あとは 何を作るかっちゅう事だけや。 要は 確実に あばける型。 これさえあったら ボロいねん。 ごっつい事になるど! そこで そこで お宅。 小原先生の ご教授を願いたいな 思ちゃあんねや。」
店主「どうぞ!」
北村「ああ おおきに!」
糸子「ふん…。」
北村「あれよ ほんまに あかんのけ?」
糸子「あれ?」
北村「前 言うちゃったやつよ! ほら あの… あれや。 サンレーランの。」
糸子「サンローランや。」
北村「ああ サンローラン。 これ これこれ これ。」
糸子「トラペーズラインけ?」
北村「いやな。 今 こっち見てみい ほれ。 サックドレスちゅうて 東京では もうごっつ 売りに出されてるらしいど。」
糸子「あかんて! こんなもん。 あんな。 何でも 東京の まねしちゃったらええ ちゅうもんちゃうで! そもそも 東京の流行は 大体 半年遅れて大阪に来るんや。」
北村「ふ~ん。」
糸子「ほんで 東京で売れたからて 大阪でも売れるとは 限れへん。 大阪には大阪の人間の 気質ちゅうもんがあってやな ほんまにええかどうか ちゃんと 見極めてからやないと 買えへん。」
北村「ほんなもんけ?」
糸子「トラペーズラインは 大阪では 絶対 流行れへん。 せやから やるんやったら これまでどおりの ディオールらしいもんを こさえた方がええ。」
北村「要するによ…。 この話 乗るっちゅう事け?」
糸子「まあな…。」
北村「よっしゃ~!」
木之元「静かにやれよ! お前!」
北村「悪い悪い悪い!」
糸子「こないだな。」
北村「ああ。」
糸子「組合長から ごっつい上物の生地 買えへんか ちゅうて 相談されたんや。」
北村「おう。」
糸子「それが 10反あってやな。」
北村「ああ。」
糸子「さすがに うちだけでは よう さばかん思てたけど その話やったら さばけるやろ。」
北村「いけるで!」
糸子「『一石二鳥』や。」
北村「おう!」