あらすじ
奈津(江波杏子)が退院したと聞いて生活を心配する糸子(夏木マリ)。住所を知りたいが、教えてもらうことができない。そしてだんじり祭りの季節がめぐってくる。優子(新山千春)、直子(川崎亜沙美)、聡子(安田美沙子)ら三姉妹、糸子の孫やひ孫、遠方からの客など大勢の人が小原家に集合する。祭りが終わると、ファッションショーの準備に拍車がかかり、糸子からデザイン画を見せられたモデルたちは生き生きと目を輝かせる。
144回ネタバレ
病院
デイルーム
平成13年
<ショーまで2週間を切って いよいよ ウオーキングの練習が始まりました>
定岡「しかkり 歩きなさい!」
「ちょっと はいはい! スピード上げて!」
相川「ちょっと!」
定岡「はい?」
相川「患者さんに 余計なストレス 与えんといて下さい。」
定岡「はあ?」
相川「ストレスは 万病のもとです。」
糸子「総婦長! 歩き方は ショーの基本や! 歩き方が おかしかったら 恥かくんは 本人なんや。」
「そら 無理無理! これないと 歩かれへんよって。」
糸子「まあ ほな つえついて歩くんで ええんちゃう。」
定岡「え? つえ!」
糸子「何や?」
定岡「セクシーじゃない!」
糸子「いや そら。」
定岡「男前いないの 男前!」
糸子「男前?」
定岡「男前に こう…。 こうゆうの させるのよ。」
糸子「いてる!」
香川「いてます!」
相川「やらせましょう。」
糸子「大丈夫や!」
「お疲れさまでした~!」
「お疲れさまでした!」
糸子「頑張ってや。」
相川「小原先生。」
糸子「な… 何ですか?」
相川「今更ですけど。 モデルを1人 追加してもらえませんか。 今 最後に出てった患者です。」
糸子「気になってました。」
相川「書いてあるとおり 末期のがんです。 残念ながら 今の医療技術では まあ そない先ありません。 せやけど ここだけの話…。 そない言うてる 今の医学かて なんぼのもんかは知りません。」
糸子「はあ?」
相川「いや 正直 知れてます。 ま もちろん 毎日 現場に立って その場その場で やれるだけの事を やってはいてます。 けど やればやるほど つくづく 知れてんな と思いますわ。」
相川「そもそも 人間の病気には ほんまに 医学しかないんか。 ま とりあえず ない事にして うちらは 必死で 患者を 治療に専念させてる訳ですけど ほんまのところは どうか知りません。 医学の他にかて もしかしたら あるんかもしれん。 ま ないかもしれませんけど。」
糸子「まあ…。 服かて知れてます。 力は信じたいし 信じてる。 けど おっしゃるとおり やればやるほど 知れてるちゅう事も 毎度 突きつけられます。 ほんでも…。 ご縁をもろたんや。 おおきに。」
相川「よろしくお願いします。」
談話室
加奈子「失礼します。」
糸子「吉沢加奈子さん?」
加奈子「はい。」
糸子「どうぞどうぞ 入って。」
加奈子「失礼します。」
糸子「お宅 いっつも デイルームの隅っこ 座って 見てたやろ。」
加奈子「はい。」
糸子「さすがの総婦長さんも ほだされたらしいで。 特別に1人 入れて下さい ちゅわれてな。」
加奈子「うれしい。」
糸子「ほんなに 出たかったん?」
加奈子「はい。」
糸子「何で?」
加奈子「はい あの 子供が2人 いてるんです。 その子らに 見せちゃりたいと 思たんです。 私は 病気になってしもてから 自分の哀れな姿しか あの子らに 見せちゃれてないんです。 こない痩せてしもて 髪も無くなってしもた。 もちろん 私も つらいです。」
加奈子「でも…。 母親が…。 母親が そないなっていくのを見てる あの子らの気持ちを思たら たまらへんのです。 主人に連れられて 病室に 入って来る時の いっつも おびえるような顔が かわいそうで つらあて。 幸せにしちゃりたいのに…。 悲しませる事しかでけへんで。」
(泣き声)
糸子「よしよし よう分かった。 よう分かった。 よっしゃ! ほな 今度は うちの話 しよか。 うちは 今 88や。 あんた そら 88歳も 大概なもんなんやで! フフフ! 体は あちこち弱るしなあ。」
糸子「つえないと 歩けんし。 いつ 死んだかて もう おかしない年やよって いつ会うても 娘らの顔には まず『心配。 大丈夫なんか? お母ちゃん』て 書いちゃある。 ほんでもなあ 85 越えた辺りかいな。 ごっついええ事 気付いたんや。 教えちゃろか?」
加奈子「はい。」
糸子「年取るちゅう事はな 奇跡を見せる資格が 付くちゅう事なんや。」
加奈子「奇跡?」
糸子「そうや。 例えば 若い子ぉらが 元気に走り回ってたかて 何も びっくりせえへんけど 100歳が走り回ってたら こら ほんなけで奇跡やろ? うちもな 88なって いまだに 仕事も遊びも やりたい放題や。」
糸子「好き勝手やってるだけやのに 人が えらい喜ぶんや。 老いる事が 怖ない人間なんて いてへん。 年取ったら ヨボヨボなって 病気なって 孤独になる。 けど そのうちも もう 大した事せんでも うなぎ食べたり 酒飲んだり するだけで 人の役に立てるんや。 ええ立場やろ? フフフ!」
加奈子「はい。」
糸子「ほんでな あんたかて そうなんやで。」
加奈子「え?」
糸子「笑てみ。 に~って。 ほれ! ほんでもう 奇跡や。 末期がん患者が 笑たんや。 みんな 末期がんなんかになったら もう二度と笑われへん 思てんのに。 あんたが 笑うだけで ごっつい奇跡を 人に見せられる。」
糸子「あんたが ピッカピカに おしゃれして ステージを 幸せそうに歩く。 それだけで どんなけの人を 勇気づけられるか 希望を与えられるか。 今 自分が そういう資格 いや こらもう 役目やな。 役目を持ってるちゅう事を よ~う考えとき。」
加奈子「はい。」
糸子「あんたの出番は トリや。 髪は このごろ ウイッグの ええのんが なんぼでも あるよって また相談しよう。 あんたが 奇跡になるんやで!」