あらすじ
勘助(尾上寛之)に赤紙が来て、糸子(尾野真千子)らは盛大な壮行会を開いて送り出す。しばらくして勘助から届いたハガキは、検閲の墨で塗り潰されており、嫌悪感を覚える糸子。翌年には国家総動員法が施行され、戦時色が強まっていくが、洋装店は繁盛する一方だった。昭和14年夏、2番目の子どもを妊娠中の糸子は、仕事中に立ちくらみを起こし、心配する善作(小林薫)によって強制的に神戸の松坂家へ行かされることになる。
49回ネタバレ
河原
(自転車のベル)
糸子「ああ! ん? 何や?」
勘助「赤紙 来てもうた。」
糸子「え?」
勘助「赤紙や。」
糸子「赤紙って… あの赤紙か?」
勘助「そうや。」
糸子「兵隊になんけ? あんたが?!」
勘助「うん。」
糸子「へえ~ 兵隊なって どこ行くねん?」
勘助「そら… 大陸やろ。」
糸子「あ~ ああ あの志那事変ちゅうやつけ?」
勘助「うん…。」
糸子「へ~え 大陸…。」
勘助「はあ~… 嫌やの~!」
糸子「何が嫌やねん 名誉なこっちゃんか 兵隊に選ばれるやて。」
勘助「名誉なんか いらんわ! なりたいないわ 兵隊なんか。」
糸子「何でや?」
勘助「そやかて 軍隊なんか 絶対 工場より きついんやで。 鬼みたいに怖い奴 おって そいつに 毎日 殴られんやで。 うまいもんも 食われへんしな。 弾 当たったら 死ぬしな。」
糸子「死なへんわ! うちのお父ちゃんらかて 前に戦争 行ったけど あんない 帰ってきてるやんか。」
勘助「うちのお父ちゃんは 青島で 赤痢で死んだわしよ。」
糸子「そら 運が悪かったんやな。」
勘助「俺も どうせ 赤痢で死ぬんじょ。」
糸子「赤痢になる前に 勝って 帰ってきたら ええんやろ。 しゃきっとせえ ほれ!」
<勘助が そんな しみったれた事 ばっかし 言うさかい 出征は 名誉なこっちゃのに 何や かわいそうに思えてきて 心の底から 祝うちゃる気ぃには なれませんでした>
小原家
居間
善作「まあ そんなもん 当たらん 当たらん 弾やら!」
勘助「ほやろか…。」
善作「当たらへんて。 あのなあ 兵隊ちゅうんは 皆が皆 ドンパチしてる訳やないんやど。」
木岡「ほうよ。 そんな派手な事は めったに でけへん。 まあ~ 今日も訓練 明日も訓練 ほんで たまにはな 森の中で じ~っと 隠れとったりして。」
善作「そら わしらかて 日露ん時は もう 生きて 岸和田の土は踏めん 思て げっそりしたもんや。 そやけど まあまあ こないして 岸和田で 毎晩 飲んだくれてらし。」
勘助「うん… そやな。」
木之元「そやけど お前 腹だけは 壊さんようにせえよ。」
善作「せやせや 腹だけは 命取りやしな。
勘助「腹な。 大事にすら。」
糸子「腹巻き 持っていきや。 うちが こさえたろか?」
勘助「うん 頼むわ。」
糸子「あんた 食い意地 はってるさかいなあ ちょっと見つけたからて 変なもん 食べなや。」
勘助「食うか!」
木之元「食う食う。」
糸子「なあ。」
勘助「食わへんわ!」
糸子「いつも 食べてるやん。」
勘助「食わへんわ。」
<おっちゃんらの話 聞いてるうちに 勘助も 腹さえ壊さんかったら どないかなる 無事に帰ってこれるちゅう気ぃが してきました>
(一同の談笑)
<そやけど やっぱし おばちゃんは そんな簡単には いかんようでした>
玄関前
光子「はよはよ 姉ちゃん!」
清子「これ 旗。」
糸子「は~い。 こないしたら 勘助も えらい立派な男に 見えるやん。」
静子「なあ。」
糸子「ウフフッ…!」
善作「ほんで 誰が やる?」
木岡「そら 町内会長やろが。」
善作「お 町内会長!」
「いやいや わし 昨日から 風邪ひいて 声が出えへん。」
木岡「何が 風邪やねん。」
善作「お 電気屋 電気屋。」
木之元「わしより 善ちゃんが ええで。」
木岡「善ちゃん やったら ええねん。」
善作「わしの喉はやな 謡用や。 こういう景気づけはな やっぱり 若いやつの声がええねん お前 やれ!」
勝「え~ わしですか?!」
「早うせえ!」
木岡「早うしようや。」
勝「やっぱし お父さんの方が いいですて!」
善作「あかん あかん…。」
「早うせえ!」
木之元「あ… この… この者が やります。」
善作「わ… 分かりました。 やります。 ほなら あの… 五軒町一同 安岡勘助君の出征を祝して 万歳三唱! ほんなら いくで。」
木之元「ええから やろう。」
善作「万歳!」
一同「万歳!」
善作「万歳!」
一同「万歳!」
善作「万歳!」
一同「万歳!」
「君は やらんで ええんや!」
(笑い声)
平吉「小原。」
糸子「は?」
平吉「俺 帰るよって。」
糸子「何でや? 最後まで見送っちゃりや。」
平吉「嫌や…。」
糸子「え?」
平吉「見てられへんわ 哀れで。」
