ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第62回「切なる願い」【第11週】

あらすじ

赤ん坊が生まれて1週間。やけど養生中の善作(小林薫)の世話は、千代(麻生祐未)ではかなわないことが多く、糸子(尾野真千子)は妹や縫い子たちをしったして、仕事と子育てと看病を切り回す日々。ある日、清三郎(宝田明)と貞子(十朱幸代)が見舞いに訪れる。清三郎が名付け親となって、赤ん坊は聡子と決まり、一同は、ようやく和やかな時を過ごす。帰りに何気なく貞子のモンペを見て、糸子にあるアイデアがひらめく。

62ネタバレ

小原家

2階 寝室

(小鳥の鳴き声)

糸子「もう夕方け?」

(小鳥の鳴き声)

糸子「ちゃうわ 朝や。」

(泣き声)

糸子「あ~ はいはい。」

<夕方と朝方の区別も つかんよう なるくらい。 あれから うちの毎日は ごちゃごちゃの わやわやです>

座敷

糸子「せ~の! はい。」

糸子 静子「せ~の!」

善作「いや~い いやい!(痛い 痛い) もっほ へいえいにへえ!(もっと 丁寧にせえ)」

千代「おおきに あんたら もうええよ。」

静子「はい。」

善作「ひゃんと はまへよ。」

千代「はあ?」

善作「ひゃんと しゃあせえ 言うとんのじゃ。」

糸子「『ちゃんと 冷ませ』って。」

善作「はあ。」

千代「あんた よう分かるなあ。 やっぱし 娘やなあ。 お母ちゃんなんか 全然 分からへんわ。 あっ!」

善作「は は はふい(熱い)!」

千代「あ~ あ~ すんません!」

善作「この! はまへ ひゅうてるやろ!」

糸子「『ちゃんと冷ませ言うてるやろ』言うてる。」

千代「すんません すんません。」

ハル「わめきなや やかましい。」

(赤ちゃんの泣き声)

千代「え?」

糸子「また起きてしもた。」

千代「え?」

(泣き声)

寝室

糸子「ひゃ~! 何? え? いや~! もう! 直子! もう!」

静子「どないしたん? ひゃ~! 直ちゃん! これ うちの紅~! もう!」

(泣き声)

糸子「あら もう夜中か?」

(うなされる声)

座敷

(うなされる声)

糸子「誰の声?」

千代「おばあちゃんや。 夢に うなされてるんやろか?」

(うなされる声)

糸子「おばあちゃん 大丈夫や。 大丈夫やで。」

(うなされる声)

オハラ洋装店

<日がな一日 赤ん坊は 泣く 直子は暴れる お父ちゃんは かんしゃく起こす。 お母ちゃんは メソメソ おああちゃんは ヨロヨロ>

糸子「こっちまで ガタ来てまいそうやわ。」

<こんで せめて 商売だけでも うまい事 いってくれりゃ ええのに 年明けすぐ 衣料切符の点数が 引き上げられてから お客は めっきり 減ってしもてました>

糸子「あ~!」

澤田「ごめんください!」

「ごめんください!」

糸子「どうも。」

澤田「小原さん 1月に 衣料切符の点数が 引き上げられたん 知ってますね?」

糸子「はあ。」

澤田「そやけど まだまだ ぜいたくです。 銃後を守るにあたって 我々は もっと 質素倹約に 努めなあきません。」

糸子「はあ。」

澤田「小原さんも ご商売柄 儲けの事しか 頭に ないかもしれませんけど ここは しょうもない 我欲なぞに 溺れず むしろ 買い物に来た人々を戒め 何も売らずに帰すぐらいの 気概を見せて下さい。 小原さん? どないかしたんですか?」

糸子「いや… まあ…。 こないだ 子供を産んだばっかしで。」

澤田「まあ 産後の肥立ちでも 悪いんですか?」

糸子「その前の日ぃに 火事があって お父ちゃんが 大やけどして ガラス割れて 畳が水浸しんなって おばあちゃんが 腰抜かして おかげさんで 今 家ん中 ガッタガタですわ!」

澤田「まあ そら大変でした! けど まあ こう言うたら 何ですけど ふだんの心がけちゅうか 何事も因果応報 悪い事が続く時は 大概 自分に 原因があるもんです。 ご自分を省みる よい機会やないんでしょうか? お大事に! ほな 失礼します!」

「お大事に!」

(舌打ち)

