あらすじ
奈津(江波杏子)と久しぶりに再会した糸子(夏木マリ)。夫の死後、岸和田に戻ったという奈津は、相変わらずの気位の高さだった。店で取材を受けながら、かつての奈津とのやり取りに思いをはせる糸子。病院では総婦長・相川(山田スミ子)を紹介される。糸子はファッションショーのモデルの半分を職員ではなく患者にしてほしいと頼むが、責任感の強い相川は難色を示す。糸子は洋服には人を元気づける力があるのだと頭を下げる。
141回ネタバレ
病院
病室
奈津「何や? 何か用け?」
待合所
糸子「四国に引っ越したちゅうて 八重子さんから 聞いてたけど。」
奈津「そうや 主人の田舎にな。 けど 主人も とうに亡うなって 広い家の掃除ばっかししてんの しんどなったさかい こっち 帰って来たんや。」
糸子「いつ?」
奈津「10… 11年前か。」
糸子「ほんな前から いてたんけ?」
奈津「ほうや。」
糸子「何で 連絡せえへんねん?」
奈津「ヘッ 何で せなあかんねん。」
糸子「ほな 今 1人で暮らしてんけ?」
奈津「まあな。」
糸子「どこが悪いんよ? なあ! 何で入院してんよ?」
奈津「関係ないやろ? あんた 変わらんなあ。」
糸子「こっちのセリフや! ふん!」
<10年前 バブルが あっけのう はじけてしもたんと 岸和田にも でかいショッピングセンターが 何個かでけて。 商店街も すっかり 寂しなってまいました。 金券屋は とっくに閉まって 不動産屋には 金ピカの にいちゃんらが おらんようなりました。 ところで 金券屋で働いてた にいちゃんは ちゅうと。 おっさんになって 今 うちで働いてます>
小原家
オハラ洋装店
篠山「遅いやないですか! なみはや商事の原田さん 今の今まで 待ってくれてたのに。」
糸子「はあ せやった。」
リビング
篠山「今日 原田さんが来はったんは いつもの月間報告と それから また1社 今度は え~と
丸山通商さんから ライセンス契約を 売り切りたいちゅう 申し出があったそうです。」
糸子「ほうけ。 は~ 厳しなあ。」
篠山「まあ そら この不況ですしね。」
<それだけやない。 シルバー市場にも このごろ ええ商品が ようさん出てきてる。 いつまでたっても いくつんなっても商売ちゅうんは>
オハラ洋装店
(ため息)
<甘ないもんです>
孝枝「あ 先生 帰ってる。」
糸子「あ?」
孝枝「準備でけてますか?」
糸子「何やった?」
孝枝「はあ! 今日3時から 毎朝新聞さんの 取材やちゅうたやないですか!」
糸子「あ~ せやったな。」
孝枝「せやったなちゃいますわ もう! はよ 着替えて下さい! もう。」
記者「すてきな企画ですねえ!『オハライトコと88人のボーイフレンド』。」
糸子「こら もとはちゅうたら ちっちゃい集まりやったんですわ。 奥さんに先立たれた 男の人ら集めて うちで 御飯 食べましょうちゅう。」
記者「はあ!」
糸子「男の人ら同士は 知り合いでも 何でもなかったんやけど それが かえって 気楽で よかったらして ごっつい仲良うなって。」
記者「はあ~!」
糸子「その人らが あんまり いそいそ 集まるもんやさかい よっぽど そのオハラが別嬪なんか 飯がうまいんか ちゅうて 他の人らも のぞきに来るようなって どんどん メンバーが増えていって。 ほんで 気ぃ付いたら。」
記者「88人になったんですか?」
糸子「いや 88人かどうか 知らんで。 うちの米寿の祝いと かけてくれたんやろと思うけどな。」
記者「うらやましい。 あやかりたいですわ。」
糸子「お宅 年なんぼ?」
記者「49です。」
糸子「これからや! うちかて こんなん 若い頃は 思てもみんかった。」
記者「先生 若い頃は どんなやったんですか?」
糸子「うちか? うちは サルやら ブタやら 不細工やら。」