糸子「何がや? 何で そんな事 言うんよ?! せっかくの めでたい出征の日ぃやのに…。」
<そうして出征してった 勘助からは 2か月ほどして 便りが届きました>
安岡家
居間
玉枝「ヒヒヒヒッ 見ちゃって 見ちゃって。」
糸子「きったない字ぃやな 相変わらず。」
(笑い声)
糸子「あれ? 何や これ?」
玉枝「ああ あの子 アホやさかいな 書いたらいかん事 書いたんやと思うねん。」
糸子「ほな 軍の人に 消されたちゅう事?」
八重子「はあ… そやろな。」
糸子「え~? けど こんな… 墨で こんなん! せっかくの葉書に!」
玉枝「まあまあ 読んじゃってよ。」
小原家
居間
糸子「ほんま あの墨 許せん…。」
勝「うん?」
<人の葉書を 勝手に塗り潰す その胸くそ悪い 墨みたいなもんは そのあとも うちらの生活を ちょっとずつ 塗り潰し始めました 初め 北支事変て呼ばれちゃった 大陸とのゴタゴタは 途中から 志那事変ちゅう呼び名に 変わって 何や知らん 政府は えらい のぼせ上がってるようでした。>
<次の年には 国家総動員法 ちゅうのが しかれて いわく『今は お国の非常時やさかい 国民は とにかく 軍に 協力せんならんど! ぜいたくすな 節約せえ。 余った分を 軍に回す。 お国の勝利のためじゃ!>
オハラ洋装店
<そのあと すぐ 綿製品非常管理ちゅうて 綿は 作るんも 売るんも 規制がかかる事になってしもて 糸へんの町 大阪は どこもかしこも てんやわんや。 新聞によると 日本は あちこちで 勝利を収めてる割に 戦争は 一向に終わる気配も のうて 先月 昭和14年7月には 国民微用令公布。>
<国民はますますの節約と 軍への協力を求められており 一方 そんな中 うちは ごっつい 調子に乗ってました>
「ハハハッ おはようさん!」
糸子「おはようさん!」
「おはようさん! 朝から 暑いな。」
糸子「なあ かなんでなあ。 よいしょ!」
「まあ まあまあ!」
「はれ~ もう パンパンやな!」
糸子「ああ かなんで この忙しいのに! ウフフフ まあ どうぞ。」
「おおきに。」
糸子「うん よいしょ。」
神田「おはようさん!」
3人「おはようさん!」
糸子「ちょっと待ってな。 静子 静子!」
静子「はい!」
糸子「神田さんのワンピース 出したげて。」
静子「はい! ええのん でけてるよ~。」
神田「いや~ うれしい!」
<政府が 戦争に 頭から 湯気立ててる一方 岸和田の女性らも 洋装ちゅう 新しいおしゃれに 湯気立ててました。 国家総動員法も 何のその。 毎日 お客さんが ひっきりなしに 洋服を作りに来て オハラ洋装店は 空前の繁盛ぶりです>
糸子「あるで ええのん。」
「ほんま?」
糸子「うん。 ちょっと待っちゃって。 あ 大山さん。『婦人美粧』今月号! また ええのん ようさん あるし 見とって。」
「おおきに。」
「どんなんにしよ?」
「こんなんが ええけどなあ。」
糸子「ああ… あっ!」
昌子「先生? 先生 大丈夫ですか?! どないしよ?」
2階 座敷
昌子「大将! 先生が…。」
勝「え?」
昌子「はよ来て!」
勝「どないしたんや?!」
昌子「はよ!」
オハラ洋装店
勝「どないした? どないした?!」
糸子「なあ 見て~。 ええやろ? スフなんか 一個も入ってへんで。 正真正銘の純綿やで!」
「ほんまに~?! これ しようかな。」
糸子「なあ ええやろ? よっしゃ。 そこ 立って。 よいしょ。」
勝「い… 糸子!」
昌子「先生!」
玄関
(車のクラクション)
運転手「おお ホホッ お嬢ちゃんは 優子様ですかいな?」
居間
善作「おお 来たか? 出迎え。」
千代「へえ! 今 前に 車 止めてもうてます。」
糸子「ほんま 大丈夫や。 ちょっと 立ちくらみしただけや。」
ハル 善作「大丈夫やない!」
善作「もう お前の言う事は 聞かん。 神戸へ行け。 無事に子供が産まれるまで 帰ってくんな。 ここにおったら なんぼ言うたかて お前 仕事するやろ!」
糸子「けど うちが いてへんかったら 店が…。」
勝「店は どないでもなるて。 僕かて 静ちゃんかて いてんねやさかい。」
善作「お前だけの子やない。 勝君の子で わしの孫や。」
ハル「うちの ひ孫や!」
ハル 善作「言う事 聞け!」
玄関前
勝「気ぃ付けえ。」
糸子「うん。 よいしょ。」
善作「お母ちゃんがな 神戸へ 行くでえ。 優ちゃんの弟が生まれるよってな。」
糸子「弟かどうか 知らんでえ。」
善作「いや 今度は 男や。 小原の跡取りや。 よかったなあ 優ちゃん。 弟やで。」
(笑い声)
運転手「ほな 失礼致します。」
千代「お願いします。 ほな 気ぃ付けてな。」
糸子「うん。」
善作「行っといでえ。 行っといでえ。」
<お母ちゃんは 弟かどうか 知らんし 店が心配で しゃあないです>