糸子「さっすがやな おばはん。 せやけど 二度と うちの敷居…。」

澤田「小原さん!」

糸子「またぐなっちゅうたやろ! あっ!」

<因果応報 確かに おばはんの説教にかて 一理ある。 うちも 時々 自分を省みんといかんな>

台所

光子「どこまで むいたらええか 分かれへん。」

清子「どれ?」

糸子「ほれにしても あんたらなあ。」

清子「え?」

糸子「何でもかんでも ゆでたらええ ちゅうもんちゃうで! 焼いたり 炊いたり たまには ちゃう事も せんかいな。」

清子「せやけど うちら あんまし 料理した事ないよって。」

糸子「いつまででも お母ちゃんに 甘えてるからやろ? そうゆう事を ちゃんと できるようにしとかな。 嫁に行って困んのは あんたらなんやで。」

2人「は~い。」

千代「糸子。」

糸子「ん?」

千代「悪いけど また頼むわ。」

糸子「うん ちょっと待っといて。」

2階 座敷

<お父ちゃんの包帯を 替えるんは 結構 恐ろしい仕事やさかい。 鼻歌でも歌わん事には やってられませんでした>

(鼻歌)

善作「いはい! いはいよ! お前!」

糸子「堪忍 堪忍!」

寝室

<朝か? 夕方か? 誰や。 赤ん坊か? お父ちゃんか? おばあちゃんか? 絵の具を混ぜ過ぎたら 灰色になるように あんまり いろんな事があって このごろ うちの目の前も 灰色に見えます>

貞子『糸子 2階か? 起こしたら 悪いやろか?』

糸子「おばあちゃん?」

清三郎『お前 階段気ぃ付けや 腰 悪いんやからな。』

貞子「大丈夫やて よっこらしょ! うわ!」

糸子「おばあちゃん おじいちゃん!」

清三郎「うわ~!」

貞子「糸子!」

居間

一同「おいしい~!」

昌子「しゃれた味やな~! どうぞ お宅さんも 呼ばれ下さい。」

静子「ほんまや どうぞ どうぞ!」

2階 座敷

清三郎「何も心配する事ない。 いざとなったらな うちが全部 面倒 見たるから まずは しっかり治すんやで。 ええな。 ええな おい!」

(泣き声)

貞子「赤ちゃんの名前は 何て付けたん?」

糸子「それが まだなんや。」

貞子「え?」

清三郎「まだ 付けてないんか?」

糸子「優子も直子も お父ちゃんに 付けてもうたさかい この子も そないしよう 思たんやけど お父ちゃん それどころやないさかいな。」

清三郎「ほうか。」

善作「おほうはん。」

清三郎「ん? 何や?」

善作「おほうはんが ひめはっへ くらはい。」

清三郎「さっぱり分からん。」

糸子「せやなあ。」

清三郎「せやなて 糸子 今 何 言うた?」

糸子「『お父さんが 決めたって下さい』て。」

清三郎「え? わしがか? せやけど。 え… 善作君 あんたが決めたらんと。」

善作「ひへ ほほは おほうはんが。」

糸子「『いや ここは お父さんが』。」

清三郎「いや そりゃ 糸子が せっかく 今日まで待っとったんや。」

善作「はまひまへん。」

清三郎「え?」

善作「ろうか おほうはんが ひめはっへ くらはい。」

糸子「『かましません どうか お父さんが 決めたって下さい』て。」

清三郎「はあ~。」

糸子「うちも そんでええよ。」

清三郎「いやいや そやけどな そんなんで 急に 言われてもやな。」

貞子「『さとこ』て どうや?」

清三郎「え?」

千代 糸子「さとこ?」

貞子「さとこ。 糸子と 似とうやろ?」

千代「ほんまや。 一字違いやな。」

ハル「糸子より 賢そうや。」

(笑い声)

清三郎「よし 分かった。 そしたらな 聡明の聡の字で 聡子は どうや? え 聡子。 な こら 賢い子になるで。」

「あ~!」

糸子「あ~ よかった。 や~っと決まった。 聡子 おめでとう! あんた 聡子になったで。」

ハル「聡子 賢いんやって。」

<おじいちゃんらが来てくれたんは ほんまに ありがたい事でした>

善作「いはい!」

糸子「痛い?」

清三郎「すまんな。」

玄関前

<聡子の名前が決まって 縫い子らは ケーキを呼ばれて みんな ちょっと 元気を取り戻しました>

貞子「あれ ほんまや!」

<せやけど 本題は こっからです>

貞子「そしたら おかあさん お体 大事にして下さい。」

ハル「おおきに。 おかあさんもな。」

貞子「へえ おおきに!」

ハル「どうぞ おとうさんも。」

清三郎「ああ ありがとう。 まあ こんな ご時勢ですけど お互いに 長生きしましょうな。」

ハル「はい。」

糸子「おばあちゃん?」

貞子「え?」

糸子「そのモンペ 何?」

貞子「え? ああ これか? ええやろ? 大島や。」

糸子「大島?」

貞子「私の持っとう大島の中でも いっちばん ええもん モンペにしたったんや。 ハハハ!」

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