記者「そんなん 言われてたんですか?」
糸子「言われちゃったなあ。 もう! くっそ! あいつに この写真 見せたれんもんかいなあ。」
回想
奈津「何にも。」
奈津「アホ! アホ アホ! 不細工!」
奈津「この ブタ!」
奈津「二度と来るな! あんたなんか あんたなんか 何も関係ないんや!」
奈津「ほんまに おおきに!」
回想終了
<ほんでも 生きてるうちに お互い まだ ボケもせんと 会えたんやさかい。 奇跡やでなあ>
病院
病室
糸子「あ~ 忙し 忙し!」
院長室
龍村「総婦長の相川です。」
相川「初めまして。」
糸子「小原です。」
相川「有名な先生に こんな病院のイベントなんて お引き受け頂いて ありがたい事です。 ま ほんでも 仕事の合間の事ですから あくまでも無理せず 楽しく やらせてもらお 思てます。」
糸子「はあ…。 いや けど 引き受けたからには うちも キッチリしたもん やらせてもらいますよって。」
相川「はあ。」
糸子「片手間に やったらええとは 思わんといて下さい。」
龍村「あ ちょっと 僕 次 あったんやった。」
香川「いやいや 院長! どこ 行くんですか? おって下さいよ!」
龍村「え? そう?」
糸子「まず 急いでほしいんは モデルの選出です。 人数は 15人。 何歳でも かまいません。 身長 体重 何ぼでも かまいません。」
相川「はあ。」
香川「ほんまに ええんですか?」
糸子「はい。 ただし お願いがあるんです。」
香川「はあ?」
糸子「こないだ モデルを職員さんから 選ぶちゅうて 言うてはりましたけど。」
香川「ええ。」
糸子「半分を患者さんにして もらえませんか?」
相川「はあ?」
香川「患者さんですか?」
糸子「はい。」
相川「そら 無理です。」
糸子「何でですか?」
相川「患者さんに もしもの事があったら。」
糸子「いや そら もちろん 無理にとは 言いません。 けど 患者さんの中にも 出てみたいちゅう人が 絶対いてる 思いますわ。 せっかくやったら うちも そういう人らに 出てもらいたいんです。」
香川「え? どこへ行くんですか?」
龍村「ちょっと 僕は 次あるから。」
香川「また ほんな! ちょっと 逃げんといて下さいよ!」
龍村「逃げるだなんて 人聞き悪いなあ。」
香川「院長 院長! はあ~!」
相川「せやから 言うたやないですか。 また余計な事 始めんといて下さいて。 院長は どうせ 何の責任取る つもりもないんです。 やっかにな負担は 全部 現場に 回ってくるだけなんですよ。 どないして くれるんですか!」
相川「小原さん。 そら 有名な先生やさかい メンツも おありやろし こんな 素人相手のイベントでも 中途半端な事は でけへん ちゅうのも よう分かります。 けど ここは病院です。 患者さんに 妙な事させて もしもの事があったら 困りますよって。 それは無理です。 お断りします。」
糸子「ふ~ん。 いや けど 総婦長さん。 うちかて この道70年のプロなんですわ。」
相川「せやさかい それは よう分かってます。」
糸子「お宅らは 医療の力を信じて 毎日 仕事してはるやろ? うちは 洋服の力を信じて 仕事してきましたんや。 洋服には ものすごい力が あるんですわ。 ほんまに ええ服には 人を慰める事も 勇気づける事も 元気づける事もでける。 うちは 自分の洋服で お宅らの 力になりたいだけや。」
糸子「患者さんに ええ服を着て ライト浴びて 歩いてほしい。 それを 他の患者さんらに 見てほしい。 医療とは 何の関係もないと 思うかもしれへん。 けど ほんな事が人に与える力を うちは よう知ってるんですわ。 半分 いや 1/3でも いや 1人でもええわ。 希望する患者さんを 参加させちゃあって下さい。 このとおりや。」